『スティグマータ/聖痕』:1999、アメリカ
アンドリュー・キーナン神父は、奇跡認定委員会の科学者として働いている。ブラジルに派遣されたアンドリューは、血の涙を流す聖母マリア像の話を聞き、小さな村ベロキントを訪れた。教会のアラメイダ神父が亡くなった直後から、マリア像は血の涙を流すようになったらしい。バチカンに戻ったアンドリューは、ハウスマン枢機卿とダリオ神父に調査結果を報告する。アンドリューは再びベロキントを訪れて調査を続けたいと申し出るが、ハウスマンは却下した。
アラメイダのロザリオは、少年によって教会から持ち出されていた。少年は、そのロザリオを観光で訪れた婦人に売った。そしてロザリオは、婦人からピッツバーグににいる23歳の娘フランキー・ペイジにプレゼントとして郵送された。フランキーはヘア・ドレッサーで、同僚ドナやジェニファー、恋人スティーヴンらと共に楽しく日々を過ごしていた。
ロザリオを手にした日から、フランキーの日常に異変が生じ始めた。フランキーが入浴していると急にハトが現れ、彼女はバスタブに引きずり込まれた。両腕の手首に鋭い物が貫通したかのような穴が開き、大量に出血した。病院に運ばれたフランキーは、レストン医師から「自分で体を傷付けた可能性しか考えられない」と告げられる。
退院したフランキーは仕事に戻るが、女性が赤ん坊を道路に投げ捨てる幻覚を見る。地下鉄で帰宅しようとしたフランキーは、乗り合わせていたダニング神父に「アンドリュー・キーナン神父か」と尋ね、向かいに座っていたシスターのロザリオを投げ捨てた。地下鉄は急にスピードを上げ、駅に停車するまで激しく揺れ動いた。
ダニング神父から報告を受けたハウスマンは、アンドリューにフランキーの調査を命じた。フランキーの傷が聖痕だという可能性が考えられるからだ。ピッツバーグに出向いたアンドリューは、フランキーの腕の傷を確認する。しかしフランキーが無神論者だと知ったアンドリューは、調査の終了を彼女に告げた。聖痕は熱心な信者にのみ起きる現象だからだ。
だが、フランキーの体には新たな異変が起き、アンドリューは彼女の元に留まることを決めた。フランキーは男性の声で言葉を発し、壁には見知らぬ言語を書き綴った。彼女が書いたのは、キリストの時代に使われていたアラム語だった。アンドリューは言語学者のジアーニ神父に相談するが、彼は何かを恐れて「全て忘れろ」と告げる。
ハウスマンがピッツバーグに現れ、アンドリューにフランキーの調査から外れるよう命じた。仕方なく命令に従ったアンドリューの元に、マリオンという男が現れた。マリオンは、かつてジアーニやアルメイダと共に福音書調査会で働いていた。しかし福音書の解読によってバチカンの権威が貶められることを恐れたハウスマンは、調査会を解散させていた。アンドリューは、バチカンに恨みを抱くアルメイダがフランキーをメッセンジャーとして利用しているのだと気付く…。監督はルパート・ウェインライト、脚本はトム・ラザラス&リック・ラメージ、製作はフランク・マンキューソJr.、撮影はジェフリー・L・キンボール、編集はマイケル・R・ミラー&マイケル・J・ダシー、美術はワルデマール・カリノウスキー、衣装はルイーズ・フロッグリー、メイクアップ効果監修はヴィ・ニール、音楽はビリー・コーガン&エリア・クミラル、追加音楽はマイク・ガーソン、音楽製作総指揮はバド・カー。
出演はパトリシア・アークエット、ガブリエル・バーン、ジョナサン・プライス、レイド・セルベッジア、ニア・ロング、エンリコ・コラントーニ、ディック・ラテッサ、トーマス・コパッチ、アン・キューザック、ポーシャ・デ・ロッシ、パトリック・マルドゥーン、ショーン・トーブ、トム・ホッジス、リディア・ハザン、デューク・ムースキアン他。
MTVの世界で高い評価を受けたルパート・ウェインライトの監督作品。
フランキーをパトリシア・アークエット、アンドリューをガブリエル・バーン、ハウスマンをジョナサン・プライス、マリオンをレイド・セルベッジア、ドナをニア・ロング、ダリオをエンリコ・コラントーニ、ジアーニをディック・ラテッサ、ダニングをトーマス・コパッチが演じている。基本的に私の中では、MTV出身の映画監督に対する信頼性は著しく低い。
たまにMTV出身の監督が悪くない作品を撮っている場合、それはMTV的な映像テクニックを全く使っていなかったりする。
で、このルパート・ウェインライトの場合、いかにもMTV出身監督らしい映像表現を駆使している。
それは失敗する可能性が高いパターンにハマっている、と言っていい。
で、どうやら映像オンリーで観客を引き付けようということなのか、物語は意味不明なモノになっている。
大まかに説明すると、「死んだアラメイダ神父のロザリオを手にしたフランキーに聖痕現象が起きて、アンドリューが調査に来る。フランキーは幻覚を見たりポルターガイスト現象に襲われたりすることもあり、さらにアラム語を喋ったり書いたりもする。フランキーにはバチカンを恨むアラメイダが憑依していて、ハウスマンは始末しようとする」というものだ。
だが、自分で書いていても良く分からない。色々と疑問があるのだが、例えば聖痕現象は敬虔な信者にしか起きないのに、なぜフランキーに起きたのかという部分。
これは、たぶんアラメイダが起こした現象なのだろう。ついでに言えば、幻覚やポルターガイスト現象も、アラメイダの仕業以外には考えられない。
だが、その目的は何なのか、良く分からない。
どうやらアラメイダはバチカンを憎んでいるようなので、恨みを晴らしたかったという可能性はある。しかし、それならハウスマンが儀式を執り行った時は簡単に首を絞められるぐらいおとなしくなり、アンドリューが来た途端に部屋を炎に包むほど元気になる理由が分からない。
恨みを晴らすなら、その特殊能力でハウスマンを殺そうとすべきだろう。アラメイダはフランキーの体を借りてアラム語を書いたり話したりしているので、何かを伝えたかったという可能性もある。アンドリューも終盤、「フランキーはメッセンジャーだったのか」と言っている。
だが、そうであるならば、何を誰に伝えたかったのかが分からない。
アンドリューに伝えたいにしては、やたらと攻撃的だし。
アラメイダはただの神父だったはずで、なぜポルターガイスト現象を起こすなどの特殊能力を使うことが出来るのかという疑問もある。
ここは、不思議な現象が起きる際にハトが飛んだりすることから、アラメイダの体を借りて神がパワーを使っていると無理矢理に解釈することで何とかクリアできる。
しかし、神であろうがアラメイダであろうが、「なぜフランキーの体を借りて聖痕現象やポルターガイスト現象を起こし、彼女を苛めて、アンドリューを挑発せにゃならんのか」という疑問は解消されない。聖痕、幻覚、ハトの飛来、ポルターガイスト現象など不思議な現象が色々とあるが、同一線上で扱うのは難しい。
とにかくコケ脅しで観客を怖がらせようという意識の強さは分かるし、それを全面的に悪いとは言わない。しかし、コケ脅しのために、超常現象に関する統一感を全く示さず、ルール無用で行き当たりばったりになってしまうのはイカンだろう。
ただし、そうしてしまう気持ちは分からないでもない。何しろタイトルが示す通りのスティグマータ(聖痕)だけでは、コケ脅しにも何にもならないだろうからね。
っていうか、だったら聖痕現象をメインに持って来て、映像コケ脅し映画を撮ろうというのは、企画と演出の間に大きなズレがあるんじゃないのか。ようするに話としては、福音書の言葉を調べようとしたアラメイダと、隠蔽したバチカンのケンカである。その争いに、何の因果か無神論者でバチカンから遥か遠くに暮らすフランキーが巻き込まれるというわけだ。
で、バチカンが隠蔽しようとしたのはトマスの福音書のようだが、それってキリスト教の世界では有名なモノらしいんだよね。
だったら、今さら隠蔽しても無駄だろうに。
っていうか、奇跡認定委員会の科学者であるアンドリューが、なぜトマスの福音書について全く知らないのかね。
第20回ゴールデン・ラズベリー賞
受賞:最低作品
ノミネート:最低助演男優賞[ガブリエル・バーン]
<*『エンド・オブ・デイズ』『スティグマータ/聖痕』の2作でのノミネート>