『シエスタ』:1987、アメリカ

7月4日、空港の滑走路の近くで、真っ赤なドレスを着て倒れていた女が目を覚ました。女は、腹部に大量の血が付着していることに気付き、誰かを殺したのではないかと不安になった。彼女は、自分がどこにいて、何をしていたのか、全く分かっていなかった。
そこがスペインだということに気付いた彼女はタクシーを拾い、少しずつ記憶を辿り始めた。彼女の名前はクレア。夫はデル。6月29日、2人はカリフォルニアのデスヴァレーにいた。7月4日にクレアがスカイダイビングで火山に飛び降りるチャレンジを行うことになっており、そのプロデュースを担当しているのがデルだった。
その日、クレアの元に、かつての恋人であり、曲芸の師匠でもあったオーグスティンからの手紙を届いた。それは、彼が結婚することを知らせる手紙だった。クレアはデルに2日ほどで戻るというメッセージを残し、オーグスティンのいるスペインへと向かった。
6月30日、クレアは綱渡りの練習をしているオーグスティンと再会した。7月1日、クレアはオーグスティンと妻マリーの仲睦まじい様子を見せられ、嫉妬心を覚えた。7月2日、クレアはオーグスティンに抱いて欲しいと頼んだ。7月3日、明日にはスペインを離れるクレアはオーグスティンから、シエスタ(昼寝)の時間に会おうと言われた。
7月4日のクレアは、そんな風に過去を少しずつ思い出していく。警官から逃げるために個展の会場に入った彼女は、写真家のキットや妻デスドラ、ナンシー達と出会う。クレアはナンシーに、ホテルの部屋に泊めてもらう。そこへ、デスドラに部屋を追い出されたキットも現れた。彼はベッドに潜り込み、クレアの隣でナンシーと抱き合った。
キットとナンシーは、個展の発案者コンチータの元へ行き、クレアを海外に逃がすための協力を求めた。クレアは急に倒れ込み、ベッドで休むことになった。目を覚ましたクレアは、コンチータとナンシーが自分を病院に入れるべきだと話しているのを耳にする…。

監督はメアリー・ランバート、原作はパトリス・チャップリン、脚本はパトリシア・ルイジアナ・ノップ、製作はゲイリー・カーファースト、共同製作はクリス・ブラウン、製作協力はライザ・Z・ジョーンズ、製作総指揮はフリオ・カロ&ザルマン・キング&ニック・パウエル、撮影はブライアン・ロフタス、編集はグレン・A・モーガン、美術はジョン・ベアード、衣装はマーリーン・スチュワート、音楽はマーカス・ミラー、音楽演奏はマイルス・デイヴィス。
出演はエレン・バーキン、ガブリエル・バーン、ジュリアン・サンズ、ジョディー・フォスター、イザベラ・ロッセリーニ、マーティン・シーン、アレクセイ・セイル、グレース・ジョーンズ、アナスタシア・スタリス、ゲイリー・キャディー、グラハム・フレッチャー・クック、ダニエル・マーティン、ファビアン・コンデ、ペペ・カニート、スサナ・ブラスケス、ハイメ・ドリア、ホセ・テオドロ他。


パトリス・チャップリンの小説を映画化した作品。メアリー・ランバート監督はマドンナのヴィデオ・クリップなどを撮っていた人で、これが映画監督デヴュー。シナリオを書いたパトリシア・ルイジアナ・ノップは、『ベルサイユのばら』や『ナインハーフ』の脚本家。
オープニングで音楽演奏者としてクレジットされるのはマイルス・デイヴィスだが、音楽担当はマーカス・ミラー。タイトルの『シエスタ』には“昼寝”という意味があるが、それとは別に、「完全に眠る前の、まどろみの状態」という意味でも使われているのだろう。

クレアをエレン・バーキン、オーグスティンをガブリエル・バーン、キットをジュリアン・サンズ、ナンシーをジョディー・フォスター、マリーをイザベラ・ロッセリーニ、デルをマーティン・シーン、コンチータをグレース・ジョーンズが演じている。エレン・バーキンとガブリエル・バーンは、この映画がきっかけで結婚したが、後に離婚している。

過去の回想と現在が入り混じりながら、話が進んで行く。過去の行動から繋がるようにして、現在のクレアの姿が描かれたりもする。ただし、7月4日のクレアは真っ赤なドレスを着ているので、それが過去なのか現在なのかは、衣装で分かると思う。
冒頭、真っ赤なドレスで草むらに倒れている女がいる。女の服には、血がベットリと付着している。彼女は何も覚えていない。映画は謎を提示し、不安を煽る。果たして彼女に何があったのか、その血は誰のものなのか、そういうミステリーで引っ張ろうとする。

7月4日のクレア、つまり現在の彼女は、様々な人々と出会い、様々な出来事を経験する。それらの出来事は、彼女に起きた過去の出来事と、どのような関係があるのだろうか。実は、全く関係が無い。現在の様子から、過去の謎に繋がるヒントは何も無い。
完全ネタバレになるが、映画は最後になって、「実はクレアは最初の時点、つまり草むらに倒れていた時点で死亡寸前でした」というオチを持って来る。つまり、彼女が目覚めてからの出来事は、全て夢でしたというオチなのだ。キットやナンシーと出会ったことや、色々な出来事は、過去の謎とは全く関係が無い、ただの夢なのだ。

この映画は、最初に1つの大きな謎と、それに付随する小さな幾つかの謎があり、小さな謎が1つずつ解明されていき、それがヒントとなって最後に大きな謎が明らかになる、という話ではない。謎を解いていくという流れは、あるようでいて、実は全く無いのだ。
この映画は、ミステリーのように見せ掛けておいて、ミステリーではない。ミステリアスなだけだ。最初から物語を語ろう、ドラマを見せようというつもりが無い。「落ちる」をキーワードにして、抽象的なイメージを幻想的に映像化する、それだけだ。


第8回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低助演女優賞[グレース・ジョーンズ]
ノミネート:最低助演女優賞[イザベラ・ロッセリーニ]
<*『シエスタ』『タフガイは踊らない』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会