『ヴァンキッシュ』:2021、アメリカ

何度も表彰を受けて英雄と称されていた警察署長のデイモンは、麻薬カルテルの報復で銃撃を受けた。彼は一命を取り留めるが、車椅子で生活することになった。デイモンは教会を訪れて牧師のトムと会い、「警察官としての正しい道を踏み外した」と語った。「私たちは皆、同罪だ」とトムは言い、「南部の稼ぎは思わしくない。今月は薬が低調で売春も80万ドルを下回る。ギャンブルだけは好調だ」と報告した。デイモンが「今さら正しい道に戻れるだろうか」と口にすると、トムは「本気なのか」と驚いた。
デイモンは「分からないが、最近は考える」と告げ、「あの女のことが」と言う。トムが「世話人の?」と尋ねると、彼は「ああ。娘のことで困ってるらしい。助けることが、私の助けにもなる」と語った。トムはデイモンに、「受け取りに問題があるらしい。あいつらも、今回は本気で取り組んでるらしい」と報告した。刑事のスティーヴンス、チャイルズ、キーオはリックに激しい暴行を加え、録音機を発見しようとする。そこへ刑事のBJが現れ、録音機を差し出して「ロッカーで見つけた」と告げた。
スティーヴンスが「他にもテープがあるはずだ」と言うと、キーオは「上に話しておく。こいつを始末しろ」と指示した。キーオは豪邸で暮らすデイモンに電話を入れ、リックが録音機を持っていたことを報告した。デイモンは彼に、「家も調べさせろ。FBIが嗅ぎ付ける」と言う。「受け取り人は?」とキーオが訊くと、デイモンは「心当たりがある。俺に任せろ」と告げた。ヴィッキーは娘のリリーを連れて、デイモンの家へ来ていた。
キーオはデイモンに再び連絡し、「BJをリックの家へ向かわせたが、FBIだらけだった」と知らせた。ヴィッキーはデイモンに、娘が病気だが原因が分からずに困っていると相談する。デイモンは「何とかする。金なら出す」と約束し、代わりに仕事をしてほしいと頼む。ヴィッキーが快諾すると、彼は「昔、お前がやっていたような危険な仕事だ。今夜の内に、5ヶ所で大金を受け取ってくれ」と話す。困惑したヴィッキーが「良く理解できない」と言うと、デイモンは「怪我しただけで、こんな豪邸に住めるはずないだろ」と述べた。
デイモンが「私の悪い噂は聞いてるだろ」と告げると、ヴィッキーは「あの世界には二度と戻らないと決めた。たくさんの悪党が私の命を狙ってる」と言う。デイモンは「お前が娘と暮らせるのは、私のおかげだ。お前は刑務所、娘は施設に入れられるはずだった」と告げるが、ヴィッキーは仕事を断る。するとデイモンはリリーを人質に取り、命令に従うよう要求した。彼はヴィッキーに小型カメラを付けるよう言い、「行き先は1回ごとに指示する。戻って来たら、次の行き先を教える」と述べた。
ヴィッキーはデイモンの選ばせた拳銃を携帯し、バイクに乗って最初の行き先であるドイツ人のナイトクラブへ向かった。キーオはBJからFBIの捜査責任者が知り合いだと聞き、仲間に引き込むよう指示した。ヴィッキーは店に着き、経営者のエリックと会う。エリックが「見た顔だな」と弟のことを語ると、ヴィッキーは彼と部下たちを射殺した。デイモンは焦って「なぜ殺した?」と訊くが、ヴィッキーは無視して金庫から現金を回収した。
ヴィッキーはエリックの部屋にいた女に「ここから逃がして」と頼まれ、話しているように装って店の正面から脱出した。エリックの従兄であるマックスは店内にいたが、ヴィッキーが出て行くまで異変に気付かなかった。エリックが殺されたと知った彼はデイモンに電話を掛け、「エリックを殺した女を始末する。あの女は誰だ」と詰問する。デイモンが「知ってるだろ」と告げるとマックスはヴィッキーだと悟り、「手を出さないのは、アンタが檻に入れてる間だけという約束だ」と話す。「あの女を殺したい奴は大勢いる」とマックスが言うと、デイモンは「そうだな。長いリストが出来るだろう」と静かに語った。
ヴィッキーはデイモンの豪邸に戻り、金の入った鞄を渡した。「なぜエリックを知ってた?」とデイモンが質問すると、彼女は「私の弟を殺したのは、あいつよ」と答えた。次はイーストエンド1000だとデイモンは指示し、ヴィッキーはバイクで出発した。彼女が倉庫に着くと、現場を仕切るジョニーとカーティスは「作業が少し遅れてる」と話す。デイモンは時間稼ぎだと指摘し、ヴィッキーは拳銃で脅して金を鞄に詰めるよう命じた。彼女は倉庫にいたビリー・スモールズを人質に取り、金の入った鞄を受け取った。
ヴィッキーが倉庫の外に出ると、マックスと手下たちが待ち受けていて拳銃を構えた。ヴィッキーは手榴弾を投げ、バイクに飛び乗った。すぐにマックスたちが車で追跡し、デイモンはヴィッキーに逃走ルートを指示した。デイモンはキーオから電話で「FBIが会いに来る」と聞かされ、「マックスにやめさせるよう言え」と命じた。しかしマックスはキーオから電話で手を引くよう要求されても拒否し、追跡を続行した。デイモンはヴィッキーがマックスたちを撒いたのを確認し、奥の部屋で寝ているリリーの元へ赴いた。リリーが目を覚ますと、彼は穏やかな口調で「もうすぐママは帰って来るよ」と告げた。
デイモンの屋敷に戻ったヴィッキーは金の入った鞄を渡し、「リリーの居場所は?」と詰問する。デイモンは「あと3ヶ所だ」と静かに告げ、「なぜ私にこんなことをさせるの?」という彼女の言葉に「かつてお前はロシアの運び屋だった。姉弟揃って重罪を免れたのは、誰のおかげだ」と述べた。スティーヴンスたちの元にはFBIのモンローが現れ、「リックは過去2年分の電話の内容も録音していた」と説明する。彼は州知事のアン・ドリスコルも降ろせる内容だと告げ、「余程の条件でなければ取引に応じない」と強気に出た。
ヴィッキーは教会の墓地へ行き、トムと会って金の入った鞄を受け取った。デイモンはバイクの近くで待ち伏せているマックスの手下を確認し、ヴィッキーに知らせた。ヴィッキーは手下を始末するが、すぐにマックスが車で追って来た。デイモンの指示でマックスを撒いた、ヴィッキーは、屋敷に戻った。銃を持って侵入しているチャイルズに気付いた彼女は、大声で威嚇した。チャイルズに気付いたデイモンが発砲し、ヴィッキーも銃弾を浴びせて始末した。
ヴィッキーはチャイルズの遺体を調べ、警察官だと気付いた。デイモンが「悪徳警官だ」と言うと、ヴィッキーは「こいつは仲間ね。欲が出たか、裏切りか、どっち?」と訊く。デイモンは「お前には関係ない」と言い、遺体を片付けるよう命じた。ヴィッキーはラヨという男の邸宅へ赴き、金を渡すよう要求した。彼女はラヨに差し出されたコップの水を飲み、混入されていた薬で意識が混濁した。ラヨは勝ち誇った態度を見せ、ヴィッキーと弟が共謀して自分の金を奪ったことを指摘した。ヴィッキーはデイモンの指示を受け、コカインを吸って意識を取り戻した。彼女はラヨを射殺し、金の入った鞄を持って邸宅を去った…。

監督はジョージ・ギャロ、原案はサム・バートレット、脚本はジョージ・ギャロ&サム・バートレット、製作はデヴィッド・E・オルンストン&ネイト・アダムス&リチャード・サルヴァトーレ、製作総指揮はゲイリー・レフ&クリスチャン・マーキュリー&ローマン・ギャロ&ジュリー・ロット=ギャロ&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ、共同製作はイヴァン・ゴーティエ&ジョー・レモン、共同製作総指揮はライアン・ブラック、撮影はアナスタス・ミコス、美術はジョー・レモン、編集はイヴァン・ゴーティエ、衣装はメリッサ・ヴァルガス、音楽はアルド・シュラク。
出演はモーガン・フリーマン、ルビー・ローズ、パトリック・マルドゥーン、ニック・ヴァレロンガ、ディラン・フラッシュナー、ポール・サンプソン、ジュリー・ロット、ビル・ラケット、ハンナ・ストッキング、ジョエル・マイケリー、マイルズ・ドリアック、リチャード・サルヴァトーレ、エル・バルダ、クリス・マリナックス、ネイト・アダムス、レジナルド・ロビンソン、ジュジュ・ジャーニー・ブレナー、レナード・ウォルドナー、イヴァン・ゴーティエ、G・トレメイン・メレル、マーティー・ウィルソン他。


『パラダイスの逃亡者』『カムバック・トゥ・ハリウッド!!』のジョージ・ギャロが監督を務めた作品。
デイモンをモーガン・フリーマン、ヴィッキーをルビー・ローズ、モンローをパトリック・マルドゥーン、スティーヴンスをニック・ヴァレロンガ、チャイルズをディラン・フラッシュナー、BJをポール・サンプソン、ドリスコルをジュリー・ロット、トムをビル・ラケットが演じている。
ルビー・ローズは北村龍平監督の『ドアマン』に続いて、主演を務めている。

とにかくクールでスタイリッシュなアクション映画を撮りたかったんだろうってのは、痛いほど良く分かる。
ハードでシリアスな雰囲気の中、苦境に立たされたヒロインが調子にのっている男どもを次々に蹴散らしていく姿を描き、スタルシスを味わってもらおうってのが狙いなんだろうってのも伝わって来る。
アクションに特化するなら、それも1つのやり方だ。
そこに一点集中するのであれば、割り切って物語を薄っぺらくしても、それがダメだとは思わない。

しかし本作品の場合、シナリオはヘロヘロだが、単純に「薄い」ってことじゃなくて、アクションで一点突破することを妨害しているのだ。
余計な細工を凝らしているせいで、頭を空っぽにしてアクションを楽しむ気分にさせてくれない。そして肝心のアクションシーンも、他のマイナスを補えるほど魅力を放っているとは到底言えない。
ルビー・ローズはアマチュア・ボクシングをやっているし、『トリプルX:再起動』や『ジョン・ウィック:チャプター2』のような映画にも出ているので、決してアクションが苦手な役者ではない。
ただ、本人のアクションだけで観客を満足させるのは厳しいし、ケレン味のある映像演出が用意されているわけでもない。

ヴィッキーはエリックの店へバイクで向かう時、豪邸でデイモンが話した言葉や、リリーの言葉を思い出している。店から豪邸へ戻る時は、エリックの部屋にいた女性の言葉を思い出している。
だが、これが見事なぐらい何の意味も無い回想になっている。
たぶん、ヴィッキーの心情を表現するための表現として回想を入れているんだろうと思う。
でも、まるで機能していないんだよね。単に無意味で早すぎるだけの回想になっているんだよね。

デイモンはヴイッキーが金の受け取り場所に行く度に、用心するよう警告している。もちろんラヨの家へ赴いた時も、用心するよう告げている。そしてヴィッキーも、デイモンに言われるまでもなく警戒している。
ところが、なぜかラヨが水の入ったコップを差し出すと、「水なら飲むわ」と簡単に飲んでしまうのだ。
いやいや、なんでだよ。どう考えたって、そこで水を飲む選択肢なんて無いだろ。
あまりにもアホすぎて、気持ちが萎えるわ。

イーストエンド1000を出たヴィッキーはマックスたちに追われ、デイモンの指示で撒く。トムと墓地で会った後もマックスに追い掛けられ、またデイモンの指示で撒く。
でも、どうせ他の連中を何人も始末しているんだから、マックスも片付ければいいんじゃないのか。ずっと逃げの一手で、マックスに限っては全く始末しようという素振りを見せないのが不自然に思える。
ずっとマックスを残して、ヴィッキーが追われる要素を無駄に残しているだけにしか思えない。
そこに引き付ける力なんて、まるで無いのに。

デイモンがトムと会話を交わす冒頭シーンで、彼が本気でヴィッキーとリリーを助けたいと思っていることはハッキリと分かる。
だから彼がヴィッキーを脅して仕事を命じても、そこに「ヴィッキーとリリーを助けるため」という目的があることは透けて見える。
ただ、死の危険が高い仕事に使っていることは事実なので、「どういうつもりなのか」と言いたくなる。
そのせいでヴィッキーが死んだら、助けるも何も無いでしょうに。

終盤、デイモンがリックに録音を指示していたこと、州知事たちの悪事を暴くためにテープをFBIに渡そうとしていたことが判明する。
最終的にデイモンは屋敷へ乗り込んで来たスティーヴンスたちを道連れにして爆死するのだが、そこまでが彼の計画なのだ。
その前に、ヴィッキーに回収した大金を全て渡してリリーと共に逃がしており、そのために仕事を任せたというわけだ。
ただ、自分の目的を達成するために、ヴィッキーを危険な目に遭わせて都合良く利用していたことに変わりは無いんだよね。

あと、デイモンが悪事に手を出していたことは、紛れも無い事実なのだ。彼がヴィッキーに回収させた金は、自身が仕切っている犯罪組織の悪事によって得られた物だ。
なのでザックリ言うと、デイモンが企てた計画は、突然の裏切り行為ってことになるのだ。
今までテメエもさんざん悪事に手を染めておいて、自分に協力していた連中を急に「お前らは悪い奴だから粛清する」と切り捨てているわけだ。
それって、かなりドイヒーじゃないのか。

せめてアクションシーンに引き付ける力があれば救いもあるだろうが、そこも低調なままで終わってしまうので、どうしようもないのよね。
ヴィッキーが赴く5ヶ所へ戦いが用意されているのだが、見せ場と言えるようなアクションは何も無い。
ラスボスと呼べるような、強敵も存在しない。そして、クライマックスと呼べるような展開も無い。
最後はデイモンがヴィッキーを逃がして残った連中を始末するので、どうにも締まりが悪い。
ずっと陰気で、ただ暗いだけのアクション映画になっている。

(観賞日:2023年3月26日)


第42回ゴールデン・ラズベリー賞(2021年)

ノミネート:最低主演女優賞[ルビー・ローズ]

 

*ポンコツ映画愛護協会