『スペース・サタン』:1980、イギリス

第5基地のジェームズ大尉は発射台へ来るよう要請され、急いで準備を整えようとする。同僚のベンソンがヘルメットを装着してロッカーにいたので、彼は「テストで精神不安定と診断されたらしいな」と声を掛ける。ベンソンは「僕はサターン3の勤務だ。憂鬱だよ」と言うジェームズを始末し、彼に成り済ましてシャトルに向かう。積み荷を運んでいたスタッフは、誰も別人だと気付かなかった。ベンソンは土星の衛星であるサターン3へ赴き、食糧実験センターに着陸した。
出迎えた科学者のアレックスとアダムは、除染作業を済ませてベンソンをセンターに招き入れる。2人は3年前からセンターで仕事をしているが、地球からの来客は珍しかった。ベンソンはアレックスを見た時、自分と同じ印に気付いた。アダムは第5基地で勤務していた経験があるが、アレックスは地球を知らなかった。ベンソンは謎のポッドを持ち込み、2人が触ることを拒絶した。ベンソンが「地球は飢えている。助けが必要だ」と言うと、アダムぱ「だから研究を」と告げた。ベンソンは彼に、「しかし遅れてる」と口にした。
ベンソンが「地球に連絡する」と言うと、アダムは「皆既食だ。土星の影にある間、連絡は不可能だ」と教え、アレックスは22日間だと説明する。ベンソンは寝室へ案内され、ブルーズという青い錠剤をアレックスに渡して「試すといい」と言う。アダムはアレックスと一緒にシャワーを浴び、「大尉をどう思う?」と尋ねる。アレックスが「面白そうな人よ」と答えると、彼は「僕はそう思わない」と告げる。アレックスが「ブルーズって何?」と青い錠剤を見せると、アダムは「単身赴任者の落ち込みを防ぐ薬だ」と述べた。
アダムは数年前にブルーズを飲んだことを明かし、効果を問われて「素敵だ」と言う。アレックスが「一緒に試さない?」と誘うと、彼はは「大尉が帰ったら」と告げた。愛犬のサリーを捜しに部屋を出たアレックスは、ポッドが気になって開けようとする。そこにベンソンが現れ、彼女をポッドから遠ざけた。ベンソンが食用に犬を飼ったことがあると言うので、アレックスはサリーを引き離した。ベンソンが「素敵な体だ。使わせてくれ」と言うと、アレックスは「お断りよ。ブルーズをどうぞ」と告げて立ち去った。アレックスとアダムが部屋でセックスする様子を、ベンソンは密かにモニターで観察していた。
ベンソンはシャトルの積み荷を運び出し、作業に取り掛かった。アレックスとアダムが様子を見に行くと、彼は「最新のロボットを持って来た」と言う。「もう3体ある」とアダムが告げると、ベンソンは「それは旧型だ。持って来たのはデミゴッド型の第1作だ」と説明した。ベンソンはアレックスと2人になると、「どこでアレックスという名前を?」と尋ねる。アレックスが少佐に付けられたことを話すと、ベンソンは再び「君の体を使いたい。地球では誰でも求め合う」と告げる。アレックスは拒絶し、「少佐が怖い?」と問われて「少佐は時代遅れだから新しい考えを恐れてる」と述べた。そんな2人の様子を、アダムは密かにモニターで見ていた。
ベンソンは2人の前でポッドを開け、脳組織が入っていることを明かす。彼は「胎児の脳組織だ。全くの白紙状態だ」と言い、約1ヶ月で知識を詰め込んで研究計画を引き継ぐのだと説明した。上層部の方針に憤りを感じたアダムは、アレックスに「大尉とロボットを消そう」と持ち掛けた。アレックスは反対するが、彼は「宇宙じゃ人間は良く消えてる。平気だよ」と述べた。アダムはブルーズを2つに切って、アレックスと一緒に服用する。彼は地球に興味を示すアレックスに、「行って確かめろよ。いずれ別れるんだ」と告げた。
ベンソンはロボットを完成させてヘクターと名付け、2人に見せた。ヘクターは命令通りに動くが、力のコントロールが出来ていなかった。ベンソンが微調整を済ませると、ヘクターは彼の動きに同調した。ベンソンは2人に、自分の脳から電波でヘクターに性格や能力を伝達していることを教えた。彼はアレックスと2人になると、また彼女を口説いた。ヘクターはベンソンから会話を要求されると、モニターに文字を出した。殺人者であることを指摘されたベンソンは、その記憶を消去するよう命じた。ヘクターが質問の返答を避けると、ベンソンは「故障したのか」と問い掛けた。するとヘクターは、「故障しているのは貴方の方だ」と文字を出した。
ヘクターはサリーを始末し、アレックスを捕まえる。そこにベンソンが駆け付け、アレックスを解放するよう命じた。ヘクターが命令に従うと、アレックスは「彼に殺すよう命じたの?」とベンソンを問い詰める。ベンソンは「違う。彼も僕と同じように君が好きだ」と否定した直後、ヘクターに襲われた。アダムが駆け付けると、ベンソンは助けを求めた。アダムはヘクターに発砲し、ベンソンを助けた。彼はドアを閉め、ヘクターを部屋に封じ込めた。ヘクターは部屋を壊して暴れた後、充電に向かった。アダムは過充電でヘクターをショートさせ、解体するようベンソンに命じた。ベンソンは作業を済ませて、部屋を後にした。しかしヘクターの機能は生きており、部品を集めて復活する…。

製作&監督はスタンリー・ドーネン、原案はジョン・バリー、脚本はマーティン・エイミス、製作総指揮はマーティン・スターガー、製作協力はエリック・ラトレイ、撮影はビリー・ウィリアムズ、美術はスチュアート・クレイグ、編集はリチャード・マーデン、衣装はアンソニー・メンドルソン、音楽はエルマー・バーンスタイン。
出演者はファラ・フォーセット、カーク・ダグラス、ハーヴェイ・カイテル他。


『雨に唄えば』『シャレード』のスタンリー・ドーネンが製作&監督を務めた作品。
小説家のマーティン・エイミスが、初めて脚本を執筆している。
原案は『スター・ウォーズ』『スーパーマン』などのプロダクション・デザイナーを務めたジョン・バリー(著名な作曲家とは別人)。
アレックスをファラ・フォーセット、アダムをカーク・ダグラス、ベンソンをハーヴェイ・カイテルが演じている。
音楽担当としてエルマー・バーンスタインの名前があるが、大半の曲は使われなかったらしい。

当初、この映画はジョン・バリーの初監督作品になる予定だった。
しかし監督経験の無い彼は、役者やスタッフを上手くコントロールすることか出来なかった。セットには姿を見せず、事務所で考え込むことが多かった。
役者も協力的とは言えず、プロデューサーを務めていたスタンリー・ドーネンは仕方なく間に入って何とかしようと試みた。しかし彼の介入を嫌ったジョン・バリーは、降板という選択を取った。
そのため、スタンリー・ドーネンが監督も兼任することになったのだ。

カーク・ダグラスは1949年の『チャンピオン』、1956年の『炎の人ゴッホ』、1960年の『スパルタカス』など、数多くのヒット作で主演を務めた大物スターだ。しかし1970年代に入ると人気は低迷し、テレビ映画にも出演するようになっていた。
ところが大物としてのプライドはあるので、監督経験の無いジョン・バリーに従順な態度を示すことは無かった。
ハーヴェイ・カイテルは『地獄の黙示録』のウィラード役に抜擢されたが、フランシス・フォード・コッポラと揉めて降板した。これが原因でハリウッドでの仕事は極端に減り、一文無しになった。
この作品は、本当はやりたくないのに金のために出演しただけなので、まるで協力的な態度は取らなかった。彼はアフレコも拒否し、ロイ・ドートリスが台詞の吹替を担当している。

この映画を制作したイギリスのITC Filmsは、同年に『レイズ・ザ・タイタニック』も手掛けている。
シリーズ化も期待できる大作映画のはずだが、プロデューサーのマーティン・スターガーは約束より遥かに低い予算しか投入しなかった。
その『レイズ・ザ・タイタニック』が大コケしたことを受け、この映画も当初の予定より予算が大幅に削減された。
それに加えて脚本も大きく変更され、企画当初とは全くの別物になった。

内容が大幅に変更されることになった理由を考える時、ポイントになるのが「前年にヒットしたSF映画」である。
具体的には、1979年にヒットした『エイリアン』である。
それに目を付けたマーティン・スターガーは二匹目のドジョウを狙い、似た映画を作ることにしたのだ。
その時点でダメな作品になることは、ほぼ確定と言ってもいいだろう。
しかもスタンリー・ドーネンは『雨に唄えば』や『シャレード』を撮った巨匠だが、SFは門外漢だ。なので、映像表現やガジェットで亜流の映画を格上げすることも出来なかった。

映画が始まると、「宇宙空母が土星にゆっくりと接近する」とか「宇宙服を来た大勢の連中がシャトルに荷物を運び込む」といった様子を丁寧に描く。
そこに「SF映画の世界に観客を引き込む力」があれば、時間を割くのは大歓迎だ。
しかし実際には「ダラダラと無駄なトコで時間を使っている」としか感じないので、中身が薄いから尺を稼ごうとしているんじゃないか」と邪推したくなる。
宇宙空母にしろ、シャトルにしろ、ガジェットとしての魅力があるわけでもないし。

ジェームズがシャトルに乗る準備を済ませようとすると、ベンソンが彼を始末して成り済ます。この時、ベンソンはヘルメットを装着しているため、顔が見えない。
一方、アレックスとアダムも、彼を出迎える時は食糧実験センターの外にいて、ヘルメットで顔が隠れている。
センターに入る時、初めて3人の顔が分かる。
でも、そこで顔出しまで引っ張る意味が全く無いんだよね。特にベンソンに関しては、なぜ登場シーンで顔を見せないのか。ヘルメットを脱いでも、「実は」というサプライズに繋がるわけでもないんだし。

っていうか、「ジェームズに化けた別人」ってのを最初に明かしているのは、どうなのか。顔を隠すより、そっちを隠して話を始めた方が遥かに効果的でしょ。
とは言え、わざと最初に別人であることを明かしても、それによって観客に不安を与え、「何を企んでいるのか」という部分で話に緊張感を持たせることは出来る。
でも、どうやらベンソンって、これといった目的も持たずにサターン3へ来たっぽいのよ。
とりあえず逃げるためにシャトルに乗っただけで、その後のことは特に考えちゃいなかったみたいなのよ。

そもそも、「ジェームズは何の任務でサターン3へ派遣される予定だったのか」ってことからして分からない。それはアレックスとアダムも、地球から事前に連絡を受けているはず。
でもベンソンが来た時に、「その任務で来た」と認識している気配が見られない。ベンソンが何をやろうとしているのか、2人は全く知らない様子なのだ。
ベンソンが作業に取り掛かった時、「聞いていた仕事とは違う」と指摘するようなことも無いしね。
ベンソンがジェームズの任務をそのまま引き継いでいる可能性もあるが、だとしても「なぜベンソンはジェームズの任務を詳しく知っているのか」「なぜベンソンはジェームズの任務を忠実に受け継ぐのか」という疑問が生じるし。

p>あベンソンはセンターに入った時、アレックスのこめかみにある印を見ている。それと同じ印が、ベンソンにもある。アレックスがベンソンに「誰がアレックスという名前を?」と問われ、「少佐に」と答えるシーンもある。
その辺りからは、「アレックスやベンソンが普通の人間ではない」ってことを匂わせるモノを感じる。
ところが、最後まで「実は」という種明かしが訪れない。
なので、それらは伏線のように見えるが、回収されないまま終わるのである。
あるいは、何の意味も無い設定ってことだな。

ベンソンが「脳組織が知識を詰め込んで計画を引き継ぐ」と説明すると、アダムは「彼とロボットを始末しよう」とアレックスに提案する。つまりベンソンが悪党としての動きを見せる前に、アダムが「身勝手に人を殺そうとする犯罪者」としての顔を見せるのだ。
それは絶対にダメだろ。
そのまま「アダムは悪党」というキャラ設定で最後まで徹底されているなら、それでもいいよ。でも、そこからベンソンが悪党としての行動を開始し、アダムは善玉のポジションになるんだからさ。
なんで中途半端に悪人の顔を見せるのよ。

アレックスとアダムは頻繁にイチャイチャし、直接的な描写は無いが何度もセックスしていることが匂わされている。ベンソンはセンターに到着した時からアレックスに目を付けており、執拗に口説いてモノにしようと目論んでいる。
だったらエロティックSFの方向へ舵を切っているのかというと、そういうわけではない。
前述したようにセックスの直接的描写は無いし、お色気サービスもほとんど用意されていない。「ファラ・フォーセットを魅力的に描く」ということに、全力を注いでいるわけではない。
なので、3人がセックスを巡って対立したり争ったりする話に終始するのは、ただ安っぽさだけが際立つ結果となっている。

前述したように、ベンソンがサターン3へ来た目的は特に何も無い。
仮に「実は」という設定があったとしても、それが劇中で描かれることは無いので「目的は何も無い」ってのに等しい。
彼はサターン3へ来てから、真面目にロボット研究に取り組んでいる。自分の性格や能力を全て伝達するのは危険も感じるけど、よからぬ企みがあるわけではない。
彼が考えているのは、「アレックスとセックスしたい」ということだけだ。
そんな奴が悪党なので、ものすごくチンケで陳腐だ。

さらに厄介なのは、「ヘクターがアレックスに惚れる」という展開を用意していることだ。
これにより、「男2人とロボットがアレックスをモノにするために争う」という話になってしまう。
ロボットが暴走する展開はいいとして、なぜ恋のライバルにしちゃうのか。そいつに「アレックスに惚れる」という設定を用意するなら、ベンソンはライバルじゃなくて純然たる科学者にでもしておいた方がいいでしょ。
マッド・サイエンティストでも何でもいいけど、ともかく「アレックスを口説く」というキャラ設定は邪魔だよ。

ヘクターが暴れ出した後も、まだベンソンの「アレックスをモノにしたい」という欲望は消えていない。その欲望を満たすため、ベンソンはアレックスを連れて地球へ逃亡しようと企む。
でも、もうヘクターが暴走ロボットとして行動を始めているので、ベンソンは邪魔でしかない。
ロボットとは別に人間の悪者がいても、物語を盛り上げることが出来ないわけではない。ただ、この映画では上手く使いこなせていないので、悪者はヘクターだけに絞った方が良かった。どうせアレックスを連れ去ろうとした直後、すぐヘクターに殺されるし。
とは言っても、「そこを修正すれば作品が面白くなるのか」と問われたら、その程度で救い出せるレベルではないんだけどね。

(観賞日:2020年3月29日)


第1回ゴールデン・ラズベリー賞(1980年)

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低助演男優賞[マーティン・ショート]
ノミネート:最低主演男優賞[カーク・ダグラス]
ノミネート:最低主演女優賞[ファラ・フォーセット]


1980年スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演女優】部門[ファラ・フォーセット]
ノミネート:【最悪のカップル】部門[カーク・ダグラス&ファラ・フォーセット]

 

*ポンコツ映画愛護協会