『奪還 DAKKAN アルカトラズ』:2002、アメリカ&ドイツ
サーシャ・ペトロセヴィッチは友人ニック・フレイジャーの紹介で、彼が所属するソニー・エクヴァルの組織で仕事をすることになった。仕事は自動車窃盗だ。しかし警戒心の強いソニーはサーシャがFBIの捜査官ではないかと疑い、ウソ発見器に掛ける。FBIの捜査官ではないとサーシャが答えた時、ウソ発見器は全く反応しなかった。
ソニーから仲間として迎えられたサーシャは、ニックと共に倉庫へ行って仕事に取り掛かる。しかし、そこにFBI捜査官のエレン・ウィリアムズが現れ、ソニー逮捕に協力するよう求めてきた、ニックは拒否し、銃を発砲する。銃撃戦の末に、ニックは逮捕された。サーシャはニックを庇い、銃弾を浴びてしまう。
サーシャは仮死状態に陥るが、奇跡的に命を取り留めた。8ヶ月後、サーシャはハイテク設備によって再開されたアルカトラズ刑務所に収監された。サーシャはニックと再会し、囚人のトゥイッチやリトル・ジョーとも会った。所長は自分のことをエル・フエゴと呼ばせており、看守のデーモン・ウェブスターらを従えて厳しい監視体制を敷いている。
その日、アルカトラズ刑務所ではレスター・マッケンナという囚人の死刑が執行されることになっていた。レスターは2億ドル相当の金塊を奪った罪で服役中だが、金塊を隠した場所を秘密にしたままだ。死刑執行に立ち会うため、ジェーン・マクフェアソン判事らが刑務所を訪れた。レスターは仮死状態から蘇ったサーシャに興味を抱き、最後の面会人として呼び寄せる。
その頃、傭兵集団“フォーティナイナーズ”が刑務所内に侵入していた。計画通り死刑執行室に乗り込むことには成功した彼らだが、脱出用に向かわせていたヘリコプターは悪天候のため墜落してしまった。一味はレスターに銃を突き付け、金塊の隠し場所を白状しろと要求するが、拒否されてしまう。
一味はマクフェアソン判事を人質にして、FBIに脱出用ヘリを用意するよう要求した。一方、サーシャはウィリアムスに連絡を取る。彼はFBIの潜入捜査官だったのだ。サーシャはニックやトゥイッチ、リトル・ジョーらに呼び掛け、フォーティナイナーズに対抗するために武装集団を結成した。サーシャは判事を助けるため、行動を開始した…。監督&脚本はドン・マイケル・ポール、製作はアンドリュー・スティーヴンス&エリー・サマハ&スティーヴン・セガール、共同製作はフィル・ゴールドファイン&ジェームズ・ホルト、製作総指揮はクリストファー・エバーツ&ウーヴェ・ショット&ランドール・エメット&ジョージ・ファーラ、撮影はマイケル・スロヴィス、編集はヴァニック・モラディアン、美術はアルブレクト・コンラッド、衣装はバーバラ・ジャガー、音楽はタイラー・ベイツ、音楽監修はマイケル・ロイド。
出演はスティーヴン・セガール、モリス・チェスナット、ジャ・ルール、ニア・ピープルズ、トニー・プラナ、クルプト、マイケル・“ベアー”・タリフェロ、クローディア・クリスティアン、リンダ・トーソン、ブルース・ワイツ、マイケル・マクグレイディー、リチャード・ブレマー、ハンネス・ジャーニク、マット・バタグリア、ウィリアム・T・ボウワーズ、ロス・キング他。
主演のスティーヴン・セガールが製作にも携わり、香港からション・シンシンをファイト・コレオグラファーに迎えて撮ったアクション映画。
監督のドン・マイケル・ポールは俳優出身で、『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』では脚本を手掛けていた。TVシリーズの演出経験はあるが、映画の監督はこれが初めて。
サーシャをセガール、フォーティナイナーズのボス(ワン)をモリス・チェスナット、ニックをジャ・ルール、その右腕(シックス)をニア・ピープルズ、フエゴをトニー・プラナ、トゥイッチをクルプト、リトル・ジョーをマイケル・“ベアー”・タリフェロ、ウィリアムズをクローディア・クリスティアン、マクフェアソンをリンダ・トーソン、レスターをブルース・ワイツ、ケスラーをマイケル・マクグレイディーが演じている。ジョエル・シルヴァーが製作した『ロミオ・マスト・ダイ』『DENGEKI 電撃』『ブラック・ダイヤモンド』という3つの作品がある。これらは全て、黒人の観客層を狙ったアクション映画だ。ダブル主役の片割れに黒人ラッパーを起用し、BGMはヒップホップ。そして格闘アクション俳優をダブル主演の一方として使うというパッケージで作られている。
その内の1本、『DENGEKI 電撃』で主演したスティーヴン・セガールが、そのジョエル・シルヴァー印のコンセプトをまんま拝借して製作したのが、この映画である。だから明らかに『DENGEKI 電撃』を意識した邦題の付け方は正しい。しかも内容もセガール主演映画のセルフ・パロディーみたいになっていたりする。ただしパロディーといっても、当然のことながら笑いを取りに行っているけではなくて、そこはマジなアクション映画として作っているわけである。その結果として、『DENGEKI 電撃』を全ての面においてチープにしたB級アクション映画が出来上がった。
いや、だからといって「コメディーにすれば良かったのに」と言いたいわけじゃないよ。チープの一端を挙げると、例えばFBIの潜入捜査官という設定の使い方。
普通、そういう設定があれば、「いかにバレないように動くか」という部分でスリルを生じさせようとするものだろう。ところが、そういう展開は全く無いまま、悪党一味との対決モードが進行していく。
で、サーシャがあっさりと「実は潜入捜査官だ」とニックに明かして、特に問題も無く話は続行される。そういうことであれば、サーシャか潜入捜査官という設定の意味が無いんじゃないか。「悪党一味と戦う」という部分においては、サーシャが潜入捜査官であろうとなかろうとそれほど大差は無いのだ。そもそも、潜入捜査の目的はソニーを捕まえることだが、そのソニーはプロローグを過ぎると全く関係の無い存在になっている。例えばサーシャが潜入捜査官ではなく本当に自動車泥棒だったとしても、特に支障があるとも思えない。
まあ、ただの自動車泥棒にしては、あまりにも貫禄がありすぎる気はするけどね。ただ、ニックの友人という設定も無茶を感じるしなあ。
っていうか、自分で製作している割に意欲は旺盛でもなかったのか、セガールって完全なるオッサン体型になってないかい。潜入捜査官の設定の無意味さとも関係があるが、ウソ発見器に掛けられたりウィリアムズと銃撃戦になったりするプロローグは、要らない気がするぞ。
仮に潜入捜査官という設定だとしても、いきなり刑務所に入る所から話を始めてもいいんじゃないか。刑務所に入る前に、どうしてもウィリアムズやニックを登場させておかないと困ることって思い付かないし。
銃撃戦で撃たれたサーシャが仮死状態に陥ったという設定も、別に無くたって構わないような程度のモノだし。セガールの意欲が薄かったのか、それを監督が見抜いたからなのか、どういう理由なのかは知らないが、セガールは大して活躍していない。
普段なら、圧倒的な強さで悪党一味をボコボコにしまくっているだろうに、今回のセガールはなぜか控え目。特に前半は、倉庫の銃撃戦と悪党一味の刑務所強襲の2つのアクションシーンがあるが、どちらにも全く関与しない。
じゃあ後半に入ってから盛り返すのかというと、そういうわけでもないし。ではセガールに限定せず、アクションシーン全体の出来映えはどうなのかというと、これまたピリッとしない。何より理解し難いのは、わざわざ香港からション・シンシンを招聘しておきながら、大半をガンアクションにしていること。セガールは格闘アクションも見せるが、いつも通りの合気道アクションだし。ション・シンシンを招いた意味を感じさせてくれるのは、ニア・ピープルズがジャ・ルールとタイマンでファイトする1シーンぐけらいのモンじゃないかな。
冴えない作品の中で光を放っていたのが、そのニア・ピープルズ。わずか1シーンだが、黒いロングコートを翻しながらジャ・ルールと格闘するシーンは、かなりカッコイイ。彼女のアクションシーンを、もっと増やして欲しいと思ったよ。ちなみに、かなり若く見えるし、たぶんキャラ設定も若いと思うんだが、1961年生まれだから41歳なんだよな。すげえな。話としても、かなり苦しいものがある。悪党一味は金塊の隠し場所を探すためにレスターを「殺すぞオラ」と脅すのだが、どうせ処刑寸前なので、全く意味が無い。そこで処刑を見守っている関係者を殺してレスターを脅すが、そんなことで白状するはずもない。そこで、悪党一味は判事を人質にしてFBIに脱出用ヘリを要求するという、目的が何なのか良く分からないことになってしまう。
クライマックスは、なぜか刑務所から離れて空の上。悪党一味が判事とレスターを連れてヘリで逃亡し、セガールもヘリで追い掛ける。悪党一味が判事を海に放り投げたので、セガールが空にダイヴして助ける。これがセガールのラスト・アクション。ってことは、つまりクライマックスは悪党のボスとの戦いではないということだ。セガールが判事を助けた時点で、まだ悪党のボスは生きている。
では、どうなるのかというと、レスターが腹に巻いた手榴弾を使って自爆し、悪党を巻き添えにする。主人公のセガールが悪党のボスを倒すのではなく、相棒のジャ・ルールも全く関わらず、レスターが自爆して倒すってことよ。
なんだ、その腑抜けた締め括り方は。
第23回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低主演男優賞[スティーヴン・セガール]
第25回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【最悪の主演男優】部門[スティーヴン・セガール]