『お!バカんす家族』:2015、アメリカ

ラスティー・グリズワルドはエコノエアーの操縦士として働いているが、副操縦士のハリーは痴呆が出ている老人のハリーなので苦労している。トイレに行っている間の操縦を任せると、ハリーは高度を上げ過ぎて機体が激しく揺れた。ラスティーは大手航空会社のパイロットであるイーサンと遭遇し、バカにされる。彼が帰宅すると、妻のデビーが長男のジェームズと話している。ジェームズのギターに、次男のケヴィンが「僕はヴァギナを持っている」と落書きしたのだ。ケヴィンはデビーから注意されても、全く反省の色を見せない。ラスティーはケヴィンに、「ヴァギナがあっても笑うのは良くない。男なのにヴァギナがあるのは辛いことだ」と見当外れのことを言う。
ラスティーの友人であるジャック・ピーターソンが、妻のナンシー、娘のシーラ、息子のゲイリーを連れて食事に来た。ジャックは息子とゴーカートを作ったことを楽しそうに話し、「君も作れよ」とラスティーに持ち掛ける。ジャックが幼いゲイリーを可愛がる様子を見たラスティーは、真似しようとしてジェームズとケヴィンを呼ぶ。ケヴィンは無視し、ジェームズが近付くとジャックは幼児のような扱いをして嫌がられる。
デビーはナンシーから、バカンスでバリへ行った時のインスタ写真を見せられる。「夏はどこかへ行くの?」とナンシーに訊かれたデビーは、「行きたいけど、この10年はシボイガンの丸太小屋で過ごしてる」と残念そうに言う。それを耳にしたラスティーは就寝前、丸太小屋で撮った10年間の家族写真を確認した。最初の内は笑顔だったデビーが、数年後には冷めた表情へと変貌していた。ラスティーは少年時代に父のクラーク、母のエレン、妹のオードリーとワリー・ワールドへ行ったことを思い出し、すぐに予約を入れた。
翌朝、ラスティーは家族に、「ワリー・ワールドへ車で行く」と発表した。子供たちは渋るが、デビーは「帰りは飛行機だ。いいだろ」と言われると「丸太小屋よりはマシか」と受け入れた。ラスティーは小型車しか所有していないので、旅のためにレンタカーを用意していた。それは「アルバニアのホンダ」と称されるタータン社のプランサーという車種だったが、意味不明な装置が付いていたり、リモコンが全く使えなかったりという状況が出発前から判明した。それでもラスティーは、まるで気にせず準備を整えた。
一家は車に乗り込んで出発するが、1時間も走らない内にガス欠となった。ガソリンを入れて再出発すると、大型トラックが後ろに見えた。ラスティーは無線機を取り出し、隠語を使って運転手に呼び掛けた。運転手から返事が来ると、ケヴィンが「僕もやらせて」と頼んだ。ラスティーが無線機を渡すと、彼は「トラック運転手はみんなレイプ犯ってホント?」と尋ねる。ラスティーは慌てて謝罪し、そのままトラックは走り去った。
一家はダイナーで休息を取り、再び出発する。ジェームズは両親の車に乗るアディーナという少女と目が合い、手を振って笑顔で挨拶した。ケヴィンが頭から袋を被せたので、ジェームズは苦悶した。彼が必死で袋を破ると、ケヴィンは「何秒で失神するか試した」と笑って告げた。テネシー州メンフィスに入ると、ラスティーはデビーに「子供たちに君の大学を見せよう」と告げる。デビーは消極的だったが、ラスティーはメンフィス州立大学へ車を向かわせた。
一家はメンフィス州立大に入り、女子寮へ向かった。すると多くの女子生徒たちは、ビールを一気飲みしてゴールを目指すゲームで多いに盛り上がっていた。それは発達障害の研究資金を集めるための催しで、デビーが発案者だった。女子生徒のヘザーたちはデビーに気付くと、「無敵のデビー?」と驚いた。彼女たちがスクラップブックを見せると、デビーの恥ずかしい写真が何枚もあった。さらにヘザーたちは、デビーの乱れた行動の数々が本当かどうか尋ねた。
デビーが「その噂が本当かどうかはともかく、悪い行いを称えるのはダメよ」と諌めると、ヘザーたちは「評判倒れだわ。発案者ってのも嘘ね」と幻滅した様子を見せる。デビーは「本当よ。16秒でゴールしたわ」と主張し、ヘザーたちに挑発されると催しへの参加を決める。しかし彼女はビールを吐いた上、フラフラになって倒れてしまった。車に戻ったラスティーは、お気に入りの歌がカーラジオから聞こえてきたので「一緒に歌おう」と誘う。しかしノリノリで歌うのは彼だけで、家族は誰も参加しなかった。あの大型トラックが迫って来たので、殺されると感じた一家は慌てて逃亡した。
グリズワルド一家はモーテルに到着し、夫婦と子供たちで別々の部屋を取る。ラスティーはデビーに、「なぜ無敵のデビーについて教えてくれなかった?君のことは何でも知りたい」と言う。しかし経験人数を尋ねた彼はデビーから「約30人」と告げられると動揺し、「君に比べて、僕は惨めだ。苦労して、やっと3人だ」と漏らす。デビーが「昔の私は淫らだった。今は変わったの」と言うと、「夫婦生活でも淫らだよ」とラスティーは告げる。
デビーが「でも少しマンネリになった。たまには趣向を変えたらどうかしら」と提案すると、ラスティーは「一緒にシャワーを浴びよう。そこでセックスしよう」と提案する。2人は風呂場へ行き、欲情したままシャワーカーテンを開ける。すると浴槽にはキノコが生えており、壁には血がベッタリと付着していた。血を吹くためにタワシを使おうとしたラスティーだが、それは陰毛の固まりだった。あまりに酷い状況なので、2人はすっかり気持ちが萎えてしまった。
ジェームズがモーテルの中庭へ出てギターを弾きながら歌っていると、アディーナが現れた。2人が話していると、そこへラスティーがやって来た。ラスティーはジェームズの父親だと名乗らず、「通りすがりの見知らぬ男だ」と告げる。彼は困惑するジェームズに構わず、まるでゲイの不審者のような言葉を並べ立てる。気味悪がったアディーナは、ジェームズに「大丈夫?」と確認して立ち去る。ラスティーは恋のキューピッドを演じたと自覚しており、ジェームズに「何でも質問しろ」と告げる。ジェームズが「友達に聞いたんだけど、アナル舐めって何?」と質問すると、ラスティーは真面目に対応する。たまたま近付いてきた宿泊客の男性は、ラスティーの言葉で2人の関係を誤解し、すぐに立ち去った。
翌日、車がダラスに入ると、ラスティーは「夕方にはオードリーの家へ着く」と家族に言う。オードリーはラスティーの妹で、ストーンという男と結婚していた。子供たちはストーンと会うことを喜び、「セレブだからね」と口にする。ラスティーが「セレブじゃない。地方局のお天気マンだ」と否定すると、デビーは「キー局から声が掛かっているそうよ」と言う。温泉の看板を見たラスティーは、立ち寄ることにした。渋滞に捕まった彼は通り掛かった男に訪ね、細い道を使えば早く行けると教えてもらった。
森の中を進む細道を進んだ一家は、温泉が湧いている場所に辿り着いた。4人は水着に着替え、喜んで温泉に入った。しかし未処理の下水だと気付き、慌てて脱出する。一家が車に戻ると金品が全て盗まれ、卑猥な落書きが残されていた。一家は汚物まみれのままストーンとオードリーの豪邸へ赴き、着替えを貸してもらう。ストーンとオードリーは家族の前で、今にもセックスを始めそうな勢いでイチャイチャする。デビーはストーンから口説くようなセクシーな褒め言葉を貰うと、まんざらでもない様子を見せた。
ラスティーはデビーがストーンのせいで色気づいていると感じ、早朝から牛追いをするという彼に対抗心を燃やして「手伝おう」と告げる。その夜、デビーからセックスに誘われたラスティーは、ストーンに欲情したせいだと感じて苛立ちを浴びせた。デビーは謝罪し、好きなのはラスティーだけだと釈明する。そこへパンツ一丁のストーンが現れ、設備の使い方を説明する。股間のモッコリを見せ付けるような振る舞いを見せ、ストーンは部屋を後にした。翌朝、ラスティーはバギーを走らせて牛を追い、スピードを上げて調子に乗る。デビーたちを見つけた彼は手を振るが、よそ見をしたせいで牛をひき殺してしまった。
ストーンとオードリーの邸宅を後にした一家はアリゾナ州に入り、ホルブルックで一泊する。ラスティーはデビーに「近くに4つの州が交わるフォー・コーナーズがある。そこでセックスしよう」と提案し、2人は就寝している子供たちを残して車で出掛ける。目を覚ましたジェームズが両親を捜そうと外に出ると、同じ施設に泊まっているアディーナがいた。ジェームズは彼女と話し、いい雰囲気になった。一方、ラスティーとデビーは野外でセックスを始めようとするが、同じことを考えているカップルが何組もいた。
フォー・コーナーズへ警官が駆け付けてカップルたちは逃亡するが、ラスティーとデビーは取り残された。しかし4つの州の警官が管轄を巡って言い争いを始め、拳銃まで持ち出す。その隙にラスティーとデビーは、フォー・コーナーズから逃亡した。ジェームズはアディーナとキスするが、そこへケヴィンが来て馬鹿にしながら小石を投げ付けた。ジェームズは無視しようとするが、アディーナからやり返すよう促される。ジェームズはケヴィンを突き飛ばして馬乗りになり、イジメをやめるよう約束させた…。

脚本&監督はジョン・フランシス・デイリー&ジョナサン・ゴールドスタイン、製作はデヴィッド・ドブキン&クリス・ベンダー、製作総指揮はマーク・S・フィッシャー&ジェフ・クリーマン&トビー・エメリッヒ&リチャード・ブレナー&サミュエル・J・ブラウン&デイヴ・ノイスタッター&スティーヴン・ムニューチン、撮影はバリー・ピーターソン、美術はバリー・ロビンソン、編集はジェイミー・グロス、衣装はデブラ・マクガイア、音楽はマーク・マザースボウ、音楽監修はデイヴ・ジョーダン&ジョジョ・ヴィリャヌエヴァ。
出演はエド・ヘルムズ、クリスティーナ・アップルゲイト、チェヴィー・チェイス、クリス・ヘムズワース、レスリー・マン、ビヴァリー・ダンジェロ、ロン・リヴィングストン、スカイラー・ギソンド、スティール・ステビンズ、チャーリー・デイ、キャサリン・ミサ、ノーマン・リーダス、キーガン=マイケル・キー、レジーナ・ホール、エミリー・クラッチフィールド、アルコヤ・ブランソン、ニック・クロール、ティム・ハイデッカー、ケイトリン・オルソン、マイケル・ペーニャ、ハンナ・デイヴィス、デヴィッド・クレノン他。


“ナショナル・ランプーン”の「バケーション」シリーズをリブートした作品。
『モンスター上司』『くもりときどきミートボール2 フード・アニマル誕生の秘密』の脚本を手掛けたジョナサン・ゴールドスタインとジョン・フランシス・デイリーが、初監督を務めている。
ラスティーをエド・ヘルムズ、デビーをクリスティーナ・アップルゲイト、ストーンをクリス・ヘムズワース、オードリーをレスリー・マン、イーサンをロン・リヴィングストン、ジェームズをスカイラー・ギソンド、ケヴィンをスティール・ステビンズが演じている。
クラーク役のチェヴィー・チェイスとエレン役のビヴァリー・ダンジェロは、旧シリーズのレギュラー。
他に、チャド役でチャーリー・デイ、アディーナ役でキャサリン・ミサ、トラック運転手役でノーマン・リーダス、ナンシー役でレジーナ・ホール、ニューメキシコ州の警官役でマイケル・ペーニャが出演している。

「バケーション」シリーズは、クラークとエレン夫妻&子供たちの「グリズワルド一家」を描く作品だった。
このリブート版では、夫妻の長男であるラスティーを主人公に据えて、彼のファミリーを描く内容にしてある。
クラークとエレンも登場するが、あくまでも脇役であり、ゲスト出演みたいな扱いだ。
旧シリーズでラスティーを演じていたイーサン・エンブリーもオードリー役のマリソル・ニコルズも現役なのだが、そのままだと人気や知名度がイマイチってことで、配役を変えているわけだ。

家族で旅をするロードムービーなので、主な観客はファミリー層を想定しているのかと思いきや、かなり下ネタが多くなっている。なので、ファミリー映画としては不向きだ。
まあ考えてみれば“ナショナル・ランプーン”から派生したシリーズのリブートなので、ファミリーに向いていないのは当然っちゃあ当然か。
ただ、下ネタ満載のコメディーとしては、ちょっとヌルめかな。
っていうか、それも含めて「だって“ナショナル・ランプーン”から派生したシリーズのリブートだからね」ってことかもしれんけど。

話の流れを考えると、ラスティーが家族でワリー・ワールドへ行くと発表するまでに、「父の威厳を取り戻さないと」とか、「家族の絆を取り戻さないと」といった気持ちが強くなるような出来事を用意しておくべきだろう。
しかし、そういう流れを全く作れていない。彼が家族でワリー・ワールドへ行こうと決めたのは、「デビーが丸太小屋のバカンスを望んでいないと知ったから」ってのが理由だ。
それだと、子供たちの存在意義が弱くなってしまう。
そこまでに、子供たちがラスティーに反抗的な態度を取り続けているとか、仲良くやろうとする父を冷淡に無視してばかりとか、そういう様子が描かれているわけではない。ラスティーがジャックの真似をしようとした時はケヴィンが無視してジェームズは嫌がるが、それは当然の対応だし。
そもそも、そこで急にラスティーがジャックとゲイリーの関係を羨ましがったように真似をするのは不可解だ。子供の年が全く違うのに、なぜ急に「幼児みたいに可愛がりたい」と思ったのか。
それがジャックへの対抗心なのか、単純に「自分と子供との距離を感じて寂しく思った」ってことなのかも分かりにくいし。

ラスティーは弱小航空会社で働いているが、そのことで子供たちからバカにされているわけではない。
金持ちのファミリーを、子供たちが羨ましがっているわけでもない。
なので、ラスティーが弱小航空会社で働いており、大手のパイロットからバカにされているという設定は、ほぼ無意味な要素になっている。
最初に示すラスティーの設定がそこなので、物語における重要な要素なんだろうと思っていたが、後の展開では全く使われていないんだよな。

ジェームズもケヴィンも、車でワリー・ワールドへ行くことをラスティーが発表すると露骨に嫌がる。
ところがレンタカーを紹介されるシーンでは、それほど疎ましそうな様子を見せていない。それどころか、どこか楽しそうな表情が見える。
ジェームズは夢日記やポエムのノートを用意し、それを持って行くことを嬉しそうに話す。ケヴィンにしても、無線機で話すシーンではノリノリになっている。2人とも、かなり早い段階で前向きになっている。
それはキャラの動かし方として、中途半端だわ。

ケヴィンがトラック運転手に「トラック運転手はみんなレイプ犯ってホント?」と訊くのは、嫌がらせのような狙いがあるのかと思ったら、「素直な気持ちで気になることを質問しただけ」という設定だ。
しかし、こいつはジェームズに酷い嫌がらせを繰り返しているような奴なんだし、そこは「無自覚で酷いことを言っているだけ」ってことにすると、キャラがブレちゃうでしょ。
あと、ケヴィンが袋を被せてジェームズが苦悶しているのに、ラスティーもデビーも全く気付かないのは無理がありすぎだろ。

ケヴィンがジェームズのギターに卑猥な落書きをするってのは、笑いの作り方として理解できる。
しかし「袋を被せて窒息死させようとする」ってのは、もはや悪戯で済ませられるレベルじゃないだろ。
「死に掛けたぞ」というジェームズの抗議にケヴィンは「いいじゃん」と軽く笑うけど、クソガキすぎるだろ。
そこまでの時点で既に全く笑えないレベルなんだけど、完全に不愉快なだけの奴になっている。
別にガチガチのモラリストってわけじゃないけど、笑いの作り方を間違えているとしか思えん。

メンフィス州立大学のシーンでは、完全にデビーのターンと化している。そこではジェームズとケヴィンが、ただの傍観者になる。
家族の全員に見せ場を与えようということなんだろうけど、デビーが子供たちより遥かにキャラとして強くなってしまう。ジェームズは性格だけでなくキャラとしても弱いし、ケヴィンは前述したように不快指数の高い奴だし。
いっそのこと、子供たちを排除するか、せめて1人に限定して、もっとデビーの扱いを大きくすればいいんじゃないかと思うほどだ。
大学を去った後も、やはりデビーの存在が大きく扱われているので、バランスの悪さを感じてしまう

ただし、子供たちを排除したり1人にしたりすると、「ラスティーが30年前に行った家族旅行を重ね合わせる」という仕掛けに合致しなくなる。
だから、「子供たちは要らなくないか」と思わせてしまうことが失敗なわけで。
デビーは「ファミリーの軌道を修正したり間違いを指摘したりする役割を担う常識人」というポジションにして、もっと子供たちのクセを強めにした方がいいんじゃないかな。
デビーを「映画の終盤、ここぞというタイミングで弾けさせる」という風に使うのなら、それは賛同できるけどね。

モーテルの中庭でのエピソードでは、ラスティーが恋のキューピッドのつもりでジェームズに近付き、彼を口説くゲイのような発言をしてアディーナに不審人物と誤解される。
しかし、そこで迷惑を被ったはずのジェームズが、「何でも聞きなさい」と言われて素直に相談しているのは流れとして不自然だ。
それと、「アナル舐めというラスティーの発言で誤解した宿泊客が去る」ってのは、オチとして弱すぎる。
その前にアディーナがラスティーをヤバいゲイだと誤解しているんだから、それと同じようなネタがオチじゃダメでしょ。そこは例えば「不審人物だと誤解したアディーナが通報し、ラスティーが警官に連行される」ぐらいのことが無いとダメでしょ。

ストーンが登場する辺りで、初めてジェームズとケヴィンが「他の家族のセレブ生活に憧れる」という様子が描かれる。
ただ、ストーンは金持ちではあるものの、かなりの田舎者だし、あんまり憧れや尊敬の対象に見合うとは言えないキャラなのよね。ラスティーが嫉妬心を抱く相手としても、ちょっとキャラが半端になっているかなあと。
あと、ストーンはセレブとしてのキャラ造形よりも、「デビーを欲情させるエロい奴」という下ネタ方面のキャラの方が遥かに強くなってないのよね。
なので、「子供たちがストーンのセレブ生活に触れて喜び、そこにラスティーが対抗心や嫉妬心を燃やす」という使われ方は、ほとんど無いのよね。ラスティーがストーンに対抗心を燃やすのも、「デビーが彼のせいで色気づいたから」ってのが理由であって、子供たちは全く影響を及ぼしていないし。

ラスティーはバギーで牛を追うが、よそ見をしたせいで1頭をひき殺してしまう。
どういうオチを付けるのかと思ったら、「血まみれになったラスティーにストーンがホースで水を浴びせて綺麗にしていると、セバスチャンという牛が近付き、落ちている肉片を食べる」という様子で終わらせている。
それって、そこまでのエピソードの中身とオチが合ってないんじゃないか。
結局、デビーのストーンに対する欲情も、ラスティーのストーンに対する嫉妬心も、子供たちのセレブへの憧れも、全て無造作に放り出されているし。

ラスティーは旅に出た後、何度もヘマをやらかしている。温泉に立ち寄ろうとして汚水まみれになり、車泥棒に遭い、牛をひき殺す。
だが、そんなヘマを繰り返す中で、ジェームズとケヴィンが冷たく突き放したり、軽蔑したりするようなことは無い。親子関係には特に問題があるように見えないので、「この旅の意義って何なのか」と思ってしまう。
前述したように、「デビーが丸太小屋を嫌がっていると知ったから」ってのが理由なんだけど、じゃあ「デビーがトラブルばかりの旅にウンザリする」という様子があるのかというと、それも無いし。
夫婦関係にしても、そんなに冷えているわけじゃないので、やっぱり意味が見えにくいんだよね。

「大型トラックが追って来るので、一家が恐怖を感じて逃亡する」ってのは、スティーヴン・スピルバーグの『激突!』のパロディーになっている。
でもパロディーが幾つも盛り込まれているわけではなく、そこだけなので中途半端。
仮にパロディーの意図が無いとしても、1シーンで片付けてしまった方がいい。何度かに分けて終盤まで引っ張るので、邪魔な異分子に近い状態と化している。
大半のエピソードは「その場限り」で処理しており、引っ張るのはアディーナだけでいいんじゃないかな。
っていうか、実はアディーナもそこまで上手く使えているわけじゃないから、その場限りでもいいと思うんだけど。

ラスティーとデビーがフォー・コーナーズへ出掛けたら、そっちのエピソードを先に片付けた方がいい。
2人が出掛けた後、ジェームズがアディーナと再会するシーンに移り、2人が仲良く話す様子の後で再びラスティーたちのターンに戻るってのは、構成として上手くない。そこは1つずつ順番に片付けた方が、コメディーとしては気持ちいい。
まだジェームズたちのターンで何かしらの笑いが生まれているならともかく、「いい雰囲気で喋っている」というだけだからね。
そんなカットバックは要らんよ。

ジェームズはケヴィンに小石をぶつけられて「ダサい男だ」と馬鹿にされると、アディーナから「やり返せば?」と言われる。「無理だよ。子供だもん」とジェームズは消極的だったが、アディーナから「クソガキよ。我慢は駄目」と促されると、やり返す気になる。
ここは、どうやっても笑いになるようなシーンだ。
で、実際にどんなシーンになっているかというと、言葉で挑発するだけのケヴィンをジェームズがヘタレな動きで押し倒し、馬乗りになる。額をペチペチしたり耳たぶをグニュグニュしたりして、イジメはやめると約束させる。
何とも中途半端でヌルい内容になっている。

ジェームズがケヴィンを服従させるのなら、「ヘタレに見えていたけど、本気になったら意外な強さを見せ付ける」という形にでもした方がいい。
ヘタレっぽいキャラを変えないのなら、「やり返そうとしたけど、返り討ちにあって無様な姿をさらす」という形にでもした方がいい。
「やり返してケヴィンを服従させたけど、ヘタレなのは相変わらずで、アディーナから変な奴だと思われる」ってのは、どうにも煮え切らないなあと。
もっと弾けた方がいいんじゃないかと。

翌朝、一家はラフティングに出掛けるが、直前に婚約解消されたガイドのチャドが自暴自棄となり、自殺するような行動を取る。それを一家が慌てて止めながら激流を下る様子が、スローモーションを使いながら、曲に合わせてセリフ無しで写し出される。
そこまでとは違うタイプのネタをやりたかったのかもしれないけど、勿体無い演出にしちゃったなあと。
そこは普通に、台詞有りでドタバタ劇を描いた方がいいよ。
それが原因で、「死に掛けたから、もう旅を中止しよう」とデビーと子供たちが言い出すという流れになっているのに、そこの重要性も弱まっちゃうし。

あと、そこまでは不満がありつつも、それなりにデビーと子供たちが楽しそうに旅を続けているのよね。
なので、車が壊れて爆発した後、「大丈夫だ」と言うラスティーにデビーが怒りを爆発させて「旅に出て以来、まるで大丈夫じゃなかった。間違いだったと認めて」と声を荒らげるのは、そこに向けた流れがちゃんと作れていないと感じる。
そういうシーンへ至るのなら、それまでもラスティーがミスをする度に家族が文句を言い、「仕方なく旅を続けるけど不満を募らせていく」という形にしておくべきじゃないかと。

アディーナはジェームズがケヴィンを服従させるシーンの後、もう二度と登場しない。
ワリー・ワールドで再会するような展開でも用意してあるのかと思ったが、そんなことは無かった。それは扱いが中途半端だなあ。
一家がワリー・ワールドに着くとイーサン一家と遭遇し、両ファミリーの大喧嘩になるという展開があるが、そんなキャラを再登場させるぐらいなら、アディーナの家族でも絡ませた方がいいんじゃないかな。
あと、その喧嘩もスローモーション映像を使っているけど、これまた外してるし。

(観賞日:2018年5月11日)


第36回ゴールデン・ラズベリー賞(2015年)

ノミネート:最低助演男優賞[チェヴィー・チェイス]
<*『オフロでGO!!!!! タイムマシンはジェット式2』『お!バカんす家族』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会