『スーサイド・スクワッド』：2016、アメリカ
アメリカの政府組織A.R.G.U.S.のアマンダ・ウォーラーはスーパーマンの死という事態を受け、ある計画を推進しようとしていた。そのために必要な人材が、刑務所に収監されている囚人たちだった。デッドショットは顧客の依頼を受け、殺人を遂行して来たスナイパーだ。アマンダは11歳になる娘のゾーイが弱みになると突き止め、バットマンに匿名で情報を流した。デッドショットは反撃しようとしたが、一緒にいたゾーイが泣いて「やめて」と懇願するので降伏したのだった。
ハーレイ・クインは精神科医で、担当したジョーカーと恋に落ちた。彼女はジョーカーに協力して武器を手配し、電気ショックを受けて最凶カップルとなった。２人はバットマンに追われ、車ごと川に突っ込んだ。ジョーカーは逃走し、ハーレイだけがバットマンに捕まった。キャプテン・ブーメランはオーストラリア人で銀行強盗を繰り返していたが、アメリカに渡ってフラッシュに捕まった。炎を操るエル・ディアブロは自ら出頭し、刑務所の暴動で周囲を焼き払った。醜い容貌をした怪人のキラー・クロックはバットマンによってゴッサム・シティーを追い出され、行く場所を失った。
異次元から来た魔女のエンチャントレスは、洞窟へ迷い込んだ考古学者のジューン・ムーンによって封印を解かれた。エンチャントレスはジューンに憑依したが、アマンダは彼女の弱点である心臓を手に入れていた。アマンダは凶悪で圧倒的な力を持つエンチャントレスを支配するため、特殊部隊のリック・フラッグ大佐を利用することにした。彼女はフラッグにエンチャントレスの監視役を命じ、ジューンと恋に落ちるよう仕向けていた。
オルセン提督や大統領補佐官のデクスター・トリヴァーはアマンダから計画を聞かされて賛同し、国家安全保障会議で「スーパーマンが大統領を連れ去ったら誰が彼を止める？次のスーパーマンがテロリストにならない保証は無い」と語る。アマンダは次世代のスーパーマンに対抗するため、悪党を集めてチームを作る計画を明かした。危険だと反対する意見が出ると、アマンダは会議に同席させていたジューンにエンチャントレスを召喚させた。エンチャントレスの驚異的な力を見た軍の幹部たちは、計画を了承した。
デッドショットはアマンダの計画に参加する条件として、娘の親権や養育費を要求した。フラッグは計画に反対するが、アマンダは黙って従うよう命じた。ジョーカーは手下のフロストからハーレイを含む悪人たちがルイジアナの秘密軍事施設へ集められると聞き、すぐに車を回すよう指示した。彼は闇カジノに入り浸っている看守のグリッグスを捕まえ、脅しを掛けて服従を強要した。エンチャントレスは監視されている部屋から霊体を外へ飛ばし、地下鉄のトイレにいたビジネスマンを捕獲した。彼女は弟のインキュバスを召喚して人類を滅亡させる計画を話し、力を蓄えて待機するよう指示した。
インキュバスは地下鉄構内にいた人々を殺害し、車両を破壊した。特殊部隊「Ｘ」の出動が発令され、デッドショットたちは首に超小型爆弾を注入された。ジョーカーは一味を率いてウェイン・コープの研究所を襲撃し、ヴァン・クリス博士を連れ去る。フラッグはジューンを伴って地下鉄構内へ行き、「他に手が無い」と頼んでエンチャントレスを召喚させた。エンチャントレスはインキュバスと合流し、心臓を取り戻すまで力を借りることにした。
エンチャントレスが暴れ始める中、特殊部隊「Ｘ」のスリップノットたちは秘密軍事施設へ集められた。フラッグは首に爆弾を埋め込んだこと、命令に従わなければ死ぬことを説明し、出発の準備を整えるよう指示した。アマンダはミッドウェイシティーでテロリストが暴れているという虚偽の情報を教え、重要人物の奪還を命じた。アマンダが任務を成功させれば刑期を短縮すると約束すると、デッドショットは「スーサイド・スクワッドか」と嫌味っぽく口にした。
軍用ヘリが離陸しようとすると、新たなメンバーとしてフラッグを補佐する日本人女性のカタナが搭乗した。ミッドウェイシティーに到着すると対空砲火を受けてヘリが墜落するが、フラッグとスーサイド・スクワッド、特殊部隊のゴメスたちは無事に脱出した。徒歩で現場へ向かう途中、ブーメランはスリップノットに「爆弾は偽物だ」と言い、逃亡を持ち掛けた。しかしブーメランはカタナに取り押さえられ、フラッグは起爆装置を作動させて逃げるスリップノットを爆殺した。
歩みを進める一団は、敵の存在を確認する。フラッグはアマンダから迂回するよう指示を受け、ブラボー隊に別ルートを進ませる。眼前にいた敵は怪物の群れであり、いきなり襲い掛かって来た。デッドショットたちは苦戦を強いられながらも敵を倒すが、ブラボー隊とは連絡が取れなくなる。ブラボー隊はエンチャントレスに捕まり、怪物の兵隊に変貌していた。目的地である高層ビルに一行が入ると、怪物の群れが襲って来た。デッドショットは戦おうとしないディアブロを挑発し、炎を放射させて敵を一掃した。
一行が目標であるビルの一室辿り着くと、フラッグはデッドショットたちを待機させる。彼が部屋に入ると、アマンダのいる司令室だった。そこへデッドショットが入って来ると、アマンダは全てのデータを消去して部下たちを始末した。一行が屋上へ行くとヘリが飛来するが、乗っていたのはジョーカーの一味だった。彼は手下にデッドショットたちを攻撃させ、ハーレイの起爆装置を無効化する。ジョーカーはハーレイをヘリに乗せて逃亡するが、アマンダの命令を受けた対空ミサイルの砲撃を受ける。ハーレイはビルの屋上に飛び降り、ヘリはジョーカーを乗せたまま墜落した。アマンダは救出機が到着すると、スーサイド・スクワッドには後から来るヘリに乗るよう命じた。彼女はヘリで脱出しようとするが、エンチャントレスの差し向けた怪物たちに連れ去られてしまう…。脚本＆監督はデヴィッド・エアー、製作はチャールズ・ローヴェン＆リチャード・サックル、製作総指揮はザック・スナイダー＆デボラ・スナイダー＆コリン・ウィルソン＆ジェフ・ジョンズ＆スティーヴン・ムニューチン、共同製作はアンディー・ホーウィッツ＆アレックス・オット、製作協力はブルース・フランクリン、撮影はローマン・ヴァシャノフ、美術はオリヴァー・ショール、編集はジョン・ギルロイ、衣装はケイト・ホーリー、視覚効果監修はジェローム・チェン、音楽はスティーヴン・プライス、音楽監修はシーズン・ケント＆ゲイブ・ヒルファー。
出演はウィル・スミス、ジャレッド・レトー、マーゴット・ロビー、ジョエル・キナマン、ヴィオラ・デイヴィス、ジェイ・コートニー、ジェイ・ヘルナンデス、アドウェール・アキノエ＝アグバエ、カーラ・デルヴィーニュ、アイク・バリンホルツ、スコット・イーストウッド、アダム・ビーチ、コモン、福原かれん、デヴィッド・ハーバー、ジム・パラック、アレックス・メラズ、コリーナ・カルデロン、シェイリン・ピエール＝ディクソン、ケヴィン・ヴァンス、テッド・ウィットール、エズラ・ミラー、エイダン・デヴァイン、マット・バラム、ケヴィン・ハンチャード、アラン・シャノワーヌ他。
『マン・オブ・スティール』『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』に続く「ＤＣエクステンディッド・ユニバース」シリーズの第３作。
脚本＆監督は『サボタージュ』『フューリー』のデヴィッド・エアー。
デッドショットをウィル・スミス、ジョーカーをジャレッド・レトー、ハーレイをマーゴット・ロビー、フラッグをジョエル・キナマン、アマンダをヴィオラ・デイヴィス、ブーメランをジェイ・コートニー、ディアブロをジェイ・ヘルナンデス、クロックをアドウェール・アキノエ＝アグバエ、エンチャントレスをカーラ・デルヴィーニュ、カタナを福原かれんが演じている。
アンクレジットだが、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』に続いてブルース・ウェイン役でベン・アフレックが出演している。最初に感じるのが、「ＤＣエンターテインメントとワーナー・ブラザーズは焦り過ぎ」ってことだ。
マーベル・スタジオが「マーベル・シネマティック・ユニバース」を展開して次々にヒット作を生み出し、アメコミ映画の大ブームを巻き起こしているので、その流れに乗り遅れたくないと思うのは理解できる。
ただ、慌てて作業を進めたせいで出来の悪い映画を公開して酷評を浴びてしまったら、何の意味も無いわけでね。ワーナー・ブラザーズの何がダメかって、「ちゃんと手順を踏まないと」ってことだ。
「マーベル・シネマティック・ユニバース」の場合、まずは『アイアンマン』『インクレディブル・ハルク』『マイティ・ソー』『キャプテン・アメリカ／ザ・ファースト・アベンジャー』とスーパーヒーローが単独で主役を務める映画を製作し、それから全員が共闘する『アベンジャーズ』に繋げていた。
そういう作業が、「ＤＣエクステンディッド・ユニバース」には欠けている。前作『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』では、単独主演作の無いバットマンとワンダーウーマンをいきなりスーパーマンと共演させるという乱暴なことをやらかしていた。
そして本作品も、やはり乱暴な作りになっている。
設定としては「かつてスーパーヒーローと戦って捕まったヴィランを集めてチームを編成する」という形なのだが、肝心な「スーパーヒーローと戦った過去」の経歴が存在しないのだ。
当たり前だが、シリーズ３作目なので既に登場したヴィランは数が少なく、レックス・ルーサーとゾッド将軍（ドゥームズデイ）の２人だけ。そして、この２人はスーサイド・スクワッドに参加しない。
「過去にワーナーが実写化したアメコミ映画のヴィラン」まで枠を広げても、ジョーカーだけだ。しかも、そのジョーカーさえスーサイド・スクワッドに参加しないのだ。デッドショットやハーレイらが登場しても、「あのキャラがチームを組んで戦うのか」という高揚感が全く無い。
全員が初登場なので、何の思い入れも無い連中、何の情報も無い連中という状態からスタートしなきゃいけない。過去のシリーズで登場したヴィランなら既にキャラ設定が分かっているが、そうじゃないのでゼロから説明しなきゃいけない。
そんな連中が大勢いるのだから、そのキャラ紹介だけで随分と手間や時間を割く必要性が生じてしまう。だけど物語を進めるなど他の作業もあるので、全員が薄っぺらい状態と化している。
スリップノットに至っては、何の紹介シーンも無かったはずなのに、いつの間にかチームに加わっているという始末。秘密軍事施設へ悪人が連行されて来る時に、しれっと登場しているのだ。
なのでボーッと見ていたら、そこから参加したことに気付かないままで時間が経過してしまう。個々を掘り下げる余裕が無くても、特殊能力が際立っているのなら、それを戦闘シーンで発揮させることでキャラをアピールすることが可能になる。
ところが残念なことに、スーサイド・スクワッドの大半は、これといった特殊能力を持っていない。
ごく普通に武器を持って、ごく普通に敵を攻撃するだけという原始的な戦い方を取る奴らなのだ。
また、一応は紹介される特殊能力にしても、なぜかディアブロを除くと戦闘シーンで活用しないという意味不明な演出になっている。ヴィランの中ではダントツに知名度も人気もあるのはジョーカーのはずだから、こいつを有効活用することを最優先に考えた方が絶対にいいはずだ。
しかしジョーカーの出番はそれほど多く用意されておらず、そもそも何のために登場したのかさえ良く分からないような扱いに留まっている。
これに関しては、ウィル・スミスがデッドショット役に起用されたことを受けて映画の内容が大幅に変更され、その煽りを受けてジョーカーの出番が減らされたという経緯があるらしい。ウィル・スミスのせいで映画の内容が大幅に変更されるのは今に始まったことじゃなくて、もはや彼の主演作では仕様と言ってしまってもいいぐらいだ。
これがウィル・スミスだけを主役とするスター映画であれば、それでも構わないかもしれない。
しかし、スーサイド・スクワッドというチームの活躍を描くべき映画なので、「ウィル・スミスだけを目立たせるための改変」が行われるのは絶対に望ましくない。
つまりワーナーがウィル・スミスを起用した時点で、既に失敗は始まっていたのだ。そんなウィル・スミスのせいなのか、デッドショットはヴィランっぽさが微塵も感じられない。こいつは職業として殺し屋をやってきただけであり、根っからの悪党というわけではないのだ。
言うまでもないだろうが、もちろんコミックに登場するデッドショットとは全く別人の設定になっている。そして職業軍人ならぬ職業暗殺者というだけでなく、なんと「娘のことを思う良き父親」という設定まで用意されている。
もはや、こいつをヴィランとして描く気なんて全く無かったとしか思えない。
そしてヴィランじゃないのなら、スーサイド・スクワッドに参加する資格など無いぞ。ただしデッドショットが顕著ではあるのだが、他のメンバーにしてもヴィランとしては全くダメな奴らが揃っている。せいぜい不良漫画における不良、任侠映画におけるヤクザのような面々に過ぎない。
何がダメって、「情に厚い犯罪者」になっているってことだ。
ヴィランとしての狂気や無軌道ぶり、倫理観の欠如や冷酷さなどが微塵も無いのだ。
皮肉なことに、そういう「ヴィランらしさ」を最もアピールしているのは、本作品のヴィランとして配置されているエンチャントレスなのである。そもそも、スーサイド・スクワッドが結成されるための環境整備が全く出来ていない。
アマンダは凶悪犯のチームを作ろうとする理由として、「もしも次のスーパーマンが味方ではなく敵になったら、国や人類を守る方法が無いから」ってことを挙げている。
だけど映画が始まった段階で、「バットマンがいるでしょ。それに前作の流れを受けてスーパーマンが死んだことに触れているってことは、フラッシュもいるしワンダーウーマンもいる」と言いたくなる。
つまり、わざわざ高いリスクを背負ってまで、凶悪犯のチームを編成するほど緊急性に迫られているようには全く感じられないのだ。しかも、その凶悪犯たちが全てスーパーマンに匹敵するような特殊能力を持っているならともかく、そうではない。
ディアブロだけは炎を操る能力があるけど、例えばデッドショットは「射撃の達人」ってだけ。それなら凶悪犯じゃなくても同等の能力者はいるんじゃねえかと思ってしまう。
ブーメランはブーメランの使い手ってだけだし、ハーレイは拳銃やバットで暴れ回るだけのイカレ女に過ぎない。
なので、「こいつに頼らなきゃいけない意味って何なのよ」と言いたくなる。フラッグが地下鉄構内で「他に手が無い」とジューンにエンチャントレスを召喚させるのは、どういうつもりなのかサッパリ分からない。
彼はジューンの監視役に過ぎず、エンチャントレスを召喚させるような権限は無いはず。
そもそも彼は、ジューンがエンチャントレスを召喚することに否定的な考えを持っていたはず。それに、既に特殊部隊Ｘの派遣が発令されているわけで、なのに「他に手が無い」って何なのかと。
その時点でフラッグとジューンが地下鉄構内に来ているのも、どういうことなのか全く分からないし。スーサイド・スクワッドが集められた時点では、まだ「可及的速やかな対応が必要」とされるような事件は発生していないし、発生する予兆さえ無い。
むしろスーサイド・スクワッドの編成を決定したことが、大規模な事件を生み出す原因になっていると言ってもいい。
なぜなら、解放されたエンチャントレスがインキュバスを召喚し、逃げ出して暴れ始めるからだ。
そして「エンチャントレスを止めるためにスーサイド・スクワッドが行動する」という展開になるので、「なんか変じゃね？」という気持ちが付きまとう羽目になる。後半に入り、アマンダが腐れ外道だとさんざんアピールされた状態で「実は彼女がやらかした失敗の尻拭いとしてスーサイド・スクワッドは派遣されていた」と判明する。そうなると、スーサイド・スクワッドがやる気を失うだけでなく、見ているこっちもバカバカしくなってしまう。
ところが、一度は意欲を失ったスーサイド・スクワッドの面々はバーで語り合うと簡単に翻意し、「世界を救うために戦う」という使命感に燃えるのだ。
つまりスーサイド・スクワッドの連中は私欲のためではなく、「勝手に暴れていたら結果的に」ということでもなく、無償の奉仕活動として「市民を守るため」に戦うようになってしまう。
そうなると、もはやスーパーマンやバットマンのようなスーパーヒーローと何も変わらないのだ。エンチャントレスは圧倒的な魔力を持っているので、スーサイド・スクワッドの連中はどう考えても歯が立たない。エンチャントレスとインキュバスに対して数では勝っているけど、戦力としては相手にならない。
絶体絶命と思える状況に追い込むことでハラハラさせたり緊張感を高めたりする効果に繋がれば問題は無いが、単純に「パワーバランスが悪すぎる」と感じるだけ。
ハーレイが隙を見て心臓を奪い、デッドショットの射撃でエンチャントレスを倒すという展開も、大逆転劇としてのカタルシスなど全く無い。
圧倒的な戦力差を知略で埋めたという印象は受けず、安易な御都合主義だと感じるだけだ。（観賞日：2017年11月17日）
第37回ゴールデン・ラズベリー賞（2016年）
ノミネート：最低脚本賞
ノミネート：最低助演男優賞［ジャレッド・レト］
2016年度 HIHOはくさいアワード：第2位