『大脱出』:2013、アメリカ

コロラド州ベンドウォーター刑務所に収監されているレイ・ブレスリンは、隣の独房の囚人から「明日、ジャックスに襲われるぞ。借りは返した」と告げられる。休憩時間、レイはジャックスに先制攻撃を仕掛け、懲罰隔離房へ入れられた。彼は看守の動きを観察し、隔離房の中を見回した。レイは脱獄の準備を進め、仲間のハッシュとアビゲイルが外で爆発騒ぎを起こした。看守のローグたちが気を取られている隙に、レイは刑務所から抜け出した。
レイはハッシュたちと合流した後、すぐに車を降りて電話ボックスに入った。駆け付けた警官隊が包囲する中、彼は落ち着いた様子で電話を掛けた。刑務所に連行されたレイの元へ、民間警備会社「B&Cセキュリティー」のCEOであるレスター・クラークがやって来た。彼は刑務所長に名刺を渡し、司法省や連邦刑務局の依頼を受けて刑務所の管理体制をチェックしていることを説明した。レイはクラークの部下であり、これまでも14ヶ所の刑務所に囚人として潜入し、脱獄可能かどうかを確かめていた。
CIAから派遣された弁護士のジェシカ・メイヤーがB&Cセキュリティー本社を訪れ、仕事を依頼した。CIAは重犯罪者を収容する非公式の刑務所を民間施設として試験的に運営しており、脱獄不可能であることを出資者に証明したいのだと彼女は説明した。クラークは報酬が倍額であることをレイに告げ、判断を任せる。刑務所の場所は教えられないとジェシカが告げたので、アビゲイルは懸念を示した。しかしレイは、危険を承知で仕事を引き受けた。
レイとハッシュ、アビゲイルの3人は、ニューオーリンズに移動した。ハッシュとアビゲイルは、レイにアンソニー・ポルトスという偽名と経歴、協力者がマーシュ所長であること、そして避難コードを教える。ハッシュが発信機を腕に注射し、レイは2人と別れて町に出た。すると車が現れて男たちがレイを押し込み、押さえ付けて発信機を抉り出した。朦朧とする意識の中で、レイは襲撃者の1人が男を暴行してヘリコプターから突き落とす様子を目にした。
レイは刑務所で目隠しを取られ、ホッブス刑務所長の元へ連行される。レイがマーシュの名を出すと、ホッブスは「そんな奴はいない」と告げる。レイはホッブスに、ヘリコプターでの出来事を指摘した。彼が避難コードを告げても、ホッブスは全く相手にしなかった。レイは看守たちの暴力を目にした直後、数名の囚人たちに絡まれた。レイが先制攻撃を仕掛けると、エミル・ロットマイヤーという男が囚人たちを制止した。彼はポルトスの名を知っており、「以前、マンハイムという男と働いていた。奴らは彼を捜してる」と述べた。ホッブスは看守のドレイクを呼び出し、ヘリコプターで囚人を殺した行為を非難した。
レイはエミルから積極的に話し掛けられ、「頼みがあれば言ってくれ」と告げられる。そこでレイは、懲罰隔離房に入りたいと述べた。エミルはレイを殴り付け、喧嘩を始めさせた。隔離房に収容されたレイは強烈なライトを照射され、脱水症状に苦悶しながらも内部の様子を確認した。医師のカイリーが診察に来るが、レイが話し掛けると、すぐに出るようドレイクが指示した。レイはエミルに幅8センチの円形の金属板を入手してほしいと頼み、「手に入れたら脱獄させてやる」と告げた。
エミルは看守に「ホッブスと話したい」と告げ、取調室へ連行される。ホッブスからマンハイムの居場所を吐くよう要求されたエミルは、適当な地図を描いてコケにした。拷問を受けたエミルは、気付かれないように金属板を盗み出した。エミルから金属棒を渡されたレイは、自分が脱獄のプロとしてテストに来たがハメられたことを語り、「必ず犯人を見つけ出してやる」と語った。彼は「準備のために再び隔離房へ入りたい」と言い、観察して分かった刑務所の構造を語った。
レイは全てが垂直の区画になっていること、自分たちが地下にいることを話し、「隔離房の下も垂直構造のはず。そこを辿れば地上まで行けるはずだ」と言う。既に彼は、地下で湿気が多いこと、そのせいで隔離房の床に使われているビスが錆びていることを見抜いていた。彼は金属板を磨いて熱を集中させ、膨張させてビスを外す計画を立てていた。レイはエミルに、確認作業のために数分の時間稼ぎをしてほしいと要請した。エミルは他の囚人を挑発して喧嘩騒ぎを起こし、また2人は隔離房へ収容された。
レイが床板を外して脱出口を目指す間、エミルは喚き散らしてホッブスたちの目を向けさせる。辿り着いたハッチを開けて外へ出たレイは、刑務所が海上を航行している巨大タンカーの内部にあることを知った。レイは急いで隔離房へ戻るが、バラストタンクから水が入り込む。ホッブスは看守たちに、囚人を隔離房から出すよう命じた。レイは隔離房へ戻り、脱走は露呈せずに済んだ。エミルから「刑務所の場所はどこにある?」と訊かれたレイは、「分からない」と答えた。
ホッブスはクラークに電話を入れ、「ポルトスは偽名だな。なぜ黙ってた?」と質問する。クラークはレイの正体を説明し、「出資者たちが極秘テストを望んでね」と述べた。彼が「中国の銀行も加わった。全ての銀行がマンハイムの居所を捜してる。奴のプログラムは世界の銀行システムを破壊するらしい。ロットマイヤーから居所を聞き出せ」と話すと、ホッブスは「ロットマイヤーの反抗心が息を吹き返した。ブレスリンのせいだ」と語る。するとクラークは、「プレスリンの心を折れ」と指示した。ホッブスは看守に命じ、レイに執拗な暴行を加えさせた。エミルはレイを励まし、「諦めるな」と告げた。
レイは看守たちの癖や行動パターンを分析し、脱獄への準備を進めた。わざと怪我を負った彼は医務室へ行き、カイリーや看守の隙を見て血液凝固剤を盗み出した。レイはペンや眼鏡を使って六分儀を作成し、エミルに「北極星の高度で緯度を調べる」と説明した。ホッブスはレイの不審な動きが気になり、彼を隔離して「君の著書を読んで、施設の設計に役立たせてもらった」と述べた。「今すぐ解放しろ」とレイが要求すると、ホッブスは「今回は事情が違う。出資者が永遠に出すなと言っている」と告げた。
ホッブスが「今後はロットマイヤーとも誰とも接触させない。食事の余暇の時間も与えない」と語ると、レイは「奴からマンハイムの居所を聞き出してやる。見つければ莫大な報酬が手に入るはずだ」と持ち掛けた。ホッブスは「聞き出せなければ殺す」と脅した上で、レイを独房から出した。レイはエミルに事情を説明し、偽の情報をホッブスに流した。レイはエミルに、イスラム教徒の囚人であるジャヴェドを引き入れて六分儀の使い方を教えるよう指示した。
ジャヴェドはエミルから脱獄計画を聞き、協力を受諾した。彼はホッブスとの面会を要求し、「脱走計画がある」と告げた。そして知っていることを話す代わりに、外で祈りを捧げる権利を求めた。ホッブスは天井の網越しに空が見える場所を用意し、そこで祈りを捧げることを許した。ジャヴェドは祈りを捧げるフリをして六分儀を使い、緯度を割り出した。ジャヴェドから報告を受けたレイは、モロッコ沖の可能性が高いと推理した。レイはエミルと関係のある外部の人間に連絡を取るため、カイリーを協力させようとする…。

監督はミカエル・ハフストローム、原案はマイルズ・チャップマン、脚本はマイルズ・チャップマン&アーネル・ジェスコ、製作はマーク・キャントン&ランドール・エメット&レミントン・チェイス&ロビー・ブレナー&ケヴィン・キング=テンプルトン、共同製作はステパン・マルチロシヤン&ケリー・デニス&ブランドン・グライムズ、製作協力はジョナサン・エイブラムス&ジェレミー・ベル、製作総指揮はジョージ・ファーラ&マーク・スチュワート&ザック・シラー&アレクサンダー・ボーイズ&ニコラス・スターン&ジェフ・ライス&ブラント・アンダーセン、撮影はブレンダン・ガルヴィン、美術はバリー・チューシッド、編集はエリオット・グリーンバーグ、衣装はリズ・ウォルフ、視覚効果監修はクリス・ウェルズ、音楽はアレックス・ヘッフェス、音楽監修はシーズン・ケント。
出演はシルヴェスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ジム・カヴィーゼル、エイミー・ライアン、ヴィンセント・ドノフリオ、カーティス・“50セント”・ジャクソン、サム・ニール、ヴィニー・ジョーンズ、ファラン・タヒール、グレアム・ベッケル、マット・ジェラルド、ケイトリオーナ・バルフ、デヴィッド・ジョセフ・マルティネス、アレック・ライム、クリスチャン・ストークス、ロドニー・フィースター、デヴィッド・リーチ、リディア・ハル、エリック・R・サラス他。


『シャンハイ』『ザ・ライト -エクソシストの真実-』のミカエル・ハフストロームが監督を務めた作品。
脚本は『ロードハウス2 復讐の鉄拳』のマイルズ・チャップマンと『マシンガン・プリーチャー』『白雪姫と鏡の女王』のアーネル・ジェスコによる共同。
レイをシルヴェスター・スタローン、エミルをアーノルド・シュワルツェネッガー、ホッブスをジム・カヴィーゼル、アビゲイルをエイミー・ライアン、クラークをヴィンセント・ドノフリオ、ハッシュをカーティス・“50セント”・ジャクソン、カイリーをサム・ニール、ドレイクをヴィニー・ジョーンズ、ジャヴェドをファラン・タヒールが演じている。

冒頭、レイが準備を済ませ、仲間の協力で脱獄する様子が描かれる。脱獄方法には色々と無理があるような気がするが、それはひとまず置いておこう。
それより引っ掛かるのは、準備している時には何をしているのか教えてくれず、脱獄する時にも「気付いたら消えている」という形にして方法を描かず、レイが刑務所長の元へ連行された後で「こういう弱点が刑務所にあったので、こういう準備をして、こんな方法で脱獄した」と説明する見せ方だ。
それだと話のテンポが悪い。
準備する段階で「こういう作業をしている」「こういう目的がある」ってのを観客に明かしながら話を進めた方が、絶対にいい。

ただし、どういう説明の方法を取るにしても、そもそも「すんげえ手間を掛けた脱獄方法を冒頭シーンで使う」という時点で、ホントに大丈夫なのかと思ってしまう。
なぜなら、それはプロローグに過ぎず、後半にクライマックスとなるべき脱獄劇が待ち受けていることは分かっているからだ。
だから、冒頭シーンの脱獄は簡単なモノに留めておいた方がいいんじゃないかと思ってしまう。手間を掛ける脱獄だと、説明に時間が掛かってしまうし。
そんで実際、そういう懸念を払拭するぐらい見事な脱獄劇が後半に用意されているのかというと、そんな期待に応えることは全く無いわけで(まあ最初から期待していなかったけど)。

レイは司法省や刑務局の依頼を受けて仕事をしているのに、ベンドウォーター刑務所の所長が何も知らないってのは不自然だ。
ジェシカの依頼した仕事を請け負う時には「協力者はマーシュ所長」という説明があるぐらいだから、普通は刑務所長に事情説明が言っているはずでしょうに。
「レイが刑務所長の元へ連行されたところで、彼の正体が観客に明かされる」という展開によって、観客を引き付けようとしたんだろうとは思うよ。
だけど、例えば「レイを捕まえようとした看守が所長から事情を説明される」という形であっても、同じような効果は得られるはずだし。

スタローンとシュワルツェネッガーは既に『エクスペンダブルズ』『エクスペンダブルズ2』で共演しているが、ダブル主演は初めてだ。
そもそも『エクスペンダブルズ』『エクスペンダブルズ2』におけるシュワルツェネッガーの出番は、かなり少なかった。
そんなわけだから、まだ「スタローンとシュワルツェネッガーの共演」という井戸には、まだ充分に汲み上げることの出来る水が残っている。
そこで考えるべきは、「ファンが2人の共演作に何を望むのか」ってことだ。

本作品は、その部分で完全に思い違いをしている。
懲罰隔離房で熱照射を浴びたスライが脱水症状で苦しむとか、看守たちに拷問を受けたシュワが悶えるとか、そういうのが見たいわけではない。
「スライを騙した犯人は誰で、その目的は何なのか」とか、「マンハイムは何者で、なぜホッブスが彼の居所を突き止めようとするのか」とか、そんなミステリーを味わいたいわけでもない。
『エクスペンダブルズ』や『エクスペンダブルズ2』の出来栄えはともかく、興行収入や観客の受けが良かった理由がどこにあるのか、この映画の製作陣は何も分かっちゃいないのか。
あのシリーズのヒットから何も学習していないのか。

日本で公開された当時、「そこは、地図にのらない動く要塞。海に浮かぶその監獄はつくった者すら破れない。」というキャッチコピーを使ったことが、一部で批判の対象となった。
それは物語の中盤に用意されている「刑務所がタンカーの中にある」という仕掛けをネタバレさせる内容だったからだ。
普通に考えれば、映画の重要な仕掛けをバラしてしまうなんてのは、もちろん厳しく糾弾されるべきことである。
しかし本作品に関しては、キャッチコピーを考えた配給会社の担当者は「良く分かっている」と思う。

なぜなら、そんな仕掛けなんて、スライとシュワの共演作にとっては重要性の低い要素だからだ。
そんなサプライズなど、観客は求めていない。
ようやく実現したスライとシュワのダブル主演作なんだから、多くのファンが望むのは「2人がタッグを組んで暴れまくる」という内容のはずだ。
悪い奴らをボコボコに殴り倒したり、銃で撃ちまくったり、そういうアクションだ。
小難しいことなんて何もいらないから、勧善懲悪で単純明快なスカッとするアクション映画を見せてくれればいいのだ。

そういう意味では、そもそも脱獄物にしていることからして間違っていると感じる。
屋内の閉鎖された空間だし、看守の目が光っているし、もちろん満足な道具も無いから、自由奔放に大暴れできないのだ。
30年前に2人の共演企画が立ち上がった時点で「刑務所からの脱獄」がテーマになっていたので、それを踏襲しているってことなんだろう。
だけど、そんなのは捨ててしまえばいいのだ。「計画を立てて、念入りに準備をして」とか、そんなチマチマした頭脳戦なんて求めちゃいないのだ。

この映画はインテリ俳優の共演作でもなければ、性格俳優の共演作でもない。一時代を築いた筋肉俳優の共演作なのだ。
そんな2人の共演に観客が期待するのは、そういうことじゃないでしょ。そんなトコに変な意外性とか要らないのよ。
ひょっとするとレイを知性派にすることで2人の差別化を狙ったのかと思ったりもしたけど、エミルの方も頭のキレる奴というキャラ設定なんだよな。だから全く意味が無い。
っていうか、2人の差別化を図りたいのなら、頭脳派かどうかなんてトコじゃなくて、性格面を使えばいい。
例えばレイが寡黙でエミルが饒舌とか、レイが無骨でエミルが軽妙とかさ。

プロットの段階で間違えているとは思うが、ひとまず「スライ&シュワのダブル主演作には合わない」という問題を脇に置いて、脱出劇として質の高い出来栄えになっているのかというと、そんなことは全く無い。
難攻不落の刑務所のはずなのに警備は杜撰だし、刑務所長も看守もボンクラだし、色々と都合の良すぎることが多すぎる。
緻密な準備や巧妙な行動によって、高度な知能戦が繰り広げられる面白さなんて味わえない。

そして終盤に入り、ケレン味も派手さもイマイチなアクションが申し訳程度に盛り込まれる。
結局、スタローンとシュワルツェネッガーがタッグを組んで戦う様子なんて、これっぽっちも見せてくれない。
その一方で、そういうことを犠牲にしてまで盛り込んだはずの脱出劇を大雑把に仕上げているので、こっちとしては、「だからシンプルなアクション映画にすれば良かったのよ」と言いたくなるわけで。
脱出に成功した時の爽快感も貧弱だし、悪党を退治するカタルシスにも欠けるし。

(観賞日:2015年8月19日)


第34回ゴールデン・ラズベリー賞(2013年)

ノミネート:最低主演男優賞[シルヴェスター・スタローン]
<*『バレット』『大脱出』『リベンジ・マッチ』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会