『ジャンヌ・ダルク』:1999、フランス
15世紀初め、フランス。はヘンリー5世の統治するイギリスと百年戦争の最中にあった。フランス国内でも、ブルゴーニュ派がイギリスと手を組んでいた。そんな中、ドンレミ村の娘ジャンヌ・ダルクは、目の前で姉カトリーヌをイギリス兵に殺された。
17歳に成長したジャンヌは神の啓示を受け、シノン城に向かった。彼女は王太子シャルルに謁見し、自分に軍勢を与えてくれるよう申し入れる。シャルルの義母ヨランド・ダラゴンはジャンヌが神の使者だと認め、兵士を与えることにした。
前線に出向いたジャンヌは兵士を鼓舞し、勢いに乗ったフランス軍は劇的な勝利を収めた。ジャンヌはヘンリー王に撤退を促し、イギリス軍は退却を開始する。民衆はジャンヌに喝采を送り、シャルルはフランスの君主となった。
ジャンヌはパリに向けて戦いを続けようとするが、シャルルはイギリスとの交渉を始めようとしていた。そして彼の周囲では、ジャンヌの人気が王の権威を傷付けると考える者達がいた。やがてジャンヌは、イギリス軍に売り渡されてしまう…。監督はリュック・ベッソン、脚本はアンドリュー・バーキン&リュック・ベッソン、製作はパトリス・ルドゥー、共同製作はベルナルド・グレネ、製作総指揮はマーク・ジェニー&オルドリッチ・マッチ、撮影はティエリー・アルボガスト、編集はシルヴィー・ランドラ、美術はユーグ・ティサンディエ、衣装はカトリーヌ・レトリエ、音楽はエリック・セラ。
主演はミラ・ジョヴォヴィッチ、ジョン・マルコヴィッチ、フェイ・ダナウェイ、ダスティン・ホフマン、パスカル・グレゴリー、ヴァンサン・カッセル、チェッキー・カリョ、リチャード・ライディングス、デズモンド・ハリングトン、ティモシー・ウェスト、ラブ・アフレック、ステファン・アルゴー、エドウィン・アップス、デヴィッド・ベイリー、デヴィッド・バーバー他。
中世フランス史上に名を残す人物を、フランス人のリュック・ベッソンが描いている。
製作国も、フランスになっている。
しかし、使われている言語は、フランス語ではなく英語だ。
この時点で、作品が失敗する流れが始まっていたのかもしれない。ジャンヌをミラ・ジョヴォヴィッチ、シャルルをジョン・マルコヴィッチ、ヨランダをフェイ・ダナウェイ、ジャンヌの良心をダスティン・ホフマンが演じている。他にもヴァンサン・カッセルやチェッキー・カリョが出演しており、役者の粒は揃っている。
リュック・ベッソン監督はどうやら、「神のために戦ったジャンヌ・ダルク」を否定したいようだ。だからダスティン・ホフマン演じるジャンヌの良心を終盤になって登場させ、「神の啓示はジャンヌの思い込みでした」という結論を導き出そうとしている。
しかし、ならば果たして彼女を主人公にした物語を作るべきだったのだろうか。
「神のために戦った」という部分を否定するのはともかくとして、ジャンヌ・ダルクという人物そのものを否定してまで、この物語を描く意味が全く分からない。
“ジャンヌの良心”というキャラクターも、アホにしか見えない。本当にそうだったかどうかはともかくとして、少なくともジャンヌ・ダルク自身は、自分が神のために戦っているのだと信じていたはずだ。
だからこそ、終盤になって神の存在に疑念を持つ展開が生きてくるはずなのだ。
ところが、戦いの途中で彼女は、「神はお前を許すかもしれないが、私は許さない」などというセリフを吐いてしまう(というかベッソンが吐かせてしまう)。
この時点で、神のために戦っていることを彼女自身が否定してしまっている。ただの田舎娘であるジャンヌ・ダルクに大勢のフランス兵が従ったのは、彼女に強烈なカリスマ性があったからのはずだ。
しかし、この作品に登場するジャンヌには、そういったものを全く感じない。
ただ威張り散らして、ギャーギャーと騒いでいるだけだ。
人間らしいといえば、そうなのだろう。
だが、そんな人物を、多くの兵や民衆が支持するだろうか。この映画のジャンヌ・ダルクは、感情のコントロールがヘタな女性だ。
兵の決起を促して熱弁を振るう時に、ちょっと泣きそうになっている。
イギリス軍に撤退を申し入れる時にもビクビクしており、ついには泣き出してしまう。そして、すぐに興奮したりもする。
イギリス兵に挑発されて、眠っている兵を叩き起こして戦いを始めさせたりする。
完全に身勝手な女である。
既に状況は交渉へと移りつつあっても、まだ戦いを続けようとしたりもする。
かなり野蛮な女である。ジャンヌには、リーダーとしての資質を全く感じない。
戦闘の最中に何をしたらいいのか分からなくなり、立ち尽くしたりする。
錯乱して叫んだりもする。
リーダーの資質が無いから、途中から兵は彼女の言うことなど聞かず、勝手な行動を始めている。戦場に身を置きながら、肝心なところで彼女は単なる傍観者となっている。最終的に悲劇として描くのは構わない。
しかし、そのためには前半から中盤に掛けての戦闘シーンでは、観客に高揚感を与えるべきではなかったのか。既に戦闘の時点で悲劇的なムードが漂っているのでは、死者の山を見てジャンヌがショックを受けるという落差が生まれない。これは、「ヒステリックなバカ女が思い込みだけで動き、そのせいで多くの連中が犠牲になりました。キチガイ女が自分がキチガイだったことに気付きました」という映画だ。
少なくとも、私にはそのようにしか思えない。
第20回ゴールデン・ラズベリー賞
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