『地球が静止する日』:2008、アメリカ&カナダ

1928年、インドのカラコルム山脈。吹雪の中でテントを張っていた男は、外に出て山を登り始めた。しばらく行くと、彼は自分より大きな 謎の球体を発見した。ピッケルで突き刺してみると、表面は軽く力で割れた。その中から放たれた閃光を浴びて、男は気を失った。彼が 意識を取り戻すと、球体は消えていた。ふと見ると手袋に穴が開いており、それを脱ぐと掌に円形の火傷の跡が残されていた。
現在のアメリカ。ヘレン・ベンソンはプリンストン大学で地球外生物学者として勤務している。家に帰れば、彼女は亡くなった夫の連れ子 ジェイコブと2人暮らしだ。ある夜、帰宅した彼女の元に電話が入り、知らない男が「緊急事態なので迎えに行く」と告げた。直後、彼女 の家には政府の人間が大挙して現れた。ヘレンは「政府が貴方の身柄を確保します」と言われ、友人イザベルにジェイコブを預けた。 ヘレンを車に乗せた男は「国家の危機だ」と言うが、詳細については彼も知らされていなかった。
ヘレンが軍用ヘリに乗せられると、他にも核物理学者ユセフを始め、天文学者や地質学者など様々な分野の専門家が集められていた。ヘリ はニュージャージー州のフォート・リンウッド陸軍士官学校で着陸した。ヘレンは友人であるNASAの科学者マイケル・グレイニアに声を 掛けられ、他の科学者と共に会議室へ案内された。マイケルはヘレンたちに、太陽系を移動する正体不明の物体が発見されたこと、地球に 接近しつつあること、このままではマンハッタンに衝突することを明かした。
移動するスピードが速いためにミサイルで撃ち落とせる可能性は低く、衝突地域の住民を退避させるには時間が無いことをマイケルは説明 した。衝突まで78分しか残されておらず、二次災害を防ぐのが精一杯だという。ヘレンたちは軍用ヘリに乗り込み、衝突地域の近くで待機 した。衝突予想時刻になり、宇宙から現れたのは光の球体だった。球体はスピードを緩め、ゆっくりとセントラル・パークに着陸した。 警官隊や軍隊が周囲を包囲し、警戒態勢を取った。
閃光を放った球体からは、二足歩行の生命体が現れた。ヘレンは歩み寄ろうとするが、一人の兵士が生命体を狙撃する。生命体が倒れた 刹那、球体から巨大なロボットが出現して警官隊と軍隊の動きを止めた。ヘレンやマイケルたちは生命体を軍の医療施設に運び、医師に 手術してもらう。生命体の体表を覆う組織が剥がれていき、医師はサンプルを採取した。外皮を全て剥がすと、生命体は人間そっくりの姿 になった。生命体は驚異的なスピードで成長し、近付いたヘレンに英語で「恐れるな」と告げた。
大統領と副大統領は避難し、国防長官のレジーナ・ジャクソンが指揮を担当することになった。ジャクソンは側近のドリスコルたちから、 小型の球体が世界各地に着陸したこと、アメリカの防衛システムを司る衛星が球体によって通信不能に陥ったことを知らされた。彼女は 医療施設へ行き、サンプルを調べているヘレンと遺伝子学者イケガワに会った。ヘレンは生命体が急激なスピードで成長していること、 地球で生きるために人間の姿に変貌したことを説明した。
生命体はクラトゥーと名乗り、文明の集団を代表して地球へ来たことを告げた。ジャクソンが目的を尋ねると、彼は「世界のリーダーたち が集まる場所で話す」と告げた。ジャクソンは各国の代表者を集めることを拒否した。彼女はマイケルたちに、クラトゥーに尋問するため 薬を注射するよう命じた。マイケルが拒否すると、ヘレンが「私がやります」と言う。しかし彼女はクラトゥーに薬を打ったように装い、 耳元で「逃げて」と囁いた。クラトゥーは特殊能力で警備の面々を気絶させ、施設から逃亡した。
ペンシルヴァニア駅のトイレで倒れたクラトゥーは、駅員に「薬はヘレンが持っている」と告げた。連絡を受けたヘレンは、ジェイコブを 車に乗せて駅へ赴いた。「貴方は味方なの?」と訊く彼女に、クラトゥーは「地球の友人だ」と告げた。世界中の人々は球体の出現を破滅 の前兆と見て、パニックに陥っていた。アメリカ陸軍は、セントラル・パークに留まるロボットを戦闘機で攻撃した。しかし戦闘機は迎撃 を受け、操縦不能になって墜落した。
ヘレンはクラトゥーを車に乗せ、彼が指示する場所へ向かう。非難する人々を見たジェイコブが「戦えばいいのに」と言うと、ヘレンは 「エイリアンは敵じゃない」と告げる。ジェイコブは「でも分からないんだから殺した方がいい。パパならそうする」と述べると、ヘレン は「パパなら他の方法を考えたわ」と言う。するとジェイコブは「僕の方がパパと長くいた」と反論した。クラトゥーはジェイコブから 意見を求められ、「逃げても戦っても、何をしても無駄だ」と口にした。
ジェイコブがトイレに行っている間に、クラトゥーは彼の父親のことをヘレンに尋ねた。ヘレンはジェイコブが幼い頃に母親が死んだこと 、父親は自分と再婚したが1年前に亡くなったことを語った。クラトゥーは「地球を救うために来た」とヘレンに言い、マクドナルドまで 送ってもらい、そこで中国人の老人ウーと会った。ウーは、70年前から地球に潜入していたクラトゥーの同胞だった。
ウーが「ここは敵対的な星だ」と言うと、クラトゥーは「しかし説得できると思っていた」と告げる。ウーは「理性的な連中ではない。私 は70年間、彼らと共に暮らしてきた。説得しても無駄だ。破壊的な連中だよ」と述べる。しかしクラトゥーが「では決まりだ。すぐに処置 を実行する」と告げて一緒に出発する準備を促すと、ウーは「ここに残る」と言う。彼はクラトゥーに「彼らは破壊的だが、私は人間と して生きられることを幸せだと思っている」と告げた。
軍は巨大なパネルを用意し、ロボットを閉じ込めた。クラトゥーはヘレンの車に乗せてもらい、ニュージャージー州ハイランドに赴いた。 彼が森に入っていくと、気になったヘレンはジェイコブを車に残して後を追った。ヘレンが行くと、クラトゥーは泉の前に立っていた。 すると、泉から球体が浮上した。その球体にクラトゥーが触れると、世界各地に落ちた球体が反応し、閃光を放った。
全ての球体は光を放ちながら、一斉に宇宙へ飛び去った。ヘレンが「何が起きているのか説明して」と求めると、クラトゥーは「人類は 地球を滅ぼそうとしている。君たちが変わるのを待っていたが、もう限界だ。地球を滅ぼすわけにはいかない」と言い、人類を滅亡させる 処置を施すことを明かした。クラトゥーの考えが変われば地球を救えると感じたヘレンは、「世界中の指導者に会わせてあげる」と言う。 彼女はクラトゥーを車に乗せ、ノーベル賞学者バーンハート教授の家へと向かった…。

監督はスコット・デリクソン、1951年版脚本はエドマンド・H・ノース、脚本はデヴィッド・スカルパ、製作はアーウィン・ストフ& グレゴリー・グッドマン&ポール・ハリス・ボードマン、撮影はデヴィッド・タッターサル、編集はウェイン・ワーマン、美術は デヴィッド・ブリスビン、視覚効果監修はジェフリー・A・オークン、衣装はティッシュ・モナハン、音楽はタイラー・ベイツ。
出演はキアヌ・リーヴス、ジェニファー・コネリー、キャシー・ベイツ、ジェイデン・スミス、ジョン・クリーズ、ジョン・ハム、カイル ・チャンドラー、ロバート・ネッパー、ジェームズ・ホン、ジョン・ロスマン、スニータ・プラサド、ファン・リーディンジャー、サム・ギルロイ、タニア ・シャンプー、ルキヤ・バーナード、アリセン・ドーン、デヴィッド・ルイス、ロイド・アダムス他。


ロバート・ワイズが監督した1951年の映画『地球の静止する日』のリメイク作品。
監督は『ヘルレイザー/ゲート・オブ・インフェルノ』『エミリー・ローズ』のスコット・デリクソン。
クラトゥーをキアヌ・リーヴス、ヘレンをジェニファー・コネリー、ジャクソンをキャシー・ベイツ、ジェイコブをジェイデン・スミス、 バーンハートをジョン・クリーズ、マイケルをジョン・ハム、ドリスコルをカイル・チャンドラー、陸軍大佐をロバート・ネッパー、ウー をジェームズ・ホンが演じている。

冒頭、1928年のインドの雪山で、キアヌ・リーヴスの姿をした山男が球体の光を浴びるシーンが描かれる。
これ、一応は「その時に球体ががキアヌのデータを採取しており、現在のアメリカに現れたエイリアンは、それを基にしてキアヌの姿に 変身した」ということになっている。
ただし、冒頭シーンが無かったとしても、何の支障も無い。
それが無くて、「過去にエイリアンが地球に来て人間のデータを集めていた」というのをセリフだけで説明しても、あまり大差が無い。
冒頭シーンの意味は、その程度のモノになっている。

いきなり見知らぬ男から「迎えに行く」と電話があり、物々しい雰囲気の中で大勢の政府関係者が家に現れ、有無を言わさず「身柄を確保 します」と告げてヘレンを連行するという導入部は、緊迫感を高め、不安を煽る。
だが、そこがピークで、後は物語が進むに従ってテンションが落ちていく。
謎の物体が地球に迫っていることに気付くのはアメリカだけで、他の国は球体が墜落するまで全く知らない。
アメリカでさえ、衝突まで数時間というギリギリの段階まで気付いていない。
謎の物体が衝突すると地球規模で被害が出ると想定されているのに、アメリカは全世界に危機を伝えようとはしない。残り78分という段階 になって科学者を集めるが、衝突を防ぐ手立ては何も出て来ない。「限られた時間の中で様々な対策を取るが全て失敗に終わった」と いうことではなく、科学者たちは何もせずに衝突を見守るだけ。球体から生命体が現れると、なぜかヘレンだけがゆっくりと歩み寄り、 なぜか誰も彼女を止めようとしない。
命令系統が全く機能していないのだ。

大統領と副大統領が避難し、国防長官が全権を任されて指揮に当たるというのは不可解極まりない。
大統領が登場しないのはオリジナル版を踏襲したのかもしれないが、そんな部分を踏襲する必要は無い。
ジャクソンが強権的でクラトゥーを敵だと決め付けているのは、風刺か何かなのかもしれないが、国防長官が大統領の意見も聞かずに政府 や軍隊を全て動かしているのは不自然。
アメリカが各国に対して情報を隠しているのも、政治的な風刺ってことなんだろうか。

ウーはクラトゥーに「人間は破壊的で、説得しても無駄だ。しかし私は人間として生きられることを幸せだと思っている」という考えを 語るが、何が言いたいのかハッキリしない。そこは報告内容を変えた方が良かったのではないか。
クラトゥーは到着して早々に撃たれているのだから、人間に対して良い印象は抱いていないだろう。だから彼が「人間は破壊的だから始末 すべきだ」と主張し、それに対してウーが「確かに破壊的だが、人間は変わることが出来る。もう少し猶予を与えるべきだ」という考えを 示す形にするのだ。
ようするに、ヘレンが本作品でやっている役割を、ウーに担当させた方がいいんじゃないかというのが私の考えだ。
ヘレンは「私たちは変わることが出来る。事態を変えることが出来る」と言っているが、説得力は皆無だ。今まで変わらなかった人類が、 そう簡単に変わるとは思えない。ただ単に、滅ぼされるのが怖いから、何の根拠も無いことを言っているだけにしか聞こえない。
しかしウーが「人間は変われる」と言えば、「同胞が言っているのだから」ということでクラトゥーに考えさせるだけの説得力が生じるはずだ。

ヘレンの息子を黒人にしている意味が全く無い。
ヘレンとジェイコブの関係を「血の繋がりが無い」というだけでなく違う人種にして、「それでも仲良く出来る」ということを強調 したかったのかもしれないが、あざとさが鼻に付く。
アメリカだけを舞台にしている分、そこで多民族をアピールしようということなのか。
中国人や日系人も登場するけど、あまり意味の無い人種設定だし。

ジェイコブの話に戻ると、こいつは単なる不愉快なクソガキである。
「エイリアンなんて殺せばいい」と言い、クラトゥーを始末してもらうためにタレ込み電話まで掛けているが、川に落ちそうになった時 に助けてもらうと、すぐに懐いている。その変わり身の早さも疎ましい。それに、ジェイデン・スミスだしなあ。
ジェイコブが父親の墓の前で泣き出しても全く同情できないのだから、相当のクソガキっぷりである。
しかしながら、彼とヘレンが涙を流して抱き合っている様子を見て、クラトゥーは「やはり人類を救おう」と翻意するのである。
それはヌルいよ。

思い通りにならないクラトゥーやゴート(巨大ロボット)を武力で制圧しようとするのはアメリカの傲慢だが、それが人類の出した答えと いう形になっている。
そうであるならば、そんな思い上がった人類をクラトゥーが滅亡させようとするのも当然だろう。
そのクラトゥーの考えを変えさせるのが、ヘレンとジェイコブの「血縁関係の無い親子の愛」というのは、あまりにも説得力に欠ける。
しかも、それでクラトゥーが「人類を救おう」と決意した直後、セントラル・パークへ向かった彼はアメリカ政府の爆撃によって殺されそう になるのである。
にも関わらずクラトゥーは人類を救おうとするのだが、それは全く解せない。「やはり人類は変わらないのだ」と感じて滅亡させてくれた 方がスッキリする。
バーンハートは「絶滅の危機に瀕した時、人類は初めて変われる」と言っているが、その絶滅の危機に瀕しているのに人間は愚かしい行動 ばかり取っており、何も変わろうとしていない。
危機が去った後で、人類が変わろうとする兆しが描かれるわけでもないし。

(観賞日:2011年6月8日)


第29回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低序章・リメイク・盗作・続編賞

 

*ポンコツ映画愛護協会