『宇宙戦争』:2005、アメリカ

湾岸労働者のレイ・フェリアーは、残業を断って自宅へ戻った。その日は、別れた妻メアリー・アンが子供達を預けに来ることになっていたからだ。家に到着すると、メアリー・アンは現在の夫ティムと共に待っていた。2人の車からは、レイの息子ロビーと娘レイチェルが降りてきた。ロビーはレイに反抗的で、声を掛けても無視をした。レイは怒らず、ヘラヘラと笑って応対した。
メアリー・アンはレイに、ボストンの両親の元へ向かうことを告げて立ち去った。テレビのニュースでは、世界各地で磁気嵐が発生していることが報じられている。レイは子供達に「食事は適当に取れ」と告げ、夜勤に備えて眠りに就いた。レイが目を覚ますと、ロビーの姿が無かった。レイチェルに尋ねると、車を勝手に持ち出し、どこかに出掛けたという。
外に出たレイは、空に磁気嵐が発生しているのを目にした。レイは面白がってレイチェルを連れ出すが、激しい雷鳴が轟いたため、慌てて家に入った。音が止むと、電話は通じなくなっていた。外に出ると、全ての車が動かなくなっている。電子機器は全て機能が停止したのだ。レイはロビーを見つけ、家に戻るよう指示した。レイの友人の修理工マニーは、依頼されて車を直していた。
レイが落雷のあった現場に赴くと、アスファルトに穴が開いていた。大勢の野次馬が覗き込んでいると、穴の下で何かが動いている気配があった。突然、地面に亀裂が生じ、それは一気に広がった。亀裂はアスファルトを押し上げ、穴から巨大な機械が出現した。触手のような部位を持ち、三本の長い脚で立っている。その機械は光線を発し、人々を殺し始めた。
慌てて逃げ出したレイは、呆然とした様子で自宅に飛び込んだ。ロビーとレイチェルから何があったのか問われたレイは、理由を告げず、「1分以内に家を出る。荷物をまとめろ」と命じた。レイは2人を連れて早足で歩き、マニーが修理を終えた車を見つけた。レイが子供たちを車に乗せると、マニーは「持ち主が戻って来る。降りろ」と言う。レイは「死にたくなければ乗れ」とマニーに言うが、直後、背後に巨大機械が出現した。機械はマニーを殺害し、レイは車を猛スピードで出発させた。
異常な出来事を目撃したレイチェルは、パニックで過呼吸に陥った。レイはロビーに、レイチェルを何とかするよう指示した。3人はメアリー・アンの家に到着するが、彼女とティムの姿は無い。レイは子供達に「もうボストンへ行ったんだろう」と告げ、そこで一泊することにした。レイは持って来たパンにピーナッツバターを塗って食事をしようとするが、レイチェルは「ピーナッツは食べられない」と言い、ロビーは「腹は減っていない」と口にする。レイは腹を立て、パンを窓に投げ付けた。
レイは子供たちと共に地下室へ行き、そこで寝ようとする。だが、窓の外で激しい閃光が発生し、大きな揺れに見舞われた。炎が地下室を襲ったため、レイたちは慌てて非難した。翌朝、レイが外に出ると、旅客機が墜落して崩壊していた。旅客機の近くには、ニュージャージーから来たTVクルーの姿があった。例の機械と戦う軍隊に密着取材していたのだという。
プロデューサーの女性は、「あの機械、トライポッドは見えないシールドを張っていて、攻撃しても命中前に爆発する。トライポッドが動き出すと、そのエリアは音信不通になる。敵はカプセルで雷と共に降り立ち、トライポッドに乗り込んだ」と語り、落雷の瞬間を録画したビデオテープを見せた。TVクルーは取材者に乗り込み、その場から去っていった。
レイは子供たちを車に乗せ、メアリー・アンの両親の家へと向かった。車を狙う連中に見つかるのを避けるため、レイは高速を使わなかった。レイチェルが尿意を催したため、レイは車を停めた。レイは目の届く距離で放尿するよう要求するが、レイチェルは言うことを聞かない。川に辿り着いた彼女は、そこを流れる多くの死体を目にしてパニックに陥り、悲鳴を上げた。
レイがレイチェルを車に連れ戻すと、軍隊のジープが道路を通り掛かった。ロビーは兵士に声を掛け、「乗せていってくれ。戻って仕返しをする」と口にした。レイは「そんなことより、たった10歳の妹を戦いに巻き込まない方法を考えろ」と怒鳴る。するとロビーは反発し、「ボストンへ行くのは、ママに預けて面倒を避けるためだろう。アンタはいつもそうだ」と激しく言い立てた。
レイたちの車がハドソン川に到着すると、大勢の人々が歩いている。彼らはレイたちの車を見つけると、激しい攻撃を加えてきた。レイたちは引きずり出され、車を奪われた。フェリー乗り場に向かったレイは、知人のシェリルと娘ノラに遭遇した。警官隊の指示で、人々は列を作ってフェリーへ向かっていた。だが、背後にトライポッドが出現したため、人々はフェリーに押し寄せる。
フェリーのハッチが閉じられそうになったため、レイは子供たちを連れて必死に乗り込んだ。シェリルも乗り込もうとするが、置き去りにされた。ハッチが閉じて行く中、必死にしがみ付いて乗り込もうとする人々もいた。ロビーはハッチに飛び乗り、彼らを引き上げようとした。フェリーは出航するが、トライポッドの攻撃を受けて転覆した。
川に落ちたレイたちは、何とか陸に上がった。軍隊はトライポッドを食い止めようと戦っているが、全く歯が立たない。ロビーは一緒に戦うと言い出し、軍隊に近付いて行く。レイはレイチェルを木陰で待たせ、ロビーの説得に向かう。だが、ロビーは全く聞く耳を貸さない。レイチェルが置き去りにされていると思った夫婦は、彼女に声を掛けて連れて行こうとする。それに気付いたレイはロビーの説得を断念し、レイチェルを連れてトライポッドから離れた。
レイとレイチェルは農場のオギルビーという男性に声を掛けられ、彼の家に入れてもらった。オギルビーは身を隠しているだけでは納得せず、トライポッドと戦おうと考えていた。レイは反対するが、オギルビーの考えは変わらない。深夜、農場の人にトライポッドが出現した。トライポッドは家の中に触手を伸ばし、内部を調べた。レイは鏡を立てて、身を隠した。
しばらくすると、今度は異星人が家に侵入してきた。オギルビーが戦う姿勢を示すが、レイは何とか静かにさせた。異星人は退出するが、オギルビーの戦闘意欲は高まる一方だった。レイは見つからないよう静かにしてくれと頼むが、オギルビーは激しく喋り続けた。レイはレイチェルに目隠しをさせ、オギルビーを殺した。だが、その間にレイチェルが姿を消した。家の外に出て捜索したレイは、トライポッドがレイチェルを捕獲する現場を目撃した。レイも触手に捕まり、トライポッドの檻に放り込まれてしまう…。

監督はスティーヴン・スピルバーグ、原作はH・G・ウェルズ、脚本はジョシュ・フリードマン&デヴィッド・コープ、製作はキャスリーン・ケネディー&コリン・ウィルソン、製作総指揮はポーラ・ワグナー、撮影はヤヌス・カミンスキー、編集はマイケル・カーン、美術はリック・カーター、衣装はジョアンナ・ジョンストン、シニア・ヴィジュアル・エフェクツ・スーパーバイザーはデニス・ミューレン、ヴィジュアル・エフェクツ・スーパーバイザーはパブロ・ヘルマン、音楽はジョン・ウィリアムズ。
主演はトム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ミランダ・オットー、ジャスティン・チャットウィン、ティム・ロビンス、リック・ゴンザレス、ユル・ヴァスケス、レニー・ヴェニート、リサ・アン・ミラー、アン・ロビンソン、ジーン・バリー、デヴィッド・アラン・ブッシェ、ロズ・アブラムズ、マイケル・ブラウンリー、カミリア・サネス、マーロン・ヤング、ジョン・エディンズ、ピーター・ジェレティー、デヴィッド・ハーバー、ミゲル・アントニオ・フェラー他。


H・G・ウェルズの古典的SF小説『宇宙戦争』を基にした作品。
1953年にジョージ・パルが製作し、バイロン・ハスキンが監督した映画が公開されているが、それのリメイクではなく、原作の再映画化という扱いになっている。
レイをトム・クルーズ、レイチェルをダコタ・ファニング、メアリー・アンをミランダ・オットー、ロビーをジャスティン・チャットウィン、オギルビーをティム・ロビンスが演じている。
メアリー・アンの両親役は、1953年版に主演したジーン・バリーとアン・ロビンソンだ。

スピルバーグとトム・クルーズのコンビで進めていた企画だから、主演がトム・クルーズなのは当然だ。
しかし、今まで勇気あるヒーローという感じの男ばかりを演じてきた男前のトム・クルーズには、港湾労働者という職業も、子供から軽蔑されている頼りない父親というキャラも、どちらも似合わない。
ちなみに、どっちの設定も、この映画オリジナルのモノなんだよな。

監督としてはスティーヴン・スピルバーグの名前がクレジットされているが、実質的に演出したのは別人だ。
この映画を撮っていた時、スピルバーグの体にはローランド・エメリッヒとジョージ・A・ロメロの精神がチャネリングしていたのだ。
そうに違いない。
だから「でっかい機械が、ひたすら派手に暴れまくるパニック映画」「ゾンビ映画のゾンビをトライポッドに変えたような作品」という内容に仕上がったのだ。

子供たちを連れて外に出たレイは、都合良く一台だけ動くようになった車を見つける。
レイたちはメアリー・アンの家に行くが、彼女はいない。
そりゃそうだ、ボストンの両親の家に行くと言っていたからね。
だから、最初からボストンを目指すべきじゃなかったのか。
で、なるべく遠くへ避難することを考えても良さそうなものだが、なぜかレイはメアリー・アンの家でノンビリする。

巨大なマシーンを前にして、ちっぽけで無力な人間は、ひたすら逃げ回るだけ。
でも、やられっ放しでは観客のフラストレーションが溜まるだろうと思ったのか、終盤、レイが手榴弾を使ってトライポッドを倒す場面がある。
だけど、それだと「トライポッドは無敵で人間は無力だったのに、微生物には簡単に倒される」というオチの意味が弱まるぞ。
あと、「市民がレイの車を奪い合う」という人間の醜さを描いておきながら、手榴弾の場面では人々が協力する姿を見せるのも、中途半端だなあと。

トライポッドが人間を虫けらのように蹴散らす映像には、迫力がある。
ただし、トライポッドや異星人の設定はデタラメだ。
トライポッドはシールドを張っており、攻撃して命中しないはずなのに、農家にトライポッドの触手が伸びて来るシーンでは、レイが殴り付けている。
見えないシールドは、どうなったのよ。触手の部分はシールドが無いのか。
あと、暗い室内を探るのに触手は照明を点灯させるが、赤外線の機能は無いのか。音に対する感知能力も低すぎるし。
カメラらしき物で「見る」ことによって人間を探すが、熱感知の能力とかは無いのか。
レイは鏡を立てて盾にしているが、熱感知能力があったら無意味だもんな(っていうか、あの状況下で「鏡で視覚を遮れば敵を騙せる」と思い付いたレイの判断力もスゴいな)。

トライポッドは前半、光線を発し、人間を一瞬にして灰に変えている。
ところが後半、トライポッドは人間を捕まえて、その血液を食物の肥料にする。
だったら、なぜ前半から、そうしなかったのかと。行き当たりバッタリなのか。
あと、なぜ異星人は、オギルビーの家だけは執拗に調べるのか。わざわざトライポッドを降りてまで捜索に来るし(そのデザインを見ると、最後までトライポッドから降りない方が良かったと思うぞ)。
外を逃げている地球人は大勢いるんだから、そこに固執する必要は無いだろ。

レイに視点を限定して家族愛を描こうとしているのかもしれんが、家族愛なんて微塵も無いぞ。娘はギャーギャー騒いでいるだけだし。
すぐ近くで大勢の人々が殺されているという緊急事態にも関わらず、レイの子供たちはワガママで、文句ばかり言っている。レイが食事を用意しても、「腹は減っていない」だの、「もっと優しくして」だのと、反抗的な態度を取る。
「頼りなくて冴えない父親が、必死の逃避行の中で、子供達の信頼を得る」という親子愛のドラマを描きたかったのかもしれないが、レイのダメ親父っぷりよりも、子供たちの腹立たしい姿の方が目立つ。

子供たちのワガママが過ぎるので、「父親が頼りないから反抗する」というレベルじゃなくて、父親の資質を抜きにして、「ワガママなガキども」という印象を受ける。
そもそも、レイは頼りない父親かもしれないが、言動がそれほど間違っているとは思えない。「食べられる時は食べておけ」というのも、「車を狙っている奴がいるから気を付けないといけない」というのも、「幼い妹を戦いに巻き込まないことを考えろ」というのも、全て納得できる意見だ。
でも、そういうことに、いちいち子供たちは反抗的な態度を取るのだ。

バクテリアによってエイリアンがあっさり死滅するというのは、原作の通り。
「人間が作り出した武器は無力だが、昔から存在する微生物の力が強大な敵を倒す」という、アイロニカルな主張が込められたオチだ。
でも「原作通りだから、脱力感のあるオチでも仕方が無い」という風には納得しかねる。
だってさ、遥か昔から地球を狙っていた異星人が、自分達が適応できるかどうかの環境調査をしていなかったというのは、あまりにもアホだろ。ま
あ前述したトライポッドのことも含めて、確かにアホなんだけどさ。

異星人があっさりとバクテリアに倒されるオチにも脱力感を抱くものはあるが、もっと愕然とさせられるのは、メアリー・アンの両親の家に到着すると、そこは全く被害を受けておらず、メアリー・アン、両親、さらにロビーまでもが無傷で現われることだ。
すぐ近くでも戦闘があったのに、その辺りだけは全くダメージを受けていない。
そしてメアリー・アンたちも、顔も汚れず服もキレイ。

「敵と戦う」と言ってレイと別れたロビーが、一緒にいた軍隊は炎に包まれていたのに、ノホホンと祖父母の家に避難している。
なんだ、そりゃ。
そんでロビーはレイと抱き合っているが、どこに親子関係を修復するドラマがあったんだよ。
あと、「家族が無事に再会して、本当に良かったね」という感じで終わっているんだが、メアリー・アンの現在の夫ティムの立場ってどうなるんだろうか。

なお、この年、トム・クルーズは、ラジー賞で「我々をウンザリさせるセレブに敬意を表して」ということで新設された「最もウンザリするタブロイド紙のターゲット賞」において、2つの形でノミネートされている。
その内の1つは「トム・クルーズ&彼の精神医学に反対するわめき」で、もう1つの「トム・クルーズ、ケイティー・ホームズ、オプラ・ウィンフリーのソファー、エッフェル塔、“トムのベイビー”」が賞を獲得している。


第26回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演男優賞[トム・クルーズ]


2005年度 文春きいちご賞:第3位

 

*ポンコツ映画愛護協会