『デビルクエスト』:2011、アメリカ

1235年、フィラッハの町。魔女狩りによって捕まった3人の女たちが、執行官によって首吊り処刑にされた。執行官たちが死体を川に落下 させたので、司祭は「ソロモンの書に従い、死体か蘇らないよう引き上げるべきだ」と主張する。しかし執行官たちは、そのまま去った。 深夜、司祭は1人で死体を引き上げ、ソロモンの書の祭式による呪文を唱えた。しかし最後の3人目を引き上げようとした時、彼は川に 落とされて足を引っ張られる。川の中から女が飛び出し、ソロモンの書を焼き払って司祭を抹殺した。
1332年、エドミレット湾。十字軍遠征に参加した騎士ベイメンとフェルソンは、聖敵とされる相手を倒した。1334年にはトリポリ包囲戦、 1337年にはインブロスの戦い、1339年にはアルタハの戦いで、2人は武勲を上げる。1344年、スミルナの戦いにおいて、ベイメンは若い娘 を突き殺した。呆然とした彼が周囲を見回すと、女子供の死体が無数に転がっていた。ベイメンは軍を指揮する司祭に詰め寄り、激しく 批判した。彼はフェルソンに誘われて、十字軍を抜けることにした。
1ヶ月後、スティリアの海岸沿いを歩いていたベイメンとフェルソンは、羊飼いの小屋を発見した。中に入ると、ベッドには夫妻らしき 腐乱死体があった。ベイメンとフェルソンは小屋を焼き払い、その場を去る。2人は食料や馬を調達するため、町に立ち寄った。そこで 2人はエッカートという騎士から、伝染病が国全体に広がっていることを知らされる。それは3年半から始まっており、エッカートも妻と 子供を埋葬したらしい。
馬を調達したベイメンとフェルソンだが、剣に刻まれた十字軍の印を目撃される。脱走兵だと気付かれた2人は、憲兵に捕まった。彼らは デベルザック神父によって、伝染病に伏せるダンブロワーズ枢機卿の元へ連行された。枢機卿は2人に、黒い魔女が伝染病を蔓延させた ことを語る。デベルザックは、魔女が自白したという。枢機卿はベイメンとフェルソンに、「セヴラック修道院にある書物の祭式に従い、 魔女の力を消せば病も消える。エッカートとデベルザックを伴い、そこへ魔女を連れて行け」と要求した。
ベイメンが「もう教会には仕えない」と断ったため、彼とフェルソンは牢屋に入れられた。別の牢には、魔女と言われている娘がいた。 しかしベイメンは娘が魔女には見えず、教会が自白を強要したのだと確信する。夜中に泣き出した女の体には、拷問の跡があった。翌朝、 ベイメンはデベルザックに「セヴラック修道院へ行く代わりに、条件がある。彼女を公正な裁判に掛けろ」と要求した。
ベイメンたちが地図を見ながら修道院への道筋を確認していると、エッカートは「ワームウッドの森は危険だ。大勢が行方不明になって いる」と告げた。ベイメンが「道に詳しい案内役が必要だ。誰かいないか」と言うと、デベルザックは「いないわけではないが」と顔を しかめた。それは処刑を待っている詐欺師のハガマーだった。ベイメンは解放と引き換えに、道案内をするよう持ち掛けた。
ベイメンたちが女を運ぶため牢へ向かうと、デベルザックは「鎮静剤で眠らせた」と言う。しかし女は眠った芝居をしていただけで、 いきなりデベルザックやエッカートに襲い掛かった。女は異常な力で暴れるが、ベイメンとフェルソンが取り押さえて荷車に乗せた。一行 が出発すると、デベルザックはエッカートに「あの女が町に来てから、4日目の夜に伝染病が広がった。あの女が通る度に、伝染病の 患者が発生する」と語った。しかしエッカートは、懐疑的な態度を示した。
ベイメンは一行を尾行している人物に気付き、わざと隙を作って誘い込んだ。すると、それは町にいたカイという若者だった。彼は枢機卿 に仕える身で、父親は騎士だった。カイは同行を申し入れ、その代わりに自分を騎士の身分にする保証が欲しいと言う。フェルソンは彼と 言い争いになり、剣で戦うことになった。カイが力負けせずに戦う様子を観察していたベイメンは、同行することを許可した。
一行は野宿を決め、ベイメンは女に食事を運ぶ。女が「貴方は他の人と違う」と言うと、ベイメンは「公正な裁きを俺が保証する」と 告げた。デベルザックが女を監視していると、エッカートが来て娘ミラのことを話す。女はエッカートに弱々しい態度で助けを求めるが、 彼が近付くと豹変して襲い掛かる。デベルザックが駆け寄ると、女は彼の手を十字架で突き刺して鍵を奪い、檻から脱走した。
ベイメンたちが女を捜して近くの街へ行くと、外にいた娘が伝染病に冒されていた。逃げる女を見つけた一行は、二手に分かれて捜索する 。そんな中、エッカートは「父さん」と呼び掛けるミラの声を耳にした。カイと別れてミラを捜した彼は、娘の姿を発見した。逃げる娘を 追い掛けて急に飛び出したエッカートは、誤ってカイの剣を腹に受けた。もちろんミラは幻影だった。エッカートは死んだ。
フェルソンは女を発見するが、異様な力で襲撃される。ベイメンが女を引き離すと、「ごめんなさい、連れ戻さないで」と泣き出した。 翌朝、ベイメンたちはエッカートの死体を埋葬した。デベルザックはベイメンに、「彼は魔女に殺された。魔女は心の弱さに付け込む」と 告げる。しばらく進むと、吊り橋が崩壊寸前となっていた。ベイメンたちは、慎重に荷車を運ぶ。カイが落下しそうになると、女が片腕で 引っ張り上げた。橋が崩壊する寸前で、一行は向こう側へ辿り着いた。
ベイメンたちが前方を見ると、そこはワームウッドの森だった。一行は森に入るが、深い霧が立ち込めてきたため、休息することにした。 その夜、ベイメンはスミルナの娘を殺した時の夢で目を覚ました。荷車を見ると、ハガマーがクロスボウで女を殺そうと狙っていた。彼は ベイメンに気付かれ、「修道院に到着するまでに、何人が死ぬんだ?解決方法がある。魔女を殺せば全ては終わる」と口にした。
フェルソンが現れてハガマーを制止した直後、狼の群れの遠吠えが響いて来た。ベイメンたちは襲って来た狼たちを倒すが、さらに多くの 遠吠えが聞こえたため、急いで逃げ出す。しかし馬から落ちたハグマーは、群れに襲われて死亡した。翌朝、霧が晴れた中で、ベイメンは クロスボウを使って女を抹殺しようとする。しかしデベルザックが現れ、「ここで殺せば神を批判する資格は無いぞ」と制止した。そこに 現れたフェルソンは、「旅は終わりだ。見ろ」と言う。彼が指差した方向には、セヴラック修道院があった…。

監督はドミニク・セナ、脚本はブラギ・シャット、製作はチャールズ・ローヴェン&アレックス・ガートナー、製作総指揮はライアン・ カヴァナー&スティーヴ・アレクサンダー&タッカー・トゥーリー&アラン・G・グレイザー&トム・カーノウスキー、撮影はアミール・ モクリ、編集はマーク・ヘルフリッチ&ダン・ジマーマン&ボブ・ダックセイ、美術はウリ・ハニッシュ、衣装はカルロ・ポッジョーリ、 音楽はアトリ・オーヴァーソン。
主演はニコラス・ケイジ、共演はロン・パールマン、スティーヴン・キャンベル・ムーア、クレア・フォイ、クリストファー・リー、 スティーヴン・グレアム、ウルリク・トムセン、ロバート・シーハン、 ケヴィン・リース、アンドリュー・ヘフラー、フェルナンダ・ドロギ、レベッカ・ケネディー、マット・デヴィア、ロベルト・バンラキ、 バーナ・イリエス、ケヴィン・キルブリュー、シモーネ・カービー、エレン・リス、ニック・シディ、ローリー・マッキャン他。


『60セカンズ』のドミニク・セナ監督と主演のニコラス・ケイジが再びコンビを組んだ映画。
ベイメンをニコラス・ケイジ、フェルソンをロン・パールマン、デベルザックをスティーヴン・キャンベル・ムーア、女をクレア・フォイ 、枢機卿をクリストファー・リー、ハグマーをスティーヴン・グレアム、エッカートをウルリク・トムセン、カイをロバート・シーハンが 演じている。
脚本はカーラ・グギーノ主演のTVシリーズ『スレッシュホールド 〜The Last Plan〜』のクリエーターだったブラギ・シャットで、これ が初の長編映画。

まず、『デビルクエスト』という邦題を付けた角川映画の責任者のセンスを疑う。
完全ネタバレになるが、この映画、「ベイメンは魔女とされた女を移送することになるが、無実だと感じる。しかし次第に魔女の疑いが 濃くなっていく。ところが、実は魔女に成り済ました悪魔が憑依していた」という流れになっている。
つまり、「実は悪魔」というのはドンデン返しだから、それは隠しておく必要があるのだ。
ところが、それを堂々とタイトルでネタバレさせちゃってんのよね。
どういうつもりなのかと。
どうせ上映館も少ないし、アメリカではコケた映画だから日本での興行も大して力が入っていないってことで、やる気が無かったのか。

ベイメンとフェルソンが十字軍遠征で幾つもの戦いに参加したことを、わざわざテロップ付きでダイジェスト処理で紹介している。
でも、その過程、全く要らないでしょ。「これまで戦って来て、スミルナに来ました」ということで充分だ。それまでの戦いからベイメン が少しずつ疑問を抱き始めたわけじゃなくて、スミルナで女を殺した時に初めて「間違ってる」と感じるんだし。「それまでの戦いで武勲 を上げて有名になった」ってのも、セリフで軽く触れる程度で充分だし。
あと、ベイメンはともかく、フェルソンが彼と同様の気持ちになったってのが、イマイチ良く分からないな。
っていうか、フェルソンの存在意義って薄いよな。

ベイメンはデベルザックに「彼女に公正な裁判を受けさせる」という条件で任務を承知するけど、教会が魔女に対して公正な裁きをする なんて有り得ないことは、アンタも良く分かってるはずでしょ。教会が非道だと分かったから、十字軍を抜けたんでしょうに。
だから、その女が可哀想に思えたからって、公正な裁判を条件に任務を引き受けるってのは意味が無い。
その裏に「移送の途中で逃がしてやろう」という狙いでもあるならともかく、そうじゃないんだし。
そこは分かりやすく、ベイメンが弱みを握られて、脅しを受けて仕方なく任務を受けるという形にでもしておいた方がいい。

女は牢から出される際に眠ったフリをしてデベルザックたちに襲い掛かるんだけど、その時点では「無実の罪を着せられた哀れな娘」に 見せておいた方がいいでしょ。
その直後にフェルソンが「あの力を見たか。普通の女じゃないぞ」と言ってるけど、その女に対して「本物の魔女ではないか」という疑い を持つタイミングが早すぎるよ。
そこでは、まだ観客も同情するようなキャラにしておくべき。

フェルソンとカイが戦う展開って、何かの伏線なのかと思ったら、何でもなかった。
「そろそろアクションの1つでも入れないと、観客が退屈するかもしれない」とでも思ったのか。
そんな無意味な戦い、要らないから。
そんなことより、ベイメンと女の絡みを増やして、そこのドラマを膨らませた方がいい。
そこばかりに集中すると、会話劇が多くなって退屈な内容になっちゃう恐れがあるけど、それなら「旅の途中で様々な苦難が」という アトラクション的なシーンを増やせばいい。
旅に出た後、しばらくは無駄に時間を使って、ダラダラしているだけとしか思えない。

女はデベルザックを襲って鍵を奪い、逃亡するけど、それは「無実の女が必死になって逃亡した」という感じじゃないのよね。もう明らか に、「人間ではない力を持った悪玉が人間を騙して攻撃し、逃亡した」という描写なのだ。
そうなると、その直前にベイメンが女を憐れむ様子を描いた意味が、完全に無くなってしまう。
正直、その辺りで、女が無実の被害者である可能性はゼロになっているぞ。

ベイメンに捕まった女は「ごめんなさい」と泣くけど、それも演技にしか見えない。翌朝にはデベルザックを見て不敵に微笑 しているし。
どうして、前半の段階で女が悪玉であることをバレバレにしちゃったんだろう。
もしかして、「魔女だと思っていたら悪魔だった」というドンデン返しだけがあればOKだと思ったのかな。
でも、それでいいなら、もう最初から魔女ってのをバレバレにしておきゃいいわけで。
わざわざ「無実の被害者かも」とベイメンに思わせているんだったら、そこはもっと「哀れな犠牲者」として見せておくべきでしょ。で、 周囲で起きる現象の部分だけで、「彼女は魔女なのかも」という疑いを持たせるべきでしょ。

ベイメンたちは吊り橋から落ちそうになるが、その危機って魔女の力とは何の関係も無い。
そりゃ結果的に魔女の力が関与する出来事は発生しているけど、そうじゃなくて最初から「魔女の力が関与しているのでは」という疑念を 持たせるようなピンチを用意すべきだ。
橋を渡ったらワームウッドの森が見えるってのも、本来ならば森に行くはずじゃなかったのか、橋を渡れば最初から森がある地理だった のか、そこがボンヤリしている。
っていうか、そこは「なぜか森に来た。魔女の仕業かも」という形にしておくべきだよな。
あるいは、別のトラブルを避けるために迂回したり逃げたりしたら、森に辿り着いたという形にするとか。
そういうことを考えると、その辺りの構成も良くないよな。

悪魔はおとなしく捕まり、修道院まで来ている。
それは「修道院にあるソロモンの書を葬る」という目的のためだ。
だけど、そうなると、牢から出される時に暴れて逃げようとしたり、デベルザックから鍵を奪って逃走したりした行動は矛盾している でしょ。
っていうかさ、修道院に着いた途端、悪魔はパワーを使って檻から脱出しているんだけど、わざわざ修道院まで人間に連れて来てもらう 意味ってあんのか。テメエの力で移動すればいいだけなんじゃねえか。空も飛べるんだし。

っていうか、「魔女だと思っていたら悪魔でした」って、そのドンデン返しに、なんか意味があるのかと思ってしまう。
ぶっちゃけ、魔女だろうが悪魔だろうが、展開としては、そう大差が無いように思えるんだけど。
その後の「実は悪魔の目的は、修道院にあるソロモンの書を葬るためだった」という部分に関しては、正体が悪魔じゃないと整合性が 取れなくなるけど、その目的にしても、こじつけというか、あまり効果的に作用しているとは思えないんだよな。

(観賞日:2012年3月10日)


第32回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演男優賞[ニコラス・ケイジ]
<*『ドライブ・アングリー3D』『デビルクエスト』『ブレイクアウト』の3作でのノミネート>
ノミネート:最低スクリーン・カップル賞[ニコラス・ケイジ&彼が2011年に出演した3本の映画で共演した誰か]

 

*ポンコツ映画愛護協会