『スレンダーマン 奴を見たら、終わり』:2018、アメリカ
女子高生のレン、ハリー、クロエ、ケイティーは仲良し4人組で、一緒に行動することが多い。4人は学校で男子生徒のトムやカイルたちを見つけ、声を掛ける。ハリーは「妹を迎えに行かなきゃ」と言い、チラッと彼に視線を向けて先に下校した。ハリーは妹のリジーと両親の4人で暮らしている。その夜、ハリーは迎えに来たレンと共に、ケイティーの家へ遊びに行く。2人が家に着くと、ケイティーは父がソファーで寝ているので静かにするよう告げた。
既にクロエも来ており、4人はウォッカを飲んだりお喋りしたりして過ごす。大きな物音がすると、ケイティーは「お酒でも探してるんでしょ。こんな町を出たい」と疎ましそうに言う。クロエはハリーから「男子の集まりに行きたかったんでしょ」と問われると、「違うわ。でも秘密は知ってる」と口にする。彼女はレンたちに、男子がトムの家でスレンダーマンを呼び出すつもりだと教える。ハリーだけはスレンダーマンを知らず、ケイティーが「子供をさらう男よ」と説明した。
クロエはネット情報を検索し、「スレンダーマンは様々な形で現れる。催眠術を使って、人を無力な状態に陥らせる、起原や目的は不明だが、子供や若者を狙う」と話す。ケイティーが「スレンダーマンを呼び出そう」と提案すると、レンとハリーも乗り気になった。クロエは「やらなくてもいいよ」と言うが、レンたちはネットにあったスレンダーマンを呼び出す動画を再生した。すると文章が表示され、4人は指示に従って目を閉じた。すると文章に記されていた通り、どこからか鐘の音が響いた。レンたちは3度目の音を聞き、目を開いた。しかし不気味な動画が再生されるだけだったので、彼女たちは映画を見ることにした。
1週間後。ハリーは夜の森に迷い込む夢を見て怖くなり、深夜に飛び起きた。学校の課外授業で墓地を訪ねた時、彼女はトムと密かに視線を合わせて微笑した。ケイティーは辺りを見回し、心ここにあらずといった感じだった。他の生徒たちが移動する中、彼女は立ち止まって森を凝視した。出発時間になってもケイティーは戻らず、警察が捜索しても発見できなかった。その夜、リジーはハリーに、「ケイティーに何があったの?男の子絡み?」と好奇心満々で尋ねた。ハリーは何も知らないので、「いいから宿題しなさい」と告げた。
大きな物音がしたので、ハリーは警戒しながら様子を見に行く。誰かが家に入って来たので、彼女は寝室へ駆け込んだ。やって来たのがケイティーの父のジェンセンだったので、ハリーはドアを開けた。悪酔いしているジェンセンから「ケイティーをここに隠してるのか」と問われた彼女は、「本当に何も知らないんです」と告げる。ジェンセンは「お前たちのせいだ。オカルトに興味を持たせて」と声を荒らげ、ハリーに掴み掛かる。ハリーとリジーは慌てて逃げ出し、両親が警察を呼んでジェンセンを連行してもらった。
次の日、登校したハリーは、トムたちが怖がってスレンダーマンを呼ばなかったことを知った。彼女はレンとクロエに、ジェンセンに押し入られたことを語った。レンが「動画を見たからケイティーに何かが起きたのかも」と口にすると、ハリーは「私たちには何も起きてない。ケイティーは誘拐されたのよ」と否定する。レンは引き下がらず、「だけど動画を見て何かを感じたでしょ。ケイティーも感じたのよ。だから消えた」と訴えた。彼女は2人を説得し、ケイティーの部屋を調べることにした。
3人は夜中に彼女の家へ行き、レンがインターホンを押してジェンセンを呼び出した。彼女がジェンセンと話して時間を稼いでいる間に、ハリーとクロエは裏口から侵入した。2人がケイティーの部屋に忍び込むと、机の上には彼女の描いた何枚かの絵があった。2人はノートパソコンを見つけ、密かに持ち去った。3人がレンの部屋でケイティーの閲覧履歴を調べると、スレンダーマンに関する動画ばかりだった。ケイティーは「アリーキャット93」という人物と何度もチャットでやり取りし、お互いの経験を話していた。ケイティーが消えた前日の動画も残されており、彼女は深夜の森で何かに怯えていた。
レンたちが話している背後では、不気味な人影が動いていた。レンはハリーとクロエが帰った後、気になってケイティーのパソコンを開く。アリーキャット93からメッセージが届いたので、彼女は「ケイティーは行方不明。私は彼女の友達」と返した。ケイティーを取り戻せるかどうか尋ねると、アリーキャット93は「彼に何を渡すかだね」と答える。スレンダーマンとの連絡方法を問われたアリーキャット93は、「彼は貴方を知ってる。見張られてるよ」と答えた。
次の日、レンはハリーとクロエにアリーキャットと話したことを伝え、スレンダーマンは脳に入り込んで頭を侵すウイルスのような存在と教わったことを話す。彼女は「そのウイルスに侵されたら、正気を失うか連れ去られる」と説明し、自らスレンダーマンに申し出て本当に大事な物を差し出す必要があるのだと言う。レンはケイティーが自分でスレンダーマンに連れ去って欲しいと頼んだのだと推理しており、彼女を奪還するための儀式をやろうと2人に持ち掛けた。
レンたちは儀式を執り行うため、日が暮れてから森の奥へ行く。3人は大切にしている物を幾つか持参しており、それを集めて地面に置く。レンは2人に、「儀式が終わるまで目隠しを外しちゃダメよ。彼の顔を見たら永遠に逃げられない」と警告した。しかし不気味な気配を感じたクロエは、途中で目隠しを外してしまった。何かを見た彼女は悲鳴を上げて逃げ出し、しばらくして戻って来た。レンが「目隠しを取ったのね?彼を見た?」と尋ねると、クロエは「何も見なかった。怖くなっただけ」と嘘をついた。
クロエが帰宅すると、非通知のビデオ通話が携帯電話に入った。それは彼女の自宅前から撮影している映像で、撮影者は家に入って来た。クロエが怯えながら寝室のドアを開けると、誰もいなかった。しかし背後から黒い影が忍び寄り、彼女に襲い掛かった。クロエが学校に来なくなったため、ハリーは心配になった。彼女は携帯で連絡を取ろうとするが、返事は無かった。ハリーはトムから「明日は金曜だし、一緒に何かしないか」と誘われ、喜んでOKする。茂みの方で不気味な気配を感じた彼女は視線を向けるが、誰もいなかった。
レンはネットでスレンダーマンに関する情報を収集し、ジェレミー・M・ウッドワードという作家に辿り着いた。図書館へ赴いた彼女は、彼の執筆した『生体電気と超常現象』という本を見つけた。本を読み始めた彼女はハリーに電話を掛けようとするが、ノイズに邪魔された。図書館は突如として停電になり、レンはスレンダーマンに捕まってしまう。しかし電気が復旧するとスレンダーマンは姿を消し、レンは慌てて図書館から逃げ出した。
レンはハリーと会い、「答えを見つけた。アリーキャットの話がやっと理解できた」と話して借りた本を見せる。彼女は本の内容を早口で説明し、「最近、変なことは無かった?」と尋ねる。ハリーが「トムといた時ね茂みの中に何かがいた」と言うと、レンは「あいつよ」と口にした。レンが「クロエとは話した?」と訊くと、ハリーは「お母さんと話したけど、具合が悪いって。前に電話したら迷惑がられた」と答えた。「クロエに会わなきゃ」とレンが言うと、ハリーは「何も出来ないよ」と渋った。
レンがクロエの家へ向かったので、仕方なくハリーも同行した。クロエは窓際に姿を見せるが、うつろな様子で2人を眺めるだけだった。ハリーはレンほど状況を深刻に捉えておらず、必死で危機を訴える彼女に呆れてトムの家へ出掛けた。トムの両親は外出しており、ハリーは2人きりの時間を過ごそうとする。しかし怪奇現象に襲われたため、彼女は悲鳴を上げた。話を聞いたトムがスマホで動画を再生しようとすると、ハリーは「絶対に見ないで」と止めた。
ハリーはアリーキャット93に助けを求めようとするが、もうアカウントは削除されていた。ハリーがチャットでレンに謝罪しようとすると、「もう手遅れ」というメッセージが送られてきた。ケイティーの声を耳にしたハリーは、家を出て周辺を捜索した。林に入ったハリーはスレンダーマンに襲われるが、悲鳴を上げると夢から醒めた。洗面所に行くと腹が膨張して何かが激しく動くが、それも夢だった。リジーがパニック状態になって発作を起こしたため、両親は慌てて救急車を呼んだ。病院に運ばれたリジーは、昏睡状態に陥った…。監督はシルヴァン・ホワイト、キャラクター創作はヴィクター・サージ、脚本はデヴィッド・バーク、製作はブラッドリー・J・フィッシャー&ジェームズ・ヴァンダービルト&ウィリアム・シーラック&ロビン・メイシンガー&サラ・スノー、製作総指揮はルイス・セーラーソン&トレイシー・ナイバーグ&アダム・コルブレナー&ライアン・カニンガム&グレン・S・ゲイナー、共同製作はアンドレア・アジェミアン、撮影はルカ・デル・プッポ、美術はジェレミー・ウッドワード、編集はジェイク・ヨーク、衣装はデボラ・ニューホール、音楽はラミン・ジャヴァディー&ブランドン・キャンベル。
出演はジョーイ・キング、ジュリア・ゴルダニ・テレス、ジャズ・シンクレア、アナリース・バッソ、ハヴィエル・ボテット、テイラー・リチャードソン、ジェシカ・ブランク、マイケル・レイリー・バーク、ケヴィン・チャップマン、ミゲル・ナシメント、エディー・フラテスキ、オスカー・ロバート・ウォールバーグ、ダニエル・ビートン、ガブリエル・ローテ、マーク・カーヴァー、クリス・シドベリー、アンジェラ・ホープ・スミス、マイケル・タウ、デイモン・ダミコJr.、ヨハンナ・ペレス、ティモシー・ブリアリー他。
エリック・ヌードセンがエリック・サージの名義でインターネットに誕生させたキャラクターをモチーフにした映画。
2010年の『ラモーナのおきて』でラモーナを演じるなど、人気の子役スターとして活動してきたジョーイ・キングが19歳で主演した作品。
監督はTVドラマ『HAWAII FIVE-0』『MACGYVER/マクガイバー』のシルヴァン・ホワイト。
脚本は『13の選択』『エル ELLE』のデヴィッド・バーク。
レンをジョーイ・キング、ハリーをジュリア・ゴルダニ・テレス、クロエをジャズ・シンクレア、ケイティーをアナリース・バッソ、スレンダーマンをハヴィエル・ボテットが演じている。『スレンダーマン 奴を見たら、終わり』という邦題には、やる気の無さを強烈に感じてしまう。
誰がどう考えても、それは『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を意識しているよね。
それに似せたタイトルを付けることによって、ホラーってことは分かりやすくなるけど、「一線級の映画ではないですよ」「そんなに期待できる映画じゃないですよ」と宣言しているようなモンでしょ。
日本の配給担当者も、つまんない映画だと思ったから、そういう邦題を付けちゃったのかなあ。「スレンダーマン」というキャラクターは2009年にインターネットのフォーラムにおける「超常現象の画像を作ろう」というスレッドから誕生し、そこから他のサイトにも広まっていった。そういう経緯があるキャラクターだ。
つまり、最近になって生み出されたキャラクターだし、作者も明らかになっている。
なので「都市伝説」として捉えるのは、かなり難しい。っていうか無理だよね。
だって都市伝説じゃないんだから。「口裂け女」や「トイレの花子さん」のようなキャラクターは、起源がハッキリしていないので都市伝説として成立する。
それと、何しろ幼少期から刷り込まれてきたので、「そんなの絶対に存在しない」と頭では分かっていても、恐怖の対象ってことが肌感覚で残っている。
口裂け女やトイレの花子さんは日本の都市伝説だけど、アメリカだって都市伝説は幾つも存在して、「子供の頃に怖かった怪人」ってのは色々と存在する。
だけどスレンダーマンってのは、そういう対象にならないのだ。ちょっと辛辣な言い方をするならば、スレンダーマンってのは所詮、「ネタ」として登場したキャラに過ぎない。
なので、それを「マジで怖がらせるキャラ」にまで昇華させるってのは、よっぽど頑張らないと無理だ。
そこまで必死のパッチで製作サイドが頑張っているのかというと、そんなことは絶対に無いわけで。
そもそも、そんなに気合を入れて全力で取り組む価値があるような作品とも思えないけどね。
そうか、そんな風に考えると、この映画の質が低いのは、ある意味では正解なんだね。さらに厄介なことは、スレンダーマンのキャラクター設定がものすごくボンヤリしているってことだ。
また例に挙げて申し訳ないのだが、口裂け女やトイレの花子さんなら、かなり詳細なキャラ設定が決まっている。そして、それは都市伝説に触れた多くの人が共有する認識になっている。
しかしスレンダーマンは、外見も能力もガッチリと決まっていない。自由度が高いという言い方も出来るけど、「予定調和の恐怖」を観客に与えることが難しくなる。
「予定調和の恐怖」ってのは変な表現かもしれないけど、口裂け女ならマスクの女が近付いてきて「私、キレイ?」と問われるとか、そういうことだ。「来るぞ、来るぞ」というジワジワと不安が忍び寄り、「来た」というトコで一気に恐怖が爆発するという仕掛けだ。
そういうのをスレンダーマンでは使うことが出来ないのだ。序盤から、不安を煽るためのSEを頻繁に使っている。ホラー映画が音に頼るのは当たり前のことであり、それは決して悪くない。
ただ、そういう音の煽りに、描かれる内容や映像が思い切り負けている。
しかも、ここぞ」という時じゃなくても多用するので、肝心な時に充分な効果を発揮することも出来なくなる。
そういう時はコケ脅しのために別のSEも入れるが、いわゆる「急に大きな音を出して脅かす」という類の演出だ。それに頼りまくるホラー映画に、ロクなモンは無いよ。また、観客に恐怖を与えようとするシーンの編集が粗いため、たぶん狙っているのであろう効果は大幅に削られている。ケイティーが失踪するシーンにしても、ジェンセンがハリーの家へ乗り込んでくるシーンにしても、「雑だな」という印象が怖さを塗り潰してしまう。
っていうか後者に関しては、そういう展開自体がどうなのかと感じるしね。まだスレンダーマンを登場させるにはタイミングが早すぎるので、「怪人が家に侵入して姉妹を襲う」という展開にならないことはバレバレだよ。
だから、「姉妹が不安を抱くけど、そうじゃない」という形で進めるのは別に間違っていると思わない。でも、ただの肩透かしじゃなくてジェンセンが襲って来るので、普通に「姉妹が恐怖を抱くシーン」ではあるんだよね。
そんなスレンダーマンと無関係なトコで恐怖を作ってどうすんのかと。「スレンダーマンに襲われたと思ったら幻覚だった」とか「怪奇現象に見舞われたと思ったら夢だった」というシーンが何度も繰り返され、何が現実で何が幻覚なのか良く分からない状態が続く。
現実だろうと幻覚だろうと、登場人物が怖がって精神的に追い込まれていくことは確かだ。
ただ、そういうアプローチが恐怖を煽る効果に繋がっているのか、映画の面白さに貢献しているのかというと、それは無い。
しかも、終盤に入るに従って幻覚が増えるため、「現実の恐怖」が薄れるというマイナス面も大きいし。もはや細かいトコに指摘を入れ始めるとキリが無さそうな作品なので、重箱の隅を突くようなことは避けた方が賢明だろう。
ただ、あえて1つだけ触れておくと、「ケイティーが消えた前日に撮影された動画が彼女のパソコンに残されている」ってのは変だよね。それは誰が何のために撮影したのかと。
まだ「ケイティーが不安を感じて記録した」ということなら、ギリギリで許容できなくもないかもしれない。でも、その映像は、明らかに第三者が撮影しているからね。
あと、クロエが学校を何日も休むようになった時、レンとハリーが彼女の自宅を訪ねようとしないのは不自然だぞ。(観賞日:2020年3月12日)
第39回ゴールデン・ラズベリー賞(2018年)
ノミネート:最低助演女優賞[ジャズ・シンクレア]