『スコーピオン』:2001、アメリカ
ラスヴェガス近郊の町ローズウッド。5年半のムショ暮らしを終えたマイケルが、車でモーテル“ラスト・チャンス”にやって来た。近くの看板には、ベガスで開催されるエルヴィス・プレスリーのコンヴェンションの広告が出ている。マイケルはジェシーという少年に車の部品を盗まれ、彼を追い掛けて母親のシビルに出会う。シングルマザーのシビルに誘われ、マイケルは彼女とベッドイン。激しく絡んでいる間に、ジェシーはマイケルの財布を盗んだ。
モーテルには、前科者マーフィーと仲間のハンソン、ガス、フランクリンがやって来た。マイケルは彼らと合流し、ヘリの操縦士ジャックの元を訪れてギターケース入りの武器を受け取った。財布が無いことに気付いたマイケルはモーテルに戻り、ジェシーから取り戻す。シビルに誘われたマイケルは、また彼女と激しいセックスをする。
マイケルはエルヴィスの衣装に身を包み、マーフィー達と共にコンヴェンションが開催されているリヴィエラ・ホテルへ向かう。5人はカジノの収益金を強奪し、追って来た警備員と銃撃戦を繰り広げる。フランクリンが撃たれて命を落とし、残る4人はヘリで逃げるため屋上へ向かう。ジャックの到着は予定より遅れたが、マイケル達はヘリに乗って逃亡した。
モーテルに戻った4人が金を勘定すると、320万ドルになった。マーフィーはフランクリンの分け前を「俺の計画だ」と独り占めしようとするが、ハンソンは山分けにすべきだと主張して対立する。マーフィーはハンソンを射殺し、死体の処理をマイケルとガスに指示する。その様子を、ドアの隙間から密かにジェシーが覗き見ていた。
マイケルは自分の分け前をモーテルの天井裏に隠し、マーフィー達と共にハンソンの死体を捨てに行く。マーフィーはマイケルとガスを撃ち、車で逃走する。防弾チョッキを着ていたマイケルは助かり、モーテルへ戻った。金が無くなっていたため、マイケルはジェシーが盗んだと確信する。マイケルはジェシーから金を取り戻し、シビルに口止め料として10万ドルを渡して去ろうとする。だが、駆け付けた警察の目を誤魔化すため、シビルの話に口裏を合わせ、彼女とジェシーを連れて出発するハメになった。
マーフィーはガソリンスタンドの店長を射殺し、食料を奪う。その娘ミーガンが連れて行って欲しいと言い出したので、マーフィーは車に乗せる。シビルはダイナーでジェシーを置き去りにして、マイケルの金を持って車で逃亡する。シビルは金の洗濯をしているジェイ・ピーターソンと連絡を取り、彼の骨董品店へ向かう。シビルが店に到着すると、ピーターソンを殺して彼に成り済ましたマーフィーが待っていた。
マイケルはジェシーを連れて、シビルの後を追う。骨董品店に到着すると、ピーターソンと女性店員の死体が転がっていた。マイケルはマーフィーを警察に密告して逮捕させるが、自らも車の窃盗で捕まってしまう。ボイジ警察署の留置所でマーフィーと会ったマイケルは、シビルが彼とグルだったこと、しかしマイケルに惚れたために裏切ろうとしたことを聞かされる。
ジェシーは弁護士シンクレアを雇い、マイケルに半分の分け前を約束させて保釈に持ち込む。車を取り戻したマイケルは、トランクにシビルが閉じ込められているのを発見する。マイケルはシビルを拒絶し、別行動を取ることにした。保釈されたマーフィーはシビルの車を襲撃してジェシーを拉致し、マイケルの金を持って来いと彼女に要求する。シビルから助けを求められたマイケルは、マーフィー、ジャック、彼らが雇ったガンマンのハミルトンが待ち受ける取引場所へ出向く…。監督はデミアン・リヒテンシュタイン、脚本はリチャード・レッコ&デミアン・リヒテンシュタイン、製作はデミアン・ リヒテンシュタイン&リチャード・スペロ&エリック・マニス&エリー・サマハ&アンドリュー・スティーヴンス、製作総指揮はドン・ カーモディー&トレイシー・スタンリー、共同製作はジェームズ・ホルト、製作協力はリン・オッドー&シャロン・リー、撮影は デヴィッド・フランコ、編集はマイケル・J・デューシー&ミクロス・ライト、美術はロバート・デ・ヴィコ、衣装はメアリー・マクロード、 視覚効果監修はレイ・マッキンタイアJr.、音楽はジョージ・S・クリントン、音楽監修はロビン・アーダング。
出演はカート・ラッセル、ケヴィン・コスナー、コートニー・コックス、クリスチャン・スレイター、ケヴィン・ポラック、デヴィッド・アークエット、ジョン・ロヴィッツ、ハウイー・ロング、トーマス・ヘイデン・チャーチ、ボキーム・ウッドバイン、アイス・T、デヴィッド・ケイ、ルイス・ロンバルディー、ショーン・マイケル・ハワード他。
ミュージック・フィルム出身のデミアン・リヒテンシュタインが監督した作品。
マイケルをカート・ラッセル、マーフィーをケヴィン・コスナー、シビルをコートニー・コックス、ハンソンをクリスチャン・スレイター、ガスをデヴィッド・アークエット、ピーターソンをジョン・ロヴィッツ、ジャックをハウイー・ロング、フランクリンをボキーム・ウッドバイン、ハミルトンをアイス・Tが演じている。また、カジノのボスの1人として、歌手のポール・アンカが出演している。当初、カート・ラッセルとケヴィン・コスナーの配役は逆だったようだ。だが、コスナーが「俺がマーフィーをやりたい」とゴネて配役が入れ替わったらしい。
マーフィーがエルヴィス・プレスリーの息子かもしれないという設定なので、カート・ラッセルが演じた方が遊び心としてはアリだよな。何しろカート・ラッセルは、エルヴィスとは縁の深い俳優だから。
どれぐらい縁が深いかというと、まず彼のデビュー作がエルヴィスの主演映画『ヤング・ヤング・パレード』だ(ちなみに本作品の序盤、ホテルのエレベーターで『ヤング・ヤング・パレード』サウンドトラックのレコードジャケットにサインを求められるシーンがある)。TV映画『ザ・シンガー』ではエルヴィス役を演じているし、『フォレスト・ガンプ/一期一会』でもアンクレジットだが若きエルヴィスの声を担当している。
それぐらい縁の深い俳優なのである。原題の「グレースランド」とはマイケルの所有する船の名前であり、メンフィスにあるエルヴィス・プレスリーの元邸宅のことも意味している(まあ後者の意味合いが大半だな)。
ただ、カジノの現金強奪が終わると、エルヴィスはほとんど関係が無い。一応、マーフィーがエルヴィスの実子かもしれないという引っ張りはあるんだが、それも本筋とは関わらないし。ド派手なエルヴィスの扮装をした5人組がギターケースに入れた武器を使ってカジノの金を強奪するという荒唐無稽な設定、アクの強い悪党ばかりが出てきて金を奪い合うという深作欣二テイストたっぷりの構造、ケヴィン・コスナーを除けばクセ者だらけの出演者と、面白くなりそうな要素は幾つも揃っている。なのに、なぜダメな作品になってしまったのかと、残念でならない。
ミュージック・フィルム出身の監督らしく、序盤から細かくカットを割ったり、アングルに凝ったりとヴィジュアルには力が入っているように感じられる。特にカジノのシーンは、それを強く感じる。
ただ、肝心の「エルヴィス5人組が颯爽と並んでカジノに入ってくる」というシーンを淡白に処理してしまうのはどうなのよ。そこは魅せる絵作りをすべきじゃないのか。エルヴィスそっくりさんのライヴ・ショーと5人組の現金強奪をカットバックで見せていく下りは悪くないが、肝心のカート・ラッセルがほとんど銃撃戦に参加しないってのはいただけない。また、ガンアクションの振り付けに面白味が無い。映像としてのケレン味は出そうとしているけど、アクションとしてのケレン味は全く無いのが不満だ。
マーフィー達が脱出するためカジノの屋上に行くと、約束の時間にジャックのヘリが到着していないという展開がある。だが、その直後にヘリは到着し、マーフィー達はそれに乗って逃げている。つまり、ヘリの到着が遅れたからといって、計画の変更を余儀なくされるとか、ピンチに陥るとか、そういうことは無い。だったら、いちいちヘリの到着遅れで流れを止める意味ゼロじゃん。エルヴィスの扮装をするのはカジノの強奪シーンだけで、それ以降は2度と変身しない。そりゃあ扮装を続ける意味は無いし、明らかにデメリットだらけだけど、エルヴィスの格好じゃなくなると一気にアクの強さ、クドさが消えちゃうのね。何しろ、それまでに各キャラの描写は皆無だし、そこからキャラ描写を付けていくわけでもないし。
というか、そもそもフランクリン、ハンソン、ガスの3人は何の活躍もしないまま、あっさりと殺され、あっという間にマイケルとマーフィーの2人だけにしてしまうのよね。
クリスチャン・スレイター、デヴィッド・アークエット、ボキーム・ウッドバインをすぐに殺すのは、ある意味では贅沢な使い方と言えるかもしれない。だけど、やっぱり勿体無いよなあ。せっかく「悪党どもが欲望剥き出しでバトル・ロイヤル」という深作チックなアクション映画に出来るネタなのにさ。この映画の大きなマイナス要因は2つ。というか2人。
1人はデミアン・リヒテンシュタイン。演出としても「途中でマッタリしちゃう」とか、「もっとマイケルとマーフィーの対決に向けてテンションを高めろよ」とか思うけど、それ以上に脚本がダメ。「ミーガンが何の説明も無しに消えたのはどうなっているんだ」とか、まあ細かいことも色々とあるけど(これは編集の問題かな)、何よりもダメなのはガキを絡ませたことだ。ジェシーが絡んでくることで、一気にヌルい話になっている。
マイケルとジェシーが仲良くなって同じポーズを取るとか、そんな下りは要らないのよ。ジェシーの立場が上になって分け前の半分を要求するとか、そんな展開は要らないのよ。
ようするに「極悪」マーフィーと「チョイ悪」マイケルの差別化のためにジェシーを利用しているんだが、ホントに邪魔なんだよな。マイケルを「極悪」にしないための仕掛けは、シビルだけで充分でしょ。さらにデミアン・リヒテンシュタインが愚かなのは、マイケルに全くアクションをさせないこと。前述したように現金強奪時の銃撃戦にほとんど関与しなかったマイケルだが、その後も全くアクションをしないまま終盤へ突入する。
ようやくクライマックスに来てマーフィーと対決するかと思ったら、マーフィーは駆け付けた警官隊と銃撃戦を繰り広げ、マイケルは何もしていない。明らかに戦わせる相手を間違えている。警察なんて、刺身のツマでいいのよ。もう1人のマイナス要因は、まあ予想できるかもしれないが、ケヴィン・コスナーだ。
カート・ラッセルはホテルのシーンで、ノリノリでエルヴィスの物真似をやっている辺りからしても、おバカなテイストの強いアクション・コメディーとして本作品を解釈しているように思える。
だが、コスナーは明らかに「シリアスなアクション映画の悪役」として芝居をしている。たぶんコスナーとしては、ハードな極悪人を演じて役者として脱皮を図りたいという意識が強かったんだろう。で、コメディー寄りのラッセルとアクション寄りのコスナーの間で映画の解釈に関する意見が対立し、それぞれの意向に沿って編集されたフィルムを作って試写が行われたらしい。
結局、どっちのヴァージョンが採用されたのかは良く分からないんだが、最初からケヴィン・コスナーのところをジョン・タートゥーロかスタンリー・トゥッチ辺りにでも配役変更しておけば、おバカなアクション・コメディー映画として丸く収まったんじゃないかと思ったりもするが。
第22回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低脚本賞
ノミネート:最低主演男優賞[ケヴィン・コスナー]
ノミネート:最低助演女優賞[コートニー・コックス]
ノミネート:最低スクリーンカップル賞[カート・ラッセル&ケヴィン・コスナーかコートニー・コックスのどちらか]
第24回スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【最悪の作品】部門
ノミネート:【最悪の主演男優】部門[ケヴィン・コスナー]
ノミネート:【最悪の助演女優】部門[コートニー・コックス]
ノミネート:【最も苛立たしいグループ】部門[エルヴィス・プレスリーのソックリさんたち]
ノミネート:【最も苛立たしいインチキな言葉づかい(女性)】部門[コートニー・コックス]