『セブンス・サン 魔使いの弟子』:2014、アメリカ&中国&イギリス&カナダ

魔使いのマスター・グレゴリーはマルキンを穴に入れ、蓋を釘で打ち付けた。マルキンが助けてほしいと懇願しても、グレゴリーは無視して馬で走り去った。マルキンは血染めの月によって力を取り戻し、空飛ぶ怪物の姿で穴から脱出した。グレゴリーが酒場で飲んでいると、弟子のブラッドリーがやって来た。彼は村の古い教会に10歳ぐらいの少女がいて、何かに憑依されていることを知らせた。「魔物を相手にする気分じゃない」とグレゴリーが言うと、1人の男が「立てよ。仕事で呼び出されたんだろ」と剣を差し出す。グレゴリーが立とうとしないので、男が襲い掛かる。グレゴリーは彼を軽く叩きのめし、酒場を後にした。
馬車で教会へ赴いたグレゴリーとブラッドリーは、鎖で繋がれている少女と対面した。司祭はグレゴリーに、昨日の夕方から何かに憑依されて少女が暴れ出そうとしているのだと説明した。グレゴリーが話し掛けると、少女は「分かってたはずよ。私を封印しても永遠に閉じ込めておくことは出来ない」と言う。10年前に封印したマルキンが憑依していると知ったグレゴリーは、「罪の無い子を解放しろ」と言う。マルキンは少女の体から飛び出し、グレゴリーに「私に会いたかったんでしょ」と告げた。グレゴリーとブラッドリーはマルキンを捕獲し、檻に閉じ込めようとする。しかしブラッドリーがマルキンに捕まり、闇に取り込まれた。グレゴリーは檻に火を放つが、マルキンは「歳月が私を強くした」と笑って逃亡した。
トム・ウォードは山奥の家で、豚を飼って暮らしていた。彼は豚を育てて一生を終えるつもりなど無く、近い内に出て行くつもりだった。手の震えに見舞われたトムの脳裏に、これから体験する予知夢の映像が飛びこんで来た。グレゴリーはトムの家を訪れ、彼の母に「ここには7番目の息子の7番目の息子がいるんだろ。隠すなよ、急いでるんだ」と告げた。彼は母親に用意させた食事をたいらげると、どれが7番目の息子か尋ねた。トムが名乗ると、グレゴリーは彼の父に大金を渡した。母は「魔物退治なんて危険すぎる」と反対するが、トムはグレゴリーの姿を予知夢で見ていたこともあり、「彼に付いて行く」と告げた。母はペンダントをトムに渡し、「気を付けて行くのよ」と送り出した。
マルキンは屋敷へ戻り、手下のボニーがグレゴリーに顔を焼かれたことを知る。ボニーは「奴にスパイを付けています」と告げ、マルキンは彼女の顔を元に戻した。グレゴリーとトムを伴って賑わう町へ行き、ブーツを直すよう金を渡して酒場に入った。予知夢で見たアリスという女が魔女として連行される様子を目撃したトムは、自分が対処すると告げる。彼はグレゴリーの弟子だと名乗り、「危険な魔女だから遠くへ連れて行って退治する」と述べた。トムはアリスを誰もいない路地裏へ連れて行き、拘束を解いた。アリスは「私には未来が読める。また会えるわ」と告げ、師匠には言わないよう告げて姿を消した。
アリスが母であるボニーの元へ戻ると、マルキンは父親が人間だと見抜いた。アリスはボニーが言っていたスパイで、マルキンは「じきに血染めの月が満ちる。そうすれば私たちの力も強くなる」と言い、仲間を山へ呼び集めることにした。グレゴリーはトムに、前の弟子が魔女の女王であるマルキンに殺されたこと、これから向かう要塞にいることを話す。予知夢でマルキンの姿を見たトムは、意識を失った。彼が目を覚ますと船に乗せられており、グレゴリーは忠実な部下のタスクに漕がせていた。
トムはグレゴリーの家へ案内され、古いタペストリーを目にした。それは騎士団のタペストリーで、トムは「騎士団の団員は自らの知識を、他の7番目の息子の7番目の息子に伝えねばならない」という掟を語る。「師匠の仲間は千人もいるって」と彼が言うと、グレゴリーは「それは大昔のタペストリーだ。みんな死んだか敵に寝返った。闇と戦う者は、闇に魅入られる」と述べた。トムが修業の年数を尋ねると、10年だとグレゴリーは答えた。
グレゴリーは続けて、「お前には1週間足らずしか無い。もうじき血染めの月が満ちる。百年に一度のことだ。前回は、その後から戦争が続いた。町は魔女に破壊され、世界は荒廃した。次の赤い満月が沈むまでに、マルキンを倒さねば」と語る。「どうやって?」とトムが訊くと、彼は「そこまで。質問は終わりだ。夜明けに出るぞ。それまで自分の部屋にいろ」と会話を打ち切った。深夜、不気味な声を耳にしたトムが気になって調べに行くと、甲冑のに身を包んだ骸骨が立っていた。その骸骨戦士は炎を発し、トムに襲い掛かった。トムが必死で逃げていると、グレゴリーが駆け付けて骸骨を退治した。
グレゴリーは「自分の部屋にいろ」という最初のテストが不合格だったことを告げ、2番目のテストを開始する。彼は初代ファルコンの騎士が作った最強の戦闘用杖であるナナカマドの杖を渡し、それを使って自分と戦うよう要求した。戦闘能力の無いトムを、グレゴリーは「役立たず」と扱き下ろす。トムは杖を彼に向かって投げ、「教えてくれ」と告げた。グレゴリーは彼に、「血染めの月が出てマルキンが復活すると、闇の者たちが頻繁に現れるようになり、力も強まる」と説明する。
グレゴリーは書物を開いてマルキンの手下たちについて教え、戦いに必要な道具を解説した。トムはナイフ投げを練習するが、なかなか的に命中しなかった。マルキンの元には、手下のラドゥーが刺客たちを率いて駆け付けた。刺客の1人を容赦なく始末したマルキンを見て、アリスはボニーに「あの人は危険だわ」と告げる。しかしマルキンを慕っているボニーは「月が満ちる頃には、この地を治めている。もう人間から隠れて暮らさなくていい」と語り、魔使いを見張るよう指示した。
夜、川辺で野営していたトムは、月明かりに照らされて泳ぐアリスを目撃した。トムが差し出した手をアリスが握ると、青い火花が散った。魔女の言い伝えでは、初めて運命の人と手を繋いだ時に青い火花が散るとされていた。それを聞いたトムが「じゃあ、君は魔女なのか」と驚くと、アリスは父親が人間で母親は魔女だと打ち明けた。彼女は「魔女がみんな悪者というのは、魔使いの思い違いよ。いい魔女もいるわ」と語り、指令を受けて尾行していたことを話した。どこへ行くのか問われたトムは、ペンドル山だと答えた。
翌朝、鐘の音を耳にしたグレゴリーは、トムに「お呼びが掛かったぞ」と言う。彼がタスクを隠れさせた直後、兵士の一団が現れて隊長が「城壁の町に招待された。魔女狩りの責任者が話したがっている」と言う。グレゴリーにが町へ行くと、審問官は見たことも無い怪物が捕獲されたことを話して報酬の前金を渡した。檻に閉じ込められていたのは、マルキンの手下で最も残虐なウラグだった。巨大な熊の姿をしていたウラグだが、グレゴリーが檻から出すと人間の姿に戻った。
グレゴリーはウラグと戦い、トムに協力させて縛り上げる。トムは「焼き殺せ」と松明を渡されるが、「出来ません。貴方とは違う」と拒否する。グレゴリーはウラグを始末し、トムに「お前は魔女を倒す訓練を受けているんだぞ。殺せないのなら、お前に用は無い」と言う。トムはグレゴリーに同行せず、その場を去った。マルキンの所には、手下のサリキンやヴィラハドラ、ストリックスが集まった。ずっとトムを張り込んでいたアリスは彼に接触し、グレゴリーが若い頃に魔女と付き合っていたことを教えた。トムが目を閉じるよう求めるとアリスは従い、キスを受け入れた。
トムが「一緒に争いの無い安全な場所へ行きたい」と言うと、アリスは「そんな場所は無いわ」と告げた。予知夢を見たトムはグレゴリーが危険だと感じ、彼の元へ戻ることにした。グレゴリーはトムに、「ワシも昔は傲慢で人の話を聞かなかった。マルキンを愛したこともある」と言う。彼は「初めは悪い魔女じゃなかったが、人間はあいつを憎んだ。それで噂通りの悪い魔女に変わり、ワシに妻がいたと知ると幸せを妬んで殺害した。だから、まだ愛していると嘘をついてマルキンを捕まえた。殺せるチャンスはあったが、情けを掛けて穴に閉じ込めた」と語り、自分と同じ過ちは犯すなと忠告した。
2人とタスクが馬車で山へ向かっていると、怪物のボガートが襲い掛かった。グレゴリーたちは川へ飛び込むが、ボガートは追い掛けて来た。グレゴリーは岸へ避難するが、トムはボガートと戦いながら滝壺に飲み込まれた。ボガートを撃退して岸から上がったトムの前にリジーが現れ、剣を突き付けて「アリスのことは忘れなさい。アンタの師匠は私たちを焼き殺して、心臓を食べようとしてる」と告げる。ペンダントの力で剣の攻撃を防がれたリジーは「その石は我が女王の物」と動揺し、変身して飛び去った。
グレゴリーと合流したトムは、ペンダントを見せた。するとグレゴリーは笑い出し、「ウンブラの石だ。魔女の聖なるお守りだ。かつてマルキンが持っていたが、他の魔女に盗まれた」と説明する。トムは母が魔女だと知って驚き、グレゴリーは「魔女の息子でありながら魔使いをしてる。変わり種だな」と言う。一方、アリスはマルキンがトムを殺す気だと知り、「彼はいい人よ」と助命を嘆願した。するとマルキンは、トムを助けてほしければウンブラの石を取り戻すよう要求する…。

監督はセルゲイ・ボドロフ、原作はジョゼフ・ディレイニー、映画原案はマット・グリーンバーグ、脚本はチャールズ・リーヴィット&スティーヴン・ナイト、製作はベイジル・イヴァニク&トーマス・タル&ライオネル・ウィグラム、製作総指揮はジョン・ジャシュニ&ブレント・オコナー&ラ・ペイカン&アリシア・カーター、共同製作はジリアン・シェア&エリカ・リー、製作協力はマーティン・コーエン&ルイス・フェラーラ、撮影はニュートン・トーマス・サイジェル、美術はダンテ・フェレッティー、編集はジム・ペイジ&ポール・ルベル&マイケル・カーン、衣装はジャクリーン・ウェスト、視覚効果デザインはジョン・ダイクストラ、音楽はマルコ・ベルトラミ、音楽監修はピーター・アフターマン&マーガレット・イェン。
出演はジェフ・ブリッジス、ベン・バーンズ、アリシア・ヴィカンダー、ジュリアン・ムーア、ジャイモン・フンスー、キット・ハリントン、オリヴィア・ウィリアムズ、アンチュ・トラウェ、ジェラード・プランケット、ジェイソン・スコット・リー、ジョン・デサンティス、キャンディス・マクルアー、リュック・ロデリク、ザーフ・パルー、ティモシー・ウェバー、ライラ・フィッツジェラルド、マーセル・ブリッジス、リビー・オスラー、プリモ・アロン、タヤ・クライン、イザベル・ランドリー、ジョン・ノヴァク、ヤロスラフ・ポヴァーロ、デヴィッド・キュービット、ライアン・ロビンス他。


ジョゼフ・ディレイニーの児童小説「魔使い」シリーズの第1作『魔使いの弟子』を基にした作品。
監督は『モンゴル』『ヤクザガール 二代目は10歳』のセルゲイ・ボドロフ。
脚本は『光の旅人 K-PAX』『ブラッド・ダイヤモンド』のチャールズ・リーヴィットと『イースタン・プロミス』『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』のスティーヴン・ナイト。
グレゴリーをジェフ・ブリッジス、トムをベン・バーンズ、アリスをアリシア・ヴィカンダー、マルキンをジュリアン・ムーア、ラドゥーをジャイモン・フンスー、ブラッドリーをキット・ハリントン、トムの母をオリヴィア・ウィリアムズ、ボニーをアンチュ・トラウェ、審問官をジェラード・プランケット、ウラグをジェイソン・スコット・リーが演じている。
原作と同じくシリーズ化を想定して製作されたが、この映画が興行的に失敗したことを受けて、続編企画は潰れた模様。

冒頭でグレゴリーが穴に蓋を取り付けている様子が描かれ、「グレゴリー、お願いだから、ここから出して。行かないで」と懇願する女の声が聞こえる。それがマルキンで、グレゴリーが去った後、しばらくすると「血染めの赤い月が出たおかげで私の力は蘇った」ってことでドラゴン的な姿のクリーチャーとして外へ飛び出す。
そこでタイトルが表示されて「時が過ぎて」ってことになるのだが、その冒頭シーンには、色々と厄介なことがある。
まず、マルキンの台詞からすると、グレゴリーとの関係は単純に「正義の味方と悪人」という関係性ではないことが何となく透けて見える。しかし具体的なことは分からないまま、先へ進む。
そこには「実はこんな背景がありまして」というネタがあり、後から明かされる構成になっているので、冒頭シーンの情報が薄くなるのは仕方の無い部分もある。ただ、「それにしても」と感じるのよね。
せめて、マルキンの人間としての姿ぐらいは見せておいた方がいいんじゃないか。そこは最初に見せても、何の不都合も無いはずでしょ。
いきなり怪物として登場されると、「女の声だったよね?」と首をかしげたくなるぞ。

酒場のシーンは主人公であるグレゴリーのキャラを紹介するために用意されているが、いきなり失敗している。
彼は男から仕事をするよう促されても、「弟子の言葉を無視するのに頑張ってる」と酒を飲み続けようとする。ところが男が襲い掛かると簡単に撃退し、すぐさま仕事へ向かうのだ。
最初から仕事をする気があるのなら、男の要求を無視する意味がどこにあるのか。そのせいで、男を殴り倒すという無駄な手間が生じているじゃねえか。
男が悪党なら退治しても構わんけど、「呼ばれたんだから仕事しろよ」と要求するのは当たり前のことでしょうに。

マルキンは穴から脱出した後、少女に憑依している。
だけど、「なぜ少女に憑依したのか」という理由は全く分からない。誰かの体を拝借しないと実体化できないとか、そういうことなら分かるけど違うんだし。
あと、キャラとしてマルキンが悪玉のポジションにあることは分かるのだが、具体的に「どういう悪事を働いているのか」ってのも全く分からない。少女に憑依する以外に、こいつが何か悪さをしている様子は全く描かれていないのでね。
その村でマルキンが少女に憑依したのが偶然なのかどうかも、良く分からない。

グレゴリーはウォード家に到着すると、「7番目の息子の7番目の息子がいるんだろ」と言う。なぜ彼が「7番目の息子」にこだわるのか、その理由は教えてくれない。
また、その時点でトムの家族は母と妹しか登場していないので、「トムが7番目の息子」ってのは言葉による説明に留まっている。
トムの6人の兄を全て登場させることが必要不可欠だとまでは言わないが、「だったら7番目の息子という設定じゃなくても良くないか」と感じる。
もちろん原作がそういう設定だから使っていることぐらい分かるけど、そこが無意味でバカバカしいだけの仕掛けになっているのよね。

グレゴリーの家に着いた時、トムがタペストリーを見ながら「騎士団の団員は自らの知識を、他の7番目の息子の7番目の息子に伝えねばならない」という掟を説明する。
ここで初めて「トムが選ばれた理由」が語られるのだが、それで「7番目の息子の7番目の息子が弟子の絶対条件」という設定に納得できるわけではない。その先に、「なぜ7番目の息子の7番目の息子じゃなきゃダメなのか」という理由が必要だ。
そこは荒唐無稽な設定で一向に構わないのよ。「何かしらの呪いで、魔使いの能力は7番目の息子の7番目の息子にしか使えなくなった」みたいなことでもいい。
とにかく、何か理由があった方がいいのよ。

そこに限らず、この映画の重大な欠点の1つは「とにかく説明不足が甚だしいし、情報の伝え方が下手」ってことだ。
例えば、かつて大勢の騎士団がいたこと、グレゴリーが唯一の生き残りであることも、一応は説明している。ただ、上手く物語の流れに乗っておらず、そこで立ち止まって「説明のための説明」をしている感じなのだ。
マルキンが魔女の女王であること、伝説の存在であることは、始まってから25分ぐらい経過し、夜の森を移動するグレゴリーがトムに説明するシーンで初めて明かされる。この辺りも、説明のタイミングも見せ方も下手だと感じる。
「血染めの月が満ちると魔女の力が強くなる」という設定があるが、ここの表現も下手。冒頭シーンや、マルキンがアリスと初対面するシーンの台詞でそのことに触れているが、どういう時に血染めの月が満ちるのかという条件も分からないし。
「あと何日で」みたいな設定も無いから、言ったモン勝ちみたいなことになっている。

トムは登場した時点で、「ここから早く出て行きたい」という意志を言葉で示している。
そりゃあ「田舎で退屈だから早く出たい」ということなんだろうとは思うけど、表現としては雑になっている。なので、トムがグレゴリーの訪問を受けて迷わず「付いて行く」と決めても、あまりピンと来ない。
グレゴリーが具体的に何も言っていないのに、いつのまにか「魔物退治が目的」ってことが伝わっている設定になっているけど、ってことは命を落とす危険もあるわけで、それでもトムが全く躊躇しないのは、ちょっと違和感がある。
「冒険への憧れが強かった」とか、「ずっと何かしらの使命感を抱いていた」ってわけでもなさそうだし。

マルキンの予知夢を見たトムが目を覚ますと、タスクという男がグレゴリーの部下として登場する。
そこが初登場なので、キャラの出し方が下手だなあと感じる。
そこからグレゴリーは我が家に入るので、タスクは「旅に同行しているわけではなく、家を守っている部下」ということなんだろう。
ただ、それなら「トムが目を覚ましたら船を漕いでいる」という形で初登場させるよりも、「家に着いたらタスクがいて、グレゴリーが紹介する」という形の方がスムーズじゃないかなと。

グレゴリーはトムにザックリとした説明こそするものの、「本来は10年が必要なのに、どうやって1週間で修業を積むのか」「どうやってマルキンを倒すのか」という具体的な方法は何も教えてくれない。トムが「僕を育てる気があるなら、ちゃんと説明してください」と口にするのも当然だ。
っていうか、10年の修行期間が必要なのに、あと1週間しか無いって絶対に無理だろ。
そもそも、なぜ弟子を1人しか取っていないのかと。
「7番目の息子の7番目の息子」という条件さえクリアしていればいいはずだから、そういう奴を何人か一度に弟子として取っておけばいいんじゃないのか。そうじゃないと、弟子が死ぬ度に「また10年を費やして新たな弟子を育てる」ってことを繰り返す羽目になるわけで、すんげえ効率が悪いだろ。

グレゴリーはトムに「自分の部屋にいろ」と指示し、部屋から出た彼が甲冑の戦士に襲われると退治して「自分の部屋にいろというのが最初のテストだった。もちろん不合格だがな」と言う。
いやいや、そんなテストで弟子の合否を判定するなよ。それで弟子の何を見ようとしたのか。「ちゃんと命令に従うか」ってことなのか。
でも、何の説明もせずに寝るよう命じておいて、それで部屋を出たら不合格扱いって、そんなのメチャクチャだろ。
不気味な声が聞こえたら、気になって調べに行くのは普通の行動でしょ。

しかも、それで不合格と言っておきながら、すぐに「2番目のテストだ」とか言い出すし、何なのかと。
その2番目のテストも、何の訓練も受けていない奴に杖を渡して「能力を見せてみろ」って、いや絶対に無理だろ。
「7番目の息子だから、最初から特殊な才能が備わっているはず」ってことなんだろうけど、「役立たずめが。その程度じゃ1週間後に死ぬぞ」って、そんなギリギリになって弟子を取っていること自体が間違いだろ。
そもそも、テメエで「弟子は10年の修行が必要」って説明していたじゃねえか。最初から戦闘能力が高い奴だったら、修業を積ませる必要なんか全く無いだろ。

グレゴリーはトムに「血染めの月が出てマルキンが復活すると、闇の者たちが頻繁に現れるようになる」と説明するけど、もうマルキンは復活しているよね。だからこそ、彼の前に出現したんでしょ。
なのに、なんでグレゴリーは「まだ復活していない」という前提で話をしているのか。
マルキンは穴から脱出して彼の前に姿を見せたのに、「それは完全に復活した姿じゃない」という設定だったりするのか。
だとしても、まるで伝わっていないぞ。

グレゴリーはウラグと対面すると、トムに「ワシだけで戦う。騎士の礼儀だ」と言う。そして、せっかく檻に監禁されていたウラグを、わざわざ檻から出す。
そんなことを言うぐらいだから1人で倒すのかと思いきや、トムに協力させてウラグを鎖で縛り上げる。
いやいや、また拘束するのなら、なんで檻から出したのよ。もう檻に監禁されていたんだから、その状態で焼き殺せば良かっただろうに。
タイマンを張るようなことを言って中途半端に戦う手順が、無駄でバカバカしいだけだ。

グレゴリーは妻がいる身でありながら、マルキンを愛して深い関係になった。マルキンがグレゴリーの結婚を知って妻を殺すと、「まだ愛している」と嘘をついて捕まえた。情けを掛けて殺さずに穴へ閉じ込めたが、逃げられてしまった。
つまり、今回の事態を招いているのは、全てグレゴリーのせいなのだ。
で、そんなことを話した彼は「これがお前を厳しく仕込んでいる理由だ」と話すけど、それって「自分のヘマの後始末をするために厳しく仕込んでいる」ってことでしょ。テメエのケツはテメエで拭けよ。
それに「厳しく仕込んでいる」と言うけど、ほとんど何も教えちゃいないし。

トムはウラグを焼き殺す仕事を「出来ません。貴方とは違う」と言うけど、テメエは目の前で暴れて自分にも襲い掛かる様子を目にしたばかりだろうに。
「いい魔女もいる」というアリスの言葉に影響を受けて、殺しを躊躇するという流れにしたかったんだろうとは思うよ。
だけど少なくとも、ウラグが「いい魔女」じゃないことは明白でしょ。
単純に「ビビって殺せなかったってことならまだしも、「魔使いの仕事に疑念を抱いて」ってことで進めようとするなら、それに見合う物語が全く足りていないぞ。

っていうか、そこに限らず、この映画は色んなトコに大きな不足があるんだよね。ホントは3倍ぐらい必要な話を大幅&乱雑に端折っているような印象を受けるわ。
グレゴリーとトムの師弟の絆も、トムとアリスの恋愛劇も、グレゴリーとマルキンの愛憎の関係も、何もかもが断片的で、ドラマとしての充分な高まりを持っていない。
原作は読んでいないけど、全てを盛り込もうとして、全てが薄くなったというパターンじゃないのかと。
使う要素を絞り込んで、そこに厚みを持たせるという考え方の方が良かったんじゃないかと。

マルキンには「最初は悪い魔女ではなかったが、人間に憎まれて悪い魔女に変貌した」という設定があり、つまり同情すべき部分もあるし改心の余地もありそうなのだが、実際には「ただの悪党」としてのキャラに留まっている。
ボニーとアリスの母娘は「魔女は人間に迫害されてきた」という悲哀を背負っている設定だが、表面的な設定に留まっており、それが映画を面白くする要素として全く機能していない。
マルキンには様々な見た目をした複数の手下かいるが、充分に存在感や個性を発揮することもなく、淡白に消費されていく。
最後まで足りない状態は続き、盛り上がりに欠けるまま映画は終わりを迎える。

(観賞日:2018年10月22日)


第36回ゴールデン・ラズベリー賞(2015年)

ノミネート:最低助演女優賞[ジュリアン・ムーア]

 

*ポンコツ映画愛護協会