『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』:2015、アメリカ&イギリス
美術商のチャーリー・モルデカイは香港のレストランでファン・ファットという男と会い、掘り出し物の壺を売ろうとする。ファンは彼が一文無しだと知っており、安値で買い叩く。チャーリーは承諾するが、ファンは前回の取り引きでガラクタを売り付けられたことを指摘する。彼は落とし前を要求し、手下たちにチャーリーの指を切断させようとする。チャーリーは従者のジョックを呼び寄せ、手下たちと戦ってもらう。ジョックは手下たちを退治し、チャーリーを連れて店を出た。
チャーリーは多額の負債を抱え、破産寸前の状態だった。彼がロンドンの屋敷に戻ると、妻のジョアンナも帰国した。ジョアンナは自分の留守中にチャーリーがチョビ髭を生やしていたのて困惑し、剃り落すよう求めた。ジョアンナがシェリダンの絵をオークションに出そうと決めると、チャーリーは反対する。しかし他に金策も無いため、結局は承諾せざるを得なかった。同じ頃、オックスフォードで絵画修復士のブロンウェンがエミル・ストラーゴに殺害された。エミルは絵を盗み出すが、何者かに殴打されて奪われてしまった。
翌朝、MI5のマートランド警部補と部下のモーリスは、ブロンウェン殺害事件の捜査に乗り出した。チャーリーは大学時代の同窓生であるマートランドに美術界の裏情報を提供して捜査協力し、闇稼業を黙認してもらっていた。マートランドは学生時代から、ジョアンナに好意を寄せていた。マートランドはチャーリーを訪ね、ブロンウェンが3ヶ月前にスペインの美術商からゴヤの修復を依頼されたこと、国際的なテロリストのストラーゴが絵を探すために入国したことを説明した。
チャーリーはマートランドから、エミルより先にゴヤの絵を見つけ出す仕事を依頼された。髭のことで夫婦仲にヒビが入る中、チャーリーは仕事に取り掛かった。彼はゴヤ専門の美術商であるグレアムと会うため、ケンジントンの競売場へ赴いた。チャーリーの様子を見たグレアムは、何を探ろうとしているのかを見抜いた。チャーリーが去った後、グレアムはロマノフという男に電話を掛けた。グレアムが「お探しの公爵夫人は闇市場で遊んでいるようだ」と言うと、ロマノフは手に入れるよう指示した。
ジョアンナはマートランドを呼び出し、プロンウェンが事件に巻き込まれて殺されたことを察した。盗まれた絵に高値が付くと確信した彼女はマートランドを誘惑し、ブロンウェンの仕事場がある場所を聞き出した。チャーリーは密輸業者のスピノザを訪ね、情報を得ようとする。スピノザは車の修理工場を営んでおり、チャーリーはロールスロイスを預けていた。そのロールスロイスはアメリカのミルトン・クランプという富豪に売却される予定だが、チャーリーは修理代と輸送費の支払いを済ませていなかった。
ストラーゴはスピノザを射殺し、チャーリーに「絵を渡せ」と詰め寄った。彼はチャーリーが絵を持っていると思い込んでいたのだ。そこへジョックが助けに駆け付け、エミルと激しい争いになった。マートランドとモーリスが現れると、ストラーゴは逃亡した。チャーリーはマートランドに、「ブロンウェンは修復に3ヶ月も費やしている。きっと何かに気付いたんだ」と述べた。チャーリーたちはブロンウェンの仕事場へ赴き、先にジョアンナが来ていたことを知った。
チャーリーは修復中の絵が不鮮明に写っている写真を見て、それが二百年前から行方不明になっていた幻の『ウェリントン公爵夫人』だと気付いた。「なぜストラーゴが狙う?売れば途端に捕まる」とマートランドに問われた彼は、かつてナチスのゲーリングが所有していたこと、スイスの口座番号を絵の裏に記したことを説明した。ゲーリングの隠し財産は数百億ドルもあり、それをストラーゴは世界革命の軍資金にしようと目論んでいるのだとマートランドは悟った。
トイレに入ったチャーリーは、ロマノフの手下であるディミトリとウラジミールに注射を打たれた。眠らされたチャーリーが連行される様子を目撃したジョックは尾行し、モスクワ行きの飛行機に潜入した。ジョアンナはブロンウェンの友人であるアッシャーボロードン公爵を訪ね、絵に関する情報を質問した。すると公爵は戦友のバニーがゲーリングを捕まえた時に絵を持ち出したと話す。「見せたい物がある。トイレへ来ないか」と誘われたジョアンナは、丁重に断った。
チャーリーが目を覚ますと、ロマノフが「ゴヤはどこだ?」と尋問する。「クランプが入手するという噂だ。お前は奴の美術商だろう」と言われたチャーリーは、何も知らないと主張する。しかしロマノフは信じず、ディミトリとウラジミールにチャーリーの拷問を命じた。チャーリーはジョックが駆け付けたのを確認すると、窓を突き破って脱出した。チャーリーはジョックのバイクで逃走するが、すぐにディミトリとウラジミールが追って来た。チャーリーとジョックは追跡を撒き、英国大使館へ向かった。
マートランドはジョアンナに電話を掛けて、チャーリーがモスクワで発見されたことを伝えた。ジョアンナは家へ来たがるマートランドに、「明日、会いましょう。陸軍第7軍第2師団の名簿を持って来て。1945年6月の」と告げた。2人で会いたいマートランドは、空港へ戻ったチャーリーに「絵を持っていないか、クランプの屋敷を調べろ。ロールスロイスはロス行きの貨物機に載せた。君も追い掛けろ」と述べた。チャーリーとジョックが乗せられた飛行機には、ストラーゴの姿もあった。
ホテルにチェックインしたチャーリーはジョアンナに電話を掛け、クランプと会うことを話す。ジョアンナは「用心して。クランプの娘は淫乱で有名よ」と言う。チャーリーがロールスロイスを屋敷に届けると、クランプは車内に隠されていたゴヤの絵を取り出した。彼はスピノザに頼んで絵を隠させており、チャーリーは知らない内に運び屋の役割を果たしていたのだ。すぐにチャーリーは絵の裏を調べるが、何も書かれていなかった。
チャーリーはクランプから、夜のパーティーに参加するよう誘われた。破産を免れたいチャーリーは、絵を盗み出そうと考える。ジョックは彼に、パーティーの最中に盗み出す計画を説明した。パーティーが始まると、潜入したストラーゴはクランプの娘であるジョージナと接触する。ストラーゴは彼女と結託しており、チャーリーの気を引くよう命じた。ジョージナに誘惑されたチャーリーが踊っていると、ジョアンナが現れた。チャーリーは激しく動揺し、慌てて取り繕った。
ジョックが梯子を運ぶ様子を目撃したチャーリーは、すぐに合流しようとする。獰猛なドーベルマンに追われた彼は、その相手をジョックに任せた。2階の窓から忍び込んだチャーリーは、クランプの死体を発見した。クランプを殺して絵を盗んだストラーゴに、チャーリーは「口座番号は無かった」と言う。するとストラーゴは、「見えないだけさ。透明インクだ」と口にした。ジョックが背後から襲い掛かろうとするが、ジョアンナに拳銃を突き付けたジョージナが現れた。マートランドが突入して拳銃を構えると、ストラーゴとジョージナは窓から脱出する。2人が車で逃走したので、すぐにチャーリーたちは後を追った…。監督はデヴィッド・コープ、原作はキリル・ボンフィリオリ、脚本はエリック・アロンソン、製作はアンドリュー・ラザー&ジョニー・デップ&クリスティー・デンブロウスキー&パトリック・マコーミック、製作総指揮はジジ・プリッツカー、共同製作はケネス・コキン、製作協力はモニク・フェイグ、撮影はフロリアン・ホフマイスター、美術はジェームズ・メリフィールド、編集はジル・セイヴィット&デレク・アンブロージ、衣装はルース・マイヤーズ、音楽はジェフ・ザネリ&マーク・ロンソン。
出演はジョニー・デップ、グウィネス・パルトロー、ユアン・マクレガー、オリヴィア・マン、ポール・ベタニー、ジェフ・ゴールドブラム、ジョニー・パスヴォルスキー、ガイ・バーネット、ウルリク・トムセン、マイケル・カルキン、マイケル・バーン、ポール・ホワイトハウス、アウレック・アットゴフ、ロブ・デ・グルート、ノーマ・アタラー、ニコラス・ファレル、カール・テオバルト、カミーラ・マリー・ピーパット、エミリー・ローレンス、ジェームズ・ジョイス、ジェナ・ラッセル他。
キリル・ボンフィリオリの冒険小説シリーズ第1作『チャーリー・モルデカイ(1) 英国紳士の名画大作戦』を基にした作品。
監督は『エコーズ』『シークレット ウインドウ』のデヴィッド・コープ、脚本は『オン★ザ★ライン 君をさがして』のエリック・アロンソン。
チャーリーをジョニー・デップ、ジョアンナをグウィネス・パルトロー、マートランドをユアン・マクレガー、ジョージナをオリヴィア・マン、ジョックをポール・ベタニー、クランプをジェフ・ゴールドブラム、ストラーゴをジョニー・パスヴォルスキー、モーリスをガイ・バーネット、ロマノフをウルリク・トムセンが演じている。テンポと間が悪く、パンチが弱く、構成や編集に難があり、そもそも物語がつまらない。演出には弾けたノリや振り切る感覚が欠けている。
もっと大仰に誇張して荒唐無稽な面白さを出せばいいのに、かなりヌルいことになっている。会話劇の面白味も感じない。
笑いを意識した台詞を誰かが口にしても、受け手が上手くキャッチしないし、スカして昇華させるわけでもない。だから、笑いを意識した台詞は、上滑りして消えゆくだけだ。
オープニングのシーンで観客を引き込みたいところだが、のっけからパワーが不足している。アクションとしてはキレもケレン味も無いし、コメディーとしては笑いが欠けている。どっちに振って次へ行こうとしているのかも不鮮明だ。
両方をアピールしながら進めることを狙っていたとしても、どっちも基準には全く達していない。スラップ・スティックを狙っているんだろうとは思うけど、それにしてはテンポが悪すぎるのよね。ストーリーが無駄にゴチャゴチャしているが、入り組んだ内容にすることでミステリーの醍醐味が味わえるわけではない。単純に交通整理が下手だというだけだ。
終盤の展開にしても、「全てが収束してスッキリ」というハッピーエンドになるべきなのに、やたらとモタモタしているせいでグダグダになっている。
笑いの方では、チャーリーのチョビ髭を何かに例えるネタを何度か繰り返しているが、ことごとく外している。
比喩だけでなく、髭の関連するネタは全て外している。キャラクターの面白さで引っ張ってほしいところだが、そこも冴えない。
チャーリーは「自信満々だけど実はヘタレで役立たず」というトコに面白味があるはずだが、その見せ方がヌルい。
冒頭シーンの場合、「自信満々のままでヘタレなことを口にする」というのが笑いに繋がるべきじゃないかと思うが、ちっとも弾けない。
帰国したジョアンナと話すシーンでは、「最初は強気だったけど、あっさり情けない野郎に変化する」というトコに面白さがあるはずだが、これまた弱い。チャーリーがロンドンへ戻った直後、ジョックが女好きであることを示す短い回想シーンが挟まれる。
しかし、「そのタイミングなのか」と言いたくなるし、そもそも回想シーンなんて不必要だ。「ジョックが絶倫で女好き」という個性をアピールしたいのなら、現在進行形の物語の中で描写すればいい。
「マートランドがジョアンナに告白しようとしたけど、チャーリーとセックスの最中だった」という回想シーンに関しても、まるで必要性を感じない。展開への影響力はゼロだし、そんなに笑いも無いし。
その後も何度か回想シーンが入るんだけど、ただ流れを止めまくっているだけで、プラスの効果は全く感じない。
まあ、そもそもスムーズな流れは無いんだけど。チャーリーの行動は、サッパリ意味が分からない。
グレアムの元を訪れても、ブロンウェンに修復依頼をしたかどうか尋ねるだけ。これといった情報は得られていないし、むしろグレアムに情報を気付かれている。
だから、「グレアムからロマノフに公爵夫人の情報が流れる」という段取りのための展開にしか思えない。
ジョアンナが公爵の「見せたい物があるからトイレへ行かないか」ってのをエロい誘いだと思い込んで断るのも、ちょっと強引さが否めない。
話は最初から最後まで、テキトー&大雑把&強引&不自然&薄味。ジョアンナはアッシャーボロードン公爵から「戦友のバニーがゲーリングを捕まえる時にゴヤを持ち出した」と聞いた時点で、チャーリーやストラーゴたちが争奪戦を繰り広げている絵が贋作であることを知ったはずだ。
それなのに、そのことを明かさないまま、チャーリーと共にストラーゴ&ジョージナを追跡する理由は何なのか。
無理に危険な行動を取る意味なんて、何も無いはずだ。
っていうか、観客にも公爵との会話シーンで「チャーリーが追う絵は贋作」ってのがバレちゃうわけで、何のメリットも無いと思うんだけど。アメリカでは大ヒットしたコメディー映画が、日本では今一つの評価というケースもある。逆に、日本では受けるのに、アメリカだと全く理解してもらえないような笑いもある。
国や文化によって、笑いの質や尺度は大きく異なるものだ。だから、ひょっとすると本作品で全く笑えないのは、そういうことが原因なのかとも思った。
ただ、アメリカでも酷評を浴びて大コケしたので、そうではなかったらしい。
昔のイギリス喜劇を意識しているような節もあるので、もしかするとイギリスでは受けたんじゃないかとも思ったのだが、やはり酷評を浴びてコケている。
だから文化や国の違いに関わらず、単純に駄作ってことだ。あえて褒めるポイントを探してみると、「最後まで普通に見られる」ってことが挙げられる。
あまりに難解で、途中で放り出したくなる映画もある。あまりに不愉快で、途中で嫌になってしまう映画もある。あまりに説教臭くて、途中で疎ましくなる映画もある。
そういう類のストレスは少ないので、最後まで普通に観賞することは出来るはずだ。
だから、これっぽっちも面白くないけど、時間潰しの道具としては使えるかもしれない。
もちろん、面白い映画は他に幾らでもあるので、そっちを時間潰しに使える状況にあるなら、これを選ぶ必要は全く無いけどね。
あと、退屈すぎて途中で眠くなる可能性は否定できない(ダメじゃねえか)。(観賞日:2016年7月27日)
第36回ゴールデン・ラズベリー賞(2015年)
ノミネート:最低主演男優賞[ジョニー・デップ]
ノミネート:最低主演女優賞[グウィネス・パルトロウ]
ノミネート:最低スクリーン・コンボ賞[ジョニー・デップ&彼の付け髭]