『明日の私に着がえたら』:2008、アメリカ

仕事を終えたシルヴィー・ファウラーは、飼い犬のアリサを抱いて有名デパートのサックス・フィフス・アヴェニューへ出掛けた。彼女は 親友のメアリーに電話を掛け、昼食会の予定を確認する。シルヴィーはアリサを預け、ネイルをやってもらうことにした。担当のターニャ はお喋り好きで、香水売り場の店員をしているクリスタル・アレンが子持ちのセレブ男性と関係を持ったことを話した。その相手が雑誌に 取り上げられたこともある投資銀行家のスティーヴン・ヘインズだと聞き、シルヴィーは驚いた。
シルヴィーは一緒に昼食会へ行くため、友人のイーディーを訪ねる。イーディーは高級アパートに暮らす専業主婦で、4人の幼い娘がいる 。一方、メアリーはメイドのマギーと共に昼食会の準備をする。マギーだけでなく、デンマーク出身のウタという若いメイドもいるが、 ゴシップ好きの彼女は仕事をサボりがちだ。メアリーはマギーから、父が電話を掛けて来たことを聞かされる。アパレル会社を経営して いる父は、バケーションが終わったら話があるならランチをしようと誘って来たという。それを聞いたメアリーは、「やっと会社を譲る気 になったのよ」と喜んだ。
メアリーが開いたのは婦人会のための昼食会で、60名を招待していた。シルヴィーとイーディーの他に、もう一人の仲間であるアレックス もやって来た。レズビアンの彼女は、スーパーモデルの恋人ナターシャと一緒だった。アレックスは6年前に書いたエッセイがヒットして 人気作家となったが、2作目は未だに執筆できていない。メアリーはシルヴィーから「週末なのにスティーヴンは留守なの?」と夫のこと を訊かれ、「ヘッジファンドの件でオフィスにいるわ。でも明日はバカンスでベネチアよ」と嬉しそうに言う。
イーディーはメアリーたちに妊娠中であることを明かし、「男の子に恵まれるまでは産み続けるわ」と語る。シルヴィーはイーディーだけ に、メアリーの夫であるスティーヴンが浮気していることを打ち明けた。2人は相談し、メアリーには内緒にしようと決めた。昼食会の後 、メアリーはスティーヴンからの電話を受け、旅行をキャンセルすることになった。その様子を見ていたシルヴィーとイーディーが見て いた。メアリーに声を掛けたシルヴィーが不用意なことを口にしたので、イーディーは慌てた。
休暇が終わり、シルヴィーは編集長を務める女性向けファッション雑誌「カシェ」の編集部で仕事をする。出版社オーナーのネッドと電話 で話した彼女は、オシャレな雑誌にしたいという考えを語る。メアリーから電話が入ったので、シルヴィーは父親とのランチを終えた感想 を尋ねた。するとメアリーは、クビにされたことを語る。家事に忙しく、仕事が手抜きになっていると指摘されたのだという。
メアリーが髪をセットするためにサックスへ行くと言い出したので、シルヴィーは狼狽した。メアリーはヘアメイクの待ち時間を利用し、 ネイルをやってもらうことにした。担当になったターニャのお喋りで、メアリーは夫の不倫を知った。彼女は母であるキャサリンとの昼食 に赴き、そのことを話して怒りの感情を示す。キャサリンは自分も夫に浮気された過去があることを明かし、「だけど母の助言で、何も しなかった」と告げる。「彼と一緒にいたくない」とメアリーが言うので、キャサリンは「春休みの間、家を離れたら?モリーを連れて私 の別荘に来なさい」と提案した。
シルヴィーは別荘へ行くメアリーを空港まで送るため、イーディーとアレックスの3人で彼女の家へ車で赴く。その道中、シルヴィーは アレックスにもスティーヴンの浮気を打ち明け、メアリーに教えるべきかどうか悩んでいることを語る。メアリーの家に到着した3人は、 スティーヴンの不倫を打ち明ける。だが、既にメアリーは知っている。そのことで軽い言い合いになり、メアリーは「今は相談する気に なれないから、黙って支えて」と声を荒げた。
シルヴィー、イーディー、アレックスの3人は、クリスタルを見に行くことにした。3人がサックスの香水売り場へ赴くと、ちょうど スティーヴンからのクリスタルに電話が入っていた。クリスタルは、いかにもイケイケでクールな若い女だった。愛想の良い対応で電話を 終えたクリスタルは、同僚のパットに「オーディションが入ってるのに、バカ妻が家出したせいで私が夕食を作らなきゃいけなくなった」 と愚痴をこぼした。シルヴィーたちはクリスタルに接触し、メアリーの親友であることを明かす。イーディーは「スティーヴンと別れて」 と要求し、3人は売り場を後にした。
シルヴィーは自宅へ戻ったメアリーと会い、「浮気男に我慢するのは時代遅れよ」と告げる。しかしメアリーは「家に戻ったら彼は花を くれたわ。母が言うように、浮気なんて大したことが無いのかも」と口にする。2人はランジェリー・ショップへ行き、メアリーは下着を 試着する。シルヴィーはクリスタルを目撃し、隠れて様子を窺う。店員と喋っていたクリスタルは、スティーヴンに電話を掛けて支払いを 要求するよう促していた。
シルヴィーはメアリーに、「クリスタルが来てるわ。スティーヴンにお金を払わせようとしてる」と教える。慌てて店を去ろうとする メアリーを、シルヴィーは「放っておいたら妻の座も奪われるわよ。立ち向かうの。私も援護するわ」と焚き付ける。メアリーは困惑 しながらも、クリスタルと会った。しかしクリスタルが不敵な態度だったので、メアリーは腹を立てる。「もう二度と彼と会わないで」と 彼女が言うと、クリスタルは余裕の笑みを浮かべて「それは彼に訊いてみないと」と口にした。
帰宅したメアリーがスティーヴンを追及する様子を覗き見たウタは、その内容をマギーに説明する。激昂したメアリーは離婚を切り出し、 スティーヴンはしばらくホテルで暮らすと言い出したという。そこへメアリーが来て、「離婚するわ」とマギーとウタに興奮した様子で 言う。マギーは「寝る前に、“目覚めたら答えは出ている”と言って下さい。朝になれば事態は好転しています」と穏やかに告げる。 メアリーが去った後、マギーはウタに「2人は分かれないわ。また互いに愛しているんだから」と告げた。メアリーはマギーとウタに 手伝ってもらい、スティーヴンの荷物を片っ端から捨てた。
シルヴィーは編集部員を集めて会議を開き、斬新な企画を出すよう求めた。新人のアニーが「復讐」をテーマにした特集を提案すると、 彼女は「それは時代に逆行してるわ。私の望む企画と正反対」と却下する。しかし他の編集部員はアニーの企画に興味を示した。通って いるジムで人気ライターのベイリー・スミスを見つけたシルヴィーは、カシェでも書いてほしいと依頼する。「発行部数が落ちて、 スタッフもごっそり抜けたとか」と言われた彼女は、「みんな根性が無いのよ」と告げた。
ゴシップ記事を得意とするベイリーは、執筆の条件としてスティーヴンとメアリーが離婚する噂に関するネタを求めた。シルヴィーが情報 の提供を断ると、ベイリーはネッドが他の雑誌の編集長と会食していたことを教え、カシェの編集長を交代させる噂があることを口にする 。シルヴィーが「記事にはしないで。編集部員たちに知られて信用を失ったら、行き場を失う」と頼むと、ベイリーは「1つのゴシップで キャリアが潰されるんだから、怖いわね」と含んだような物言いをした。
メアリーとステーィヴンの離婚問題を報じる記事が、新聞の一面に大きく掲載された。シルヴィーたちとの会食に姿を現したメアリーは、 すっかり吹っ切れた様子で、弁護士を雇ったことを話す。シルヴィーは彼女に、ベイリーから入手した離婚ネタについて問われ、それが 事実だと認めたことを打ち明けた。シルヴィーは「仕事を失いたくなかったの」と釈明して詫びを入れるが、メアリーは「裏切りは結婚 だけに付き物ってわけじゃなかったのね。失望したわ」と嫌悪感に満ちた表情で言い放ち、その場を後にした。
メアリーはスティーヴンから電話が掛かって来ても、冷淡な態度で対応した。そんな様子を見たモリーは、メアリーに対する反発を示した 。シルヴィーはメアリーと仲直りしようとするが、電話しても居留守を使われる。彼女は家まで出向くが、メアリーが留守だった。車で 去ろうとしたシルヴィーは、モリーの姿を目撃した。モリーは学校をサボり、煙草まで吸っていた。「ダイエットのためよ。モデルみたい に痩せたいの」と説明するモリーに、シルヴィーは「あんなモデルは実在しない。写真を修整してるの」と教えた。離婚問題で母に対する 嫌悪感を示すモリーに、シルヴィーは「悩みがあったら、いつでも電話して」と持ち掛けた。
メアリーは離婚問題を抱える女性ばかりが集まるキャンプに参加し、俳優のエージェントをしているリア・ミラーと出会う。リアは5度の 離婚歴を持つ女性だった。なぜ結婚を繰り返すのか質問したメアリーに、リアは「アムール(愛)よ」と告げる。メアリーが「人の役に 立とうとしているのに、挫折してしまう」と漏らすと、リアは「アドバイスをあげるわ。人のことを気にせず、自己中心的になりなさい。 他の誰でもなく、自分を大切にすれば全て上手く行くわ」と述べた。
メアリーは美容整形手術を受けた母の元へ行き、「また仕事しようと思うの。自分の好きな服をデザインするわ、小さなコレクションに しようと思う」と話す。「資金はどうするの」と問われ、メアリーは「出資者を探すわ」と答えた。キャサリンは「私の財産を使って」と 持ち掛けた。メアリーはロフトを借りてスタジオを作り、コレクションのための作業を開始した。シルヴィーはカシェの部数が芳しくない ため、電話でネッドから責任を追及された。シルヴィーは「1年で結果を出すのは無理よ。あと3ヶ月待って。いいアイデアがある。復讐 をテーマにして、その美学を説くの」と告げた。
メアリーはモリーが沈んでいるのを見て、「これからは話を聴くわ」と放っておいたことを詫びた。モリーからスティーヴンとヨリを戻す よう求められた彼女は、「元には戻れないの」と言う。するとモリーは反発し、「話をするならシルヴィーに電話するわ。私の味方よ」と 告げた。翌日、メアリーはシルヴィーを捕まえ、「モリーから何を相談されたの」と質問する。シルヴィーが「言わない約束なの」と返答 を拒否したので、メアリーは「母親は私よ。貴方じゃないわ」と感情的になった。
メアリーはシルヴィーから「貴方が娘の面倒を見ないからよ。娘だけじゃない、誰の支えにもならず、面倒には目を瞑るだけ」と指摘 されて激怒し、「私だけじゃなく、モリーも裏切る気?」と激しく非難する。「仕事を楽しめばいいわ」と彼女が皮肉っぽく口にすると、 シルヴィーは「仕事は辞めたわ。親友を裏切るなんて、どうかしてた」と言う。そこからメアリーとシルヴィーは互いに相手を褒める言葉 を口にして、一気に関係は修復された。
メアリーはシルヴィーと示し合わせてサックスのネイルサロンへ赴き、ターニャの前でわざと「旦那とこっそり会ったわ。秘密の情事って 燃えるのよ」などと語る。2人の狙い通り、その会話をターニャはスティーヴンと同棲中のクリスタルに知らせる。実際は、メアリーは スティーヴンと会っていなかった。だが、クリスタルは2人が密会していると思い込む。さらにアパートを訪れたモリーが、クリスタルに 「来週はママがショーを開くから、パパは来ないわよ。ママが大きな夢に挑戦してパパも喜んでるわ。ママはセクシーだって」と吹き込む 。メアリーのショーには大勢のブティック関係者が集まり、大成功の内に幕を閉じた。シルヴィーが連れて来たサックスの主任バイヤーを 務めるグレンダ・ヒルは、「ウチの店で扱いたい」とメアリーに持ち掛けた…。

脚本&監督はダイアン・イングリッシュ、戯曲はクレア・ブース・ルース、1939年版脚本はアニタ・ルース&ジェーン・マーフィン、製作 はヴィクトリア・ピアマン&ミック・ジャガー&ビル・ジョンソン&ダイアン・イングリッシュ、製作協力はマーク・マスコロ&タリン・ コジキアン、製作総指揮はジム・セイベル&ジョエル・シュコフスキー&ボビー・シェン&ジェフ・アバーリー&ジュリア・ブラックマン &ジェームズ・W・スコッチドープル&ボブ・バーニー&キャロリン・ブラックウッド、撮影はアナスタス・ミコス、編集はティア・ ノーラン、美術はジェーン・マスキー、衣装はジョン・ダン、音楽はマーク・アイシャム、音楽監修はクリス・ドリーダス。
出演はメグ・ライアン、アネット・ベニング、エヴァ・メンデス、デブラ・メッシング、ジェイダ・ピンケット=スミス、キャンディス・ バーゲン、ベット・ミドラー、キャリー・フィッシャー、クロリス・リーチマン、デビ・メイザー、インディア・エネンガ、ジル・ フリント、アナ・ガステヤー、ジョアンナ・グリーソン、ティリー・スコット・ペダーセン、リン・ウィットフィールド、 ナターシャ・アラム、エミリー・シーモア、アリソン・シーモア、ローレン・ルフェーブル、リンジー・ルフェーブル、イザベラ・ パンテレデス、オリヴィア・パンテレデス、マデリーン・ブラック、メレディス・ブラック他。


ブロードウェイの舞台劇を基にした1939年の映画『The Women』(ジョージ・キューカー監督。日本では未公開で、ビデオやDVDも発売 されていない)のリメイク。
キャストが全て女性だけというのは、オリジナル版と同じ。ラストに登場する赤ん坊が唯一の男子だ。
監督のダイアン・イングリッシュは、『TVキャスター マーフィー・ブラウン』など幾つものTVシリーズでクリエイターと脚本家を 務めてきた女性。テレビ作品も含めて、これが初の監督作品となる。
メアリーをメグ・ライアン、シルヴィーをアネット・ベニング、クリスタルをエヴァ・メンデス、イーディーをデブラ・メッシング、 アレックスをジェイダ・ピンケット=スミス、キャサリンをキャンディス・バーゲン、リアをベット・ミドラー、ベイリーをキャリー・ フィッシャー、マギーをクロリス・リーチマン、ターニャをデビ・メイザー、モリーをインディア・エネンガ、アニーをジル・フリント、 パットをアナ・ガステヤー、ウタをティリー・スコット・ペダーセンが演じている。

1939年の映画のリメイクだし、企画は何年も前から立ち上がっていたらしいから、『セックス・アンド・ザ・シティー』を模倣している わけではないのだろう。
ただ、「メインは4人の中年女性」「4人は親友」「全員がセレブな身分で生活に余裕がある」という設定からしても、その内容から しても、やはり『セックス・アンド・ザ・シティー』を連想してしまう。
製作サイドが二匹目のドジョウを狙った可能性も考えられるが、むしろ『SATC』と比較されるのはマイナスだと思うなあ。

『セックス・アンド・ザ・シティー』と比較すると、この作品は世の女性たちの「憧れ」という感情を喚起しないように思えるん だよな。
『SATC』の場合、オシャレなアイテムやスポットが色々と散りばめられており、「ああいう服や装飾品を身に付けたい」「ああいう 場所で食事をしたい」と多くの女性たちが感じていたのだと思われる。
また、そういったアイテムで着飾り、そういった場所で楽しむ4人のヒロインを見て、「ああいう女性になりたい」という気持ちを湧き 立たせたんじゃないかと思う。
そういうことが、ヒットの要因になったんじゃないだろうか。
まあワシは『SATC』の映画版2作しか見ていないんだけどね。

それに比べると、この映画には、オシャレなアイテムやスポットへの意識が弱い。
有名デパートのサックス・フィフス・アヴェニューが登場するなど、そこへの意識が全く無いとは言わない。ただ、『SATC』ほど、 「オシャレなセレブのオシャレなライフ・スタイル」というところを重視しているようには思えない。
メインとなる4人の女性たちも、「あんな風になりたい」と思わせるほど羨ましい生活を送っているようには見えない。それに、女性と して魅力的に見えない。
そもそも4人とも、キャラクターとして薄いし。

女性キャストしか登場しないってのはオリジナル版と同じなんだけど、そのことで色々と不都合が 生じている。
まず、「女性だけってのは不自然すぎる」と感じるのだ。
メアリーが外でタクシーを待っているシーンとか、レストランで食事をするシーンとか、そういう時には背後に通行人や他の客や店員と いった人間たちがいるのだが、それも全て女性なのだ。それって、かなり不自然でしょ。
ひょっとすると私が知らないだけで、あのレストランは女性専用なのか。
だとしても、通行人も女性だけってのは不自然でしょ。

「男を登場させることが出来ない」という制約があるからなのか、序盤におけるメイン4人のキャラクター紹介もボンヤリしている。
その職業に関しては、セリフで軽く触れる程度。
例えばメアリーにしても、家でデザイン画を描いているらしいってのは分かるんだけど、正式にデザイナーとして働いているのか、そう じゃないのか、その辺りがボンヤリしている。
後で「クビにされた」というセリフがあるので、たぶん父の会社でデザイナーとして働いていたんだろうとは思うけど、どうもハッキリ しない。
他にも、カシェ誌の発行部数が落ちているとか、スタッフがごっそり抜けているとか、そういう状況は、映画開始から1時間ほど経過し、 ベイリーが登場して喋るまで分からない。
何かと説明不足に思える。

冒頭、シルヴィーはターニャのお喋りでスティーヴンの浮気を知るが、すぐさまメアリーに教えようとはしない。
だから、「その事実がメアリーにバレないようにとアタフタする」とか「メアリーが夫とのアツアツぶりを語るので困惑する」とか、そう いうところで喜劇を作っていくのかと思ったら、そこは膨らませない。
で、メアリーはターニャと会ってスティーヴンの浮気を知るまでに、それほど時間は掛からない。
メアリーがサックスへ行くと知っても、シルヴィーは「ターニャと会わせないようにしようと慌てる」とか、そういう動きで喜劇を作る ようなことはない。

メアリーがターニャからスティーヴンの浮気話を聞いて驚くのは、当事者かどうかという違いはあれど、シルヴィーの時と同じパターンを 繰り返しているってことになる。
それに、もうメアリーがサックスへ赴いた時点で、その後の展開が観客にはネタバレしている状態だ。ネタバレさせたことで、何か面白味 が生じているわけでもない。
「メアリーが夫の浮気を知った」という事実を知らないまま、シルヴィーが彼女に打ち明けようかどうか悩むという手順があるが、そこも 膨らませていない。「メアリーが知らないと思って気遣うけど、彼女は知っている」というところで喜劇を作るわけでもない。
そういう諸々のことを考慮すると、最初にシルヴィーがスティーヴンの浮気を知り、後からメアリーが知るという手間を掛けたことに、 あまり意味が無いんじゃないかと思えてくる。

それと、その浮気騒動に関しても、やはり男性を登場させられないという制約がマイナスになっているんじゃないか。
メアリーが夫の浮気を知った後、普通にスティーヴンを登場させて彼女と絡ませた方が、ドラマが面白くなるように思えるんだよなあ。
スティーヴンを追及して夫婦喧嘩になるという場面にしても、スティーヴンを登場させられないから「覗き見たウタがマギーに説明する」 という形を取っているけど、普通に夫婦の様子を描いた方がいいんじゃないかと。
何かと不都合が多くなっているなあと。

あと、前半は「スティーヴンの浮気」というメアリーに関するエピソードだけが大きく扱われており、他の3人は完全にオマケの 扱いだ。
シルヴィーに関して「雑誌をオシャレにしたがっている」ということに軽く触れている程度で、イーディーとアレックスなんて 「メアリーの友人」という以外の部分が皆無に等しい。それぞれ「子だくさんの専業主婦」「レズビアンのベストセラー作家だけど1冊 しか書いていない」という初期設定が示されるだけ。
前半はシルヴィー、イーディー、アレックスの生活風景や仕事の様子が薄く、それぞれのストーリーは何も描かれていない。
だったら最後までメアリーを主役とする物語で、他の3人は脇役という扱いにしておくのかと思いきや(まあ脇役だとしても、あまりにも 薄いけど)、そうじゃないんだよな。スティーヴンの浮気に関するエピソードが一段落すると、シルヴィーの仕事に関するエピソードが 描かれる。
そういうことなら、最初から各人のエピソードを並行して描く構成にした方がいい。

ただし、シルヴィーの仕事に関する問題はそれほど大きな扱いではなく、やはり後半に入っても、メアリーだけが際立って大きな扱いに なっている。
スティーヴンとの離婚問題に加えて、それが原因でモリーと不和になったり、シルヴィーと不和になったりする。
そんな中で、イーディーとアレックスの存在意義って、ほぼ皆無と言ってもいい。
何のために4人組として登場させたのか分からん。
この2人が存在しなくても、物語には何の影響も無い。

終盤にはイーディーの出産というイベントがあるが、その前に開かれるファッションショーをクライマックスにしても特に支障は無い。
で、まだイーディーには出産というイベントが用意されているだけマシで、アレックスに至っては、ホントに何のエピソードも用意されて いないんだよな。
レズビアンの恋人がいるとか、ベストセラー作家だけど2冊目が書けずに6年が経過しているとか、そういう設定も、まるで活用されて いない。

メアリーはリアのアドバイスを受け、「ずっと夢だった」というデザインの仕事に打ち込むが、それが夢だったってことは、そこまでの 展開の中で全く感じられなかったぞ。
序盤にデザイン画を描いているという描写はあったけど、それだけでは弱すぎる。
だから、メアリーのショーは分割画面を使ったりして丁寧に時間を掛けて描写されているけど、そこでの彼女の喜びや感動を全く感じ 取れない。

メアリーはスティーヴンとヨリを戻すことを選び、それがハッピーエンドとして描かれているのだが、素直に受け入れることが 出来ない。
そこは、スティーヴン側の描写が無いことがネックになっている。
彼は「やり直すチャンスをくれ」というメモを届けたりするのだが、どういう男なのか、また簡単に浮気を繰り返すような可能性は無い のか、クリスタルとの浮気についてどう考えているのか、どれほど後悔しているのか、そういう彼の気持ちが全く分からない。
だから、浮気してメアリーから三行半を突き付けられた後、クリスタルと同棲しているような男を信頼することが出来ないし、ヨリを戻す ことがハッピーエンドだとは受け止められないのだ。

メアリーはステーィヴンからの電話を受けて「人生が見えなくて貴方と向き合えなかった」と言っており、まるで彼女にも非があったかの ような描写になっているけど、それも夫婦関係が描かれていないから、納得しかねる。
メアリー側に問題は無かったのに、スティーヴンがクリスタルに鼻の下を伸ばして浮気したとしか思えないのよ。
最後まで、「女性しか登場させない」という仕掛けにはデメリットしか見えない。
何一つとして、いいことが見当たらないぞ。

(観賞日:2013年4月13日)


第29回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[アネット・ベニング、エヴァ・メンデス、デブラ・メッシング、ジェイダ・ピンケット=スミス、メグ・ライアン]

 

*ポンコツ映画愛護協会