『シャイニング』:1980、イギリス

作家のジャック・トランスは、コロラド山中にあるオーバー・ルック・ホテルに、管理人として住み込むことにした。妻ウェンディと息子ダニーも、一緒に住むことになる。だが、ダニーは、自分の中にいる架空の友人トニーが反対しているため、行くのを嫌がった。
ジャックは支配人から、前任の管理人グレイディーが発狂して妻子を殺し、自殺したことを聞かされるが、気にしなかった。ジャックとウェンディ、ダニーの3人は、オーバー・ルック・ホテルでの生活を始めた。ダニーは料理人ハロランから、“シャイニング”という超能力のことを聞かされる。ダニーとハロランは、その能力の持ち主だった。
ジャックの執筆作業は一向に進まず、次第に苛立ちを募らせて行く。ある日、ウェンディは、ジャックが同じ言葉を何枚もの原稿用紙にタイプしているのに気付く。そこへ斧を持ったジャックが襲い掛かり、ウェンディはダニーと共に逃げ惑うことになる…。

監督はスタンリー・キューブリック、原作はスティーヴン・キング、脚本はスタンリー・キューブリック&ダイアン・ジョンソン、製作はロバート・フライヤー&メアリー・リー・ジョンソン&スタンリー・キューブリック&マーティン・リチャーズ、製作総指揮はヤン・ハーラン、撮影はジョン・オルコット、編集はレイ・ラヴジョイ、美術はロイ・ウォーカー、衣装はミレーナ・カノネロ、音楽はウェンディ・カーロス&レイチェル・エルキンド。
出演はジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド、スキャットマン・クローザース、バリー・ネルソン、フィリップ・ストーン、ジョー・ターケル、アン・ジャクソン、トニー・バートン、リア・ベルダム、ビリー・ギブソン、バリー・デネン、デヴィッド・バクスト、マニング・レッドウッド、リサ・バーンズ、ルイーズ・バーンズ、ロビン・パパス、アリソン・コールリッジ他。


スティーヴン・キングのホラー小説を基にした作品。
ジャックをジャック・ニコルソン、ウェンディをシェリー・デュヴァル、ダニーをダニー・ロイド、ハロランをスキャットマン・クローザースが演じている。

キューブリックの映像美学を、色んな場面で感じることが出来る。
例えば、エレベーターから血が洪水のように溢れ出すシーン。
あるいは、巨大迷路での追跡劇シーン。
特に有名なのは、子供が三輪車で廊下を走る様子のローアングルだろう。
また、シンメトリーの構図を多用しているのも印象的だ。

原作と全く違う内容だったため、スティーヴン・キングが怒ったのは有名な話だ。
この映画はキング曰く、「エンジンを積んでいないキャデラック」らしい。
なるほど、このキャデラック、エンジンは積んでいないのかもしれない。
しかし、かなりの改造を施してあるようだ。

ホラーってのは、登場人物に感情移入させるのが常套手段だ。
観客は襲われる登場人物に感情移入することで、同じように怖がることが出来る。
だが、キューブリックは登場人物を突き放して描いているので、そんなのは無理だ。

この映画の怖さを生み出しているモノは2つ。
まず、映像美が作り出す雰囲気。
劇中のホテルは、ものすごく格調高くて綺麗に仕上げてある、アーティスティックなお化け屋敷だと言ってもいいかもしれない。
もう1つは、もちろんジャック・ニコルソンである。

劇中、シャイニングという超能力が意味ありげに出てくるが、ただ出て来るだけ。
「オッサン狂って大暴れ」の話に、シャイニングは何の関係も無いのだ。
それは作品のタイトルなんだけどね。
で、シャイニングの意味が無いということは、ハロランの存在意義も無い。

この映画の凄い所は、超能力や悪霊といった要素と、主人公が精神に異常をきたすという問題が、全くリンクしていないということだ。
普通に考えれば、悪霊に憑依されて主人公が狂うという筋書きになるだろう。
しかしキューブリックは、そんな単純な話を選ばなかった。

このストーリーは、どういう内容なのか。
短く要約すると、「オツムがクレイジーだったオッサンが、なかなか小説が書けないもんだからプッツンしてしまい、さんざん奥さんと子供に度が過ぎた嫌がらせを繰り返して、最後は惨めに凍死する」という話だ。

つまり、このオッサンは、ホテルに来たからクレイジーになったわけではない。
悪霊のせいでクレイジーになったわけでもない。
最初から、頭がイカれているのである。
何しろジャック・ニコルソンなのだから、最初から狂っているのである。
オッサンが最初から狂っているのだから、ホテルの中の怪奇現象は、全てオッサンの幻覚かもしれないということにもなってくる。

「オッサンだけでなく、ガキンチョも怪奇現象を見ているのだから、それは幻覚ではないはずだ」と反論したくなるかもしれない。
だが、考えてみてほしい。
キンチョは、架空の友人を作っているような人物だ。
息子も、オヤジと同じように頭がイカれているんだろうとも考えられる。

しかしながら、終盤には奥さんも怪奇現象を目撃している。
最終的に奥さんもイカれて幻覚を見たという可能性もあるが、そこまで来たら、まあ悪霊は本当にいたんだろう。そういうことにしておこう。
ただ、悪霊がいようといまいと、まず間違い無くオッサンはプッツンしていたと思うよ。


第1回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低監督賞[スタンリー・キューブリック]
ノミネート:最低主演女優賞[シェリー・デュヴァル]

 

*ポンコツ映画愛護協会