『ドメスティック・フィアー』:2001、アメリカ

サウスポートでボートビルダーをしているフランク・モリソンは2年前に妻のスーザンと別居し、半年前に離婚した。2人にはダニーという息子がいて、彼のためにもカウンセリングを受けるなど努力はしたが喧嘩ばかりで無理だった。ダニーは2人にヨリを戻してほしくて、何度も問題行動を起こしては警察に補導されていた。フランクがバスケの観戦に出掛けた日も、ダニーは試合に出場せず、他人の車に侵入して補導された。フランクとスーザンは警察署に行き、エドガー・スティーヴンス巡査部長に釈明した。
フランクにはダイアン、スーザンにはリック・バーンズという恋人がいて、ヨリを戻す気は毛頭無かった。リックは実業家で町の名士になっており、スーザンは彼との再婚を決めていた。フランクはダニーに、リックにもチャンスを与えるよう説いた。土曜日のセーリングにダニーと2人で出掛ける予定を入れていたフランクは、スーザンからリックも連れて行くよう頼まれた。フランクは難色を示すが、結局は承諾した。フランクは恋人のダイアンに指摘され、リックに新しいパパが出来ることへの不安を吐露した。
土曜日、フランクはリックに、サウスポートへ引っ越してきた理由を尋ねた。リックは投資した製薬会社が血圧の新薬を出して株価が上昇したこと、人生を見直したくなったことを語った。フランクはダニーに、リックとスーザンの結婚式に出るよう説いた。ダニーが渋ると、フランクは自分も出ることを約束して承諾させた。結婚式の当日、フランクはダイアンを伴って出席した。レイ・コールマンという男が姿を見せると、リックは顔を強張らせた。「久しぶりだな」とレイが声を掛けると、彼は「話をしなきゃな」と告げた。
リックはフランクからレイとの関係について問われ、昔の仕事仲間だと答えた。彼はレイと2人になり、「お前から来てくれたのは都合がいいが、タイミングが悪い。町の外に宿を取る。こっちから連絡する」と告げた。新婚生活を始めたリックはダニーとキャッチボールをするが、些細なことで口論になった。リックからボート製作を依頼されたフランクは、その仕事を辞めてほしいとダニーに言われる。彼は木製ボートの注文が決して多くないことを正直に話し、仕事を断るのは無理だと述べた。
朝食を取るためにダイナーを訪れたフランクは、レイに気付いて声を掛けた。「仕事のついでだと言っていたのに、まだ町にいたんだね」とフランクが言うと、レイは「区切りが付いたので、そのまま休暇にしたんだ」と告げた。店の前を通り掛かったリックは、2人が話している様子を目撃した。リックはレイが宿泊するモーテルへ乗り込み、「何をしてた?」と怒鳴った。彼が「どうして町に来るなと言ったか分かるか。お前は喋り過ぎる」と言うと、レイは不敵な笑みを浮かべて「お喋りなのは俺だけじゃない」と語った。
レイはリックに、「刑務所にいる間、俺たち3人はお前が俺たちの金をどう使っているのか話してた」と言う。「トニーとジョニーはどうしてる?」とリックが尋ねると、レイは「分け前でも送るのか?お前は弁護士を見つけて上手く抜け出したが、そこまでだ」と述べた。「ジャック」と呼ばれたリックは、「俺はリックだ」と苛立って修正した。彼は「また電話する」と告げ、レイに「まだ待たせるのか」と抗議されると「金の用意には時間が掛かる」と語った。
スーザンの妊娠が明らかになり、リックは彼女と抱き合って喜んだ。母の妊娠を知ったダニーはショックを受け、自室に入ってフランクに電話を掛けた。フランクは不在で、電話に出たのはダイアンだった。ダニーはダイアンに、「戻ったら迎えに来てほしいと伝えて」と頼む。スーザンは「赤ん坊が産まれても貴方への気持ちは変わらないわ」と言うが、ダニーは受け入れなかった。リックはレイに電話を入れ、「金が用意できたから迎えに行く」と告げた。彼はスーザンに、「用事があって町へ行く」と述べた。
ダニーは窓から部屋を抜け出し、車の後部座席に隠れた。リックは全く気付かず、車でモーテルへ向かう。彼は売春婦のパティーと会っていたレイを乗せて出発し、隙を見て殺害した。リックは煉瓦工場でレイの遺体を焼却し、証拠を消して犯罪を隠蔽した。ダニーはリックに気付かれずに車を抜け出し、フランクの元へ走った。リックが帰宅すると刑事が来ており、スーザンはダニーが家からいなくなったことを話す。刑事はフランクの元にダニーがいること、リックが男を殺したと証言していることを説明した。
スティーヴンスは警察署でダニーから話を聞くが、嘘をついていると確信していた。スーザンも妊娠の腹いせに嘘をついていると決め付け、ダニーを叱り付けた。煉瓦工場や車には証拠が残っておらず、ダニーは家へ帰された。夜、リックはスーザンが寝静まってからダニーの部屋へ行き、黙っているよう脅しを掛けた。翌日、彼はフランクの工房へ行き、ボートの手付金を支払おうとする。フランクは受け取りを拒否し、「家に帰ってから、ずっと考えていた。ダニーは嘘つきだが、俺には一度も嘘をついたことが無い」と告げた。
フランクはダニーを信じると決め、学校が終わった彼を自分の家へ連れ帰ろうとする。スーザンはフランクが親権を欲しがっているだけと決め付け、相変わらずダニーの言葉を信じていなかった。フランクは警察署に連行され、ダニーはリックとスーザンの元へ連れ戻された。フランクはスティーヴンスにリックの犯行を訴えるが、全く相手にされなかった。ダイアンはフランクが過去を引きずっているだけだと決め付けて批判し、「一緒にはいられない」と彼の元を去った。
フランクは親権裁判を起こし、ダニーをリックから引き離そうとする。リックはスーザンに、「ダニーが望むなら、フランクと暮らすのが全員にとって幸せかもしれない」と告げる。しかしスーザンが「ダニーは私の子よ」と激しく嫌がったので、「どこにも行かせないよ」と約束した。彼はダニーの部屋へ行き、「何かあればフランクに危険が及ぶ」と脅しを掛けた。証人として裁判に臨んだダニーは、「リックが人を殺したのは作り話」と嘘をつく。彼は「両親のどちらと暮らしたいか」と判事に訊かれ、「ママとリックの元で暮らす」と答えた。彼はフランクとの面会日も、会おうとしなかった。フランクはレイについて調べ回り、パティーの存在に辿り着いた…。

監督はハロルド・ベッカー、原案はルイス・コリック&ウィリアム・S・コマナー&ゲイリー・ドラッカー、脚本はルイス・コリック、製作はドナルド・デ・ライン&ジョナサン・D・クレイン、共同製作はジェームズ・R・ダイヤー、製作協力はアンソン・ダウンズ&リンダ・ファヴィラ&ジョージ・ワウド、撮影はマイケル・セレシン、美術はクレイ・グリフィス、編集はピーター・ホーネス、衣装はボビー・リード、音楽はマーク・マンシーナ。
主演はジョン・トラヴォルタ、共演はヴィンス・ヴォーン、テリー・ポロ、スティーヴ・ブシェミ、マット・オリアリー、ルーベン・サンチャゴ=ハドソン、スーザン・フロイド、アンジェリカ・トーン、ジェームズ・ラシュリー、レベッカ・ティルニー、デブラ・ムーニー、リーランド・L・ジョーンズ、ウィリアム・パリー、スザンヌ・ナイストロム、ジョージ・クリスティー、デヴィッド・ブリッジウォーター、タイト・ルパート、ダリル・ウォーレン、ホームズ・オズボーン、クリス・エリス、ザック・ハナー、ポール・リゴティーノ、ニック・レーレン他。


『訣別の街』『マーキュリー・ライジング』のハロルド・ベッカーが監督を務めた作品。
脚本は『ゴースト・オブ・ミシシッピー』『遠い空の向こうに』のルイス・コリック。
フランクをジョン・トラヴォルタ、リックをヴィンス・ヴォーン、スーザンをテリー・ポロ、レイをスティーヴ・ブシェミ、ダニーをマット・オリアリー、エドガーをルーベン・サンチャゴ=ハドソン、ダイアンをスーザン・フロイド、パティーをアンジェリカ・トーンが演じている。

リックはスーザン&ダニーに対し、本性を隠して接しているとか、犯罪の隠れ蓑として利用しているとか、そういうことではない。本気でスーザンに惚れて、ちゃんと家族として暮らしていこうと考えている。
実際、レイが現れるまでのリックには、何も問題は無かったのだ。
リックに見つかって金を要求されていなければ、そのまま彼は「町の名士」「家族を大切にする夫で父親」であり続けただろう。
時間が経過すれば、ダニーとの不和も解消されたかもしれない。

レイの登場でリックの「平穏で幸せな生活」は破綻したが、一時的ではあってもスーザン&ダニーとの暮らしには本物の愛があったように感じられる。
だけどストーリー展開を考えると、「リックは悪人だけど、スーザン&ダニーへの愛は本物だった」という要素なんて、邪魔でしかないでしょ。
こいつが「憐れむべき犯罪者」として退場するならともかく、そうじゃないわけで。
唾棄すべきクソ野郎として退場することになるんだから、徹底して悪党として描いておいた方が何かと得策でしょうに。

リックがダニーに声を荒らげるシーンはあるが、それも「悪人としての本性が出た」ってことではなくて、自分を父親として受け入れてくれないことに対する苛立ちだと感じる。
スーザンが妊娠してリックは大喜びするが、これも「家族として暮らしていこう」という思いがあってのことだ。
ただ、そんな風に思っていたら、リックはダニーが車に隠れていることに気付かずにレイを殺す直前、「ダニーは俺の子じゃない。クソガキだが面倒を見ないと仕方がない」と吐き捨てる。急にリックを「ヘドが出るようなクズ野郎へ変化させるのだ。
じゃあスーザンとの再婚は何だったのかと。スーザンのことは本気で好きだけど、ダニーは邪魔だと思っているってことなのか。
どっちにしても、中途半端なだけだわ。

前半でスーザンの妊娠が明らかになり、リックと共に喜び合う展開が訪れた時に、「どうやって上手いコトに着地させるつもりなのか」と首をかしげてしまった。
その段階で、リックが過去に犯罪に加担していることは明確な形で匂わされている。なので、リックとスーザンの幸せな夫婦生活が続くことは有り得ない。
そして生まれてくる子供は、犯罪者の子供ってことになる。だからって安易に中絶させるわけにも行かないだろう。
どっちにしても、全面的なハッピーエンドという絵が何も思い浮かばないのだ。

フランクがスーザンをヨリを戻したがっているわけではないし、スーザンがフランクに未練を抱いているわけでもない。どちらにも新しいパートナーがいて、円満に暮らしている。
だから、「事件が解決し、家族が元の状態に戻る」という展開は使えない。
スーザンの妊娠も含めて、あえてセオリーを嫌い、既存の作品との違いを見せようとしたのかもしれない。
しかしドラマとして上手く機能させられていないので、結果としては失敗だったと言わざるを得ない。

ダニーがリックの車に隠れる展開があるが、そんな行動を取る理由がサッパリ分からない。
隙を見て部屋を抜け出したんだから、そのままフランクの元へ向かうなら分かるのよ。だけどリックの車に隠れても、フランクの家へ行くことは出来ないからね。
車に隠れるってことは、「リックの行動を探る」という目的があるとしか考えられない。
でも、それまでに「ダニーはリックが悪人だろうと怪しんでいて、秘密を突き止めようと目論んでいる」みたいな描写は皆無だったでしょうに。

刑事は「ダニーがリックが男を殺したと言っている」と説明した後、リックに警察署へ来るよう要請している。なので事情聴取するのかと思いきや、なんとスティーヴンスがダニーから話を聞いている部屋にリックとスーザンを連れて来る。
幾ら「ダニーが嘘をついている」と決め付けているにしても、さすがにメチャクチャだろ。
リックがホントに殺人犯なら(もちろん実際に殺人犯なのだが)、警察は犯人の前で目撃者に証言させている形になるわけで。ダニーが怖がってホントのことを言えなくなる恐れもあるでしょうに。
少なくとも動揺はするから冷静な証言は難しくなる恐れはあるし、幾ら警察が無能だからってドイヒーすぎるぞ。

スーザンがリックにベタ惚れしている時点で、取り返しの付かない状態と言ってもいいぐらいだ。独り者なら本人の問題だけで済むけど、息子がいるわけで。
しかも、全面的にリックの肩を持ち、息子の言葉を信じずに叱責するわけで。ただでさえ寂しさを感じているダニーにしてみれば、母親に見捨てられたような形になってしまう。
後からどれだけ詫びたとしても、決して消えない大きなしこりを残すことになるぞ。
再婚相手の男に虐待された子供が、それを訴えたのに母親に信じてもらえず逆に叱責されるようなケースがあるけど、それと似たようなモンでしょ。

スーザンが息子を全く信じない時点で、ヒロイン失格と断じたくなる。自分の息子ではなく、再婚相手を全面的に優先しているわけで。
本来ならスーザンも、リックに騙されている被害者という立場のはずだ。でもリックを精神的に追い込んでおり、完全に加害者の側に立っている。
「リックがレイを殺したことを知っているのはダニーと観客だけ」という状況は、本来なら観客をハラハラさせるために機能するべきだ。
でも実際のところ、ダニーの言葉を全く信じないスーザンやスティーヴンスやダイアンに対して、イライラする気持ちを強めるだけだ。

完全ネタバレを書くと、終盤に入ってリックはフランクを始末するために昏倒させ、ボートハウスに火を放つ。
テレビのニュースで事件を知ったダニーがリックの仕業だと訴えても、まだスーザンは信じていない。帰宅したリックが手に火傷を負っているのを見て、ようやく「ダニーの言葉は真実かもしれない」と感じ始める。
もうね、色々と遅すぎるんだよね。
で、前述した妊娠の問題はどう解決するのかと思ったら、「リックに突き飛ばされた衝撃で流産してしまった」という形にしてある。
でも、やっぱりハッピーエンドにならないわけで。予想通り、まるでスッキリしない結末になっちゃってんだよねえ。

(観賞日:2022年9月11日)


第22回ゴールデン・ラズベリー賞(2001年)

ノミネート:最低主演男優賞[ジョン・トラヴォルタ]
<*『ドメスティック・フィアー』『ソードフィッシュ』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会