『ドグマ』:1999、アメリカ

ニュージャージー州のアスドリー・パークで、ホッケーのスティックを持った少年3人組がホームレスの男を襲撃した。同州レッドバンクにある聖ミカエル教会では、グリック枢機卿が「カトリック・ワオ」キャンペーンの記者発表を行った。カトリックの古いイメージを刷新するために教会をリニューアルすると宣言したグリックは、磔のキリスト像に代わる笑顔でポップなキリスト像を披露した。
ウィスコンシン州ミルウォーキーの空港。ロキは神の存在を知りながらも無心論者を装い、尼僧をからかっている。ロキが空港に来たのは、「空港では人間の良い面が見られる」と主張する友人バートルビーに誘われたからだ。空港のテレビでは、TVリポーターのグラント・ヒックスがグリック枢機卿の始めた「カトリック・ワオ」キャンペーンについて伝えている。
バートルビーはロキに、何者かが送り付けてきた記事を見せた。そこには、「カトリック・ワオ」キャンペーンについての説明が記されていた。グリック枢機卿はカトリックの人気確保のため、4日後のセレモニーで聖ミカエル教会のアーチをくぐると全ての罪が許される措置を取ることにしたという。ロキとバートルビーは、それが天国へ帰還する絶好のチャンスだと考えた。
イリノイ州マクヘンリーで中絶クリニックを営んでいるベサニー・スローンは、中絶を禁じるカトリック教会に寄付をしている。環境保護局の職員を名乗る男アズラエルはレイノルズ夫人の家を訪れ、ホッケー少年3人組と共に彼女を殺害する。アズラエルはエアコンの風を浴びて快楽を感じた後、もうすぐ天使がキリストの末裔に接触することを3人組に告げ、その末裔の殺害を命じた。
ベサニーの前に大天使メタトロンが現れ、聖ミカエル教会へ行ってロキとバートルビーが天国へ戻るのを阻止するよう告げる。かつて死の天使ロキは友人バートルビーの意見に従い、神の意思に逆らって虐殺をやめた。ロキとバートルビーは天国を追放され、堕天使となった。2人が天国に戻ると、「神は過ちを犯さない」という原則が壊れ、世界が滅亡するというのだ。いきなりの出来事に戸惑いを隠せないベサニーに、メタトロンは「2人の預言者が同行する」と告げて姿を消した。
ベサニーは少年3人組に襲撃されるが、ジェイとサイレント・ボブという2人組に救われる。ベサニーはニュージャージー州へ戻るという彼らが預言者だと気付き、ガイド料を支払って同行することにした。一方、ロキは天国に戻る前に神の怒りを示そうと考え、銃を購入する。バスに乗り込んだロキは不倫カップルを発見し、姦淫の罪を犯した者として射殺した。呆れるバートルビーに、ロキは「もし自分の行為が間違っていても、アーチをくぐれば無罪になれる」と告げる。
ベサニーはジェイとサイレント・ボブの態度に怒って別行動を取ろうとするが、そこへ空から全裸の黒人ルーファスが落ちてきた。ルーファスは、自分がキリストの13番目の使徒だと告げた。そして彼は、自分が黒人だったために聖書に記されていないことに不満を述べ、キリストが黒人だったことも修正したいと語る。
ベサニーを追跡していた3人組は、全てをアズラエルに報告した。アズラエルはベサニー達を始末するため、ゴルゴタンを呼び寄せることにした。ジェイとサイレント・ボブはストリップ・クラブへ行き、ベサニーとルーファスも後を追った。ルーファスは踊り子を見て、それが芸術の女神セレンディピティーだと気付いた。
ロキとバートルビーは、「金の牛ムービー」という人気アニメキャラクターの版権で大儲けしているコンプレックス社の重役会議に乗り込んだ。2人はコンプレックス社が偶像崇拝を行っていると批判し、ウィットランド社長や重役達の罪を暴いていく。ロキは、汚れの無かった女性重役プライスを除く面々を全て射殺した。
ルーファスはベサニー達に、セレンディピティーを紹介した。セレンディピティーは自分が多くの映画原案を担当したのに名前が出ないことに不満を抱いて地上に降りたが、スランプ状態だと語った。そこへウンコの化身ゴルゴタンが出現するが、サイレント・ボブが消臭スプレーで退治した。セレンディピティーはゴルゴタンから情報を聞き出す役目を引き受け、ベサニー達を出発させた。
ニュージャージー行きのバスに乗り損ねたロキとバートルビーの前に、地獄の友人アズラエルが現れた。アズラエルは2人に、天国でも地獄でも見つけたら殺すと怒っていることを告げ、目立たぬよう行動しろとアドバイスした。ベサニー達はニュージャージー行きの列車に乗り、ジェイとサイレント・ボブは何も知らずに偽名を使うロキ達と親しくなった。
ベサニーはバートルビーと親しくなり、酔った勢いで旅の目的を語る。バートルビーはベサニーを殺そうとするが、そこへルーファスが現れ、サイレント・ボブも加わって乱闘となる。サイレント・ボブは、ロキとバートルビーを列車から外へ放り投げた。バートルビーは初めて人間への怒りを覚え、邪魔する奴らは殺すと息巻いた。ロキは「ベサニーもジェイやサイレント・ボブ達もいい奴らだ」と言うが、バートルビーは「アーチをくぐれば無実になる」と言うことを聞かなかった。
ルーファスはベサニーに、「マリアがキリストの後にも子供を出産しており、君はキリストの遠い遠い親戚になる」と話した。ベサニー達の前にメタトロンが現れ、神がお忍びで地上に降りたまま戻って来ないと告げる。メタトロンは、ロキ達に入れ知恵した奴が関与しており、神は全能の力を奪われた状態にあるに違いないと語った。ジェイはメタトロンに対し、グリックに教会を閉めさせれば万事解決だと告げる。ベサニー達はグリックにセレモニー中止を申し入れるが、全く相手にされなかった。
バーで困り果てていたベサニー達の前に、アズラエルが出現する。そこへセレンディピティーが駆け付け、悪魔アズラエルこそが黒幕だと告げた。かつて善の天使と悪の天使が対立した時に天使アズラエルは戦おうとせず、そのために神によって地獄へ落とされていた。一方、バートルビーはロキを伴ってセレモニーの場に現れ、集まった人々を偽善者と糾弾して虐殺する・・・。

監督&脚本はケヴィン・スミス、製作はスコット・モシャー、共同製作はローラ・グリーンリー、製作総指揮はジョナサン・ゴードン、撮影はロバート・イェーマン、編集はケヴ&スコット、美術はロバート・“ラットフェイス”・ホルツマン、衣装はアビゲイル・マーレイ、視覚効果監修はリチャード・“ディッキー”・ペイン、音楽はハワード・ショア、音楽監修はランドール・ポスター。
出演はベン・アフレック、マット・デイモン、リンダ・フィオレンティーノ、サルマ・ハエック、クリス・ロック、アラン・リックマン、ジェイソン・ミューズ、ジェイソン・リー、ジョージ・カーリン、バド・コート、アラニス・モリセット、ジェフ・アンダーソン、ブライアン・オハローラン、ジャニーン・ガラファロ、ベティー・エイバーリン、ドワイト・イーウェル、グウィネヴィア・ターナー、ブライアン・ジョンソン、ウォルター・フラナガン、ジャレッド・フェニグワース、キタオ・サクライ、バレット・ハックニー他。


カトリックをネタにしたコメディー映画。
ケヴィン・スミスはデヴュー作『クラークス』の前に本作品の脚本を書き上げていたが、ちゃんとした特殊効果を使いたいということで製作を後回しにしていたらしい。
ロバート・ロドリゲスがケヴィン・スミスから「監督やらないか」と誘われて「面白いけどアンタが自分で撮るべきだ」と返したらしいが、正解だと思う。

バートルビーとロキを演じたのは、ケヴィン・スミスと仲良しのベン・アフレック&マット・デイモン。
ベサニーをリンダ・フィオレンティーノ、セレンディピティーをサルマ・ハエック、ルーファスをクリス・ロック、メタトロンをアラン・リックマン、アズラエルをジェイソン・リー、グリックをジョージ・カーリンが演じている。
他に、ホームレスをバド・コート、神をアラニス・モリセット、銃砲店の店主をジェフ・アンダーソン、グラント・ヒックスをブライアン・オハローラン、ベサニーの友人リズをジャニーン・ガラファロが演じている。
ケヴィン・スミス監督作品なので、彼自身が演じるサイレント・ボブとジェイソン・ミューズが演じるジェイも登場する。

神や天使や悪魔が登場し、世界の終わりが云々という話が繰り広げられるのだが、スケール感はこれっぽっちも無い。
なぜなら、ケヴィン・スミスはオタクだからだ。
ジェームズ・キャメロンのようにオタクから脱却した監督ではなく、タランティーノのようにオタクのままで監督をやっているからだ。
彼はヴュー・アスキュー・ワールドという自分の世界で王様をやっているのであり、そこを超越したスケールの大きいことは分からないのだ。

オタク監督なので、それらしいネタが色々と入っている。
例えばベサニーがダイナーでジェイ&サイレント・ボブにガイド料を支払って案内を頼むシーンで、ジェイは「俺はハン・ソロでお前(サイレント・ボブ)はチューイ、彼女はベン・ケノービだ」と言うが、もちろん『スター・ウォーズ』のメンツに例えている。
場面転換がワイプなのも『スター・ウォーズ』を意識しているんだろうか。

少年3人組の1人は、コミック『ヘルボーイ』のTシャツを着ている。
教会に来たバートルビーは警官に「俺を怒らせるな、後悔するぞ」と言うが、これはTVシリーズ『超人ハルク』の決め台詞。
神がベサニーを蘇らせる方法についてメタトロンが「ワックスをかけて、拭き取る」と動きを付けて説明するが、これは映画『ベスト・キッド』からの引用だ。

ネタにされているモノの中で最も印象に残るのは、ジョン・ヒューズだろうか。
サイレント・ボブは、ジョン・ヒューズ作品の舞台がそこだという理由で、イリノイ州シェアマーという町に行こうとしていた設定だ(そして架空の場所だと知る)。
ジェイはヒューズ作品を酷評し、「オッパイは出てきてもアソコは出てこない」と扱き下ろす。
さらにジェイは、『ブレックファスト・クラブ』を「バカ高校生のどうしようもない話」、『ときめきサイエンス』を「セックスしたくてウズウズしてる女が出てくるがPG指定なのでなかなかセックスしない」と批評。
女はイケてる奴ばかりが出てきて、男はショボい奴が揃っているがジャド・ネルソンだけは別で、ドラッグの売人は劇中に出てこないと解説する。

セレンディピティーは、ヒットした20本の映画の内、19本は自分の原案だと話す。
例外の1本は留守番の男の子が強盗を退治する映画で、悪魔に魂を売った奴が作ったクソ映画だという。
その映画は、ジョン・ヒューズが脚本と製作を担当した『ホーム・アローン』のことだ。
攻撃しているようにも見えるが、ケヴィン・スミスがジョン・ヒューズ作品から大きな影響を受けたってことだろう。

キリスト教を冒涜しているということでカトリック教徒が抗議のデモを繰り広げたらしいが、それは解釈が完全に間違っている。
これは、むしろキリスト教を守ろうとする姿勢を示した映画だ。
そもそも、ケヴィン・スミス監督はカトリック教徒なのだ。だからこそ彼は、カトリック教会が勝手に教義を捻じ曲げたり、都合良く利用したりすることを批判し、一方で信仰心の大切さを本作品の中で訴えている。
最後に神が救世主として登場し、ベサニーが信仰を取り戻すことからも、それは明らかだろう。

冒頭、お断りとして長々と字幕が表示される。
製作会社からのお願いとして、「これはコミック・ファンタジーだから気楽に楽しんで下さい。物議を醸すようなことがあっても偶然です」などと綴った後、「審判を下せるのは神だけです」と来る。
もちろん皮肉である。抗議に対して詫びる気持ちなんて、これっぽっちもありゃしない。
もちろん、詫びる必要など無いし。

語りが多いのはオタク監督らしい所だが(タランティーノ映画でも無駄話が多いもんな)、何を皮肉っているのかということを伝えることに囚われすぎて、説明臭くなっている部分が目立つ。
掛け合いにしたり動きを付けたりして、変化を加えたりテンポを良くしたりということは出来ると思うんだが。
ウンコの化身みたいに、もっとヴィジュアルのネタを増やして欲しかったな。

カトリックの偽善を批判するために偽悪をやっているという感じなのだが、どうもコメディーとしての計算が上手くないんじゃないかな。
コメディーのはずなのに、変にマジになっている部分が多いという印象を受けるんだよな。
たぶんケヴィン・スミス監督は根が真面目な人で、だから笑いを作ることよりも批判しようとする意識が強く出すぎてしまったんだろう。

(観賞日:2006年4月13日)


第20回ゴールデン・ラズベリー賞(1999年)

ノミネート:最低助演女優賞[サルマ・ハエック]
<*『ドグマ』『ワイルド・ワイルド・ウエスト』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会