『ウィッカーマン』:2006、アメリカ&ドイツ&カナダ

カリフォルニア。白バイ警官のメイラスはパトロール中、車から投げられた人形を拾った。その車を停止させると、運転していたのは母親 で、人形を投げたのは後部座席にいる幼い娘だった。母親が「この子、昼から機嫌が悪くて」と詫びると、娘は「つまんない」と言う。 メイラスは娘に人形を渡し、「道路に物を投げちゃいけないよ」と優しく注意した。だが、娘はすぐに人形を道路へ放り投げる。メイラス が人形を拾いに行くと、大型トラックが車に正面から突っ込んだ。車が炎上したので、メイラスは窓ガラスを割って2人を救出しようと する。しかし彼が手を出すよう言っても、娘は見つめているだけだった。メイラスは爆発で吹き飛ばされ、意識を失った。
その事故以来、メイラスは精神を病んで仕事を休むようになった。ある日、女性警官がメイラスの家を訪れ、彼の相棒であるピートから 頼まれたという見舞いや励ましの手紙を差し出した。車から母娘の遺体は発見されず、車の登録もされていなかった。女性警官が帰った後 、メイラスは手紙に目を通す。すると、その中の一通は8年前に失踪した婚約者ウィローからの手紙だった。そこには、生まれ故郷である サマーズアイル島で娘のローワンが2週間前から行方不明になっているので、助けてほしいと記されていた。島の人たちが非協力的なので 、メイラスしか頼れないのだという。
メイラスはサマーズアイル島について調べるが、詳しい情報は得られない。ワシントン州にある個人の島で、農業コミューンのような場所 だということだけは分かった。翌日、メイラスは警察署へ行き、ピートに手紙を見せて「誰かが持って来たのか?消印が無いんだけど」と 尋ねる。手紙を読んだピートは、無視するよう忠告する。しかしメイラスは迷った挙句、サマーズアイルへ向かうことにした。
メイラスは水上飛行機でサマーズアイルへ荷物を配達している老人と出会い、同乗させてほしいと頼んだ。老人は「変わったことをすると 契約を切られるんだ。あそこは私有地だから、よそ者は歓迎されない」と断るが、メイラスが金を渡すと承諾した。浜辺に降りたメイラス は、そこから歩いて村を目指す。彼が歩いていると、中年女性たちがやって来た。「ここは私有地だよ」と冷たく言う彼女たちに、「ここ の住人から、子供がいなくなって訴えがあったんですよ」とメイラスは告げる。「じゃあシスター・サマーズアイルに相談するといい。 来訪者には厳しいよ」と、女性たちは薄笑いを浮かべた。
メイラスはウィローから送られてきたローワン写真を見せ、「知ってますか」と尋ねる。女性たちは「さあねえ」と、そっけない態度で 言う。だが、ウィローの名前は知っており、「ああ、いるよ。この上の宿に。ちょっと変わってるけど」と告げる。メイラスが宿へ行くと 、1階の食堂には女性しかいなかった。女将のシスター・ビーチに話し掛けると、露骨に不愉快そうな態度を示した。メイラスが宿泊を 求めると、ビーチは「帰ってくれないみたいだから、一泊だけね」と承諾した。
メイラスがビーチと話していると、ウィローが姿を見せた。ビーチは彼女に、部屋の準備をするよう指示した。メイラスは女将と客たちに 向けて、厳しい口調で「俺は警官の公務として島に来た。いずれ全員に話を聞きますよ」と告げる。「カリフォルニアの警官でしょ。ここ はワシントン州ですよ」とビーチが反発すると、彼は「分かってる。だが、子供が一人いなくなってるんだ」と声を荒げた。
ウィローはメイラスに、こっそりメモを渡す。そこには「監視されてる。後で2人で会いましょう。岬の向こうで1時間後に」と綴られて いた。メイラスは彼女と密会し、「あの頃、何があったんだ」と問い掛ける。ウィローは「ずっと昔のことよ。若かったから」と怯えた ように答える。「他に好きな男でもいたのか。だって子供がいるわけだし」とメイラスが言うと、「違うの。怖かったの。たぶん結婚する 準備が出来てなかった。とにかく、今は娘のことで頭が一杯なの」と彼女は述べた。
メイラスが「なぜ今頃になって俺に連絡して来るんだ。子供の父親がいるだろう」と言うと、ウィローは「貴方以外は誰も信用できない のよ。みんな貴方を惑わせようとするだろうけど、あの子はさらわれたの。でも、必ず島にいるはず」と語る。メイラスは「協力するよ」 と約束する。その夜、宿の一階に数名の女性たちが集まるのを、メイラスは目にした。ビーチが「今夜は明日に備えるのよ。使徒再生の時 が待ってる」と言うと、盲目で双子の女性たちが「ええ、ウィッカーマンが戻って来る」と声を揃えた。
眠りに就いたメイラスは、事故の悪夢で目を覚ます。窓の外に目をやると、少女が泣きながら走って行くのが見えたメイラスは外に出て、 「ローワン」と呼び掛ける。メイラスは少女を追って森に入るが、見失ってしまった。近くにあった納屋を調べてみると、2階で少女が 走る足音が響いた。メイラスは2階へ行くが、誰もいなかった。床が抜けて落ちそうになったメイラスだが、何とかよじ登った。
翌朝、メイラスは食堂で、壁に何枚もの写真が飾られているのに気付く。それは全て少女の写真だ。ビーチが来たので、「これは祭りか 何かの写真?」と彼は質問する。ビーチは「毎年、秋の終わりに収穫祭をやるんですよ。その後に豊穣祭もやるけど、神聖な儀式だから 撮影は禁止されてる」と説明した。「去年のが無いけど」とメイラスが指摘すると、彼女は「昨夜、破れたのよ」と告げた。
メイラスは宿の若い使用人シスター・ハニーにローワンの写真を見せて、「この子、知らない?」と尋ねる。だが、彼女は笑みを浮かべる だけで、何も答えようとしなかった。「もう一人のお手伝いは?」とメイラスが訊くと、「学校へ行った」と彼女は言う。メイラスは ハニーから、学校が丘の森の向こうにあるのを教えてもらう。「ここを出る時、連れてってくれる?」とハニーが言うので、メイラスは 小さくうなずいた。
メイラスは学校に向かう途中、歩いて来る女たちと遭遇する。メイラスは挨拶するが、彼女たちは無言のまま通り過ぎて行く。学校に到着 すると、教師のシスター・ローズが生徒のデイジーやリリーたちに授業をしていた。生徒は全て女子だった。メイラスが「失踪した女の子 を捜してる。みんな知らないと言い張ってる」と告げると、ローズは「貴方は夢想家なのね。理想ばかり追い掛けるドン・キホーテは、 ほとんど男性です」と口にした。
メイラスが「ウィローと話したい」と言うと、ローズは冷たい態度で「もう帰りましたよ」と告げる。メイラスは子供たちにローワンの 写真を回し、「誰か知ってる子はいない?」と尋ねるが、反応は無かった。ローズは「いたのなら、いたって言いますよ」と述べた。 メイラスは空いている机が気になり、「誰のだ?」と言う。机の蓋を開けると、中からカラスが飛び出した。デイジーは「鳥がどれぐらい 生きていられるか閉じ込めてみたの」と、無感情に告げた。
メイラスが生徒の名簿を見せるよう求めると、ローズはシスター・サマーズアイルの許可を貰うよう言う。メイラスが無視して名簿を見る と、ローワンの名前がラインで消されていた。メイラスは生徒たちに向かい、「みんな嘘つきだな。ローワンは君たちのクラスメイトだ」 と鋭く言う。ローズは「この子はどこだ」と詰め寄られ、ローワンは事故死して土に葬られたと説明する。「どうして死んだ?」という メイラスの質問に、彼女は「燃えたんですよ」とだけ言い、それ以上のことは語らない。
メイラスは教会へ向かい、草むらの中に墓らしき場所を見つける。そこへウィローが来て、「それは娘の墓じゃないわ。そう見えるだけ。 でも彼らがやったことなの」と話す。「彼らって?」とメイラスが訊くと、ウィローは何かに怯えるように「誰かは分からない」と言う。 教会は無く、かつて建っていた形跡だけが残されている。ウィローは「前は素晴らしい教会があったらしいけど」と説明した。
ウィローが「ローワンは生きてる」と訴えると、メイラスは「他の人は、もう埋葬されたと言ってる。焼死だったそうだな」と告げる。 「嘘つきよ。全てあの子のせいにして。あの子に何かする気なのよ」とウィローが言うので、メイラスは「だけど、なぜ?」と尋ねた。 ウィローは「私が一度逃げたから。シスター・サマーズアイルは私のことが嫌いなの」と語る。「シスター・サマーズアイルって何者?」 とメイラスが訊くと、彼女は「目に写る全てが彼女なのよ」と告げた。
ウィローはメイラスに、ローワンの父親が彼であることを打ち明けた。ウィローはメイラスを自宅に連れて行き、ローワンを最後に見たと いう彼女の部屋に通した。少し外出して戻ったら、娘も所持品も全て消えていたという。メイラスが部屋を調べると、机の裏に「助けて」 と無数の落書きが残されていた。メイラスは水上飛行機が飛んで来るのを見て、無線を借りようと考える。船着き場へ行くが、操縦士が 見当たらない。携帯は繋がらないので、操縦士が帰るのを待つことにした。
しばらく待っても操縦士が戻らないので、メイラスは飛行機に乗り込むが、無線は使えなかった。メイラスはウィローが「島で写真を撮影 するのはモス先生だけ」と言っていたのを思い出し、モスの家へ行く。彼女の本業は医者で、写真家は副業だという。去年の収穫祭の写真 について尋ねると、モスは「ネガはあるから、焼きましょうか」と言う。メイラスは、古代の儀式に関する本があるのに気付いた。
モスが外出した後、メイラスは彼女の家に侵入した。古代儀式の本に挟んであるメモを見ると、「古代エジプトやインカのように異なった 社会においても収穫を祝う式典は同じ目的で行われていた。若者が豊穣の化身として選ばれ、司祭は血の儀式を行って化身を殺す。見返り として、翌年は豊作が約束されると考えられていた。この生贄は、しばしば燃やされた」と書かれていた。メイラスが奥の部屋にある クローゼットを開けると、ローワンの写真があった。その写真には、その年は記録的な大凶作だったことが記されていた。
メイラスはウィローの家へ行き、ローワンの写真を突き付けて「ローワンも儀式に関わってるって、なぜ言わなかった。みんながローワン を責めてたって?それは凶作のことか」と怒鳴った。ウィローは「あれは、ただのセレモニーよ。それ以外は何も知らない」と弁明するが 、メイラスは「セレモニーってのは何だ。君を信じようとしてきたが、次から次へ不可解なことばかりだ」と言う。しかしウィローが 「私だって島が怖いわ。ここから逃げた時は幸せだった。後悔してるわよ」と泣きそうになるので、彼は「もういい、もう分かったよ」と 優しく抱き寄せた。
メイラスはサマーズアイルの元へ向かうが、その途中で草むらを通過しようとしていると、壺から飛び出した無数の蜂に襲われた。失神 したメイラスは、気が付くとサマーズアイルの屋敷でベッドに寝かされていた。傍らにはモスがいて、「昔ながらの手当てをしたわ」と 言う。メイラスが庭に出てサマーズアイルと会うと、彼女は「蜂に襲われて死に掛けたんでしょ。残念だったわね」と静かに告げた。 メイラスが「島中、どこにでも蜂が飛んでる」と言うと、彼女は「秩序を保つには、かなりの数が必要だもの」と微笑した。
メイラスが「遺体を回収して解剖する許可が欲しい。殺人ですから」と告げると、サマーズアイルは「あら、だったら捜査を続けなきゃ」 と言う。「どうでもいいような言い方ですね」とメイラスが苛立つと、彼女は「そりゃあそうよ。だって確信してるから。殺人なんて、 この島では絶対に無いって」と告げる。メイラスが「だが、殺人は殺人だ」と言うと、「貴方のいる世界ではね。でも、ここでは違う」と サマーズアイルは悠然とした態度で語った。
メイラスが「祭りとか、捧げものとか、誰に対するものです?」と訊くと、サマーズアイルは「この島を支配する地母神よ。私はその化身 。言うなれば、私はこのコロニーの心」と話す。それから彼女は「私の古い先祖は、女が抑圧されることに憤慨した。そこで17世紀に、 みんなで新しい世界へ逃げた。ところが逃げた先が魔女狩りで有名なセイラムの近くで、また迫害されると悟り、西へ向かって長い移動を 始めた。そして1850年代、私の祖母の祖母が一団を率いて、この島へやって来た」と説明した。
サマーズアイルが「先祖たちは誓った。二度と外の世界へは戻らないと」と言うので、「出来るわけがない。外に戻らないなんて」と メイラスは反論する。サマーズアイルは「みんな自然に住み着いたのよ。こんな簡素な暮らしを。もちろんウィローのように去る者もいる けれど、結局は戻って来る」と、淡々と語る。「では男は劣った存在?」とメイラスが訊くと、彼女は「男性も愛しているわよ。ただ服従 しないというだけ。ここでは男性も繁殖という重要な役割を担っている」と述べた。
メイラスが「それって近親繁殖じゃないのか」と嫌味っぽい口調で述べると、サマーズアイルは「何も知らずに安易な批判をしないで ほしいわね」と言う。メイラスが「恋愛したがる女はいないのか」と尋ねると、彼女は「私たちは女神が望むから繁殖するんです。立派な 娘を残すのが使命なのよ」と告げる。「男の子が産まれたらどうなる?」という問い掛けに、彼女は「状況次第ね」と答えた。
苛立ったメイラスは、「俺の娘の命が危ないんだ。アンタもルールからは逃げられん。もしも若い娘を生贄として儀式に捧げてみろ。ただ じゃおかないぞ」と警告した。サマーズアイルは薄笑いを浮かべ、「殺人に対する私の考えは、さっき言ったはずよ」と告げた。メイラス はローワンの墓とされている場所を掘り起こすが、棺を開けると焦げた人形が入っているだけだった。少女の声が聞こえてきたので、彼は ローワンを捜す。近くに地下道を見つけた彼は、階段を下りた。
メイラスは地下道の水路を覗き込み、そこに浮かぶローワンの服を発見した。彼は蓋を開けて、水路に飛び込んだ。しかし水路を泳いで いる間に、何者かが蓋を閉めてしまう。メイラスは助けを呼ぼうと叫ぶが、誰も来なかった。翌朝になってウィローが駆け付け、メイラス を助け出した。メイラスは、ローワンが生きており、儀式で生贄にされると直感する。彼は「あの女の所へ行く。悪いことが起きそうな 予感がする。家に戻って鍵を掛けてろ」とウィローに言い、サマーズアイルの屋敷へ向かう…。

脚本&監督はニール・ラビュート、オリジナル脚本はアンソニー・ シェイファー、製作はニコラス・ケイジ&ノーム・ゴライトリー&ランドール・エメット&アヴィ・ラーナー&ボアズ・ デヴィッドソン&ジョン・トンプソン、共同製作はジギ・カマサ&サイモン・フランクス&ショーン・ウィリアムソン、 製作総指揮はジョージ・ファーラ&ジョアン・セラー&トレヴァー・ショート&アンドレアス・ティースマイヤー&ジョセフ・ ローテンシュレイガー&ダニー・ディムボート&エリサ・サリナス、撮影はポール・サロッシー、編集はジョエル・プロッチ、美術は フィリップ・バーカー、衣装はリネット・マイヤー、音楽はアンジェロ・バダラメンティー。
出演はニコラス・ケイジ、エレン・バースティン、ケイト・ビーハン、フランセス・コンロイ、モリー・パーカー、リーリー・ ソビエスキー、ダイアン・デラーノ、マイケル・ワイズマン、 エリカ・シェイ・ゲイアー、クリスタ・キャンベル、エミリー・ホームズ、ゼムフィラ・ゴズリング、マシュー・ウォーカー、メアリー・ ブラック、クリスティン・ウィレス、ソフィー・ハフ他。


1973年にイギリスで製作された同名映画をリメイクしたミレニアム・フィルムズの作品。
監督&脚本は『ベティ・サイズモア』『抱擁』のニール・ラビュート。
メイラスをニコラス・ケイジ、サマーズアイルをエレン・バースティン、ウィローをケイト・ビーハン、モスを フランセス・コンロイ、ローズをモリー・パーカー、ハニーをリーリー・ソビエスキー、ビーチをダイアン・デラーノ、ピートをマイケル ・ワイズマンが演じている。冒頭でメイラス&ピートが立ち寄っているレストランにいる客の役でアーロン・エッカート、ラストシーンで ハニーたちをナンパする2人組としてジェームズ・フランコとジェイソン・リッターが出演している。

オリジナル版では「敬虔なクリスチャンである主人公が、男根を崇拝する原始的な宗教に直面して云々」という「キリスト教vs異教」の 図式が用意されていた。
それに対してリメイク版は、宗教関連で抗議が来たり観客が避けたりすることを危惧したのか、宗教色をバッサリと削ぎ落としている。
そして、「都会人が田舎の閉鎖的なコミューンに迷い込む」という、「都会人vsコミューン」という図式に変更されている。
ただ、序盤でピートがサマーズアイル島について「アーミッシュみたいなもんか」と言っているし、これって「アーミッシュへの偏見や 差別を助長する」みたいに受け取られかねないような気もするが。

とにかくBGMに頼りまくっている。
不安を煽るような音楽が、冒頭から延々と流れ続けている。
もしもBGMが無かったら、そんなに不安を感じるようなことのないシーンが大半だ。
もちろん映画にとって音楽は重要で、特にホラーやサスペンスにおいては、BGMの効果は大きい。
ただ、それにしたって、あまりにもBGMに頼る部分が大きすぎやしないか。画面がやたら明るいとか、風景がのどかなモノに見えるとか 、そういう部分にも神経を使ってほしい。映像演出の面で、物足りなさを強く感じる。

序盤の見せ方が悪い。
メイラスが爆発で気絶した後、シーンが切り替わると彼が休職しており、女性警官が家に来る。そこで「車から親子の遺体は出なかったん だろ」「それに車も登録されていなかった」という会話がある。
つまり、そのことをメイラスは、既に知っていたということになる。
そういう順番で描くと、彼が事故から救えなかったショックで精神を病んでいるのか、遺体が出なかったり車の登録が無かったりという 奇妙な出来事があったので精神を病んでいるのかが分かりにくい。
母娘を救えなかったショックでメイラスが仕事を休むようになった後、遺体が見つからなかったり、車の登録が無かったりというのを 聞かされて困惑するという流れを、ハッキリと見せた方がいいのではないかなと。

その母娘が事故に遭う冒頭シーンは、「幼い少女を救えなかったメイラスが、ローワンは絶対に救おうと頑張る」という風に活用しようと 狙っているのかもしれんが、しかしローワンはメイラスの実の娘であり、そのことをメイラスも途中で知る。
実の娘なら、「少女を救うことが出来なかった」という過去の出来事が無くても、絶対に助けたいという強い思いは抱くはず。
だから冒頭シーンを用意している意味が、あまり感じられない。
っていうか、ローワンが実の娘かどうかを抜きにしても、そこが有効に機能しているとは思えないし。

母娘の事故は、「メイラスがそれに関する悪夢や幻覚を何度も見る」というところでも使っている。
それだけでなく、メイラスは別の夢や幻覚も見る。水上飛行機の操縦士を待っている時、ローワンが海に浮かんでいるのを見つけて飛び 込むが、それは眠り込んでいた彼が見た夢だ。
で、目を覚ますとローワンの死体を抱えているが、それも夢だ。
そういうところで恐怖を煽っているんだけど、それってコミューンじゃなくて成立するモノなんだよね。
それは、ちょっと怖がらせるポイントが違うんじゃないかと。

序盤でメイラスに「精神的ダメージで薬を常用している」という設定を用意したことによって、「そのせいで不安や恐怖を感じる」という 印象になってしまう。
ひょっとすると、それは意図的にやっているのかもしれない。「それは島民たちの計画通り」ということなのかもしれない(「計画通り」 ってのが何のことなのかは後述する)。
だけど、そうじゃなくて、仮に主人公が普通の精神状態であっても、その島での出来事や住民の態度によって、彼が不安や恐怖を感じると いう形じゃないと、映画としてマズいんじゃないかと。
それと、納屋の床板が抜けてメイラスが落下しそうになるとか、トラックの荷台から丸太が落ちて下敷きになりそうになるとか、そういう シーンもあるんだけど、それは単なるアクシデントであって、コミューンや島民に対する恐怖とは別物でしょ。
そんなとこでビビらせてどうすんのさ。
まさか、そういうアクシデントも、全て島民の仕業という設定だったりするのか。
だとしたら、意図が分からん。

この作品の評価を著しく下げた一つの要因は、終盤に用意されている儀式のシーンだろう。
ホントなら、そこは恐怖がピークに達するべきポイントのはずだ。 しかし、熊のキグルミに身を包んだニコラス・ケイジがマジな顔で儀式に参加している様子は、ほとんどコントのようにしか 見えないのだ。
そこも相変わらずBGMが恐怖を煽ろうと頑張って鳴り響いているのだが、さすがに厳しいものがある。

これを言っちゃうと身も蓋も無いんだけど、「島の連中の目的からすると、手間と時間を無駄に掛けすぎてるだろ」とツッコミを入れたく なる。
完全ネタバレになるが、実は儀式で生贄にされるのはローワンではなく、メイラスだ。島民たちはメイラスを生贄にするため、手紙 をおびき寄せたのだ。
島民たちは生贄として、島民と血の繋がりがある男が必要だったのだ。事故に遭った母娘と女性警官も島民で、冒頭の事故もメイラスを 陥れる計画の一部だったのだ。しかも、何年も前から用意されていた計画だ。
まず、そういうことを終盤に入ってサマーズアイルがベラベラと喋って一気に説明するってのが不恰好だが、それは置いておくとしても、 「メイラスを生贄にするため、事故を偽装して精神的に追い込み、手紙で島におびき寄せ、わざわざローワンの写真だけ隠したり、棺に 人形を入れた墓を用意したり、ローワンの机の下に「助けて」という落書きを書いたり、水路にローワンの服を浮かべたりと、ものすごく 手間を掛ける意味は何なのかと。

島民たちは、メイラスが「儀式でローワンが生贄にされる」と確信するまでは色んなことをはぐらかしておいて、でも彼が気付くような ヒントは小出しにする。
っていうか、彼がそう思い込むような嘘を幾つも小出しにする。
彼がローワンを救出して逃走を図ると、ローワンは島民たちの待つ場所へ走って戻る。そして追い掛けて来たメイラスに真相を明かして から、生贄にする。
いやいや、島におびき寄せたら、すぐに捕まえて監禁しちゃえばいいじゃねえか。
「これでゲームは終わり。狩りをしてるつもりが、貴方が狩られていた」とか言ってるけど、ひょっとすると、そのゲームも含めての 儀式なのか。

そもそも、島へおびき寄せる前に、車の事故を偽装する意味って何なのか。
そんなことをしなくても、ウィローからの手紙が届けば、島に来るんじゃないかと。
「それだけでは弱いから、少女を救えなかったという出来事を用意し、メイラスがローワンを助けたいという気持ちを強くするように 仕向ける」ってことなのか。
すげえ回りくどいし、ギャンブル性の高い計画だなあ。
他にも、「メイラスが他に仲間を連れて来るかもしれない」「外部と連絡を取れるような衛星電話を持って来るかもしれない」という 可能性だって考えられるわけで、ギャンブル性が高いというか、かなり穴の多い計画ではあるよな。

(観賞日:2012年12月19日)


第27回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低作品賞
ノミネート:最低主演男優賞[ニコラス・ケイジ]
ノミネート:最低スクリーンカップル賞[ニコラス・ケイジ&熊の着ぐるみ]
ノミネート:最低リメイク・盗作賞
ノミネート:最低脚本賞


第29回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪のリメイク】部門

ノミネート:【最悪の主演男優】部門[ニコラス・ケイジ]

 

*ポンコツ映画愛護協会