『12人のパパ』:2003、アメリカ

ミッドランドに住むトム・ベイカーは、3部リーグの大学でフットボール部ヘッドコーチを務めている。彼と妻のケイトには、ノーラ、チャーリー、ロレイン、ヘンリー、サラ、ジェイク、マーク、双子のジェシカとキム、マイク、双子のナイジェルとカイルという12人の子供がいる。ノーラは家を出てイリノイの保険会社で働いており、恋人のハンクと同棲中だ。かつて新聞社に勤務していたケイトは家族についての自伝的小説を執筆し、友人で編集者のダイアナに送る。まだ5月だが、トムは印刷業者が値引きしてくれるのでクリスマスカードを撮影することにした。家族が集合して写真を撮るのだが、ノーラからは用事で行けないという連絡が届いた。
トムがヘッドコーチを務めるブルドッグスは、3部リーグでチャンピオンとなっている。大家族で暮らすために田舎の3部チームでの仕事を引き受けたトムだが、楽しい日々を過ごしていた。そんな中、母校であるイリノイ大学で体育局長を務めるシェイクが彼を訪ねて来た。トムとシェイクは大学時代、フットボール部のスタリオンズで一緒にプレーした仲間だった。シェイクはスタリオンズのヘッドコーチが解任されたことを話し、トムに「ウチへ来ないか」と声を掛けた。
スタリオンズの仕事は5年契約で、引っ越し費用も大学側が出してくれる。大学職員になれば、子供の学費も無料ににる。何よりもトムにとっては、母校のヘッドコーチは昔からの夢だった。しかし話を聞いた子供たちは、ミッドランドを離れることに反対した。しかしケイトは夫の夢を応援すると言い、トムはオファーを引き受けることに決めた。一家がイリノイ州に移ると、大きな屋敷が用意されていた。トムはチャーリーに、自分の古いセダンをプレゼントした。
一家が引っ越して早々、向かいに住むティナ・シェンクと夫のビル、一人息子のディランが挨拶に来た。ティナは子供が12人と聞いて驚き、ジェイクとマイクはディランを誘い、家の中でホッケーを始める。トムは全く気にしなかったが、ティナは「ウチの子は乱暴な遊びが好きじゃない」と困惑した。ディランが危うく怪我を負いそうになり、ティナは激しく動揺した。ディランはジェイクたちとの遊びを気に入った様子で、誕生パーティーに来るよう誘った。しかし上品な暮らしをしているティナはディランを連れて立ち去った後、露骨に不快感を示した。
チャーリーは高校のフットボール部へ入部手続きへ行き、ポジションはQBだと告げた。するとヘッドコーチのブリッカーは見下すような態度を取り、コーナーバックに回すと告げた。トムは大学から呼び出され、テレビ会見に出席した。ケイトの本は出版が決まり、3日ほどニューヨークへ出張することになった。トムは引っ越した直後というタイミングに当惑したものの、行って来るようケイトに言う。ケイトは子供たちの世話を心配するが、トムはノーラに手伝ってもらうと告げた。
トムから電話を受けたノーラは、ハンクに事情を説明した。前回の訪問で酷い悪戯を受けたハンクは反対するが、ノーラに説得されて同行を承諾した。ハンクを嫌っているサラやヘンリーたちは、彼を追い払うための作戦を練った。ハンクがノーラと共にベイカー家へ到着すると、サラたちはビニールプールに転落させた。彼女たちは洗濯すると称して服を預かり、パンツを挽き肉に漬け込んだ。その匂いを飼い犬に覚えさせ、ハンクが服を着てから股間に噛み付かせた。ノーラはサラたちの仕業だと知り、腹を立ててハンクと共に家を去った。トムは計画に加わったヘンリー以下の8人に1ヶ月の小遣いを無しにすると通告するが、内心はハンクへの嫌がらせを楽しんでいた。
翌日、ケイトはニューヨークへ出発し、子供たちは学校へ行く。マークはイジメの標的にされ、チャーリーとロレインは車のことでブリーと仲間たちからバカにされた。ケイトはダイアナから、2週間のキャンペンツアーが組まれていることを聞かされた。「そんなに長く家を空けられない」と彼女は困惑するが、ダイアナはツアーが駄目なら出版できないと話す。トムは家事をしながら、子供たちの面倒を見る。ノーラは仕事があるため、手伝いに来ることは出来なかった。
子供たちは自由に暴れ回り、トムには全く制御できなかった。しかしケイトから電話が入ると、トムは「全て順調だ」と嘘をつく。ケイトは予定よりも長引くことを明かし、何か問題が起きれば戻ると約束した。トムは家政婦を雇おうと考えるが、子供が12人だと説明すると、どの会社からも断られた。トムはスタリオンズの仕事に遣り甲斐を感じて張り切るが、子供たちと接する時間は削られた。子供たちは不満を抱き、ミッドランドへ戻りたい思いを強めていった。
トムは家庭と仕事を両立させるため、スタリオンズを家へ呼んで庭で練習するようになった。しかし、それで子供たちの不満が解消されることは無かった。トムはヘッドコーチの仕事で学校へ迎えに行く時間が遅れ、子供たちの不評を買う。しかし大学で子供たちに関係する電話を受けると、シェイクから仕事に集中するよう注意された。サラやヘンリたちは手伝いをサボり、学校で問題を起こしてトムが呼び出された。トムはサラたちに謹慎を言い渡し、ディランのパーティーにも行かせないと告げる。しかしサラたちは言い付けを守らず、密かに家を抜け出してディランの誕生パーティーへ行く…。

監督はショーン・レヴィー、原作はフランク・バンカー・ギルブレスJr.&アーネスティン・ギルブレス・ケイリー、映画原案はクレイグ・ティトリー、脚本はサム・ハーパー&ジョエル・コーエン&アレック・ソコロウ、製作はロバート・シモンズ&マイケル・バーナサン&ベン・マイロン、共同製作はアイラ・シューマン、撮影はジョナサン・ブラウン 美術はニーナ・ラッシオ、編集はジョージ・フォルシーJr.、衣装はサーニャ・ミルコヴィッチ・ヘイズ、音楽はクリストフ・ベック、音楽監修はデイヴ・ジョーダン。
主演はスティーヴ・マーティン、共演はボニー・ハント、ヒラリー・ダフ、トム・ウェリング、パイパー・ペラーボ、リチャード・ジェンキンス、リリアナ・マミー、アリソン・ストーナー、ジェイコブ・スミス、ケヴィン・G・シュミット、ポーラ・マーシャル、アラン・ラック、モーガン・ヨーク、フォレスト・ランディス、ブレイク・ウッドラフ、ブレント・キンズマン、シェーン・キンズマン、スティーヴン・アンソニー・ローレンス、ホームズ・オズボーン、ヴァネッサ・ベル・キャロウェイ、レックス・リン、デヴィッド・ケルシー、ダックス・シェパード、イーロン・ゴールド他。


フランク・バンカー・ギルブレスJr.&アーネスティン・ギルブレス・ケイリーによる自伝的小説『一ダースなら安くなる あるマネジメントパイオニアの生涯』を基にした1950年の映画『一ダースなら安くなる』のリメイク。
監督は『ビッグ・ライアー』『ジャスト・マリッジ』のショーン・レヴィー。脚本は『がんばれ!ルーキー』『ジャスト・マリッジ』のサム・ハーパーと『トイ・ストーリー』『ランナウェイ』のジョエル・コーエン&アレック・ソコロウ。
トムをスティーヴ・マーティン、ケイトをボニー・ハント、ロレインをヒラリー・ダフ、チャーリーをトム・ウェリング、ノーラをパイパー・ペラーボ、シェイクをリチャード・ジェンキンス、ジェシカをリリアナ・マミー、サラをアリソン・ストーナー、ジェイクをジェイコブ・スミス、ヘンリーをケヴィン・G・シュミット、ティナをポーラ・マーシャル、ビルをアラン・ラックが演じている。
アンクレジットだが、ハンク役でアシュトン・カッチャー、ブリー役でジャレッド・パダレッキ、シャンデリアを修理する業者の役でウェイン・ナイトが出演している。

前述したように『一ダースなら安くなる』のリメイクではあるが、「12人の子供がいる夫婦」という設定を拝借しているだけで、内容は全く違う。キャラクターの名前も違うし、職業設定も異なる。
「子だくさんで色々と大変」という部分だけを使いたかったようだ。
確かに、映画のネタとしては、使いたくなるような設定ではあるね。
実際、アメリカでは大ヒットして続編も作られたんだから、その狙いは見事に当たっていたということになる。

冒頭、ケイトのナレーションによって、
「トムは7人兄弟、ケイトは姉を亡くしてから8人の兄弟が欲しかった」「2人が出会ったのはイリノイ工芸大学で、トムはフットボールのヘッドコーチを夢見る4年生、ケイトはスポーツ記者を夢見る1年生」「結婚してから1年後にノーラが誕生。チャーリーとロレインが産まれると、子育てと夢の両立は無理だと分かり、トムは3部リーグの仕事、ケイトは新聞社を辞めてミッドランドへ引っ越した」「8人で終わるつもりが双子だったので9人」「シェイクの体育局長指名パーティーで飲み過ぎて、9ヶ月後にはマイクが産まれた」「トムはパイプカットしたが、数週間は効果が出ないという医師の注意を無視して11人目と12人目」
という経緯が説明される。
これまでの経緯を説明するのに手っ取り早い方法として、ケイトのナレーションを利用するのは理解できる。
ただ、彼女のナレーションが使われるのは、その冒頭部分だけなのだ。
ナレーションを使うのが悪いとは言わないが、持ち込むのであれば、そんな無造作に捨てるのはダメでしょ。
っていうか、実は今までの経緯を冒頭でザッと説明するナレーション自体、ほぼ無意味なのよね。それだけで子供たちの顔と名前を覚えられるわげでもないし。そもそも、その時点では現在の子供たちの姿は登場していないわけだし。

ナレーションで説明した内容は、後の展開に悪影響を及ぼしている。
トムがイノリイへ行くと言った時に子供たちが反対し、引っ越した後も不満を訴えたりミッドランドへ帰りたいと言い出したりするのだが、ここにマイナスの影響が出ているのだ。
と言うのも、冒頭の説明によって、トムが子供たちと暮らすために夢を諦め、田舎の3部リーグの仕事を引き受けたことが観客に提示されている。
そんなトムが夢だった母校のヘッドコーチになれるのだから、子供たちは応援してやるべきじゃないかと思うのだ。

トムは田舎で3部リーグの仕事をするようになっても、「こんなはずじゃなかった」と愚痴ったりすることもなく、笑顔で子供たちの面倒を見ている。
長きに渡り、仕事を犠牲にして、家族のために尽くして来たのだ。
ようやく夢を叶えるチャンスが来た時に、さんざん苦労を掛けてきた子供たちがミッドランドを離れることを嫌がり、不満ばかり言うのは、ワガママに見えてしまうのだ。
トムの思いを汲み取り、協力して応援してあげようとするべきじゃないかと思うのだ。

トムが身勝手だったり、横柄な態度を取ったりしていれば、子供たちに同情心を抱くことも出来ただろう。
しかしトムは子供たちが物を壊しまくっても全く怒らないし、罰を与える時もヒステリックに喚き散らすわけではない。
仕事が忙しくなっても、何とか子供たちの面倒を見ようと頑張っている。決して子供たちとの約束を忘れたり、世話を放棄したりするようなことは無い。
何とか両立しようと努力しているので、「まるで協力しようとしない子供たち」という部分だけが際立つ形になる。

そりゃあ、まだ幼い子供たちも多いから、親の苦労や今までの経緯なんて全く分からないだろう。親への思いやりを見せるような余裕など、持つことは出来ないかもしれない。
ただ、仕方が無いとは分かっていても、自分勝手なことばかり言って自由奔放に暴れ回る子供たちに、全く好感を抱くことが出来ないのだ。「両親と接する時間が減って寂しい」という事情もあるだろうが、可愛げの無い連中だなあと。
暴れ回るのも、タチの悪い悪戯も、これっぽっちも笑えないし。
台詞で言及しているだけだが、前回の訪問でハンクに仕掛けた「ズボンに火を付ける」という行為なんて、完全に犯罪のレベルだからね。

冒頭のナレーションが終了して現在のシーンに入ると、チャーリーが大学へ行こうか迷っているとか、ロレインがファッションリーダーになろうと考えているとか、マークが一人だけ家族から浮いていると感じているといった情報が提示される。
しかし、それは申し訳程度のキャラ紹介に過ぎない。
何しろ子供が1ダースもいるので、1人ずつ掘り下げたり見せ場を作ったりする時間の余裕なんて無い。
だからノーラ、チャーリー、ロレイン、マークは個人で扱っているが、他の面々は基本的に「同じグループ」として動かしている。

「田舎暮らしの夫婦が1ダースの子供たちと暮らしていると様々な問題が起き、てんやわんやでございます」というドタバタだけでも充分なボリュームになると思うが、それだけでは退屈だろうと思ったのか、「イリノイへの引っ越し&トムの転職」「ケイトの出版と2週間のツアー」といった設定を持ち込んでいる。
だからケイトは前半で家を出た後、ずっと家族から離れた状態が続く。スティーヴ・マーティンのスター映画として作りたかったのかもしれないが、それが上手い仕掛けだとは思えない。
それ以外にも、「向かいの夫婦がベイカー家を嫌悪するが、息子は気に入る」とか、「サラたちはハンクを嫌って撃退作戦を実行する」とか、「マークがイジメを受ける」とか、「チャーリーはヘッドコーチから見下され、ブリーたちから馬鹿にされる」とか、様々なネタが持ち込まれている。
だが、なんせ時間が足りないもんだから、どれも薄くて弱い扱いになっている。欲張って多くのネタを持ち込んだものの、処理能力が追い付いていない。
上手く融合したり関連したりするような複数のネタならともかく、それぞれがバラバラに配置されているのだ。

だから最初から最後まで、ずっと散らかったままの状態が続いてしまう。
チャーリーはミッドランドにベスという恋人がいる設定だが、彼女は1度も登場しないし、電話を掛けることも無い。
シェンク一家は登場した後、誕生パーティーのシーンまで延々と消えている。
終盤に入るとチャーリーが高校を辞めてミッドランドへ戻ると決めるけど、それを納得させるだけの「高校やフットボールチームで嫌な目に遭って」というシーンは用意されていない。
だから彼がトムに「父さんの犠牲になるのは御免だ」と言うのも、身勝手に感じてしまう。

終盤に入ると、トムが子供たちに対して苛立ちを見せるようになる。
だけど、それまでの一家の様子を見ていると、それも仕方が無いんじゃないかと思えるのだ。
全員が自分勝手に行動する中で、トムばかりが苦労を抱え込んでいた。だから、そりゃあストレスが溜まるのも当たり前だろうと。家が大変なことになっていると知ったケイトがトムを責めるのも、そりゃ無いだろうと。
もちろん最終的には、「トムがミッドランドへ戻ることを決め、一家は再び1つにまとまりました」というハッピーな結末に至る。
だけど、それも全てはトムが自分の夢を犠牲にしたことによって得られた幸せであって。ケイトと子供たちは、彼に協力したり妥協したりしちゃいないんだよな。
「パパは辛いよ」という話なので、スッキリと能天気に笑えないトコがあるなあ。

(観賞日:2018年1月3日)


第24回ゴールデン・ラズベリー賞(2003年)

ノミネート:最低主演男優賞[アシュトン・カッチャー]
<*『12人のパパ』『ジャスト・マリッジ』『セレブな彼女の落とし方』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会