『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』:2018、アメリカ&オーストラリア

深夜に半鐘の音で目を覚ましたマリオンは、幼い息子がヘンリーがいないことに気付いた。マリオンが邸内を捜索すると、ヘンリーは麻袋から頭から被って立っていた。マリオンは困惑しながら「何をしてるの?」と声を掛けるが、彼は何も反応しなかった。マリオンが麻袋を取ると、ヘンリーは無表情で一点を見つめていた。彼は天井裏へ向かう階段を指差し、「あいつが来る」と口にした。マリオンとヘンリーがじっと見つめていると、コツコツという靴音が鳴り響いた。
サンフランシスコ。精神科医のエリック・プライスは娼婦のナンシーたちを家に招き、アヘンチンキを舐めて楽しんでいた。彼はナンシーに得意の手品を見せ、「現実と錯覚の違いを見極めるには、支配することだ。恐怖に支配されてはならない。恐怖は心の中に存在するだけだから」と語った。娼婦たちを帰らせたエリックの元に、ウィンチェスター社の法務責任者を務めるアーサー・ゲイツがやって来た。彼はエリックに仕事を依頼したいと告げ、サラ・ウィンチェスターを知っているかと問い掛けた。
ウィンチェスター社の社長だったサラの夫は25年前、莫大な財産と51%の株式を残して死亡した。サラは夫に続いて幼い娘のアニーも失い、霊媒師に助言を求めた。彼女は霊媒師に指示された通り、サンノゼに8部屋の屋敷を購入した。そこから20年間、増築を続けて巨大な7階建ての建物になっている。設計の基本計画も無いので廊下は迷路になっている。先月の重役会で、サラが筆頭株主として適格かどうか精神鑑定することが決まった。珍しく屋敷の滞在許可が出たので、サラを鑑定してほしいというのがゲイツの依頼だった。エリックは拒否しようとするが、ゲイツは借金があることを指摘して高額の報酬を提示した。
エリックはウィンチェスター邸へ向かう馬車でカタログを開き、主に銃を販売しているウィンチェスター社がローラースケートも扱っていることを知った。彼が屋敷に着くと工事が行われており、執事のフランクは「昼夜問わずに工事が続いています」と教えた。エリックは書斎に通され、マリオンがやって来た。彼女は「客人は伯母のルールに従ってもらいます。先生は東棟。伯母の領域は立入禁止です」と言い、伯母は敬意を払うべき人物だと述べた。
マリオンがエリックを案内した部屋には、声がパイプを通って届く通信装置が設置されていた。1人になったエリックは懐中時計に入れてある亡き妻の写真に向かい、「ルビー、君は正しいよ。私は詐欺師だ」と言う。彼はアヘンチンキを舐めて鏡に写った自分を眺め、「お前は能無しだ」と罵った。不気味な農夫が鏡に出現したのでエリックは慌てて振り向くが、部屋には誰もいなかった。そこへ使用人のベンが来て、夕食の準備が出来たことを知らせた。
食堂へ赴いたエリックはヘンリーと話し、彼の父親が亡くなったばかりだと知った。「私にも不幸があった。貴方とヘンリーが望めば力になれるだろう」と彼が言うと、マリオンは「それなら伯母は異常ではないと診断して」と要求した。サラは喪服で食堂に現れ、エリックを歓迎した。エリックがウィンチェスター銃の能力を称賛すると、サラは「殺傷力に優れている」と言う。自責の念に駆られているのかというエリックの質問に、彼女は「意図されたなら誤用とは言えない」と答えた。
食事を終えて部屋に戻ったエリックはアヘンを舐め、ルビーが「妄想性障害?私を信じて」と泣く夢で夜中に目を覚ます。ガーデンルームのパイプから声が聞こえたのでエリックは呼び掛けるが、返事は無かった。パイプから何者かの人差し指が出現するが、エリックは全く気付かなかった。屋敷を歩き回ったエリックは、書斎の金庫からサラが箱を取り出す様子を目撃した。気付かれた彼は逃げ出し、小部屋に隠れた。不気味な女の幻影を見たエリックは、慌てて廊下に飛び出した。
ヘンリーは物音を聞いて目を覚まし、ベッドの下を覗き込んだ。ローラースケートが廊下へ滑って行くと、彼は後を追った。エリックはガーデンルームを発見するが、扉は施錠されていた。庭に出た彼は、麻袋を被ったヘンリーが最上階から飛び降りようとするのを目にした。彼は慌てて駆け寄り、飛び降りた彼を抱き止めた。するとヘンリーは白目を剥き、「見てるぞ」と言い放った。すぐにヘンリーは正気を取り戻し、駆け付けたマリオンが抱き締めた。
翌日、エリックはサラの診察を始めるが、逆にルビーや薬物使用に関する質問を投げ掛けられる。サラが「呪われてるの」と口にすると、エリックは馬鹿にしたような態度を取った。サラは「信頼できない人には話せない」と告げ、薬物使用を中止するよう要求した。彼女はエリックからアヘンを没収し、使用人のオーガスティンに見張らせて部屋に監禁した。サラは「霊の存在を信じる」と言うが、エリックは幻覚や幻聴だと決め付けた。
真夜中に半鐘が鳴ったので、エリックは理由をオーガスティンに質問する。しかしオーガスティンは、「午前0時だ」と言うだけだった。サラの姿を目にしたエリックは、窓から部屋を抜け出した。サラはロウソクを灯した部屋で、何かに憑依されたように部屋の図面を描いていた。不意にロウソクの炎が消えると、サラは正気に戻って部屋に寒さに体を震わせた。エリックは不気味な男を目撃して部屋に舞い戻り、「アヘンが残っている。離脱状態だ」と自分に言い聞かせた。
次の日、エリックが診察を始めようとすると、サラは「死とは何?貴方は3分間、死んだわ」と告げる。彼女は棚の資料に歩み寄り、「銃が殺した人々の記録よ。ここに無数の霊が集まるの」と言う。エリックが「だが、私は生きてる」と語ると、サラは「撃たれたわ」と指摘する。エリックが持ち歩いている弾丸を見せると、彼女は「修理したのね」と驚いた。彼女が持ち歩く理由を尋ねると、エリックは「過去を忘れないためだ。私を死と失った物に繋げてる」と答えた。するとサラは、「死の道具はあの世と繋がってるわ。癒やしのための記念品も、時には害を及ぼすわ」と警告した。
増築を続ける理由をエリックが訊くと、サラは「ウィンチェスター銃で殺された霊が私を導くのよ」と話す。「なぜだ?」という質問に、彼女は「部屋が完成すると、彼らは強くなるの。影たちには、やり残した仕事がある」と答える。続けて彼女は、「真夜中に鐘が呼び出し、計画や図面で伝えて来る。死んだ部屋を複製すれば、彼らはここに来られる」と説明する。ただ、その霊がどういう人物なのかは、全く分からないのだと彼女は語った。
サラはエリックに、「この部屋に私以外の誰かが見える?」と訊く。エリックが誰も見えないことを告げると、彼女は「時間が掛かるわ。無にならないと」と口にした。エリックはオーガスティンに霊を見たことがあるか質問し、「見ていない」と言われる。サラは現場監督のジョンを呼び、ライフルの陳列室に全てのモデルを揃えるよう指示した。エリックの質問を受けたサラは、「部屋が完成すれば、より霊の存在は強くなる。深い反省を示して彼らが安らかになると、部屋を壊して次を造る」と説明する。好意的でない霊の扱いをエリックが訊くと、彼女は「13本の釘で封じ込める。13は輪廻転生を守る神聖な数よ」と答えた。
サラは「安らげない霊が、純粋なヘンリーを狙っている」と言い、霊に平安を与えるための協力をエリックに要請した。しかしエリックは「私は目に見えない物を信じない」と告げ、過去を捨て去るよう説いた。サラは彼に、「私について真実と思うことを鑑定書に書いて」と告げる。エリックが「会社を失うことになっても?」と問い掛けると、彼女は「世の中には、もっと悪いことがある」と述べた。エリックはジョンにガーデンルームが見たいと頼むが、「あそこは立入禁止だ」と断られた。
エリックはマリオンに「ヘンリーの行動は父親に起因している」と語り、どんな亡くなり方だったのか尋ねる。マリオンが「夫は家族より、お酒を愛していた」と話すと、彼は「私も悪霊の声に悩まされた人を知っている。その人を守ろうとした時、私は死んだ」と説明した。ヘンリーが寝室を抜け出して陳列室のライフルを持ち出し、サラに発砲した。サラが慌てて逃げると弾が切れるが、ヘンリーは殴り掛かる。そこへエリックが駆け付けて制止すると、ヘンリーは正気に戻った。
マリオンはヘンリーを寝室に連れて行き、エリックは「病院で診てもらうべきだ」と言う。サラは「誰も理解しない。私たちがヘンリーを守るのよ」と反対し、ジョンに部屋のドアを13本の釘で封印するよう命じた。エリックはマリオンに、「ヘンリーには治療が必要だ。夫人は迷信に囚われている。良く考えろ」と説いた。マリオンが同意すると、エリックは「連絡する」と部屋を出て行った。サラはマリオンに、「呪いは医者には治せない。証明するわ」と告げた。
エリックはゲイツに電話を掛け、「病院に搬送する。運転手を用意してくれ」と要請した。そこにベンが現れ、「夫人は屋敷で死人を見た。先生も見たはずだ。召使いたちは怪奇現象が起きて封印された部屋から漏れる物音を聞いてる。でも姿が見えるのは私と先生だけだ」と語る。彼は死人の姿に変貌し、「ウィンチェスター家は皆殺しだ」と凄んだ。驚いたエリックは転倒し、ベンは姿を消した。エリックは書斎が行くと、サラは新聞を持っていた。
サラに詰め寄ったエリックは、新聞にベンの写真が掲載されていることを知る。それは20年前の新聞で、ウィンチェスター社を襲撃したベン・ブロック伍長に関する記事が掲載されていた。ベンは南北戦争で兄弟を殺され、復讐心に燃えてウィンチェスター社へ乗り込んだ。彼は15人を射殺して陳列室に立て籠もり、警官隊に射殺された。サラは陳列室を再現して、そこへエリックを案内する。彼女はベンに呼び掛け、立ち去るよう頼んだ。しかしベンは屋敷を激しく揺らし、サラを守ろうとしたジョンを始末する。彼は陳列室を崩壊させ、サラを閉じ込めた…。

監督はザ・スピエリッグ・ブラザーズ、脚本はトム・ヴォーン&ザ・スピエリッグ・ブラザーズ、製作はティム・マクガハン&ブレット・トンバーリン、製作総指揮はベネディクト・カーヴァー&ダニエル・ダイアモンド&トビン・アームブラスト&アンディー・トラパーニ&ブライアン・ギルバート&マイケル・バートン&ブライス・メンジース&マーク・シッパー&サイモン・オークス&アントニア・リアノス、撮影はベン・ノット、美術はマシュー・パットランド、編集はマット・ヴィラ、衣装はウェンディー・コーク、特殊メイクアップ効果デザイナーはスティーヴ・ボイル、音楽はピーター・スピエリッグ。
出演はヘレン・ミレン、ジェイソン・クラーク、セーラ・スヌーク、フィン・シクルーナ・オープレイ、エイモン・ファーレン、ブルース・スペンス、タイラー・コッピン、マイケル・カーマン、アンガス・サンプソン、アリス・チャストン、エム・ワイズマン、ローラ・ブレント、アダム・ボウズ、トム・ヒース、カーティス・ボック、アンディー・デ・ロア、アラナ・フェイガン、レベッカ・マカー、ジェイデン・アーヴィング、ロスコー・キャンベル、ピューヴェン・パサー他。


『プリデスティネーション』『ジグソウ:ソウ・レガシー』のマイケル&ピーター・スピリエッグ兄弟が監督と脚本を務めた作品。
共同で脚本を担当したのは、『アウト・オブ・タイム』のトム・ヴォーン。
サラをヘレン・ミレン、エリックをジェイソン・クラーク、マリオンをセーラ・スヌークが演じている。他に、ヘンリーをフィン・シクルーナ・オープレイ、ベンをエイモン・ファーレン、オーガスティンをブルース・スペンス、ゲイツをタイラー・コッピンが演じている。

ウィンチェスターハウス(ウィンチェスター・ミステリー・ハウス)はカリフォルニア州サンノゼに実在するし、サラ・ウィンチェスターが霊媒師の助言で増築を続けたことも事実だ。
何も無い状態からオリジナル脚本を作るより、実話というベースがあった方がメリットは大きい。日本でウィンチェスターハウスを知っている人は少ないだろうが、アメリカだと観光スポットになっているぐらいだし、それなりの認知度はあるはずだ。
観客が基本情報を知っていること、作品が現実と地続きになっていることは、観客を怖がらせるためには有効だ。
しかし、この映画はその強みを充分に活かしているとは思えない。

ウィンチェスターハウスは廊下が迷路のように入り組んでおり、数え切れないほどの部屋数がある。基本計画が無いから全く整理されておらず、サラが発明した様々な装置が取り付けられている。
そういう設定のはずなのだが(っていうか実際にそうなのだ)、そういう方面での面白さは無い。
屋敷そのものがアミューズメント・パークやアトラクションのような面白さを含んでいると思うのだが、そういうのは全く感じさせない。
屋敷の図面は、全く分からない。そのシーンで登場人物がどの場所にいるのか、他のキャラとの位置関係はどうなっているのか、どういうルートで移動しているのか、そういうことも全く分からない。

都合のいいことに、エリックが書斎にするサラを覗き込む時には、少しだけ仕切りとなるカーテンが開いている。
サラが図面を描くのをエリックが覗き込む時には、ドアが少しだけ開いている。「中を覗いてくださいね」と言っているようなモンだ。
全ての部屋が、必ず中を覗けるような状態になっているわけではない。不審な行動を取るサラの姿をエリックが目撃する時だけ、中を覗けるようになっているのだ。
もちろん、「それも悪霊の仕業」というわけではない。
御都合主義の仕業だ。

この映画は「どこにでもある凡庸なホラー」として、ただ「急に大きな音を出して脅かす」という陳腐な描写に頼りまくるだけ。
いわゆるジャンプスケア(jumpscare。急に大きな音を出したり映像を変化させたりするテクニック)を、凡庸に繰り返す。
そのジャンプスケアにしても、「クローゼットが動いたのでエリックが様子を見に行くと、向こうが開いて女中が作業中」というコケ脅しだったりする。
ホントの怪奇現象だけではなく、そういう肩透かしも盛り込んでいる。

とは言え、まだ女中の肩透かしは序盤なので、この映画の出来栄えを考えれば余裕で許容範囲だ。
厄介なのは、もう物語も佳境に突入している辺りで、同じような演出をやらかしていることだ。
ヘンリーがサラを射殺しようとした後、また「クローゼットが音がする」という展開があってエリックが近付くのだが、今度は向こうからサラが現れる。
そのタイミングで、そのコケ脅しは無いだろ。もうちゃんとした怪奇現象で怖がらせろよ。

その後、今度は電話を終えたエリックが、ベンにぶつかりそうになるシーンでもジャンプスケアとしての演出をやっている。
「急に向こうからベンを飛び出して来たので、エリックが驚く」という形で、ご丁寧にSEまで付けて盛り上げようとしている。
でも、そこはもはや「怪奇現象だと思ったら違いました」という類のコケ脅しですら無いんだよね。
ただ使用人とぶつかりそうになっただけのシーンなので、その演出は間違っていると断言できる。

ヘンリーが悪霊に憑依されて自殺しようとしたり、サラを殺そうとしたりするシーンがある。「幼い子供が憑依されてヤバい奴になる」というのは、恐怖描写として強い力を持っている。
なので、そこに絞り込んでもいいぐらいだ。
しかし後半に入って「ベンが悪霊」ってことが判明するので、「じゃあヘンリーに憑依しして操る必要性何て無いよね」と言いたくなる。
ベンは実体として普通に行動できるんだから、自らサラやヘンリーを襲えばいいだけでしょ。それが出来ない理由なんて何も無いでしょ。

っていうか、最終的にはベン・プロックという1人の悪霊に、怪奇現象の原因を限定してしまうのね。それによって、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」みたいな感じになってしまう。
そこはボンヤリさせておいた方が怖いんじゃないかと思うけどね。
あと、そもそもサラが部屋を複製して幽霊を屋敷に呼び込んでいるから、色んな怪奇現象が起きているわけで。なので、全て自業自得なのよね。
それに気付いてしまうと、すげえバカバカしく思えるぞ。
アホみたいに増築しなきゃ、悪霊も来なかったはずなんだから。

あと、ベンがサラに「お前が全て奪った」と恨みをぶつけるけど、サラはウェンチェスター社の創設者でもなければ銃の販売を推進したわけでもないからね。ただ社長の妻だっただけだからね。
なので、「恨みをぶつける相手を完全に間違えているよね」と言いたくなるぞ。
そりゃあ、もうサラの旦那は死んでいるけど、ウェンチェスター社で銃を売っていた社員とか、ベンの兄弟を殺した実行犯はいるはずで。
そういう面々へ恨みを向けずサラだけを標的にするのは、ホラーに理不尽さは付き物と分かっているけど、なんか引っ掛かる。

どうせお化け屋敷的な仕掛けしか無いんだから、開き直って「次から次へとジャンプスケア」という形にすれば、少しはマシになったかもしれない。
だけど決して充実しているとは言えないし、どんどんエスカレートしていくわけでもない。終盤に入るまでは、かなり勿体を付けている。
それならジャンプスケアが無い時間帯は何を重視しているのかというと、サラとエリックの問答である。
それが本作品の質を高めているのかというと、そんなはずがないでしょ。サラが怪談を喋っているわけでもないんだし。

サラの台詞を使って餌を撒いておいて、ジャンプスケアの効果を高めるという趣向があるわけでもない。サラとエリックの会話シーンが生み出しているのは、退屈だけだ。
アカデミー主演女優賞もエミー賞もトニー賞も受賞し、大英帝国勲章まで受勲しているヘレン・ミレンであっても、1人の力ではどうにもならない。
ヘレン・ミレンが演技力を発揮したところで、この映画が持っている退屈を面白さに変えることなんて出来ない。
彼女は魔術師ではないし、霊の力を借りることも出来ないんだから。

(観賞日:2020年4月17日)


第39回ゴールデン・ラズベリー賞(2018年)

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演女優賞[ヘレン・ミレン]
ノミネート:最低監督賞[ザ・スピエリッグ・ブラザーズ]
ノミネート:最低脚本賞

 

*ポンコツ映画愛護協会