『俺たちヒップホップ・ゴルファー』:2007、アメリカ

クリストファー・“Cノート”・ホーキンスは音楽レーベル「キラー・インク」の創設者で、ヒップホップ界を牽引する人気ラッパーだ。 そんな彼が、仲間のビッグ・ラージやレディーG、ドレッド、キッド・クリーンたちを引き連れ、名門カントリー・クラブ「キャロライナ ・パインズ」を訪れた。クラブの会員権を取得するためだ。Cノートは招待状も持たず、いきなりアポ無しで乗り込んだ。
ちょうどクラブでは、代表のカミングスが幹部を集め、会員希望者たちの選別を行っていた。希望者はビル・クリントンやロージー・ オドネルなど、大物ばかりだ。しかしカミングスは、ビル・クリントンは「何かの間違いで大統領になった男だから」、ロージー・ オドネルは「レズビアンだから」という理由で、入会を却下した。そこへCノートが現れ、会費50万ドルを遥かに超える100万ドルを 見せて入会を要求した。しかしカミングスは「ここは会員制で入るのに5年待ちだ」と、入会を拒否した。
Cノートは「これで終わったと思うなよ」と言い放ち、クラブを後にした。彼はカントリー・クラブを眺めることの出来るパーティー・ ハウスを購入するが、そこには大きな狙いが隠されていた。一方、カミングスはキャロライナ・パインズでUSオープンを開催したいと 考えており、ゴルフ協会の重鎮フロスティーに働き掛けていた。その決定は3週間後に迫っており、カミングスは期待していた。
カミングスがロスティーを設定してゴルフコースに出ると、17番ホールから大音量で音楽が聞こえてきた。行ってみると、Cノートが大勢 の女性たちを集めてリル・ウェインのMTVを撮影していた。カミングスが「不法侵入だ」と言うと、レディーGが「99年前にクラブが 土地を借りた契約は、昨日で切れている。貴方は契約を更新しなかった。だから登記簿上はコースの一部分が所有者に返還された。そして 昨日から、ここの所有者はCノートなのよ」と説明した。
Cノートが「会員にしてくれればリース契約してやるよ」と言うと、カミングスは仕方なく「分かった」と告げた。しかしカミングスは ゴルフ協会の重鎮から、「こうした事態が許されるのなら、USオープンは無理だ」と言われる。彼は弁護士のシャノン・ウィリアムズを 呼び、問題解決を依頼した。シャノンは「Cノートの行為に違法性は無いので、会員にするか、金を出して解決するかの二択です」と言う 。カミングスは「ここは紳士の社交場だ、ラッパーを会員にするなんて有り得ない」と、後者を選択した。
シャノンは小切手を用意し、Cノートの元を訪れる。しかしCノートは「条件は会員になることと、あいつの鼻を明かすこと。そうすりゃ コースを明け渡す」と言い、金による解決を拒否した。シャノンはカミングスの元へ戻り、Cノートを会員にするよう持ち掛けた。彼女が 「入会から4週間は試用期間であり、少しでも会則に違反したら退会に出来ます」と説明すると、カミングスは納得した。
カミングスはCノートをコースに呼び、手下を使って密かに撮影させる。Cノートと仲間たちは、カミングスが打とうとすると声を出して 邪魔をしたり、ターボ付きのゴルフカートで暴走したりと、マナーのかけらも無いプレーを続けた。ロビーに赴いたCノートは、展示 されているポロ大会のトロフィーを目にした。カミングスのチームは、15年に渡って王座を防衛中だ。Cノートはビッグたちに、チームの 結成を宣言した。
新会員へのジャケット贈呈式に参加したCノートに、カミングスは「彼は会員権を剥奪された」と発表する。シャノンが現れ、Cノートが 幾つもの会則に違反した証拠写真を提示する。Cノートと仲間たちが会則違反を覆す証拠を示すと、カミングスは「お前みたいな奴は、 このクラブのジャケットを着るにふさわしくない」と喚いた。そこにジャクソン牧師が登場して「問題は会則じゃない、黒人か白人か、 貧乏か金持ちかだ。ジャケットを剥ぎ取ろうとしたら訴えてやるぞ」と語り、カミングスを黙らせた。
Cノートはシャノンを口説くため、街に繰り出す仲間たちと別行動を取った。Cノートはシャノンに「敵対するのはやめて、部屋で一緒に 過ごそうぜ」と誘いを掛けるが、「やめておくわ」と軽くいなされた。カミングスの若い奥さんを口説いていたビッグは、彼女から色目を 使われた。Cノートは、夜中に残って練習しているキャディーのミックに声を掛けた。ビッグたちがクラブに出向く際、カミングスの息子 ウィルソンも同行した。レディーGは出所した元カレのタンクと再会し、ヨリを戻した。
カミングスはクラブのオーナーで裏社会の仕事人でもあるジャクソンに会い、Cノートの始末を依頼した。Cノートは久々に実家へ戻り、 母に「いい子と出会った。弁護士だ」と告げる。それから彼は、幼い自分がキャディーをしていた父と一緒にゴルフをする様子を撮影した 思い出のフィルムを見た。翌朝、Cノートはミックと一緒にコースへ出た。ミックが「20年前、このコースでジャック・ニクラウスが USオープンに優勝した」と言うと、Cノートは「その時、ここにいた。親父のボビーがキャディーをしていた」と告げた。ボビーは 非公式だが。コースレコードの所有者だ。しかしカミングスは、キャディーの記録を認めなかった。
ジャクソンは相棒のリル・ロッドと共に、キラー・インクが主催するウィルソンの誕生パーティーに潜入した。彼らは爆破装置を仕掛け、 その場を立ち去った。ウィルソンが間一髪で気付き、爆破装置を駐車場に投げ捨てた。そのせいでカミングスの車は爆発した。カミングス は腹を立て、ジャクソンに電話を掛けて「もう仕事は中止だ」と告げた。Cノートが帰宅すると、シャノンが母と一緒にいた。自室に案内 したCノートはキスしようとするが、シャノンが電話で呼び出された。
ポロ大会に参加したCノートは、有望選手のマティアスをカミングスのチームから高額で引き抜いた。試合はカミングスのチームが優勢で 進むが、途中で彼の馬が言うことを聞かなくなった。サドンデスに入った試合は、ビッグがカミングスに飛び付いて攻撃を阻止し、ゴール を決めて勝利した。シャノンはカミングスから「奴らを辞めさせろ」と言われるが、「私は降ります」と告げた。カミングスはCノートに ゴルフ勝負を持ち掛け、「負けたらクラブを去れ。私が負ければクラブを去る」と告げた。
Cノートはカミングスに、「もし俺が勝ったら、アンタのインチキなコースレコードも剥奪だ」と言い放つ。そして、自分の父が40年以上 もクラブで勤務していたが、カミングスより良いスコアで回ったせいでクビにされたことを語った。老キャディーのマックも、ボビーが コースレコードで回った現場を目撃していた。敵意を剥き出しにしたCノートは、ミックをパートナーに付けた。試合当日、Cノートが クラブへ行くと、カミングスはプロゴルファーのイェスパー・パーネヴィックをパートナーとして呼び寄せていた…。

監督はドン・マイケル・ポール、脚本はドン・マイケル・ポール&ブラッドリー・オーレンスタイン&ロバート・ヘニー、製作は クリストファー・エバーツ&アーノルド・リフキン&キア・ジャム&トレイシー・E・エドモンズ、共同製作はジョン・ダフィー、 製作協力はシーラ・ケリガン&ニコール・ホイサーマン、 製作総指揮はハーヴェイ・ワインスタイン&ボブ・ワインスタイン&クリス・ロバーツ&ボビー・シュワルツ&ロス・ディナースタイン& クイーン・ラティファ&シャキム・コンペール&マーヴィン・パート、共同製作総指揮はデイモン・リー&マイケル・マックアーン& アンドリュー・シャック&リック・サロモン、撮影はトーマス・キャラウェイ、編集はヴァニック・モラディアン、美術はポール・ ジャクソン、衣装はジェイミー・ボーン、音楽はジョン・リー。
出演はアントワン・アンドレ・パットン、ジェフリー・ジョーンズ、フェイゾン・ラヴ、ジェームズ・エイヴリー、トニー・コックス、 テリー・クルーズ、キャム・ギガンデット、タマラ・ジョーンズ、ジェニファー・ルイス、アンディー・ミロナキス、ギャレット・ モーリス、ジム・ピドック、シェリー・シェパード、スーザン・ウォード、フィネス・ミッチェル、チェイス・テイタム、ダナ・マイケル ・ウッズ、ブルース・ブルース、マイケル・カヴァナー、キム・モーガン・グリーン、ロバート・カーティス・ブラウン、レスター・ “ラスタ”・スペイト、リル・ウェイン他。


ヒップホップデュオ「アウトキャスト」のビッグ・ボーイが本名の「アントワン・アンドレ・パットン」名義で主演した作品。
監督は『奪還 DAKKAN アルカトラズ』のドン・マイケル・ポール。
Cノートをビッグ・ボーイ、カミングスをジェフリー・ジョーンズ、 ビッグをフェイゾン・ラヴ、マックをジェームズ・エイヴリー、ジョンソンをトニー・コックス、タンクをテリー・クルーズ、ミックを キャム・ギガンデット、シャノンをタマラ・ジョーンズが演じている。
他に、Cノートの母をジェニファー・ルイス、ウィルソンをアンディー・ミロナキス、牧師をギャレット・モーリス、カミングスの右腕 ハリントンをジム・ピドック、レディーGをシェリー・シェパード、カミングス夫人をスーザン・ウォード、ドレッドをフィネス・ ミッチェル、キッドをチェイス・テイタム、リル・ロッドをダナ・マイケル・ウッズが演じている。
また、ラッパーのリル・ウェインとプロゴルファーのイェスパー・パーネヴィックが、本人役で出演している。

まず、Cノートの紹介が無いまま、いきなりキャロライナ・パインズへ行くという構成が失敗。
駐車場係の青年が大ファンだと言って興奮しているけど、それだけでは不充分。キャロライナ・パインズでカミングスに会ってから、 レディーGがセリフでCノートについて説明しているけど、そうじゃなくて流れの中で描写しないとさ。
例えばCノートがライブをしているとか、ファンが熱狂しているとか、そういうのを先に描いておくべきでしょ。
一方のカミングス側の描写も物足りない。
最初にCノートがどういう人物なのかを詳しく紹介し、一方でキャロライナ・パインズの様子も描くべきだ。それによって、ギャングスタ ・ラッパーであるCノートや周囲の環境と、伝統ある名門カントリー・クラブであるキャロライナ・パインズが、いかに不釣り合いかと いう対比をアピールしておくべき。それからCノートをキャロライナ・パインズへ行かせてこそ、「場違いな奴が堂々と乗り込んで来た」 という仕掛けが、効果的に機能するはず。

Cノートは、招待状が無いのにいきなりキャロライナ・パインズに押し掛けて、すげえ偉そうな態度で、しかも金を積むことで入会しよう とする。
そこは本来、カミングスが差別的な悪玉というのを見せたいところなのに、そういう態度なので、「どっちもどっち」と感じて しまう。
あんな無礼で行儀の悪い態度だったら、カミングスがマトモな人間であっても、間違いなくCノートは断られていただろう。でも、そう いうこどはダメでしょ。そこは「カミングスがCノートを蔑視しているから断った」という形にしないと。
だから例えば、Cノートがキャロライナ・パインズの会員になるために、普段と違うキッチリとした格好をして、慣れない言葉遣いにして 、それでも入会を断られるから本性を現して怒りを示すとか、そういう流れにしておけばいいのではないか。
そうすれば、Cノートが慣れない格好や言葉遣いに苦労したり、ボロが出そうになって誤魔化したりというトコで、それなりに笑いも 取れるだろうし。

Cノートと仲間たちが、ただ単に騒がしくて不愉快な連中でしかない。
キャロライナ・パインズの連中がお高く止まっているのではなく、彼らは行儀よく振る舞っているだけで、TPOをわきまえないCノート たちの方が、明らかに「間違っている」のだ。「お上品なクラブで、マナーを知らないCノートと仲間たちが傍若無人に振る舞い、会員 たちを翻弄する」というところが、ちっとも笑えないのだ。
これが仮に、主人公が純朴な田舎者とか、天然ボケの男というキャラ設定で、そういう奴が何も知らずに行動し、クラブの作法を無視して しまうということなら、笑えたかもしれない。しかしCノートの場合、カミングスを困らせようとして、意図的に傍若無人に振る舞って いる。
カミングスって、その時点では、そこまで悪い奴にも見えないんだよね。ただ会員になるのを断っただけだ。しかもCノートの態度 や行動からすると、彼がラッパーじゃなくても断られて当然だと感じる。
だから、Cノートの方が不愉快な奴になっている。

鼻を明かす相手のカミングスも、もちろん相当に問題のある人物だ。しかし、それよりもCノートたちの行儀の悪さの方が、先に強調 されている。
ぶっちゃけ、カミングスが殺害を依頼しても、Cノートたちの方が不愉快な連中に見えちゃうんだから、よっぽどだぜ。
不愉快なヤローが騒いだり傍若無人に振る舞ったりしているのを見せられて、それを笑えと言われても、まあ無理だわな。
後になって、カミングスがCノートの父親の記録を無視したとか、クビにしたとか、そういう悪事が明かされているけど、その前の段階で 、それでもカミングスがCノートに無礼な態度を取られても当然の悪党に見えなきゃ困るのよ。
っていうか、親父がクビにされたという過去の出来事が途中で明かされても、取って付けた感がハンパないんだよな。
その出来事が明かされても、Cノートに共感するための要素としては、まるで機能していない。

Cノートが会員になりたがり、それをカミングスが阻止するという流れは、ものすごくダラダラしている。
また、Cノートが会員になるという展開から離れた部分のエピソードは、ただの余計な寄り道にしか見えないし。
それよりも、もっとCノートとカミングスのバトルを、テンポ良く描いていってくれと言いたくなる。もっと中身を詰めてくれと。
もちろん詰め込みすぎは良くないけど、この映画はスッカスカなのよ。
ゴルフだけに限定しておけばいいものを、ポロにまで手を出して、ただでさえ話にまとまりが無いのに、ますます散らかっているし。

終盤のゴルフ対決も、Cノートは勝負に備えて特訓するわけでもないし、裏技を用意するわけでもないから、ただダラダラとゴルフの様子 を見せられるだけ。
そんでハーフが終わった後、マックが「お前たちはコースをちゃんと見ていない。お前が全力でやれば親父さんは誇りに思うさ」などと 言うと、ゴルフ初心者のCノートは、なぜか急に上手くなる。
一方のパーネヴィックは、特に理由も無いのに、急に調子を崩す。
なんちゅうデタラメな展開だ。
で、相変わらず、ダラダラとゴルフの様子を見せられるということは続いているし。

(観賞日:2012年5月9日)


第28回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低リメイク・盗作賞

 

*ポンコツ映画愛護協会