『ソウ ザ・ファイナル 3D』:2010、アメリカ&カナダ

大勢の人々が行き交うショッピング・モールの広場に、大きな窓ガラスで内部が見えるようになっている建物が設置されていた。野次馬が様子を見ている建物の中には、電動ノコギリに両腕を繋がれたライアンとブラッドが眠らされていた。目を覚ました2人が助けを求めていると天井部分の袋が外れ、拘束されているディナの姿が現れた。ブラッドの叫び声を受け、野次馬の一人がガラスを割ろうとするが、びくともしなかった。
建物の中にはビリー人形が現れ、ライアンとブラッドに「ゲームをしよう。その女は君たちを弄んだ。60秒以内に誰か1人が死ぬ。彼女を救うためには、ノコギリを反対側まで押せばいい」と語る。カウントダウンが開始される中、ライアンとブラッドは電動ノコギリを互いに押し合って相手を殺そうとする。ディナは状況に応じて双方に愛を訴え、助けを求める。腹を立てたライアンがブラッドに「こんな女を助ける価値など無い」と訴え、2人はディナを見殺しにして自分たちが助かることを選んだ。
ホフマンの殺害に失敗したジルは、13分署に駆け込んだ。FBIも殺人課も信用できない彼女は、内務調査課のギブソン警部が相手なら証言することを告げる。ジルはホフマンがジョンの後を引き継いでいることを明かし、全ての証拠を提供するのと引き換えに身辺保護と刑の免責を求めた。一方、ジグソウのゲームから生還したボビーは体験本を発売し、大きな評判を呼んでいた。講演を控えてテレビ番組に出演したボビーは、自らのゲーム体験を詳しく語った。その様子を、マネージャーのケイルや弁護士のスーザン、広報担当のニーナが見ていた。番組が終わった後、ニーナはボビーに「妻のへの感謝とキスのシーンを言い忘れた」と注意した。妻のジョイスは「気にしないで。真実は心を打つわ」とボビーを励ました。
車の解体工場では、エヴァンが車の中に拘束されていた。その背中は、座席に接着剤で貼り付けられている。彼と仲間のダン、カーラ、ジェイクは人種差別主義者として、ゲームの標的になっていた。他の3人も、それぞれ工場内の異なる場所に拘束されている。ジグソウの声はエヴァンに対し、車を支えるジャッキが30秒後に落ち、連鎖反応で仲間たちが死ぬことを説明した。シートから体を引き剥がし、目の前のレバーを引けば仲間たちは助かる。しかしエヴァンは時間内にレバーを引くことが出来ず、全員が死亡した。
翌日、ボビーは「ジグソウ生還者の会」の人々と面談し、その様子をテレビ局が取材した。ボビーは生還者の面々に、「どんなに恐ろしい体験をしても得る物はある。前向きな生き方を学んだのだから、恥じる必要は無い」と語る。彼は胸の傷跡を見せて、「傷は消えないが、勇気の勲章だ。あの経験を経て大切な人を見つけた。ジョイスだ」と言い、涙ぐむ芝居をした。ボビーはジョイスを呼び寄せ、カメラの前でキスをした。その様子を見ていたゴードンは馬鹿にした様子で拍手を送り、「みんなを代表して礼を言うよ。君のプロモーション・フィルムに出演することが出来て」と述べた。
会場を出たボビーは車に乗り込もうとするが、何者かに拉致された。車の解体工場では4人の死体が発見され、連絡を受けたギブソンは警察署を出る。現場検証を行った彼は、車にセットされていた声のテープを発見した。ギブソンは、それが単なる殺人ではなく、何か別の目的を含んでいると推理した。すると工場の中には「ギブソン、自分で調べろ」という血文字のメッセージが残されており、その近くにはリバース・ベア・トラップが置かれていた。
ボビーが目を覚ますと、檻の中に閉じ込められていた。室内のテレビが付いてビリー人形が写し出され、ボビが偽の生還者であることを指摘した。別の場所で監禁されているジョイスの姿が写し出され、ビリーは「60分以内に多くを学び、妻の元へ向かうのだ。君は妻まで騙した。時間内に到着しないと彼女は死ぬ」と語った。檻は天井へと吊り上げられ、その真下には無数の鉄針がセットされた。檻の底が開き、ボビーは落ちそうになる。しかし彼は檻を揺らして反動を付け、針の無い床に着地した。
ギブソンはジルを隠れ家に避難させるが、ホフマンからのDVDが届き、居場所がバレていることを知る。解体工場に残っている部下のロジャースはギブソンに電話を掛け、現場で車が爆発したことを告げる。ギブソンが質問ようとした直後、また爆発が起きた。DVDの映像を再生すると、ホフマンはジルを引き渡すようギブソンに要求していた。そして「彼女を渡せばゲームオーバーだ。しかし拒否すれば、お前のせいで警察の全員が死ぬ」とホフマンは告げた。ギブソンは部下に、ジルを署内の留置場へ移すよう命じた。
ボビーが部屋を脱出して廊下を移動すると、別の部屋にニーナが拘束されていた。ニーナの拷問装置はパイプが喉に突き刺さる仕掛けになっており、糸を引っ張って胃の中にある鍵を取り出させば助けることが出来る。パイプは音に反応し、どんどんニーナの喉へ近付いて行くように作られている。ボビーはニーナを静かにさせ、何とか救おうとする。しかしニーナが何度も叫んだせいでパイプが近付き、彼女は喉を突き刺されて死亡した。
また廊下を進んだボビーは、今度はスーザンが拷問装置に拘束されているのを発見した。ビリー人形はボビーに、パイプがスーザンの目と口を突き刺すようになっていることを説明した。そして「30秒間、その動きを止めなければならない。バーを持ち上げて支えていられたら、装置を止められる」と言うが、錘の付いたバーを持ち上げるとボビーの体に針が突き刺さるように出来ている。ボビーは痛みに耐えることが出来ず、スーザンは死亡した。
また移動したボビーは、ほとんど足場の外されている細い廊下の向こうにケイルが拘束されているのを目にした。目隠しをされたケイルの首には枷が取り付けられており、鎖で吊り上げられている。ビリーの声はボビーに、「彼に板を渡らせ、なるべき近くまで来させろ。君は梁を渡って鍵を取り、それを彼に投げろ。60秒以内に枷を外せなければ、ウインチが作動して彼は死ぬ」と説明した。ケイルは鍵を掴むことが出来ず、首を吊られて死亡した。
ギブソンはDVDの映像を分析し、ホフマンの隠れ家を突き止めた。しかし現場へ乗り込むと、ホフマンの姿は無かった。かつてギブソンは制服警官の頃、そこでホフマンに命を救われていた。ジャンキーに拳銃を奪われて窮地に陥った時、背後から現れたホフマンが犯人を容赦なく射殺したのだ。そこで仕方なく、ギブソンは彼を内部告発した。しかしホフマンは昇進し、ギブソンは飛ばされた。ギブソンはボビーのゲームが行われている場所に関する謎を解き、閉鎖されたクリアドーン精神病院へ向かう。
ホビーはテレビ画面に映ったビリー人形から、「扉の奥に君の妻がいる。だが、その前に歯を抜く必要がある。扉の錠は4桁の数字を打ち込めば開く。4桁の数字は、君の2本の奥歯に刻み付けた」と告げられる。奥歯を抜いて数字を入手したボビーは、扉を開けて奥へと進む。ギブソンは映像ファイルの送信元を部下のパーマーに知らされ、病院の捜索を特殊部隊に任せて解体工場へ向かう。ジョイスの元に到着したボビーに対し、ビリー人形は彼がテレビ番組で「体験して生還した」と話していたゲームへの挑戦を要求する…。

監督はケヴィン・グルタート、脚本はパトリック・メルトン&マーカス・ダンスタン、製作はグレッグ・ホフマン&オーレン・クールズ&マーク・バーグ、共同製作はトロイ・ベグノー、製作協力はケイリー・カヴァナー、製作総指揮はダニエル・ジェイソン・ヘフナー&ピーター・ブロック&ジェイソン・コンスタンティン&ジェームズ・ワン&リー・ワネル&ステイシー・テストロ、撮影はブライアン・ゲッジ、編集はアンドリュー・クーツ、美術はトニー・イアーニ、衣装はアレックス・カヴァナー、音楽はチャーリー・クロウザー。
出演はトビン・ベル、コスタス・マンディロア、ベッツィー・ラッセル、ケイリー・エルウィズ、ショーン・パトリック・フラナリー、ディーン・アームストロング、チャド・ドネッラ、ジーナ・ホールデン、チェスター・ベニントン、レベッカ・マーシャル、ナオミ・スニッカス、ローレンス・アンソニー、ジェームズ・ヴァン・パタン、セバスチャン・ピゴット、ジョン・コー、アン・グリーン、ドリュー・フィエルヘフェル、ギャビー・ウェスト、ベンジャミン・スコット、ケヴィン・マクギャリー、キム・シュレイナー他。


『ソウ』シリーズの第7作。
監督は前作に引き続いてケヴィン・グルタートが担当。
ジョン役のトビン・ベルは、1作目からのレギュラー。ホフマン役のコスタス・マンディロアとジル役のベッツィー・ラッセルは、『ソウ3』からのレギュラー。ゴードン役のケイリー・エルウィズは、1作目以来の復帰。
ボビーをショーン・パトリック・フラナリー、ケイルをディーン・アームストロング、ギブソンをチャド・ドネッラ、ジョイスをジーナ・ホールデン、エヴァンをリンキン・パークのチェスター・ベニントン、スザンヌをレベッカ・マーシャル、ニーナをナオミ・スニッカスが演じている。
一応は「完結編」ということになっているが、ほぼ間違いなく、いずれは続編か仕切り直しのリブート版が製作されることになるだろう。

初代ジグソウのジョン・クレイマーには、その手口や理念がどうなのかという問題はさておき(それを言い出したら元も子も無くなるし)、確固たる殺人哲学があった。
しかし第3作で彼が死亡してギブソンがジグソウを引き継いだことによって、哲学は完全に消え失せた(まあ実際には2作目で既に崩壊しているんだけど)。
そこには哲学だけでなく、美学も無い。だから本作品で繰り広げられるジグソウのゲームは、悪趣味な残虐殺人ショーでしかない。
まさに、初代ジグソウの劣悪な模倣なのである。

最初に用意されているゲームからして、それは顕著に表れている。
そのゲームでは、絶対に3人の内の誰かが死ぬのだ。自分の業を真摯に受け止めたとしても、3人全員が助かることは絶対に無い。
ようするに、初代ジグソウとは大きく異なり、ゲームによる殺人が目的化しているわけだ。
1作目から比べれば残虐度数は大幅に上がっているので、スプラッター映画としては間違っちゃいない方向性と言えるかもしれない。
だが、たぶん1作目にハマった多くの観客からすると「こんなはずでは」という感じではないだろうか。

それと、そのゲームに関しては、設定に無理があり過ぎる。
あんなに人通りが多い場所に、どうやって建物を設置したのか。
例え夜中に設置したとしても、あれだけ大きな建物を設置するためには、それなりの重機が必要なはずだし、その時に出る音だって大きいだろうから、どう考えたってバレるんじゃねえのかと。
簡単に設置できるようなプレハブ小屋じゃなくて頑丈そうな建物だし、中にある拷問装置をセットしたり、3人を拘束したりするのも、かなり大変な作業だぜ。

それと、「それは誰が仕掛けたのか」という部分に疑問が残る。
ホフマンはジルのゲームから脱出したばかりだから、そんなことを準備する時間があったとは思えない。
しかしゴードンが仕掛けたとも思えない。
そうなると「ジグソウが同時に2人いる」ということになるし、それに「どう頑張っても誰かが死ぬ」というのはジョンの理念に反するから、そういうゲームをゴードンが仕掛けるのは筋が通らないんじゃないかとも思うし。

製作サイドが残虐描写ばかりに意識を向けていることは、始まってから約18分辺り、「警察署を出たジルが背後から襲われ、カットが切り替わるとホフマンの拷問装置に拘束されていて、体をバラバラにされる」という描写があることからも明らかだ。
なにが明らかなのかという、そのシーン、ジルの見ていた夢なのだ。
禁断の夢オチを盛り込んでまで、スプラッターな殺人描写を増やそうとしているわけだ。
そりゃあ、「そこばっかりだな」と思われても仕方があるまい。

ボビーが生還者を装って富と名声を手に入れるのは、「まだジグソウが捕まったわけでもないし、未だにゲームは行われているんだから、そんなことをしたらジグソウが怒ってゲームへ参加させる可能性が高いだろ。バカなのか」と思っちゃう。
「そういうリスクを考慮しても、それでも富と名声が欲しかった」ということなら、せめて警戒心を持って行動すべきでしょ。何も警戒せずにノホホンと行動するなんて、どんだけバカなのかと思っちゃう。
まあ「このシリーズに出てくる人は総じてバカだよ」と言われたら返す言葉も無いのだが、それにしても不用意だわ。
まだ身内が誰もいないのならともかく、奥さんもいるのに。

ジョンの目的は「被験者を死と向かい合わせて、生きることの意味を見出させる」「自らの業を真摯に受け止めさせ、更生させる」という部分にあったわけだが、ホフマンのゲームは、もはや単なる下品な快楽殺人と化している。
ただし、そこに今回は「ジルへの復讐」という目的があるので、そこを徹底して突き詰めれば、初代とは異なる形ではあっても、殺人の哲学を生じさせることは充分に可能なはずだ(この場合は「復讐の哲学」と呼ぶべきか)。
ところが、ジルへの復讐とは別に快楽殺人をやっちまうので、どうにもならない。
一方でジルへの復讐に関しては、もはやゲームでも何でもない。

ジョン・クレイマーのゲームでは、命を粗末にする者や、倫理的に悪とみなされる者がゲームへの参加を強要されていた。
ところが今回は、その条件には明らかに該当しない人物が含まれている。それはジョイスだ。
彼女がボビーが嘘をついていたことも知らず、本気で心配したり、励ましたりしていた。そんな彼女には、殺人ゲームに参加させられる理由が何一つとして存在しない。
ところが困ったことに、「ホフマンがジグソウになった時点で参加条件は消滅している」ということで、ジョイスのゲーム参加には説明が付いてしまう。
ただし、それで説明は付くかもしれないが、腑に落ちないことは確かだ。
っていうか、そんな説得力はダメだろ。

解体工場のゲームに関しては、「ホフマンの目的はジルへの復讐なのに、そんな余計なゲームをやる心の余裕があるのか」と思っていたが、ボビーへのゲームも仕掛けているんだよな。
ただ、その工場のゲームに関してはギブソンが推測した通り、別の目的がある。それは、「死体を摩り替えて、自分が死体袋の中に忍び込み、警察署へ潜入する」という目的だ。
だけど、「大爆発で刑事たちが気を取られている隙に、袋から死体を出して隠し部屋に運び込み、自分が袋に入る」ってのは、かなり無理があるぞ。
それと、そういう作戦を仕掛けたってことは、ジルが留置場にいることを知ってから全ての準備を整えたことになるけど、どんだけ行動が迅速なのかと思っちゃうぞ。

どうせバレバレだろうけど、最後に「実はゴードン先生がずっとジョンに協力していた」ということが明らかになる。
そして「ジルに何かあったら私の代わりに行動してくれ」とジョンに頼まれていたことも明らかになり、ジルを殺したホフマンを拉致して拘束する。
でもさ、「ジルに何かあったら」と頼まれていたのなら、ホフマンに殺される前に助けることは出来なかったのかと。
ジルを殺す前に、ホフマンを捕まえられなかったのかと。

ゴードンがジョン・クレイマーの盲信的な崇拝者になっているというのも、違和感がある。
彼は自ら片足を切断してまで会いたい家族がいたはずで、その家族との関係はどうなっているのかというのも引っ掛かるし。
どうも「矛盾点が出ないように辻褄を合わせ、シリーズを続けて行く中で広げた風呂敷を畳む」という作業を完了させるために、かなり無理をしているような気がしてならないんだよなあ。

そうそう、書き忘れていたけど、タイトルに「3D」と付いていることからも分かる通り、これは3D映画として製作されている(邦題だけでなく、原題にも「3D」と付いている)。
そして、3Dの特性を活かすために、「物が画面のこっち側へ向かって飛んで来る」という映像が色々と用意されている。
「2010年にもなって、まだ3D映画で物が飛んで来る映像表現をやりますか」と呆れる人がいるかもしれないが、B級ホラー映画としては正しいアプローチと言えるかもしれない。
『13日の金曜日 PART3』だって、『エルム街の悪夢 ザ・ファイナルナイトメア』だって、そんな感じだったし。
そういう伝統を忠実に受け継いでいるってことだろう。

(観賞日:2014年7月2日)


第31回ゴールデン・ラズベリー賞(2010年)

ノミネート:最低3-D乱用目潰し映画賞

 

*ポンコツ映画愛護協会