『ドライブ・アングリー3D』:2011、アメリカ

コロラド州のラフター。車に乗った3人の男たちが、「奴は復讐する気だ」と焦った様子で逃走を図っていた。そこにジョン・ミルトンの 運転する車が現れ。ミルトンの発砲を受け、3人組の車は横転した。ミルトンは車に取り残されていた1人に歩み寄るが、「彼女の居場所 は絶対に言わないぞ」と口にしたので射殺した。ミルトンに脅された別の男は、「ディーコン・ツリー、スティルウォーターだ。テキサス だと思う」と慌てて話す。男は「だが遅い。彼女は満月の夜に死んだ」と笑う。ミルトンは「俺が戻って、彼女を取り戻しに来たと奴に 伝えろ」と言い、その場を去った。
あるダイナーでは、ウェイトレスのパイパーと同僚ノーマ・ジーンが働いていた。店にいたミルトンは、注文を取りに来たノーマに 「ディーコン・ツリーかスティルウォーターのことを知らないか」と質問した。ノーマは「スティルウォーターはルイジアナの刑務所よ」 と教えた後、ミルトンを誘惑した。ミルトンは駐車場にある69年型チャージャーを指差し、「君の車か」と尋ねる。ノーマは、「あれは パイパーの車よ」と答えた。
パイパーは店長ファット・ルーのセクハラに我慢できず、「辞めてやる」と言い放って店を出た。彼女が車に乗り込んで出て行く様子を、 ミルトンが観察していた。パイパーがエンストで車を停めたところにミルトンが現れ、「修理するから代わりに乗せてくれ」と持ち掛けた 。パイパーは、「途中までなら」ということで承諾した。ミルトンは簡単に車を直し、パイパーの車に乗せてもらった。
会計士を自称する男がダイナーに現れ、そこにミルトンがいた形跡に気付いた。ミルトンの行方を問われたノーマは、「あっちへ歩いて いったわ」と教えた。パイパーは失業中の恋人フランクのいるパロマー・モーテルに到着し、ミルトンは礼を言って車を降りた。パイパー がモーテルに入ると、フランクは浮気相手モナとセックスの最中だった。パイパーは激怒してモナを追い出し、殴り倒した。
ミルトンはモーテルの近くにある電話ボックスに入り、持っていたケースを開ける。煙を発したケースの中には、特別な拳銃が入っていた 。パイパーは荷物をまとめ、「フロリダで男を探すわ」とフランクに告げる。パイパーはフランクを罵って殴るが、反撃されてしまう。 フランクの暴行を見ていたミルトンは、モーテルに戻って彼を殴り倒した。ミルトンは気絶していたパイパーを車に乗せて出発した。 パイパーが目を覚ました時、車はオクラホマ州に入るところだった。
ミルトンはパイパーに、「フロリダへ行くんだったな。その途中でルイジアナに立ち寄る。人を捜してるんだ」と告げた。彼はパイパーを 連れて、カントリー・バー“ブル・ボールズ”に立ち寄った。店長のロイはミルトンを見て、「死んだはずじゃないのか」と困惑の表情を 浮かべた。ミルトンが宿泊することを告げると、ロイは「夜明けまでには帰ってくれ」と迷惑そうに言った。ミルトンはパイパーに、 「かつて彼の妹と付き合っていたんだ」と話した。パイパーは「夜明けに会いましょう」とミルトンに言い、バーにいた若い男をナンパ してモーテルの部屋に向かった。
フランクは警察を呼んだが、モーテルに現れたのは会計士だった。会計士はフランクを脅し、ミルトンが69年型チャージャーで去ったこと を聞き出す。さらに彼は、パイパーの写真も入手した。フランクを始末した彼がモーテルを出たところへ、警官2名が駆け付けた。死体を 見つけた警官が銃を構えると、会計士はコインを高く投げてFBIの身分証を出現させた。そして「ジョン・ミルトンという男を追ってる 。この女と一緒だ」と写真を見せる。そして「追跡を手伝ってくれ。チャージャーを見つけたら奴を射殺しろ」と指示した。
パイパーは部屋に男を連れ込み、足の爪の手入れを刺せていた。その隣の部屋では、ミルトンがバーの店員キャンディーとセックスをして いた。パイパーは窓の外の人影に気付き、カーテンを開ける。すると怪しげな男が去っていく様子が見えた。パイパーが閉店後のバーに 戻ると、テレビでは「コロラドの幼児行方不明事件でジョナ・キングが指名手配されました。ラブランドの夫婦殺害にも関与している模様 です。幼児はキングが教祖を務めるカルト教団に誘拐されたようです」というニュースが報じられていた。
キングと信者たちが店に入って来たため、パイパーは慌てて隠れた。キングはミルトンの居場所について報告を受け、殺害するよう信者に 命じた。教団の襲来を予期していたミルトンは、部屋に乗り込んできた連中を次々に射殺した。最後の男が来たところで弾丸が切れるが、 駆け付けたパイパーがナタで始末した。ミルトンはパイパーに「急ごう、もっと来るぞ」と告げる。会計士と警官2人がモーテルに来ると 、キング一味がバンで去るところだった。警官2人はキングに気付くが、会計士は「任務を忘れるな」と無視した。
モーテルを出ようとしたミルトンとパイパーは、警官2人に発見された。警官と銃撃戦になったミルトンは、撃たれて重傷を負った。2人 を射殺したミルトンは、「奴を追い掛ける。一緒に来るか」とパイパーに言い、車で出発した。その様子を、会計士が見ていた。翌朝に なると、ミルトンの出血が止まった。パイパーの「いきなり警官が撃って来たわ。貴方、殺人犯で刑務所から脱走したの?」という質問に 、パイパーは「そうだ」と短く答えた。パイパーは苛立ち、「私を納得させて。どういうこと?」と追及した。
ミルトンはパイパーに、「キングたちに赤ん坊を奪われた。ニュースで報じていた女の子だ。奴らは俺の娘を殺して、赤ん坊を奪った。俺 は赤ん坊を取り戻す」と説明した。会計士がパトカーで追って来て、チェイスになった。会計士は余裕の態度で、「もう諦めろ。お前に 選択の余地は無い」とミルトンに告げる。しかしミルトンがケースに入っていた拳銃を構えると、彼の顔が強張った。ミルトンが発砲する と、会計士は慌てて回避するが、車ごと橋から転落した。ミルトンはパイパーは、その場から走り去った。
オクラホマ州警察の警部と部下たちは、警官2名が殺された現場検証を行った。警部は部下たちに、州の道路を封鎖するよう命じた。彼は 生存者であるキャンディーに事情を聞こうとするが、彼女は正気を失っていた。横転している会計士の車に、若者2人が近付いた。突然、 ドアが弾き飛ばされて若者の1人に激突した。平然と車から出て来た会計士に、その若者は「死ぬところだったぞ」と怒鳴る。会計士は 「そんなことは無い。お前とは73歳まで会わない。もう一人の奴は、あと3ヶ月だ」と語り、その場を去った。
ミルトンはパイパーに、「俺の娘はキングに影響されて大学を辞めた。しかしキングの教団がサタンを信奉するカルトだと気付いた。 キングは自分のアルマゲドンのために人を集めていた。娘が教団を抜けると言い出した時、キングは足の骨をへし折った。そこで娘は、 18ヶ月間、おとなしくしていた。そしてジョナが一人になった時、五芒星のペンダントで彼の顔を刺して逃走した」と語った。
ミルトンとパイパーは、教会の前に停まっているキングのバンを発見した。2人が教会に入ると、信者たちが待ち受けていた。彼らは銃で 武装しており、パイパーを捕まえた。キングは赤ん坊を抱き、ミルトンに「この子は渡せない。新しい秩序へのドアを開く」と言う。彼は 満月の夜、赤ん坊を生贄に捧げるつもりなのだ。キングはミルトンの顔面を銃で撃ち抜き、パイパーに「お前をミルトンの娘のように教育 してやる」と言う。彼は信者たちに、パイパーをRVへ連行するよう命じた。
キング一味は数名の信者を残し、RVで教会を去った。残った信者が後始末に取り掛かろうとすると、ミルトンが立ち上がって発砲した。 ミルトンは車に乗り込み、RVを追い掛けた。パイパーは車内で暴れてキングに怪我を負わせ、ミルトンの運転する車にダイブした。車は 銃撃を受けて故障し、ストップしてしまった。「どうして生きてるの?」とパイパーが問い詰めると、ミルトンは「話してる時間は無い」 と言って車を押すよう求めた。
会計士は教会に現れ、生き残っていた男に声を掛けた。彼は男の脚にナイフを突き刺して脅し、「なぜミルトンを追い回す?」と質問した 。男が「違う、奴が俺たちを追い回してるんだ」と答えると、会計士は「なぜだ」と理由を詳しく尋ねた。ミルトンは修理工場の経営者 ウェブスターを呼び、車をレッカー移動してもらうことにした。ウェブスターは動揺した様子で、「お前は死んだ。棺を運んだ」と言う。 ミルトンは「娘のことは知ってるか。だったら、なぜ俺が戻ったか分かるだろう?」と告げた。
ウェブスターは車を工場に運ぶが、修理は不可能な状態だった。しかし彼はミルトンに「どこにでも行けるようにしてやる」と言い、別の 車を用意した。修理工場を観察していたキングは911に電話を掛け、「昨夜の殺人事件の犯人の居場所を知ってる」と告げた。ミルトンが パイパーを乗せて車を走らせていると、パトカーが追い掛けて来た。さらに警部と部下たちは、道路を封鎖して待ち受けていた。そこへ、 向こうから会計士の運転するタンクローリーが走って来た。会計士は車を降り、タンクローリーを突っ込ませた。
タンクローリーは横転して大爆発するが、ミルトンは回避して道路封鎖を突破した。会計士は警官隊にFBIの身分証を見せて、「捜査 から手を引け」と命じた。彼は警官の一人がサタンの刻印をしていることに気付き、「ジョナ・キングに電話を掛けて、ミルトンは死んだ と言え」と告げた。ミルトンとパイパーは、カルト教団が集会を開くスティルウォーター刑務所跡に到着した。そこへ会計士が現れて パイパーを人質に取り、ミルトンに拳銃“ゴッド・キラー”を捨てるよう要求した…。

監督はパトリック・ルシエ、脚本はトッド・ファーマー&パトリック・ルシエ、製作はマイケル・デ・ルカ&レネ・ベッソン&アダム・ フィールズ、共同製作はエド・キャセル三世、製作総指揮はボアズ・デヴィッドソン&ジョー・ガッタ&アヴィ・ラーナー&ダニー・ ディムボート&トレヴァー・ショート、撮影はブライアン・ピアソン、編集はパトリック・ルシエ&デヴィン・C・ルシエ、美術は ネイサン・アマンドソン、衣装はメアリー・E・マクロード、音楽はマイケル・ワンドマッチャー。
出演はニコラス・ケイジ、アンバー・ハード、ウィリアム・フィクトナー、ビリー・バーク、デヴィッド・モース、シャーロット・ロス、 クリスタ・キャンベル、トム・アトキンス、ケイティー・ミクソン、ジャック・マクギー、トッド・ファーマー、 ワネター・ウォームズレー、ロビン・マッギー、ファビアン・C・モレノ、マーク・マコーレー、プルイット・テイラー・ヴィンス、 ジュリアス・ワシントン、ジェイミー・ティーア、ブライアン・マッセイ、ティモシー・ウォルター他。


『ブラッディ・バレンタイン 3D』のパトリック・ルシエが監督を務めた作品。
ミルトンをニコラス・ケイジ、パイパーをアンバー・ ハード、会計士をウィリアム・フィクトナー、キングをビリー・バーク、ウェブスターをデヴィッド・モース、キャンディーを シャーロット・ロス、モナをクリスタ・キャンベル、警部をトム・アトキンス、ノーマをケイティー・ミクソン、ルーをジャック・ マクギー、フランクを脚本家のトッド・ファーマーが演じている。

タイトルから分かる通り、この作品は3D映画として公開された。
しかしハッキリ言って、わざわざ3Dにするような意味があるとは到底思えないようなB級映画である。
今時、車が画面に向かって走って来るとか、人が画面に向かって歩いて来るとか、投げ上げたコインや投げられた斧が画面に向かって来る とか、そういう「飛び出す映像」の演出をしているが、 『13日の金曜日PART3』や『ジョーズ3』が公開された1980年代かと思うような センスだ。
ただし、そういう「古めかしさ」は、意図的にやっているのかもしれない。

話が進む中で少しずつヒントが提示されていくが、ミルトンは生きている人間ではない。
序盤の段階で、バーが禁酒区域になっていることを知らなかったり、許可証が期限切れになっていたりと、伏線は張られている。
その後、ミルトンが特殊な拳銃を持っていること、ケースを開ける時に煙が出ていたこと、その銃を会計士を狙う時だけうことなどから して、ミルトンも会計士も、普通の人間じゃないことは容易に推測できる。

会計士の若者たちに対する「お前とは73歳まで会わない。お前はあと3ヶ月だ」というセリフで、彼が悪魔や死神の類であることが 分かる。
そうなると、彼が追い掛けているミルトンは、地獄から来た死者ではないかという推測は成り立つ。
教会で眉間を撃たれたのに死なない辺りで、ミルトンが普通じゃないことは、さすがに誰でも分かるだろう。
終盤、ミルトンの口から「俺は、この世の者じゃない」というセリフが発せられるまでに、大半の人は正体を理解するだろう。
逆に、そこまで気付かない人は、かなりヤバい。

ちょっと気になるのは、パトリック・ルシエ監督としては、どこでミルトンの正体をハッキリさせたつもりなのかってことだ。婉曲した 言い回しや曖昧な表現で、ミルトンが既に死んでいることは示唆しているけど、ハッキリと「地獄から来た死人である」と断言するような セリフって無かったように思う。
でも、もっとハッキリさせちゃっても良かったんじゃないかなあ。
いっそのこと、最初の段階で、彼が地獄からやって来た死者であることを明示して、話を進めていった方が良かったんじゃないかと 思ったり。
彼の正体を示唆するような台詞を含む会話劇が、なんか映画の進行をモタモタさせているように感じるんだよな。

ミルトンに感情移入して、こっちの気持ちが熱くなることは全く無い。
ミルトンの「赤ん坊を何としても奪還する」という強い気持ちが、これっぽっちも伝わらないからだ。
娘を殺されて赤ん坊を誘拐された事件は曖昧な描写でチラッと写るだけだし、その場にミルトンは 居合わせていないから客観的なシーンになっているし。
それに、その後も彼は、娘を殺された悲しみ、孫娘を拉致されていることに対する 苦悩や焦燥、犯人一味に対する怒りといった感情はほとんど見せず、ずっとハードボイルドだ。

この映画、復讐劇や奪還劇としての面白味や盛り上がりは無い。
そこに監督は重点を置いていない。
「赤ん坊を奪還するため」というのは、主人公にカーアクションとガンアクションをやらせるために、とりあえず用意したという程度の 扱いだ。
「カーチェイスと銃撃戦と女」という要素で構成する辺り、パトリック・ルシエ監督は、1970年代や1980年代にドライブイン・シアター とかグラインドハウスで上映されていたB級アクション映画のテイストを狙ったのかな。

ただ、それを狙っていたとしても、中途半端な仕上がりになっている。
特にダメだなあと思うのは、パイパーのセクシー度数が低いこと。彼女は口汚くて乱暴で、男をすぐに連れ込む尻軽なのに、露出度がゼロ なのだ。
他の女が全裸姿になっているけど、ヒロインもお色気のサービスをしなきゃダメでしょ。全裸になれとは言わないけど、もう少し肌の露出 が多い服や、下着姿にならないとさ。
別にさ、何が何でもヒロインにエロを求めているわけではないのよ。これが例えば「世間知らずのお嬢様」とか、「ずっと怖がっている 可憐な少女」とか、そういうキャラだったら、そんなことは求めないよ。
だけど、このヒロインのキャラ造形や映画のテイストからすると、そこはエロの要素が必要不可欠でしょうに。
パイパーが全くエロいサービスをしないのは、完全に手落ちと言わざるを得ないよ。

あと、パイパーの物語に対する絡ませ方が上手くない。
彼女がずっとミルトンと一緒にいる必要性って無いでしょ。
ミルトンが彼女を連れて行くのは「君のためでもある」とか言ってるけど、それも納得できる答えじゃないし。無関係の女を、無神経に 巻き込んでいるだけにしか見えない。
そもそもパイパーが警官殺しの共犯者にされるのも、ミルトンが巻き込んだからだし。
そこは「ミルトンは無関係の人間に関わらないよう、迷惑を掛けないようにしようとしているが、女が好奇心から首を突っ込んでくる」 とか、「誘拐事件にパイパーも何かしらの形で関与している」とか、「パイパーも教団を抜けようとしていた」とか、なんか用意した方が いい。

ミルトンの戦う敵が、いかにも荒くれ者っぽい強面の連中ばかりではなく、ギャングや暴走族のような格好をした連中でもなく、モッサリ した服装の男とか、その辺りにいる主婦みたいな女とか、そういう「普通っぽい見た目の面々」にしているのは面白くなりそうな要素なん だけど、今一つ活用できていないかな。
「普通っぽい連中が狂っている」というのは、もう少し使えそうな気もするんだけど。
それと、ミルトンは絶対に死なない男で、敵は単なるカルト教団の連中なんだから、ミルトンが目的を果たすまでに色々と難儀している ってのは、描写として中途半端だと感じるのよ。
そこは圧倒的な強さで力の差を見せ付けて、敵をバッタバッタと倒していく感じでいいんじゃないの。どうせ苦境に陥っても、ミルトン ってほとんど表情は変わらないんだし。
最初から最後まで、ミルトンは苦戦することなく、常に相手の一枚上を行く形でいいと思うのよ。

(観賞日:2012年3月9日)


第32回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演男優賞[ニコラス・ケイジ]
<*『ドライブ・アングリー3D』『デビルクエスト』『ブレイクアウト』の3作でのノミネート>
ノミネート:最低スクリーン・カップル賞[ニコラス・ケイジ&彼が2011年に出演した3本の映画で共演した誰か]

 

*ポンコツ映画愛護協会