『タイタンの戦い』:2010、アメリカ

古代ギリシア時代。ある日、漁師のスピロスは海で棺を発見し、船に引き上げた。棺を開けると、母親と幼い赤ん坊が納められていた。母 は既に死んでいたが、赤ん坊の命はあった。スピロスは、その赤ん坊ペルセウスを妻マルマラと共に育てることにした。数年が経過し、 スピロスとマルマラの間にはテクラという娘が誕生した。12年後、一家は船で漁に出たが、魚は網に一匹も掛からない。地震や疫病が続く 中、スピロスは神への不平を口にした。
船を進めた一家は、アルゴスの兵士たちが崖にあるゼウス像を倒す現場を目撃した。スピロスは「神々への宣戦布告だ」と驚愕する。直後 、海から冥府の神ハデスが出現し、兵士たちを攻撃した。ハデスは振り向いて船を沈没させ、ペルセウスは家族を失った。神々の住む オリンュポス山では、ゼウスが十二神のアポロンやアテナたちを集めて会議を開いていた。そこへハデスが現れ、人間を懲らしめる許しを ゼウスに求めた。アポロンは反対するが、ゼウスは承諾した。
漂流していたペルセウスは、生き残ったアルゴス兵たちを乗せた船に拾われた。ペルセウスはアルゴスの都に到着し、宮殿へ連行される。 ケペウス王は戻った兵士たちを褒め称え、「人間の時代が来る」と高らかに宣言した。娘のアンドロメダは「大勢の命が失われた。全ては 神々の怒りを招いた結果」と非難するが、カシオペア王妃は「我々は神々を必要としない。例えば我が娘は、女神アフロディーテよりも 美しい。我らこそが神となった」と言い放った。
宮殿にハデスが出現し、ケペウスたちを震え上がらせた。家族の仇討ちに燃えるペルセウスが襲い掛かろうとすると、謎の女イオが制止 して「今はいけません。時を待つのです」と諭した。ハデスは神の力でカシオペアを老化させ、「10日後、怪物クラーケンを解き放ち、 アルゴスの都を消し去る。死を逃れる道は、王女を生贄に差し出すこと。破滅か、生贄か、どちらかを選べ」と通告した。それから彼は ペルセウスに視線を送り、「これはゼウスの意思だ。即ち、汝の父親の」と告げて姿を消した。
ペルセウスはアルゴス兵のドラコたちに捕まり、神の間諜として暴行を受ける。それを止めたケペウスは、「ゼウスの子なら我々を救え」 と要求する。ペルセウスが「無理です、俺は人間だ」と言うと、ケペウスは彼を牢に入れた。イオは面会に訪れ、「ずっと貴方を見守って きました。神と人間の中間に、貴方や私のような存在がいる」と告げた。彼女は「遠い昔、私はゼウスの求愛を拒み、年を取らない呪いを 掛けられた」と述べた。「俺はゼウスの子なのか」というペルセウスの問い掛けに、イオは「そうです」と答えた。
イオは「貴方の誕生には先のアルゴス王、アクリシオスが関わっています」と言い、詳細を語り始めた。アクリシオスは神々の暴虐に 耐えかね、反乱を起こしてオリュンポスを包囲した。ゼウスはアルゴス軍を滅ぼすことも出来たが、代わりに罰を与えることにした。彼は アクリシオスの妻ダナエーの寝床に行き、彼女を騙して関係を持ったのだ。アクリシオスは怒り狂い、ダナエーと赤ん坊を処刑することに した。アクリシオスは雷鳴を浴びる中、妻と赤ん坊を納めた棺を海に投げ込んだのだった。
イオはペルセウスに、「それ以来、ずっと貴方を見守り、神々の暴虐を終わらせる日を待ち続けていました。クラーケンを殺すのは貴方の 使命です」と告げる。ペルセウスが「俺が何者かなど、どうでもいい。俺が憎いのはハデスだ」と言うと、イオは「クラーケンを倒せば、 ハデスは力を失います」と教えた。娘を生贄にしたくないケペウスは、クラーケンを倒すための遠征部隊を組織した。ドラコ、ソロン、 イクサス、エウセビオスなど少数の部隊に、ペルセウスも参加した。
ドラコはイオから「クラーケンを倒す術はグライアイが知っています」と教えられるが、「あの魔女たちが住む地獄の山に、人間は近付く ことが出来ない」と告げる。イオは「人でなければ?」とペルセウスを使うよう促すが、ドラコは「口出しするな」と声を荒げる。部隊が 出発する際、狩人のオザルとクキュックも加わった。一方、ハデスは醜悪な容貌になってカリボスと名を変えたアクリシオスを訪ね、 「共通の敵ゼウスを倒そう」と持ち掛けた。彼はゼウスに騙されて冥府に送られて以来、ずっと機会を狙っていたのだ。
ハデスは「ゼウスを倒すため、今は力を蓄えている。力が溜まるまでは、汝が私の武器となれ」と言い、カリボスに神の力を与えた。彼は カリボスに、「ペルセウスを始末しろ」と命令を下した。森に入ったペルセウスは、オリュンポスの聖剣を拾った。ドラコは「神からの 贈り物だ。使うといい」と促すが、ペルセウスは「神の助けは要らん。アンタが使え」と剣を投げ渡した。部隊から離れたペルセウスの前 に、黒いペガサスが飛来した。イオはペルセウスに、「人間には乗れない」と告げた。
カリボスが森に現れ、ペルセウスを捜していた兵士たちを抹殺した。カリボスがペルセウスを襲撃していると、ドラコたちが駆け付けた。 ドラコに左手首を切断されたカリボスは、その場から逃走した。ペルセウスたちが追い掛けると、地中から2匹の巨大サソリが出現した。 ペルセウスたちは2匹を何とか倒すが、さらに巨大なサソリの群れに包囲される。そこへ死霊であるジンの部族が現れ、サソリの動きを 止めた。そこは彼らの土地だったのだ。
ジンに歩み寄ろうとしたペルセウスは、ハデスの放った毒に冒された。その頃、アルゴスの都では、プロコピオンという男が「ハデスを 信奉すべき」と主張し、人々を扇動していた。ジンのシーク・スリーマンはペルセウスの毒を治癒し、「神から解放してくれる者を待って いた。手を組もう」と呼び掛けた。ドラコはペルセウスに、「くだらない意地を張らず、神からの贈り物を使え」と促した。しかし ペルセウスは「嫌だ、神の手は借りない」と頑なに拒絶した。
一行は巨大サソリに乗り、砂漠を越えて魔女の山へ向かった。グライアイ3姉妹の元を訪れたペルセウスは脅しを掛け、クラーケンを倒す 方法を尋ねた。グライアイは「1つだけあるが、まず不可能だ。メデューサの一睨みで命ある者は死ぬ。メデューサの牢獄は、三途の川の 向こう、黄泉の国の端にある」と告げた。ペルセウスがドラコたちと共に山を去ろうとすると、グライアイは「お前の度は成就しない。 お前は死ぬ運命だ」と嘲笑った。
ペルセウスが部隊と離れて1人で歩いていると、そこにゼウスが現れた。ゼウスは「お前にクラーケンは倒せん。オリュンポスへ来て、神 として暮らせ」と持ち掛けるが、ペルセウスは即座に拒んだ。ゼウスが「愚かな。そもそも人間は私の情けで生きているのだ」と見下した 態度で言うと、ペルセウスは「人が生き、戦い、死んでいくのは、人のためだ。神のためではない」と真っ直ぐな態度で反論した。ゼウス は「渡し賃が必要だろう」と言い、コインを渡して姿を消した。
ペルセウスはメデューサを殺して生首を奪うため、ドラコたちと共に黄泉の国へ向かった。一行は渡し場に到着するが、船は見当たらない 。スリーマンがペルセウスの持っていたコインを川に投げると、船が向こうからやって来た。船が牢獄へ向かう途中、イオはペルセウスに メデューサとの戦い方を教えた。女は牢獄に入れないため、ペルセウスたちはイオを待たせて足を踏み入れた。ペルセウスは他の仲間たち が全て犠牲となる中、何とかメデューサを殺して生首を手に入れた。ペルセウスは牢獄を出て、イオの元に戻った。その直後、カリボスが 現れてイオを背後から突き刺し、ペルセウスに襲い掛かった…。

監督はルイ・ルテリエ、1981年版脚本はビヴァリー・クロス、脚本はトラヴィス・ビーチャム&フィル・ヘイ&マット・ マンフレディー、製作はケヴィン・デ・ラ・ノイ&ベイジル・イヴァニク、製作総指揮はデイル・アレクサンダー・カーネギー& ウィリアム・フェイ&ジョン・ジャシュニ&トーマス・タル、撮影はピーター・メンジースJr.、編集はデヴィッド・フリーマン& ヴィンセント・タベロン&マーティン・ウォルシュ、美術はマーティン・ラング、衣装はリンディー・ヘミング、音楽はラミン・ ジャヴァディー。
出演はサム・ワーシントン、リーアム・ニーソン、レイフ・ファインズ、ジェイソン・フレミング、ジェマ・アータートン、アレクサ・ ダヴァロス、ティン・ステイペルフェルト、マッツ・ミケルセン、ルーク・エヴァンス、イザベラ・ミコ、リーアム・カニンガム、ハンス ・マシソン、アシュラフ・バルフム、ムールード・アシュール、イアン・ワイト、ニコラス・ホルト、ヴィンセント・リーガン、ポリー・ ウォーカー、キャサリン・ロープキー、ルーク・トレッダウェイ、ピート・ポスルスウェイト、エリザベス・マクガヴァン他。


ハリー・ハムリンが主演した1981年の同名映画をリメイクした作品。
監督は『トランスポーター2』『インクレディブル・ハルク』のルイ・ルテリエ。
ペルセウスをサム・ワーシントン、ゼウスをリーアム・ニーソン、ハデスをレイフ・ファインズ、カリボスをジェイソン・ フレミング、イオをジェマ・アータートン、アンドロメダをアレクサ・ダヴァロス、ダナエーをティン・ステイペルフェルト、ドラコを マッツ・ミケルセン、アポロンをルーク・エヴァンス、アテナをイザベラ・ミコが演じている。

ハデスがゼウス像を倒したアルゴス兵たちを攻撃した後、船を沈没させる理由が全く分からない。
スピロスたちは、特に何もやっていない。その前に神を恨むような言葉を口にしていたけど、それで攻撃対象になったという解釈は無理が あるし。
あと、海から出現するのがハデスってのも、どうかと思うし。
海から出現するなら、そこはポセイドンでしょ。もしくは、ゼウス像が倒されたんだから、それこそゼウスが直々に来るというなら分かる けど。

アルゴスの宮殿に現れたハデスは巨大な姿なのに、すぐに人間サイズへと小さくなり、それからケペウスやカシオペアたちを 威嚇する。
いやいや、人間に対して脅しを掛けたいのなら、大きなサイズのままでいた方がいいでしょうに。
カシオペアなんかは、そこまでの不遜な態度からすると、自分と同じサイズで人間にしか見えないハデスに対してビビっているのは、 なんか不自然にさえ感じちゃうし。
あと、わざわざハデスがペルセウスを見て「これはゼウスの意志。即ち、お前の父親の」と言うのも不自然。

今回は序盤でペルセウスの家族がハデスに殺され、復讐劇として物語が進められていくんだけど、それは無理を感じるなあ。
オリジナル版との違いを出したかったのかもしれないが、ペルセウスとアンドロメダの関係性を強めるという部分を意識して脚色すれば 良かったのではないかと。
どうしてアンドロメダをヒロインのポジションから外してしまったのか、理解に苦しむ。
オリジナル版だってギリシャ神話に忠実だったわけじゃないけど、ペルセウスの恋愛対象がアンドロメダってのは、外しちゃいけない ポイントだと思うぞ。

復讐劇にしたせいで、アンドロメダが完全に「要らないキャラ」に成り下がっている。
ペルセウスはクラーケン退治の部隊に参加するが、アンドロメダを助けようという気持ちは全く持ち合わせていない。
ケペウスはアンドロメダを救うために部隊を組織するのに、ペルセウスはアンドロメダのことなんてどうでも良くて復讐に燃えていると いう、そこの目的意識のズレは、どうなのかと。
それと、そもそも復讐劇にしたこと自体が間違いだと思うけど、そのような内容にするのなら、もっと家族とのシーンを充実させた方が 良かったんじゃないか。
復讐の旅に出た後、回想として幸せだった家族の風景を何度か挿入する形でもいいし。

ペルセウスが牢に入れられた後、面会に訪れたイオのモノローグによって、彼の出世の秘密が語られる。
映像フォローも付いているけど、ちょっと慌ただしい印象を受ける。
ペルセウスの出生について描写するのであれば、最初にやった方がいい。つまり、ダナエーがゼウスに孕まされ、赤ん坊と共に捨てられ、 それをスピロスが拾うという流れで描いて行くべきだ。後から触れるのであれば、セリフで軽く処理するだけで構わない。回想シーンを 用意する必要は無い。
なぜなら、ペルセウスはスピロス&マルマラ&テクラという養父母と妹を殺したハデスへの復讐心で行動するのであり、ゼウスやダナエー への思いは、彼のモチベーションに繋がっていないからだ。

イオはモノローグで「ゼウスはアクリシオスの部隊を滅ぼすことも出来たが、彼は人間を愛していた。だから代わりに罰を与えることに した」と語り、ゼウスがダナエーを騙して関係を持ったことが示される。
だけどさ、それって「罰を与えた」って言うことじゃなくて、ただ単にゼウスがスケベ野郎だったとしか感じないぞ。大体さ、「人間を 愛していたから、滅ぼさずにダナエーを犯した」って、どういう理屈なのかと。
そこに限らず、「ゼウスは人間を愛している」ということが不自然にアピールされているけど、何なのかと。
そこには、ゼウスを悪玉にしないようにという配慮が窺えるが、そもそも彼がハデスを騙して都合よく利用し、冥府へ追いやったことが 恨みを買った原因であり、諸悪の根源はゼウスだと言ってもいいのだ。
そんな奴を悪玉から外し、ハデスだけを悪者扱いするってのは納得しかねるぞ。
最終的にペルセウスはゼウスを受け入れちゃってるけど、お前の母親を騙して犯した相手なんだぞ。いいのかよ、それで。

ペルセウスは部隊がカリボスや巨大サソリと戦う時、完全にリーダー気取りだが、ついさっきまで戦いの経験さえ無かった奴が、なんで 偉そうにしているのかと。
「俺は神の子じゃない」と否定しているけど、その「俺に付いて来い」という態度には、「俺は神の子だから、お前らとは違うんだぜ」と いう差別意識が見え隠れしているぞ。そうじゃないにしても、すげえ生意気で嫌な感じだぞ。
そもそもグループでクラーケン退治に遠征するということ自体、イマイチだと感じるんだよな。それだと、そこに「アドベンチャー」を 感じにくいし。
ずっと一人で冒険しろとは言わないよ。ただ、「王様が組織した討伐部隊の一員として旅をする」という形じゃなくて、ペルセウスが旅を する中で仲間を集めるとか、彼を慕って仲間に加わるとか、そういう少数メンバーの構成にしてほしかった。

ペルセウスが頑なに「神の力は借りない」と拒絶しているのが、ドラコの言うように、くだらない意地にしか見えない。
半神半人であることに対するペルセウスの苦悩や葛藤は、まるで見えないし。
「スピロスたちに育ててもらったから、ゼウスを父だと認められない」という固執とか、「ゼウスが産みの母を犯したことへの怒りがある 」とか、そういうわけでもない様子だ。
どうやら「ハデスは神だから、同じ神であるゼウスの力も借りたくない」ということみたいだけど、今一つピンと来ない。
ペルセウスの中には「ハデスへの恨み」と「ゼウスへの拒否反応」という2つの感情があるんだけど、そこを上手く絡めたり消化したり 出来ていない印象を受ける。

この映画、2Dで撮影されたが、コンピュータ技術によって3Dに変換されている。
2D版を観賞した私が言うことじゃないかもしれないけど、3Dを意識せずに撮影した映像を、わざわざコンピュータ技術で3D映画に 変換する意味ってあったのか。
「3Dにした方が儲かるはず」という考えだったのかもしれないけどさ。
あと映像関連で言うと、黒いペガサスは無いわ。
そこで差別化を図りたかったのかもしれんけど、ペガサスは白でしょ。
他の色を付けるにしても、どうして、よりによって黒なんだよ。

(観賞日:2012年4月28日)


第31回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低3-D乱用目潰し映画賞
ノミネート:最低リメイク・盗作・続編賞

 

*ポンコツ映画愛護協会