『スカーフェイス』:1983、アメリカ

1980年5月、キューバのカストロ議長はマリエル港の封鎖を解除し、反カストロ主義者の連中を追放した。アメリカのフロリダに到着したトニー・モンタナは入国審査で不遜な態度を取るが、前科者だと判明するとフリーダム・タウンへ連行された。トニーの助言を受けていたマニー・リベラも、同じ移民キャンプへ送られた。1ヶ月後、トニーはチチという男から、成功すれば30日でキャンプを出られるという話を持ち掛けられた。反カストロ主義者の政治犯であるレベンガがキャンプへ移送されてくるので、始末してほしいというのだ。レベンガに殺された人間の兄弟がマイアミの金持ちで、恨みを晴らしたがっているのだという。
キャンプの暴動が勃発した際、トニーはマニーの協力でレベンガを殺害した。トニーたちは依頼主の手回しによってグリーンカードを取得し、小さな飲食店で仕事を始めた。しかし依頼人が一向に自分たちを呼びに来ないので、トニーは苛立ちを募らせる。成り上がりたい野心を燃やしていたトニーとマニーの元へ、オマールとワルドという2人組がやって来た。彼らはトニーたちに、大量のマリファナを船から運び出す仕事を持ち掛けた。
トニーが報酬を倍額に増やすよう要求すると、その生意気な態度にオマールは腹を立てる。しかしワルドが「例の仕事に使えねえかな」と提案するとオマールは同意し、別の仕事をトニーたちに勧める。新顔のコロンビア人がコカインを売りに来るので、マイアミビーチで取り引きして戻れという話だ。オマールは5千ドルの報酬を提示し、あと2人の仲間を加えて仕事を済ませるよう指示した。トニーとマニーは仲間のチチとエンジェルを誘い、マイアミビーチに出向いた。
トニーはトランクの金を車に残してマニーとチチを待機させ、エンジェルと2人で取り引き場所のモーテルに入った。部屋ではエクトルとマルタという男女が待っており、ここにブツは無いと告げる。トニーは「金も持ってきてない」とブツを見せるよう要求すると、エクトルは待機させていた一味に2人を捕まえさせた。トニーが金の引き渡しを拒否すると、エクトルはエンジェルを殺害した。マニーとチチは部屋の異変に気付いて乗り込み、一味に発砲して始末する。エクトルは怪我を負いながらも逃げ出すが、トニーが追い掛けて射殺した。彼はコカインを手に入れ、マニーたちと共に車で逃亡した。
トニーはオマールと連絡を取り、自分でボスに引き渡すことを要求した。トニーたちはボスのフランクが住む邸宅へ行き、コカインと金を渡した。フランクはトニーに、「俺の言う通りにしていれば、すぐに成り上がれる」と告げた。フランクの情婦であるエルヴィラを見たトニーは、彼女に一目惚れした。フランクはトニーを連れてクラブへ行き、高級なワインを開けて乾杯した。フランクはトニーを気に入り、オマールを手伝って自分のために働くよう告げる。同席していたエルヴィラは退屈を覚え、トニーをダンスのパートナーに誘った。彼女は見下すような態度を取るが、トニーはマニーに「あいつは俺に惚れてる」と告げる。「ボスの女だ」とマニーが懸念を示すと、トニーは「あの男は腑抜けだ」と軽く笑った。
3ヶ月後、トニーはマニーが女を口説いて袖にされるのを見て、「この国では、まず金を稼ぐことだ。金を稼げば力を持てる。力があれば女にモテる」と語った。彼は相変わらずエルヴィラを落とそうとしていたが、「使用人と寝たりしない」と冷淡に告げられる。トニーはアメリカで暮らす母親と妹のジーナを訪ね、5年ぶりに再会した。ジーナは兄を歓迎するが、母親は冷たい態度を取った。トニーは「もう働かなくてもいい。俺は成功したんだ」と得意げに言い、千ドルを差し出した。
母親はトニーが真っ当な仕事をしていないと見抜き、激しい非難の言葉を浴びせた。トニーは犯罪を否定するが、母親は「アンタのような人間が私たちの評判を落としてる。ジーナまでダメにはさせない。二度と来ないで」と怒鳴って追い出した。ジーナが追い掛けて謝罪すると、トニーは彼女に金を渡して隠しておくよう指示した。車で待機していたマニーがジーナについて尋ねると、トニーは激昂して「妹には手を出すなよ」と凄んだ。
トニーとオマールはフランクの名代として、ボリビアの麻薬王であるソーサのコカイン工場を訪ねた。ソーサは2人に対し、フランクが年間を通じて毎月150キロのコカインを購入するなら1キロ7千ドルで引き渡すと持ち掛けた。「パナマまでブツを運ぶならOKする」とトニーが言うと、「パナマで引き渡しならキロ1万3500ドルだ」とソーサは口にする。トニーが強気で交渉していると電話が入り、ソーサは席を外した。トニーはオマールから勝手に交渉を進めることを批判されるが、相手にしなかった。
電話を終えたソーサは、オマールが「決めるのはフランクです。戻って話し合います」と言うと「そうだな」と承知した。オマールが立ち去ろうとすると、ソーサはトニーだけを留まらせた。彼はトニーに、オマールが警察のタレコミ屋だったことを部下が覚えていたと話す。ソーサはオマールを始末し、トニーに「君を信じたいが、どうかな」と問い掛ける。トニーは生意気な態度で、「あのクソッタレなんて仲間じゃねえ。信用なんかしてなかった。俺と組みたいなら言ってくれ」と話す。
ソーサが「問題はフランクだ。あんな男を部下にしているのは甘い」と懸念を示すと、トニーは「あんなクズはどんな組織にでも入り込む。俺がフランクに会って話をまとめる」と約束した。しかしマイアミに戻ったトニーから話を聞いたフランクは「勝手に話を進めたのか」と憤慨する。トニーは手を広げるべきだと主張するが、フランクは「ソーサは腹黒い奴だ。オマールがタレコミ屋というのも信じられん」と言う。フランクはトニーを「お前とソーサは裏で取引したんじゃないのか」と非難し、取引の引き延ばしを命じた。
トニーはフランクの組織を去ると決め、エルヴィラに求婚して「考えといてくれ」と告げた。トニーがマニーと共にディスコクラブへ行くと、ジーナが派手な服で男と踊っていた。トニーは激怒して近付こうとするが、麻薬捜査課のバーンスタイン主任刑事に声を掛けられた。バーンスタインはレベンガやコロンビア人たちの殺害に触れ、自分と話すよう脅す。トニーはマニーにジーナの見張りを頼み、彼を連れて奥の部屋に移動した。
バーンスタインは毎月の賄賂を要求し、見返りに邪魔な人間を排除すると持ち掛けた。フランクがエルヴィラを連れてディスコに現れると、トニーはバーンスタインとの話を終わらせた。彼がエルヴィラに話し掛けると、フランクは怒って立ち去るよう命じた。しかしトニーに凄まれるとフランクは店を去り、エルヴィラも後を追った。トニーはマニーに、バーンスタインはフランクの差し金だと告げた。ジーナが男と共にトイレへ向かうと、トニーは険しい形相で後を追った。
トニーは男を追い払い、ジーナを怒鳴り付けた。ジーナが「関係ないでしょ」と反発すると、トニーはカッとなって殴り倒した。トニーがトイレを去った後、マニーがジーナを車で家まで送り届ける。マニーは「トニーはアンタを守りたいと思ってる」と説くが、ジーナは受け入れようとしなかった。「付き合うなら、もっとマトモな奴にしろ」とマニーが言うと、ジーナは「貴方はどう?」と誘うように告げる。マニーが「トニーとは兄弟のような関係だ」と口にすると、彼女は「兄さんが怖いんでしょ」と挑発した。
ディスコでは2人の殺し屋がマシンガンを乱射し、客がパニック状態に陥って逃げ惑う。トニーは2人に発砲し、店から脱出した。トニーはマニーに電話を掛け、すぐに来るよう命じた。彼は手下のニックに、午前3時になったらフランクに電話を掛けて「しくじりました。逃げられた」と報告するよう指示した。トニーがオフィスへ乗り込むと、フランクの傍らにはバーンスタインがいた。フランクは襲撃についてシラを切るが、ニックの電話を受けた彼の反応を見たトニーは「お前はゴキブリだな。平気で嘘をつく」と罵った。
フランクは裏切りを認めて謝罪し、大金やエルヴィラの譲渡で許してもらおうとする。トニーはマニーにフランクを始末させ、余裕の態度を見せていたバーンスタインを射殺した。彼は寝室で寝ていたエルヴィラを起こし、荷物をまとめるよう命じた。ソーサとの取引で大儲けしたトニーはモンタナ興業を設立し、エルヴィラと結婚式を挙げる。しかし稼ぎが増える中でトニーは周囲への不信感や警戒心を強めていき、マニーの忠告にも全く耳を貸さなかった…。

監督はブライアン・デ・パルマ、脚本はオリヴァー・ストーン、製作はマーティン・ブレグマン、製作総指揮はルイス・A・ストローラー、撮影はジョン・A・アロンゾ、編集はジェリー・グリーンバーグ&デヴィッド・レイ、美術はエド・リチャードソン、衣装はパトリシア・ノリス、ヴィジュアル・コンサルタントはフェルディナンド・スカルフィオッティー、音楽はジョルジオ・モロダー。
主演はアル・パチーノ、共演はスティーヴン・バウアー、ミシェル・ファイファー、ハリス・ユーリン、メアリー・エリザベス・マストラントニオ、ロバート・ロッジア、ミリアム・コロン、F・マーレイ・エイブラハム、ポール・シェナー、アンヘル・サラザール、アルナルド・サンタナ、ペペ・セルナ、マイケル・P・モラン、アル・イズラエル、デニス・ホーラハン、マーク・マーゴリス、マイケル・アルドレッジ、テッド・ベニアデス、リチャード・ベルザー、ポール・エスペル、ジョン・ブランドン、トニー・ペレス、ガーネット・スミス、ローレン・アルマゲル、ギル・バレット他。


ハワード・ホークスが監督を務めた1932年の映画『暗黒街の顔役』のリメイク。
監督は『殺しのドレス』『ミッドナイトクロス』のブライアン・デ・パルマ。
脚本は『ミッドナイト・エクスプレス』『コナン・ザ・グレート』のオリヴァー・ストーン。
トニーをアル・パチーノ、マニーをスティーヴン・バウアー、エルヴィラをミシェル・ファイファー、バーンスタインをハリス・ユーリン、ジーナをメアリー・エリザベス・マストラントニオ、フランクをロバート・ロッジア、トニーの母親をミリアム・コロン、オマールをF・マーレイ・エイブラハム、ソーサをポール・シェナーが演じている。

トニーはマニーと似たような境遇で育ってきたはずだが、その考え方には大きな違いがある。
もちろんマニーだって金持ちになりたいという希望はあるが、トニーの野心は彼と比較にならない。ザックリ言うと「一刻も早く、出来る限り楽な方法で成り上がりたい」ってのが、トニーの野心だ。
キューバで苦しい生活を過ごしてきたかもしれないが、そういう部分は映画を見ても全く伝わって来ないため、「地道にコツコツと頑張ってステップアップしていこう」という気が全く無い奴という印象になる。
ハナ肇とクレージーキャッツの歌じゃないが、「コツコツやるやつぁ、ご苦労さん」という考え方なのだ。

手っ取り早くデカい金を掴みたいのなら、そりゃあ犯罪は最初に思い浮かぶ選択肢だろう。
捕まることさえ無ければ、コツコツと努力することなく、すぐに大金を手に入れることが出来る。
そもそもトニーは強盗の前科者だから、犯罪に対する不安や迷いなど全く無い。だから移民キャンプを出る時にも、「そのためとは言え、殺人はちょっと」という躊躇など微塵も無い。
もちろん殺しについても罪悪感のカケラも無く、簡単に遂行している。

キャンプを出たトニーは飲食店の皿洗いの仕事について、強い不満を漏らす。汗水たらして働くなんて、彼の性に合わないのだ。
とにかくビッグな金持ちになりたいわけで、皿洗いをやっていても死ぬまで希望が実現しないってのは分かっている。だから当然の流れとして、彼は犯罪に手を出す。
しかしマイアミの大物であるフランクと会っても、その下で働くだけでは満足できない。
彼の成り上がり精神は強烈で、だから自分がボスになりたいのだ。

野心が強いのは、決して悪いことじゃない。まだ何も得ていない頃から強い野望を抱き、それに向かって真っすぐに突き進むことで何かを成し遂げる人間ってのは、世の中に幾らでもいる。それで成功して大金持ちになったりスーパースターになったりする人もいる。
ただし、残念ながらトニーは、ビッグなボスになる器ではなかった。
例えばスポーツでも、コーチとしては優秀だが監督になったら全くダメという人がいる。
そのように、人間には「そのポジションの向き不向き」ってのがあるのだ。

トニーの場合、「骨の髄までチンピラだった」ってことが破滅の原因だ。
彼は冒頭の入国審査で「俺はチンピラじゃない。キューバから脱出した政治犯だ」と言っているが、そうじゃなくて紛れもなく単なるチンピラなのだ。
ずっと貧乏だった人間が大人になって急に金持ちになっても、貧乏時代の感覚はなかなか払拭できないってことがある。
それと同じように、トニーは少しずつ成り上がる中で、チンピラとして染み付いた感覚から脱却することが出来なかった。

トニーが「俺はチンピラだ」と自覚していれば、成り上がる中で少しずつ変化しようという努力をしていたかもしれない。
しかし本人がチンピラだと思っちゃいないので、脱皮のための行動など何も取っていない。
しかし彼の行動は最初からチンピラそのもので、もっと酷い表現をするならばバカなのだ。
もっと頭がキレて冷静沈着に策を練ったり、慎重に判断するような思慮深さがあったりすれば、そのままボスであり続けることが出来ただろう。それどころか、もっとビッグになれた可能性もある。

エルヴィラに惚れて、平気で彼女へのアプローチを続けるという1つの行動だけを取ってみても、いかにトニーがバカなのかが良く分かる。
ボスの女に手を出そうとするなんて、小学生でも避けた方がいいことは分かるだろう。
しかしトニーは「俺は凄い男」「エルヴィラは俺に惚れてる」という過信の塊なので、そんなことは全く気にしない。「もしフランクにバレたら」なんてことは、これっぽっちも頭に無い。
自分が凄い男だと思っているので、それぐらいフランクを見下しているのだ。

トニーは愚か者なので、自分が金持ちになったことを得意げに吹聴して大金を渡したことがジーナの堕落に繋がっているとは全く思わない。視野が狭くて考えが浅いので、「ジーナがアバズレになった」という目の前の現象しか見えない。
だからジーナを説教するだけで、自身の言動を反省するようなことは無い。自分はコカインを扱う商売をしているのに、ジーナがコカインに手を出したことには激怒する。
そこは大いなる矛盾が含まれているのだが、それが矛盾していることさえ彼は理解していない。
まるで理解していないから、もちろん自分の仕事を顧みるようなこともない。

どれだけデカい組織のボスになろうがトニーの中身はチンピラのままなので、ちっとも「大物としての風格」が滲み出ない。
ずっと念願だった大金持ちになっても、それは似つかわしくない身分なので手に負えなくなってしまう。
生まれ付いての金持ちなら、それが当たり前だから、「大金持ちである」ということに対して特別な感情を抱いたりすることは無い。
しかしトニーは典型的な成金なので、大金持ちになったことで強烈な不安に取り憑かれる。命を狙われるのではないか、裏切られるのではないかと、猜疑心が強くなる。

もちろんギャングのボスなので、様々な危険が付きまとうことは事実だ。何しろトニーもボスだったフランクを始末しているわけだから、「同じことが起きるかもしれない」と考えたとしても不思議ではない。
しかしトニーの場合、それだけの問題ではない。
そもそも御行儀が良いとは言えなかったトニーだが、ハイペースで成り上がる中で、自分が惚れて横取りしたエルヴィラや、ずっと相棒として付いて来てくれたマニーへの態度さえ、相手を侮辱するようなモノへと変化する。
それは単純に、「トニーがボスや大金持ちの器じゃなかった。自分がどういう人間かを理解していなかった」ってことが大きいのだ。

(観賞日:2019年1月21日)


第4回ゴールデン・ラズベリー賞(1983年)

ノミネート:最低監督賞[ブライアン・デ・パルマ]

 

*ポンコツ映画愛護協会