『チャックとラリー おかしな偽装結婚!?』:2007、アメリカ

消防士のチャックが同僚のラリーたちとストリート・バスケに興じていると、ダーラという女が現れた。ダーラはチャックに激怒しており、「私の双子の妹と寝たでしょ」と言う。チャックは全く悪びれず、「君じゃなかったという証拠は?」と馬鹿にしたような態度を取る。そこへダーラの妹のドナが現れ、「諦めなさい。チャックは私に乗り換えたのよ」と勝ち誇る。姉妹が口論していると、チャックはキスして和解するよう勧めた。
出動のベルが鳴り響いたため、チャックたちは署内に戻った。出動する時になって初めて、チャックは異動して来たばかりのフレッド・G・ダンカンがいることを知った。チャックは同僚のカールから、「ボスを壁に投げ付けたらしいぜ」と聞かされた。チャックはダンカンにカールが殺人鬼扱いしていると吹き込み、彼の住所を教えた。彼らは現場に到着し、燃える建物に突入する。ベッドから起き上がれない超肥満体のバーニーを見つけたチャックとラリーは、何とか部屋から連れ出した。
ラリーは3年前に妻のポーラを亡くし、息子のエリックと娘のトリの3人で暮らしている。ラリーは家政婦のテレサを雇っているが、夕食は自分で作っている。エリックはミュージカルが好きで、ブラウニーを焼く少年だ。年金の受取人を妻から子供たちに変更しようと考えたラリーは電話するが、自動音声は彼の名前さえ正確に聞き取らなかった。仕方なくラリーは役所へ行き、手続きを要請した。福利厚生係のサラ・パワーズは、変更できるのは出生や死亡や結婚が生じた場合に限定されると説明する。妻が死んだ時に手続きを済ませていないことを指摘されたラリーが「あの時は悲しむのに忙しくて、それどころじゃなかった」と釈明すると、サラはオフレコとして「再婚して新しい奥さんを受取人にすれば手っ取り早い」と教えた。
港のビルで火災が発生し、チャックたちは出動する。消火した後、チャックとラリーは二度捜索のためにビルへ入った。足場がが倒壊してチャックが転落し、その上に瓦礫が降って来る。ラリーは彼を助けようとして、瓦礫を背中に受けた。2人は入院し、チャックは女医のハニーを口説いた。チャックはラリーに感謝し、「命を救われた借りは返す。お礼に何でもする」と言う。心配したエリックとトリが病室に駆け付けると、ラリーは2人を抱き締めて「どこも行かないよ」と告げた。
退院したラリーはチャックに「消防士を辞めるよ」と言い、車のディーラーに転職すると告げる。チャックが引き留めると、彼は「俺が死んでも、子供たちに何も残してやれない」と漏らした。プレイボーイのチャックは、迎えに来た大勢の女性たちと共に車で去った。早朝に年金の書類を読んでいたラリーは、チャックの家へ押し掛けた。彼は「問題を解決する方法を考えた。俺が死んだら年金はお前に行くようにする。お前が子供たちの保護者になるんだ」と語り、チャックから方法を訊かれるとドメスティック・パートナー法を利用するのだと告げる。「ホモになれってのか?」とチャックが言うと、ラリーは「書類上のゲイになるだけだ」と修正する。
チャックが「どうしてもと言うなら、女に金を払って結婚してもらえ。俺が電話してやる」と拒否すると、ラリーは「信頼できるのはお前だけなんだ。仕事を辞めずに子供たちも守れる」と訴える。しかしチャックはハニーを含む6人の女性と楽しんでいる最中で、ラリーを諦めさせようとする。しかし「命を救ってやっただろ」と説得されると、仕方なく承諾した。チャックは顔を隠してラリーと役所へ行き、ゲイカップルとしての申請を済ませた。
書類上は夫婦になったため、チャックへの郵便物がラリーの家へ届けられることになった。ポルノ雑誌やダッチワイフが送られて来たので、ラリーは顔をしかめた。年金部のグレン・オールドリッチが確認のために家へ来たので、ラリーは激しく動揺した。彼は知らなかったが、資産が切り替わる際に情報が送られるシステムになっているのだ。何も知らないチャックが訪ねて来たので、ラリーは慌てて取り繕った。グレンは簡単な質問を幾つか2人に投げ掛け、確認作業を終わらせる。彼は2人に「私が問題有りと報告すれば特別調査員が抜き打ちで様子を見に来ます」と語り、その場を後にした。
不安になったラリーは弁護士に相談しようと決め、チャックを連れて事務所へ行く。女性弁護士のアレックス・マクドノーを見たチャックは、すっかり心を奪われた。アレックスは彼らに、グレンは初動調査員であり、次にクリント・フィッツァーが来ると危険だと教える。さらに彼女は、ゲイを装った男たちが解雇されて詐欺罪で逮捕されたこと、事情を知ったのに報告しなかった同僚も司法妨害と詐欺の共犯で逮捕されたことを説明する。アレックスはチャックとラリーに、関係が偽りではない証拠を残すために挙式するよう勧めた。チャックとラリーはチャペルで挙式するが、キスだけは出来なかった。
チャックはラリーの家に荷物を運び、同居生活を始める。子供たちに事実は話せないので、「家に大きなゴキブリが出たので、しばらく一緒に住む」と説明した。寝室も同じだが、ラリーはチャックに小さなベッドを用意する。彼はダブルのベッドで寝ているが、隣はポーラの場所だと主張した。チャックは相手にせず、ラリーの隣に寝転んだ。深夜に欲情したチャックは、ラリーに内緒でテレサとセックスした。ラリーが外に出ると、フィッツアーがゴミ箱に捨てられている物を調べていた。フィッツアーはゲイとしては不審な点を指摘し、「法律は決して許さない」と車で去った。
チャックとラリーはスーパーへ出掛け、ゲイっぽい商品を買い込む。アレックスと遭遇したチャックは、あるグループのために開く資金集めのパーティーに誘われる。チャックが快諾すると、アレックスは招待状を渡して「ご主人も連れて来て」と告げた。チャックとラリーが仮装して会場のクラブへ行くと、大勢の同性愛者が集まっていた。アレックスに声を掛けられたチャックは、弟のケヴィンを紹介された。チャックとラリーはアレックスから、フロアで踊るよう促された。そのままではボロが出ると考えたチャックは、ラリーと抱き合ってスローダンスを踊った。
チャックたちが外へ出ると、同性愛者の抗議団体が押し寄せていた。団体の牧師が激しく批判するので、パーティー主催者は「これは内輪の団体だ」と説明する。それでも抗議団体の激しい口撃は続き、パーティー参加者には泣き出す者もいた。牧師の挑発を受けたチャックは、カッとなって殴り倒した。その事件が新聞の一面に掲載され、チャックとラリーはタッカー署長から呼び出された。彼は2人を叱責し、「お前たちの結婚が年金問題を解決するための偽装だとしたら、私は通報しなきゃならない」と警告した。
チャックはアレックスに誘われ、ショッピングに出掛けた。ラリーは「職業の日」でトリの通う小学校へ行き、生徒たちの質問を受けた。パーティーの新聞記事で生徒たちはラリーがゲイだと思い込んでおり、それに関する質問が次々に飛んだ。ラリーは友人のスティーヴから、「ボーイスカウトの旅行は手配したから、君の手は要らない。少年野球でも君のコーチは要らない」と言われる。彼が皮肉っぽい態度を示すので、腹を立てたラリーはタックルを浴びせた。大雨が降り出したので、アレックスはチャックを自宅に招き入れた。アレックスはチャックがゲイだと思っているので、平気で着替え始めた上にオッパイも触らせた。
今までチャックとストリート・バスケを楽しんでいたレナルドやトニーたちは、彼を冷たく拒絶するようになった。しかしダンカンだけはチャックに歩み寄り、自分もゲイだとカミングアウトした。笑いながらシャワーを浴びていた消防団の連中は、チャックとラリーが来ると静まり返った。チャックはアレックスの家に呼ばれて、一緒にアクセサリーを作ってワインを飲んだ。アレックスはチャックを良き友人と考えており、誰にもセックスで感じたことが無いと打ち明けた。
どうやってラリーを興奮させるか教えてほしいと頼まれたチャックは、嘘を並べ立てた。「俺がゲイじゃなかったら君に夢中になってた」とチャックが言うと、アレックスは「貴方に会えて良かった」とキスをした。彼女は慌ててチャックから離れ、「もう会えない。ラリーを裏切った」と彼を帰らせた。フィッツァーはラリーの家を訪ね、「ご主人は?」と質問する。ラリーはチャックから聞かされていた「お袋さんと映画を見に行ってる」という説明をするが、近くにいたトリが「違うよ。セクシーな弁護士さんと一緒。パパがいないと、その人の話ばっかり」と話す。フィッツァーは含んだような口調で「風を感じますな」とラリーに告げ、その場を立ち去った…。

監督はデニス・デューガン、脚本はバリー・ファナロ&アレクサンダー・ペイン&ジム・テイラー、製作はアダム・サンドラー&ジャック・ジャラプト&トム・シャドヤック&マイケル・ボスティック、製作総指揮はバリー・ベルナルディー&ルー・ギャロ&ライアン・カヴァノー、共同製作はニック・スウォードソン&アレン・コヴァート&ケヴィン・グレイディー、製作協力はアダム・モーガン・パーマー、撮影はディーン・セムラー、美術はペリー・アンデリン・ブレイク、編集はジェフ・ガーソン、衣装はエレン・ラッター、音楽はルパート・グレッグソン=ウィリアムズ、音楽監修はマイケル・ディルベック&ブルック・アーサー。
出演はアダム・サンドラー、ケヴィン・ジェームズ、ジェシカ・ビール、ダン・エイクロイド、スティーヴ・ブシェーミ、ヴィング・レイムズ、ニック・スウォードソン、ニコラス・タートゥーロ、リチャード・チェンバレン、メアリー・パット・グリーソン、レイチェル・ドラッチ、マット・ウィンストン、ピーター・ダンテ、コール・モーガン、シェルビー・アダモウスキー、アレン・コヴァート、ブレイク・クラーク、ランス・バス、デイヴ・マシューズ、ダン・パトリック、ロブ・コードリー、ロバート・スミゲル、リチャード・クライン、ゲイリー・ヴァレンタイン、ジョナサン・ラフラン、J・D・ドナルマ、マイケル・ブシェーミ他。


『ナショナル・セキュリティ』『がんばれ!ベンチウォーマーズ』のデニス・デューガンが監督を務めた作品。
脚本は『マイアミ・ガイズ 俺たちはギャングだ』『メン・イン・ブラック2』のバリー・ファナロと『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』のアレクサンダー・ペイン&ジム・テイラーの共同。
チャックをアダム・サンドラー、ラリーをケヴィン・ジェームズ、アレックスをジェシカ・ビール、タッカーをダン・エイクロイド、フィッツァーをスティーヴ・ブシェーミ、ダンカンをヴィング・レイムズ、ケヴィンをニック・スウォードソンが演じている。
アンクレジットだが、チャペルの司祭役でロブ・シュナイダー、仮装パーティーのバニーガール男の役でデヴィッド・スペードが出演している。

冒頭、チャックが仲間とストリート・バスケをしていると、双子姉妹が彼を巡って争い始める。このエピソードを最初に持って来ることで、チャックが女好きでモテモテで軽薄で無責任な男ってことは分かる。
こいつが女好きってのは、以降の展開でも必要になってくる要素だから、早い段階で触れておくのは悪いことじゃない。ただし、「それが最初ってのはどうなのか」と言いたくなる。
タイトルにもなっているように、これはチャックとラリーのコンビを描く話のはずだ。だったら、まずは「チャックとラリーは親友同士」ってのをアピールするためのエピソードにしておいた方が望ましいんじゃないかと。
この最初のエピソードだと、ラリーは他の同僚たちと同じくモブの如き扱いになっちゃってんのよね。

火災現場へ出動するシーンで、チャックはダンカンという新人に気付く。でもチャックとダンカンのコンビを軸に話を進めて行くのかというと、そうじゃないわけで。
だったら、そのタイミングでダンカンが紹介する手順を入れるのも違うんじゃないかと。
しかも、ダンカンについてチャックに語るのは、ラリーじゃなくてカールなんだよね。
そこは絶対にラリーであるべきでしょ。そのシーンで、それ以外に役目を持たないようなキャラを使ってどうすんのよ。

チャックたちが消火活動を終えると、ラリーの家庭生活を描くシーンに切り替わる。その次にチャックの私生活も描くターンがあるのかというと、それは無い。
チャックは独身貴族だし、アレックスが登場するまではストーリー展開に関わるドラマが私生活に無いので、そこを省いているってことではあるのよ。
ただ、「チャックとラリー」なのにラリーの比重が明らかに上になっており、序盤のバランスは悪くなっている。
ラリーの家庭問題を描いておく必要があるのは分かるけど、その見せ方が下手なのだ。

ラリーが年金の受取人を変更しようとすると、出生や死亡や結婚が生じた場合に限定されるという説明を受ける。
妻が死んだ時に変更していなかった設定だけど、それを今から手続して変更することは無理なのか。だとしたら、年金はどうなってしまうのか。
妻は死んでいるから受取人はいないわけで、宙に浮いちゃうのか。
アメリカの年金制度に詳しくないから良く分からないんだけど、「チャックとラリーがゲイのカップルを装う」という展開を成立させるために、かなり無理をしているように思えてしまうんだよなあ。

そこは「実際にアメリカの年金制度だと、そういうことが起きてしまう」と受け入れるにしても、他にも色々と無理を通しているんだよね。
まず、ラリーが「書類上のゲイカップルになる」と思い付いてチャックに依頼するのが、強引な筋書きだ。
「信頼できるのはチャックしかいないから」と説明しているけど、そういう問題ではないだろ。
他の選択肢を排除して「それ以外に無い」というトコに追い込むための作業が、ものすごく適当なんだよね。

チャックがラリーの提案を承諾するのも、これまた強引だ。
「命を救ってもらったから」という理由はあるけど、弱みを握られているわけでもないし。そういう強引さの連続を誤魔化して突っ切れるほどの、勢いやパワーも感じないし。
そもそもラリーは「消防士を辞めて転職する」と言い出していたんだし、それでいいじゃないか。なぜゲイカップルを装ってまで、消防士に固執する必要があるのかと。
「3代に渡って消防士」という設定はあるが、本人がそこまで消防士であることに強い誇りを持っているようには見えないし。

「チャックとラリーがゲイのカップル」という情報が広まった後、「ダンカンがチャックにカミングアウトする」というシーンがある。「強面で怖そうに見えていたダンカンが、実はゲイでネコの方だったと判明する」というネタになっているわけだ。
冒頭でダンカンを紹介するパートを用意したのは、そこへ向けての伏線というわけだ。っていうか、そのネタのためだけにダンカンというキャラが存在すると言ってもいいだろう。
そういう使い方が悪いとは言わないけど、ダンカンって登場してからカミングアウトのシーンまでは完全に消えているんだよね。
それはキャラの扱いが下手すぎるでしょ。

わざわざ説明しなくても粗筋を読んでもらえれば一目瞭然だろうが、この映画はゲイを笑いにしている。
LGBTや人種、宗教といった要素をを喜劇のネタにする時は、かなりデリケートに扱うことが望ましい。
まだ「ゲイの監督がゲイを茶化す」とか「黒人の監督が黒人差別をネタにする」といった形なら、そのハードルは低くなるだろう。例えばアダム・サンドラーは頻繁にユダヤ人をネタにしているけど、本人がユダヤだからOKという部分もある。
しかしデニス・デューガン監督にしろアダム・サンドラーにしろゲイではないので、そういう人がゲイをネタにする時は注意が必要だ。
さて、この映画がゲイを喜劇のネタにする仕事を丁寧にこなせているのかというと、残念ながら「ノー」と断じざるを得ない。

チャックはゲイのパーティーに抗議する団体に腹を立て、その行動を批判する。
しかし、それは「弱者を攻撃することに対する怒り」であって、擁護する対象がゲイのグループじゃなくても同じ行動を取っていただろう。彼は挑発して来た牧師を殴るが、これも「ゲイを侮蔑することへの怒り」ではなく「自分が馬鹿にされたことへの怒り」に過ぎない。
つまり、彼の行動は表面的には「ゲイの味方」ではあるが、結果論でしかない。
チャックの中で、ゲイに対する意識が変化しているわけではない。

消防団の面々がチャックとラリーを拒絶して異動要求の嘆願書まで作ると、腹を立てたラリーは「いかにチャックが仲間を救ってきたか」を訴える。その時点では何も変わらないが、裁判になると集まって謝罪し、協力を申し出る。
しかし、それは「ゲイを認めて受け入れた」ってことではない。あくまでも「消防団の大切な仲間を受け入れた」というだけなのだ。
裁判所の前には、チャックとラリーを応援する大勢の同性愛者が集まっている。そんな面々も、チャックとラリーは裏切っている形になる。
しかし、それに対する罪悪感を、彼らは全く見せていない。

ラリーはゲイを偽装していることに対して、最後の最後まで罪悪感を抱いていない。チャックの女遊びが新聞で取り上げられてアレックスから「本当にゲイなの?」と問われても、堂々と「俺たちはゲイだ」と断言する。
そこには「子供たちのため」という言い訳があるが、「だからゲイを偽装しても全面的に許される」とは言えないだろう。
一方、チャックはアレックスの質問に少し間を取るが、やはりゲイは本当だと告げる。それに、そこで少し彼に迷いが見えるのもアレックスに惚れたからであって、「本物のゲイに対する罪悪感」ではない。
つまり、最後まで「チャックとラリーがゲイを都合良く利用した」ってことは肯定されたままになっているのだ。
「法律に欠陥があるのが悪い」というトコに論点を摩り替えて、そこにある問題から目を背けているのだ。

(観賞日:2020年5月23日)


第39回ゴールデン・ラズベリー賞(2018年)

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演女優賞[ヘレン・ミレン]
ノミネート:最低監督賞[ザ・スピエリッグ・ブラザーズ]
ノミネート:最低脚本賞

 

*ポンコツ映画愛護協会