『ジェイド』:1995、アメリカ

デヴィッド・コレリ検事補は招待を受け、友人で弁護士のマット・ギャヴィンと妻のトリーナの参加する舞踏会の会場へ出向いた。彼はトリーナに好意を抱いており、それを隠そうともしていない。コレリはトリーナと踊り、「お招きを、どうも」と言う。トリーナはマットの招待だと告げ、「こんな場所は苦手かと思ったわ」と言う。するとコレリは、「エサに釣られた。君の誘いかと思った」と述べた。彼は電話を受け、大富豪で美術品収集家のメドフォードが殺されたことを知らされる。そのことをコレリから聞いたトリーナは、「美術館に入れる絵画の件で、彼の家で会ったばかりなのに」と驚いた。
コレリはメドフォードの屋敷へ行き、ボブ・ハーグローヴ刑事やカレン・ヘラー刑事、ピーティー・ヴァスコ警部らと会う。メドフォードは全裸状態で磔にされており、全身が血だらけになっていた。凶器はアフリカの斧で、生殖を意味するマスクを装着した状態で発見されていた。死体の状態を確認したコレリは、怒りを意味していると感じる。棚に目をやった彼は、幾つかの小さなケースがあるのに気付いた。「カイルに愛を パット」と刻印されたケースや、漢字で「玉」と刻まれたケースがあった。どのケースには毛の固まりが入れてあり、コレリはカレンに鑑識へ回すよう指示した。床に落ちているイヤリングを見つけたコレリは、それも鑑識に回すよう告げた。
コレリは美術品屋を営む中国人のウォンと接触し、「玉」と刻まれたケースについて質問する。ウォンは自分の店で売ったこと、美女が金持ちに贈ったことをコレリに話す。「玉」という文字の意味を訊かれた彼は、「淫婦(ジェイド)だ」と教えた。翌朝、マットはロスへ仕事で出張するトリーナを空港まで送る。トリーナは朝刊にを開き、メドフォード殺害事件の記事を読む。マットは教会でコレリと会い、来年に選挙があることから「時期がいい。事件を解決すればサンフランシスコ検事だ」と告げた。
コレリが「トリーナは?」と尋ねると、マットは「ロスへ行った」と答える。「戻るかな」というコレリの言葉に、マットは「別れたら再婚しろ」と軽く笑った。コレリはカレンたちから、メドフォードの金庫に入っていたフィルムの束を見せられる。それは、エドワーズ州知事が女とセックスしている現場を盗撮した写真だった。コレリはエドワーズの元へ出向き、広報担当のビルを紹介される。コレリから写真を渡されたエドワーズは、「私を巻き込むな。名前が出たらカリフォルニアにいられなくなるぞ」と脅した。メドフォードからの脅迫があったかどうかコレリが質問すると、彼は即座に否定した。
トリーナは暴力的な衝動を専門とする精神科医で、2冊の著書はベストセラーになっていた。彼女がロスへ出張したのは、企業から依頼を受けて講演するためだった。仕事を終えてホテルへ戻ったトリーナは、マットに電話を掛けた。その時、マットは別の女と浮気の真っ最中だった。コレリはクリフォード検事に呼び出され、「知事から電話があった。君は外す」と告げられる。コレリは「ではマスコミに話す」と鋭く告げ、捜査を続行する。
コレリはピーティーから、盗撮写真に写っていた女を見つけたと知らされる。買春で逮捕された前科がある21歳のパトリースという女で、現在はチャイナタウンの美容室で勤務していた。この半年で、パトリースの銀行口座には2万ドルの送金があった。メドフォードの別荘を調べたコレリは、そこがセックス専用に使用されていたことを確信した。盗撮用に複数の隠しカメラが設置されており、暖炉の中からは燃え残ったビデオテープが発見された。コレリは隣に住む男に写真を見せ、パトリースが来ていたことを確認した。
コレリはパトリースと接触するため、チャイナタウンの美容室へ赴いた。パトリースは逃走を図るが、すぐにコレリが捕まえた。事情聴取を受けた彼女は、金を貰って多くの男と寝ていたことを認める。さらにパトリースは、ジェイドという女を希望する男も少なくなかったこと、知事もその中に含まれていたこと、1度だけ別荘で彼女を目撃したことを証言した。車で移動したコレリは、ブレーキが利かなくなって事故を起こす。怪我を負って入院した彼は、ブレーキに細工が施されてオイルも抜かれていたことを知った。
マットは依頼人のグリーンから、「裁判所に召喚される。警察と取引した重役が洗いざらい話す気だ」と弱々しく告げられる。相手側の弁護士がハリー・ロートンだと知ったマットは、「何とかなる。前に助けてやったことがある。私に任せろ」と述べた。凶器の斧に付着していた指紋は、トリーナの物だと判明した。コレリは別荘の隣人を訪ねて写真を見せ、トリーナが来ていたことを知る。コレリから話を聞いたマットは、「トリーナは絵の話で行っただけだ。その時に斧を触ったんだろう」と妻の潔白を主張した。
次の日、コレリはロイとピーティーを伴ってトリーナの元へ赴いた。メドフォードとの関係について問われたトリーナは、美術館の会長と理事だと話す。さらに質問を受けたトリーナは、2人で会ったのは事件があった日だけであり、別荘は存在さえ知らなかったと証言した。コレリがメドフォードとの性的関係について尋ねるとマットは憤慨し、トリーナは真っ向から否定した。しかしコレリたちが修復されたビデオテープを確認すると、男とセックスするトリーナの姿が写っていた。
コレリはパトリースから「ジェイドのことで話したい」という連絡を受け、カフェで会うことにした。コレリがカフェで待っていると、道路を渡ろうとしたパトリースは暴走する車にはねられて死亡した。コレリは逃走車を追跡し、埠頭へ辿り着く。すると倉庫に潜んでいた逃走車が、急発進してコレリの車に激突した。コレリは車ごと海に落ち、犯人は逃走した。コレリはトリーナと会い、その正体がジェイドであることを指摘する。ビデオテープを見せられたトリーナは、別荘で男と関係を持ったことを認めた…。

監督はウィリアム・フリードキン、脚本はジョー・エスターハス、製作はロバート・エヴァンス&クレイグ・ボームガーテン&ゲイリー・アデルソン、共同製作はジョージ・グッドマン、製作総指揮はウィリアム・J・マクドナルド、撮影はアンジェイ・バートコウィアク、美術はアレックス・タヴォウラリス、編集はオーギー・ヘス、衣装はマリリン・ヴァンス、音楽はジェームズ・ホーナー。
出演はデヴィッド・カルーソ、リンダ・フィオレンティーノ、チャズ・パルミンテリ、リチャード・クレンナ、マイケル・ビーン、ドナ・マーフィー、ケヴィン・タイ、ホルト・マッキャラニー、ケン・キング、アンジー・エヴァーハート、デヴィッド・ハント、ロビン・トーマス、ジェイ・ジェイコブス、ヴィクトリア・スミス、ドリュー・スナイダー、バド・ボストウィック、ダレル・チャン、グレアム・カウリー、ネリー・クレイヴンス、ロン・ウルスタッド、アレン・ゲブハート、ギャレット・グリフィン、ジュリアン・ヒル他。


『ランページ/裁かれた狂気』『ガーディアン/森は泣いている』のウィリアム・フリードキンが監督を務めた作品。
脚本は『ボディ・ターゲット』『硝子の塔』のジョー・エスターハス。
『欲望の女ジェイド』『魔性の香り/ジェイド秘められた快楽に迫る殺意』の邦題でTV放送されたこともある。
コレリをデヴィッド・カルーソ、トリーナをリンダ・フィオレンティーノ、マットをチャズ・パルミンテリ、エドワーズをリチャード・クレンナ、ボブをマイケル・ビーン、カレンをドナ・マーフィー、クリフォードをケヴィン・タイ、ビルをホルト・マッキャラニー、ピーティーをケン・キング、パトリースをアンジー・エヴァーハートが演じている。

主演のデヴィッド・カルーソは全くの無名だったわけではなく、『ツインズ』や『キング・オブ・ニューヨーク』など複数の映画に脇役で出演していた。
ただ、1993年から始まったTVドラマ『NYPD BLUE〜ニューヨーク市警15分署』の主演で一気に人気が出たので、ラジー賞では新人扱いされている。
TVドラマでブレイクしたデヴィッド・カルーソを映画界も放っておかず、1995年には本作品と『死の接吻』という2本の主演作が公開されたが、いずれも酷評を浴びて興行的に失敗した。このため、彼は映画スターの地位を手に入れることが出来なかった。
しばらくは低迷の時期が続いたが、2002年から始まったTVドラマ『CSI:マイアミ』では主演を務め、シーズン10まで続く人気番組となった。

1970年代に『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』という2本の傑作を撮ったウィリアム・フリードキンだが、1980年代に入って低迷期に陥った。
そして1990年代になると、もう完全に「過去の人」になってしまった。
そんなフリードキンの監督作品で、しかも脚本はジョー・エスターハスだ。あのラジー賞が、わざわざ最低脚本賞に冠として名前を付けたほどの脚本家だ。
その組み合わせで傑作を生み出すことが出来ると、プロデューサーのロバート・エヴァンスは本気で思っていたのだろうか。

ジョー・エスターハスが起用された狙いは明白で、彼が脚本を書いて大ヒットした『氷の微笑』の二番煎じを作ろうとしたのだ。
詳しいことは分からないけど、たぶんプロデューサーのロバート・エヴァンスが主導したんじゃないかなあ。
何しろロバート・エヴァンスは、色々と問題の多い人だからねえ。
で、誰が主導したのかはともかく、『氷の微笑』の二番煎じを作ろうとした時点で、ダメな映画になることが約束されていると言っても過言ではない。

本家『氷の微笑』では刑事のマイケル・ダグラスが妖艶なシャロン・ストーンに誘惑されたが、こちらはデヴィッド・カルーソとリンダ・フィオレンティーノの組み合わせ。
比較すると、どう考えても二番煎じサイドの方が地味だ。
二番煎じという時点で弱いのに、配役が輪を掛けて弱い。
「安く仕上げて儲けを出そう」という、ちょっとしたロジャー・コーマン的な狙いがあったのかもしれないけど、そりゃあ駄作になるのも当然だわな。

オープニング・クレジットでは、画面の右側に小さく「Jade」と出て、左側に大きく漢字で「玉」と表示される。
この時点で、ヤバそうな雰囲気を感じてしまう。「玉って何だよ、なんでわざわざ漢字なんだよ」とツッコミを入れたくなる。
映画が始まると、「玉」と書かれたケースが殺害現場にあるってことで、「なぜ玉なのか」という疑問への答えは用意されている。だけど、わざわざ漢字を使っている意味は全く無い。
メドフォードの屋敷には統一感の無い美術品が幾つも置いてあって、その中には中国の人形や絵画もあるけど、「中国」が重要な要素というわけではない。ただ何となく、雰囲気モノとして持ち込んでいるだけだ。

トリーナが出張先からマットに電話を掛けるだけのシーンなのに、わざわざ全裸になっているなど、それなりにエロティックな雰囲気を醸し出そうとする意識は感じられる。
だけど、そのアピールは全く足りていない。
そもそもトリーナは後半に入るまで正体を隠しており、「立派な肩書を持つ精神科医で貞淑な妻」を装っている。コレリを誘惑する素振りも見せない。エロを撒き散らすことが、ストーリー展開の都合で出来なくなっているのだ。
じゃあ、その間は他の女がエロを担当するのかというと、そうでもない。

コレリが尋問した夜にはトリーナとマットの濡れ場があるけど、ちっともエロをアピールしていない。なぜかカメラはトリーナの顔だけを捉えて、体を写さない。
そもそもトリーナはセックスを望んでいないから、嫌そうな顔をしているし。
ジェイドの濡れ場でエロがゼロって、どういうことなのかと。だったら、そんな濡れ場なんて要らんよ。
っていうか根本的な問題として、リンダ・フィオレンティーノには妖艶さが足りていないのよね。

一方でコレリの方に目を移すと、「ファム・ファタールに翻弄される男」として、デヴィッド・カルーソは明らかにミスキャスト。
もっと狼狽したり驚愕したりしてくれないと困るのに、「お前は池部良か」と言いたくなるぐらい、やる気が無さそうで淡々としているのよね。
車のブレーキが利かなくなった時や、パトリースを殺した犯人の車を追跡する時など、驚きの表情や必死の形相を見せるシーンもゼロではない。
ただ、それはジェイドに対するリアクションじゃないからね。

エロティック方面がダメでも、メインはミステリーのはずだから、そこが面白ければ何の問題も無い。
だけどエロと同様に、てんでダメな状態になっている。底が浅すぎて、簡単に先読み出来てしまう。
まずパトリースの口からジェイドという女の名が出た時点で、その正体がトリーナってのはバレバレだ。
だから、ビデオテープの映像を見たコレリがトリーナと男のセックスを見て驚くシーンが訪れても、こっちからすると「まあ、そうなるだろうね」というクールな対応になってしまう。

ジェイドの正体がトリーナってのは、まだ物語が終盤に入る前に事実が明かされるので、そこは「最初から隠す気も無い」と解釈した方がいいのかもしれない。
ただ、それだけじゃなくて、殺人犯が誰なのかも容易に分かってしまう。何しろ、容疑者が2人しかいないしね。
そしてジェイドがトリーナだと判明した辺りからは、「トリーナが犯人」という匂わせる色が露骨に強くなる。
それが逆に、「ってことは、もう片方が犯人だな」ってことを何となく感じさせてしまうのよ。

それ以外でも、意味ありげに提示された小道具が事件の解決に全く貢献しないまま放置されてしまうなど、色々と粗さが目立つ。
殺された時にメドフォードが被っていた仮面とか、「玉」のケースとか、そこに入っていた毛の固まりとか、妖しげな小道具は色々と揃えているけど、どれもこれも全く機能していない。
前述したように、雰囲気モノとして持ち込んでいるだけであり、それを使いこなそうという意識は全く無いのである。
良くも悪くも、それがジョー・エスターハスらしさってことだ。

コレリがブレーキが利かなくなった車で事故を起こすシーンにしろ、パトリースを殺した犯人の車を追跡するシーンにしろ、美容室から逃走するパトリースを追い掛けるシーンにしろ、この映画は無駄にアクションが多いのも特徴だ。
「無駄に」と書いたのは、この映画にアクション・シークエンスなんてゼロでもいいからだ。
犯人の車を追跡するアクションシーンなんて5分ほど続いているけど、それは力を入れるポイントを間違えているとしか思えんよ。なぜエロでもミステリーでもなく、アクションに最も力を入れているのかと。
『フレンチ・コネクション』じゃないんだからさ。

考えてみれば、本家の『氷の微笑』だって「シャロン・ストーンが犯人か否か」という一点突破の話だった。ミステリーやサスペンスとして捉えると、大して質の高い出来栄えではなかった。
でも、あれは「エロさえあればOK」っていう作品だったからね。
そして、そういう映画に仕上げるために、シャロン・ストーンが無駄にエロを撒き散らして、マイケル・ダグラスは彼女に翻弄されまくっていた。
それに比べて、こっちはエロで勝負することも出来ないし、他に何の取り得も無いんだから、そりゃあ厳しいよ。
残り15分ぐらいになってから、ようやくトリーナがコレリを誘惑する展開があるけど、あまりにも遅すぎるし、申し訳程度だし。

(観賞日:2017年8月7日)


第16回ゴールデン・ラズベリー賞(1995年)

ノミネート:最低脚本賞(ジョー・エスターハス最低脚本賞)
ノミネート:最低新人賞[デヴィッド・カルーソ]
<*『死の接吻』『ジェイド』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会