『ステラ』:1990、アメリカ

下町育ちのステラ・クレアは、友人デビーと共に酒場のバーテンダーとした働いている。友人エド達に乗せられるとカウンターに上がってストリップの真似事をするような、ノリのいい女だ。その様子を、この町に医大のインターンとして来ているスティーヴン・ダラスは目にしていた。翌日、スティーヴンはステラをデートに誘った。ステラは「釣り合いが取れないわ」と、身分の違いを理由に断った。だが、スティーヴンが食い下がるので、結局は承諾した。
スティーヴンはコネティカット出身で両親がハーバード大学を出ていることを語り、ステラは父が労務者で母が飲んだくれだったことを語る。2人の交際が始まるが、やがてスティーヴンが医者としてニューヨークへ行く日が迫って来た。ステラはスティーヴンに、妊娠を打ち明けた。スティーヴンは「どうしたい?君の決めた通りにする」と告げる。
スティーヴンから「希望は?」と問われたステラは、「部屋一杯の風船」と答えた。するとスティーヴンは本当に部屋を風船で満たし、ステラにプロポーズした。ところがステラは「こんなことをしても本心は違うのよ。さっさとニューヨークへ行って」と怒鳴り、彼を追い払った。スティーヴンがニューヨークから金を持ってきても、ステラは追い返した。エドとデビーと共に映画館にいる時、ステラは破水した。病院に担ぎ込まれたステラは、娘のジェニーを出産した。
ジェニーが3歳になった頃、ステラとデビーが家にいると、酔っ払ったエドが友人トニーを連れて現れた。エドは「店の権利を半分売って借金を返した」と浮かれ、ジェニーを抱いて踊り出した。みんなが盛り上がっているところへ、スティーヴンが現れた。エド達が去った後、ステラは3年ぶりに訪れたスティーヴンに「お説教するつもり?何様のつもりよ」と怒鳴った。
スティーヴンは「忘れようとしたが、娘に会いたくなった。気になって仕方が無い」と心情を明かした。ステラは彼をジェニーに会わせ、公園へ連れて行くことも承諾した。その後も、スティーヴンはステラの許可を得て、ジェニーと面会した。8歳の頃、2人はレストランで食事をした。買ってもらったドレスを汚したジェニーが泣くので、スティーヴンは胸を貸して慰めた。
高校生になったジェニーに、ステラは「下品な喋り方はやめなさい」「学校へ行く時はブラジャーを着けなさい」と、口うるさく注意した。エドは酒場を奪われて無職になり、ステラは彼を夕食に招待した。ジェニーはエドを煙たがり、エドも仏頂面で全く口を開かない。だが、ステラがパイ投げを始めたのをきっかけに、2人とも笑顔を浮かべた。
エドと共に酒場へ出掛けたステラは、彼の友人フレディーに乳を揉まれ、平手打ちを食らわせた。2人の争いを見たエドは、フレディーに殴り掛かった。乱闘騒ぎで警察が駆け付け、ステラはパトカーで連行される。その様子を、ジェニーの学校のPTA婦人が目撃していた。彼女は「あんな家庭の娘とは付き合いをやめさせないと」と口にした。ステラは自宅でジェニーの誕生パーティーを催すが、当日になって全員がキャンセルしてきた。その理由を、ステラとジェニーは分かっていなかった。
ジェニーはチンピラのジムと付き合い始めた。ステラは交際に反対し、ジムに「アンタは自分勝手で最低な男だ」と告げた。ステラは化粧品セールスで金を稼ぎ、ジェニーを高級レストランへ連れて行こうとする。だが、ジェニーはジムとのデートがあることを告げる。ステラは「あんな男と付き合ってはいけない」と叱るが、ジェニーは「行くわ」と告げて立ち去った。
ステラはジェニーのことをエドに相談し、自宅に朝帰りした。その様子を見たジェニーは、ステラに嫌味を言う。ジェニーはジムとのセックスを拒み、車から追い出された。ジェニーは朝の4時まで掛かって、徒歩で自宅に辿り着いた。事情を知らないステラは、「あのチンピラと寝たのね」と娘をなじった。ジェニーは「やりまくって最高だったわ。ママだって朝帰りしたくせに」と反発する。激しい言い争いの末、ジェニーは「パパの所へ行く」と荷物をまとめて家を出た。ステラは空港まで追い掛けて謝り、ジェニーも詫びを入れた。2人は仲直りし、改めてジェニーはスティーヴンの所へ行くことにした。
スティーヴンはジェニーに、交際している女性ジャニスと会ってほしい旨を告げる。ジャニスは金持ちの男と結婚したが先立たれ、幼い息子ボブと2人で暮らしている。ジェニーは「そんな金持ち女と1週間も暮らすのはまっぴら」と拒否反応を示すが、結局は承諾した。ジャニスはジェニーの嫌味な言葉も笑顔で受け入れ、生まれ付いての金持ちではないことを説明した。ジェニーは、すぐにジャニスと仲良くなった。
上流階級のパーティーに参加したジェニーは、ブラウン大学で教育学を学んでいる青年パットと出会った。ステラの元に戻ったジェニーは、嬉しそうにパットのことを語る。だが、彼とは二度と会えないだろうと考えていた。クリスマスイヴの夜、泥酔したエドが七面鳥を持って現れたため、ステラは彼を追い返した。直後、スティーヴンがプレゼントを持って訪れた。ジェニーに会いたくなったのだという。ステラは、おめかしして彼を迎えた。
スティーヴンは、クリスマスはコネティカットにいる友人の元で過ごす予定だと語った。その友人とは、パットの両親のことだった。彼は「一緒に来ないか」とジェニーを誘った。最初は難色を示したステラだが、ジェニーが行きたがっていることを見取ると、それを承諾した。スティーヴンは、ステラがジェニーとイヴを過ごす時間を少しでも長くしてあげようと、8時の飛行機の予約を翌朝に変更する電話を掛けた。しかし全て満席だったため、スティーヴンとジェニーーは慌ただしく出発した。
イースター休暇になり、パットはフロリダに出掛けた。元気の無いジェニーを見たステラは、カードを使って金を捻出し、一緒にフロリダへ行こうと誘った。ステラはフロリダのホテルに到着すると風邪を引いてしまい、3日間も寝込んでしまった。その間、ジェニーはパットとのデートを楽しんだ。回復したステラは、派手な服装と厚化粧で外に繰り出した。
ステラはバーでカクテルを作り、男性客を次々にダンスへ誘う。彼女はバーテンダーを誘い、大勢が見ている前で音楽に合わせて踊った。パットと一緒にいたジェニーは、それを目撃して走り去った。ステラは、パットの知人女性達が「あのドレスに厚化粧。ジェニーも気の毒ね。あれを見たらパットも逃げ出すわ」と自分のことを噂している会話を耳にした。
フロリダから実家に戻ったジェニーは、またジムやチンピラ仲間と付き合い始めた。ジム達がドラッグを吸って警察に逮捕され、一緒にいたジェニーも連行された。警察署に駆け付けたステラは、ジェニーが反抗的な態度を示していることを聞かされた。ステラはジャニスの仕事場を訪れ、スティーヴンと結婚してジェニーを娘として引き取るよう依頼した。話を聞いたジェニーは、ステラと離れることを嫌がった。そこでステラは「エドと結婚してハワイに移住する」と嘘をつき、ジェニーを冷たく突き放した…。

監督はジョン・アーマン、原作はオリーヴ・ヒギンズ・プローティー、脚本はロバート・ゲッチェル、製作はサミュエル・ゴールドウィンJr.、製作協力はボニー・ブルックヘイマー=マーテル、製作総指揮はデヴィッド・V・ピッカー、撮影はビリー・ウィリアムズ、編集はジェロルド・L・ルドウィグ、美術はジェヘムズ・ハルシー、衣装はテアドーラ・ヴァン・ランクル、音楽はジョン・モリス。
主演はベット・ミドラー、共演はジョン・グッドマン、トリニ・アルヴァラード、スティーヴン・コリンズ、マーシャ・メイソン、アイリーン・ブレナン、リンダ・ハート、ベン・スティラー、ウィリアム・マクナマラ、ケネス・キミンズ、ボブ・グレッチェン、ウィリー・ロザリオ、レックス・ロビンス、ロン・ホワイト、マシュー・コウルズ、ジャスティン・ルイス、ピーター・マクネイル、マイケル・ホーガン、ジョージ・ブザ、エリック・キーンレイサイド他。


オリーヴ・ヒギンズ・プローティーのベストセラー小説『ステラ・ダラス』を基にした作品。
原作は、日本では『母の悲曲』という題名で出版されている。また、これを翻案した吉屋信子の『母の曲』という小説もある。
サイレント時代の1925年、トーキーになった1937年の2度に渡って映画化されており、いずれもプロデューサーはサミュエル・ゴールドウィン。
ちなみに『母の曲』の方も、1937年と1955年に映画化されている(それぞれ母親役は原節子と三益愛子)。

3度目の映画化となる今回は、前2作を製作したサミュエル・ゴールドウィンのジュニアがプロデューサーを務めている。
ステラをベット・ミドラー、エドをジョン・グッドマン、ジェニーをトリニ・アルヴァラード、スティーヴンをスティーヴン・コリンズ、ジャニスをマーシャ・メイソン、デビーをリンダ・ハート、ジムをベン・スティラーが演じている。

原作と今までの2本の映画は、ほぼ同じ内容だ。
しかし本作品では、大幅に改変されている。
比較のため、まずは「本来はこんな内容だった」という話を簡単に説明しよう。

スティーヴンは、父が事業に破綻したことを受け、恋人ヘレンとの婚約を解消して町を去った。別の町にある工場で働き始めた彼は、ステラと出会って結婚し、娘ローレル(本作品ではジェニー)が誕生する。だが、厚化粧と派手な服装のステラは社交界で嘲笑され、スティーヴンは無教養な彼女との生活に耐えられなくなる。
スティーヴンはニューヨークへ移って別居する。ステラは町に残り、一人でローレルを育てる。スティーヴンは、他の男と結婚して子持ちの未亡人となっていたヘレン(本作品ではジャニス)と再会する。
スティーヴンはヘレンとの結婚を望むが、ステラは離婚を拒否する。娘は聡明に育ち、ステラは社交界デビューさせて金持ちと結婚させることを夢見る。

ステラは「上流階級の女」を勘違いしており、だから厚化粧と派手な服装で身を固めている。だが、実際に上流階級の婦人達と出会った娘は、母と違って薄化粧で読書家だと知る。
避暑地を訪れた娘の美しさは、上流階級の婦人達の間で話題となる。だが、それを知ったステラが歩き回ると、人々は陰口を叩く。それを知ったローレルは、いたたまれなくなるが、母には何も言わない。しかしステラも、自分が笑い者になっていることを知る。
自分のせいで娘が幸せになれないと気付いたステラは、ヘレンの元を訪れ、「スティーヴンと結婚してローレルの母親になって欲しい」と申し入れる。ステラは真実を隠し、娘を捨てるように装う。ローレルはスティーヴンとヘレンの元で社交界デビューし、それをステラは密かに眺める。
そういう内容だ。

さて、では今回の改変ポイントを挙げていこう。
まずスティーヴンは婚約者と別れておらず、父の事業破綻で上流社会を捨てることも無い。
ステラは成り上がり志向が無く、スティーヴンとの結婚を承諾しない。彼女は身分違いを自覚しており、スティーヴンを追い払って一人で出産する。だから当然、スティーヴンが他の女と結婚するのを妨害することも無い。
ステラはジェニーを社交界デビューさせて金持ちと結婚させたがるような夢は持っておらず、貴婦人を勘違いして派手な格好をしていることも無い。

大幅な改変は、その方がステラに同情しやすくなるだろうと考えたからなのか、あるいは時代の変化によって幸せや家族に対する価値観が変化したことを鑑みてのことなのか、事情は分からない。
だが、どうであれ、そのような改変が、どれも全てマイナスに作用しているように感じられる。
特に「ステラが成り上がり志向の強い女で、勘違いした自分の格好や行動が娘に迷惑を掛けていると知って打ちのめされる」という部分は、この話の肝になる設定じゃないかと思うのだ。

スティーヴンから求婚されたステラが「本心は違うくせに」と罵って追い払うのは、「身分が違うから遠慮した」ということじゃなく、心底から本心を疑っているように見えてしまう。
そもそもステラは「釣り合いが取れない」と言っているが、そんなにスティーヴンとの身分の差を見せ付けられるようなことは無かったはず。医大のインターンと聞いたのと、服装を見ただけだ。実際に上流階級の生活に触れたわけではない。

ステラはスティーヴンとの結婚を拒否して追い払うが、ジェニーが父親と高級レストランで食事することは許可している。身分違いを理由にスティーヴンを遠ざけたのであれば、娘が上流階級の生活に触れることも避けるべきじゃないかと思ったりするんだが。
あと、ステラは娘に「下品な喋り方はやめなさい」「品の無い歌はやめなさい」などと、まるで「上品であれ」と言わんばかりに注意するが、それも違和感を抱いてしまうなあ。

ステラがパトカーで連行されるのをPTAの婦人が目撃し、そこから話が広まって、ジェニーの誕生日パーティーには誰も出席しない。
だけど本作品のステラは上昇志向ではなく、娘を金持ちと結婚させようとは考えていないのだから、上流階級ばかりが通う高校ではなく、ごく普通の学校に通学させているはず。
だから「ステラが下品なせいで、ジェニーが上流社会で疎外される」ということではなく、「下流社会でも爪弾き」ということになる。
それって、もはや母親として完全に失格ってことになるぞ。
で、「母親失格だから父親に委ねる」という形になってしまう。
でもさ、「ちょっと生活態度を改めれば済むことだろ」という風に思ってしまう。パトカーに連行されるような行動さえ改めれば、「普通の社会」なら、たぶんジェニーは受け入れてもらえるでしょ。
母親が少々がさつであろうと、下品であろうと、そこが上流社会でなければ大丈夫だと思うのよ。
どんなに頑張ってもステラはブルジョアの貴婦人にはなれなくいだろうが、「無闇に暴れない」とか「がさつな振る舞いを改める」というのは、気を付ければ出来ることだ。

フロリダに出掛けたステラは、派手な服装に厚化粧で外を歩き回る。バーでカクテルを作り、客やバーテンダーを誘って踊る。
それは、今までの彼女には無かった行動だ。
成り上がり志向が強くて、勘違いで貴婦人を気取っているわけではないのに、なぜか、派手な服装を来て陽気に踊る。
理由はサッパリ分からない。
「ステラが笑いものにされて、それをきっかけに彼女が娘をジャニスに委ねようと決める」という、原作や今までの映画版にあったのと同じ展開に持って行くために、無理をしている印象を受ける。

で、ステラは今までと違うことをやって笑い者になり、それで娘に迷惑を掛けたと感じたことで「自分には娘を幸せにする力が無いからスティーヴンとジャニスに引き取ってもらおう」と考える。
でも、それって、なんか違うんじゃないかと。
ステラが普段通りにしていれば、あれほど笑い者にされることは無かった可能性が高い。
そこは普段通りのステラが笑い者にされないと、意味が無いと思うのだ。
やはり「成り上がり志向で、普段から勘違いした服装をしている」という設定を排除したのが響いているんだよな。

あと、ステラはジェニーが警察の厄介になってから、ジャニスの仕事場を訪れて「娘を引き取って欲しい」と頼んでいるが、それだとタイミングが遅い。
フロリダから戻ってすぐに、行動を起こすべきだよ。
ステラをそのように決意させるのは、フロリダで自分が笑い者にされ、ジェニーに恥をかかせた出来事に設定されるべきなんだから。


第11回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[ベット・ミドラー]
ノミネート:最低オリジナル歌曲賞
「One More Cheer For Me!」

 

*ポンコツ映画愛護協会