『くるみ割り人形』:2009、イギリス&ハンガリー

クリスマス。メアリーは大好きなパパに宛てたメッセージカードを書く。弟のマックスが人形を燃やしているのに気付き、彼女は慌てて 止めに入る。人形はドレスが焦げてしまい、メッセージを書いていたペンはどこかへ行ってしまった。伯父のアルバートが約束の時間に なっても来ないので、メアリーの両親は出掛けてしまう。「クリスマスよ、みんなで一緒に過ごしたい」とメアリーは言うが、ママは 「これから舞踏会で歌わなきゃならないのよ」と浮かれた様子で告げた。
アルバートが遅刻して到着したのと入れ違いで、両親は出掛けて行った。アルバートがメアリーに「遅れて悪かった。埋め合わせをさせて くれ」と述べ、子分のノーマッドが大きなドールハウスを邸宅に運び込んだ。アルバートはメアリーに「どの人形にも物語がある」と言い 、チンパンジーの人形を指差して「これはギールグッドだ。サーカスを飛び出して、遠い王国の王子様に仕えたんだ」と語る。
ドールハウスはオルゴールになっており、曲に合わせて人形たちは動いた。太っている人形はティンカーで、その友人がスティックスと いう太鼓叩き人形であることをアルバートはメアリーとマックスに教えた。さらにアルバートは、それらの人形とは別に用意していた、 くるみ割り人形を取り出した。彼は2人に「こいつはNCだ。気を付けろ。町一番の御尋ね者だ」と話す。夕食の用意が出来たので、 アルバートとメアリーは食堂へ向かう。
マックスはNCにくるみを3つもくわえさせ、それを割る。だが、人形の口が壊れてしまったので、床に放置して食堂へ向かった。彼は 気付かなかったが、1匹のネズミが室内に入り込んでいた。さらにネズミの群れが、邸宅の中へ侵入した。食堂から戻って来たメアリーは 、壊れた人形を見つけた。アルバートは「これなら直せる」と言い、すぐに修理した。姉に叱られたマックスが「ただのオモチャじゃ ないか」と反発すると、アルバートが「お前にとってはオモチャでも、他の人にとっては戦友かもしれん」と述べた。
アルバートはメアリーとマックスを寝室へ連れて行き、電気を消した。メアリーが「お話して」と振り返ると、アルバートの姿は無かった 。ベッドから出たメアリーは、NCを抱き寄せて「弟がごめんね」と謝る。するとNCは「大丈夫です、心配なさらずに」と喋った。 驚いたメアリーが「話せるの?」と言うと、NCは「もちろんです」と答える。「良かったら、もっと驚かせることも出来ますよ」と彼は 言い、本棚の上に置くよう促した。
メアリーはNCの指示を受け、彼を本棚の上に置くと、その下に枕を並べた。NCが枕にダイブすると、メアリーと同じぐらいの大きさに なった。枕の羽毛が飛び散る中、NCは「よくぞやってくれました。貴方のような人を待っていたんです」とメアリーに告げる。女中の エヴァが来たので、NCは慌てて隠れた。「大きな音がしたけど、何があったの?」と訊かれたメアリーは、「枕が急に爆発したの」と 答える。エヴァは少し話しただけで、部屋を去った。
NCが「ドールハウスの仲間たちと計画について話さなきゃ」と口にしたので、メアリーは「どんな計画なの?」と興味を示す。すると 「君は関わらないで。女子は軍事には向かない」とNCは告げた。「なんて恩知らずな人なの」と非難されたNCは、メアリーが着替えて 同行することを認めた。「そう言えば、下でネズミを見掛けませんでしたか?奴らは木材を自由に扱える」と心配するNCに、メアリーは 「大丈夫よ、パパが退治したわ」と述べた。
NCは「部屋の様子が変わっているかもしれません」と言ってから、1階の扉を開けた。すると、部屋の真ん中に大きなクリスマスツリー が置かれており、部屋の天井も屋根も見えなくなっていた。メアリーが「私が小さくなったの?それとも部屋が大きくなったの?」と質問 すると、NCは「アルバート叔父さんの言っていたことを思い出して下さい。全てが相対性なんですよ」と告げた。2人はドールハウスの 扉を開けようとするが、壁全体が外れてしまった。
NCは騒がしくしている人形たちを「お前ら、出て来い。行儀が悪すぎるぞ」と叱り付けた。彼はメアリーを人形たちに紹介した後、 「みんなでネズミの王に勝負を挑むぞ」と宣言した。メアリーとNCは馬車に乗り、ギールグッドがぜんまいを回して吊り上げた。馬車は ツリーを上昇していき、メアリーは自分が飾り付けた人形たちと出会った。やがて周囲は雪景色に変わり、メアリーのママにそっくりな雪 の妖精が姿を現した。それはマックスが燃やそうとして、メアリーが新しいドレスを作った人形だった。
メアリーは雪の妖精に促されて空を飛び、粉雪たちと一緒になって踊った。雪の妖精はメアリーを呼び寄せ、「NCはネズミの女王に魔法 を掛けられてしまったの。でも貴方の助けがあれば、打ち負かせるかもしれないわ」と告げる。メアリーは彼女の指示通り、NCの手を 握った。するとNCは少年の姿になった。彼は「元に戻れた。君のおかげだ」と涙を流して喜んだ。雪の妖精はメアリーに「普通の男の子 ではなく、彼は王子様なのよ」と教えた。
王子は「これでやっと自分の王国に帰れる。計画があるんだ。今すぐ帰らないと」と言うが、雪の妖精が「貴方、恩知らずなのね。せめて 彼女をダンスに誘ったら?」と持ち掛ける。メアリーと王子がダンスを始める様子を、ネズミの斥候2匹が観察していた。彼らは国へ戻り 、王に報告することにした。メアリーは王子から「てっぺんまで行こう」と誘われ、階段を上がっていく。雲の上に出ると、王子は「あの 辺りが僕の国だ」と指差した。
王子は「今はネズミの王に奪われている。王の母親が僕をネズミにした。そして王は軍隊を送り込んだ」と語った。黒い雲が出ていること にメアリーが疑問を呈すると、王子は「ネズミの王は太陽を嫌う。だから子供たちのオモチャを煙工場で燃やし続けているんだ」と説明 した。ネズミの王は王子が生きているという斥候の報告を受け、激しく動揺して母である女王の所へ赴く。女王は「魔法が解けました、奴 は生きてます」と慌てる王を叱責し、「バカなお前らでも捕まえられるような高度な魔法を王子に掛けてやる」と述べた。
王子はメアリーから「ネズミの王の弱点は太陽なのね。だったら、煙工場を潰したら?」と提案され、「それがいい、名案だよ」と言う。 その直後、女王の魔法によって、また王子は人形の姿に戻ってしまう。メアリーはツリーから急降下し、気が付くと元のサイズに戻って 自分の部屋にいた。部屋を見回しても、NCの姿は無かった。NCを見つけようと部屋を飛び出したところへ、両親が帰宅する。メアリー はNCを見つけ、「無事で良かった」と抱き締める。
ツリーが倒れているのに気付いたパパは、エヴァを呼んで説明を求める。起きて来たマックスを捕まえたパパは、「これは何だ」と追及 する。メアリーは自分の体験した出来事を語るが、パパは全く信じない。パパは怖い顔をして「その人形を渡しなさい」と詰め寄るが、 メアリーは拒否した。彼女は階段を上がり、自分の部屋に戻った。翌朝、アルバートが訪問すると、パパは険しい顔で書斎に通した。パパ は「メアリーには困っています。どうやら貴方が悪影響を与えたようですね」と言う。
「貴方はメアリーの頭の中を夢物語で一杯にしたんですか」と責めるように告げると、アルバートは「想像力に優れているんだ」と述べた 。「現実の世界にも適応しないと」とパパが言うと、アルバートは「現実の世界だって、持続性があるだけの幻想に過ぎない」と語る。 パパはアルバートに、「あの子とは、もう会わないで頂きたい。それと、あのドールハウスは持ち帰って下さい」と要求した。アルバート は子供時代の出来事を歌い、彼を穏やかに諭した。
その夜、NCはメアリーに「いつまでもここにいるわけには行かない。敵のスパイに見つかってしまう」と漏らす。「雪の妖精に助けて もらえばいいじゃない」とメアリーが言うと、彼は「どうせ、すぐ人形に戻されてしまう。何か手を打たないと」と焦る。マックスが目を 覚ますと、NCは「マックスは軍人だね」と話し掛ける。マックスは驚くが、NCからネズミ王国との戦いに参戦するよう求められると、 それを承諾して武器を用意した。
NCはメアリーとマックスに旅の支度をするよう指示し、先にドールハウスの仲間を呼びに行く。だが、落ちていたペンを拾おうとした彼 は、暖炉の中に引きずり込まれてしまう。メアリーとマックスが1階へ下りて来ると、ネズミの王と家来たちが待ち受けていた。彼らは NCを縛り上げ、ティンカーとスティックスも捕まえていた。王はNCたちを檻に入れ、家来に「煙工場へ連行しろ」と命じた。
マックスは王から「君のためにバイクも用意してあるぞ」と誘われ、メアリーを裏切ってノコノコと付いて行った。悲しんでいたメアリー は、痛め付けられて放置されているギールグッドに気付いた。彼はメアリーに、「屋根裏部屋はありますか?そこに鏡があれば、殿下を 捜し出せるかもしれません」と告げる。屋根裏部屋に赴いたメアリーとギールグッドは、鏡を抜けて王子の国に辿り着いた…。

監督はアンドレイ・コンチャロフスキー、脚本はアンドレイ・コンチャロフスキー&クリス・ソリミネ、製作はアンドレイ・ コンチャロフスキー&ポール・ローウィン、共同製作はメグ・クラーク&ヨージェフ・シルコ、製作総指揮はモリッツ・ボーマン、撮影は マイク・サウソン、編集はヘンリー・リチャードソン&マチュー・ベランジャー&アンディー・グレン、美術はケヴィン・フィップス、 衣装デザインはルイーズ・スターンスワード、追加衣装デザインはラスタム・カムダモフ、シニア視覚効果監修はニコラス・ブルックス、 ミュージカル演出&振付はStuart Hoppsスチュアート・ホップス、作詞はティム・ライス、音楽はエドゥアルド・アルテミエフ、音楽 プロデューサーはマギー・ロドフォード。
出演はエル・ファニング、ネイサン・レイン、フランシス・デ・ラ・トゥーア、ジョン・タートゥーロ、リチャード・E・グラント、 ユリア・ヴィソトスカヤ、アーロン・マイケル・ドロジン、チャーリー・ロウ、ピーター・エリオット、ヒュー・サックス、アフリカ・ ナイル、ジョナサン・コイン、スチュアート・ホップス、アッティラ・カルマー、フェレンツ・エレク、ジェルジュ・ホンチ、アンドレア ・タロス、ピーター・タカツキー、リチャード・フィリップス、ダニエル・ピーコック他。
声の出演はシャーリー・ヘンダーソン他。


ピョートル・チャイコフスキーが音楽を担当したバレエ『くるみ割り人形』を基にした作品。
ただし内容は大幅に異なっている。
監督は『デッドフォール』『天使が降りたホームタウン』のアンドレイ・コンチャロフスキー。
メアリーをエル・ファニング、アルバートを ネイサン・レイン、ネズミの女王&エヴァをフランシス・デ・ラ・トゥーア、ネズミの王をジョン・タートゥーロ、パパをリチャード・E ・グラント、雪の妖精&ママをユリア・ヴィソトスカヤ、マックスをアーロン・マイケル・ドロジン、王子をチャーリー・ロウが演じて おり、NCの声をシャーリー・ヘンダーソンが担当している。

冒頭にフロイトが登場したり、アルバートが「それが私の理論だ。相対性っていうんだ」と言ったり、『金平糖の精の踊り』のメロディー に乗せて相対性理論に関する歌を歌い始めたり、「E=mc2」という公式を黒板に書いたり、ママがパパに「フロイト博士が子供の夢と 心理について話していたわね」と言ったりする。
そんな小難しい学問の要素を取り込んでいる意味がサッパリ分からん。
これって、どう考えたってファミリー映画、子供向け映画のはずでしょ。
序盤で相対性理論について歌われても、ちっとも楽しくないぞ。
まあ、そもそも『金平糖の精の踊り』のメロディーだから、どんな歌詞でも楽しくないだろうけど。

その歌だけでなく、全体的に、あんまり楽しくないんだよな。
一応はファンタジーだけど、ワクワクする感じは薄い。
メインの曲として使われている『金平糖の精の踊り』が、幻想的ではあっても楽しい雰囲気は無い曲だから、仕方の無い部分はあるの かもしれないけどさ。
その後も『金平糖の精の踊り』ばっかり使うけど、そのチョイスはいかがなものかと。他にも色々と曲はあるでしょうに。
例えば『行進曲』や『葦笛の踊り』なんかの方が、まだ明るさは感じられるんじゃないかと思うが。

ただし、そういうことを言い出したら、そもそも『くるみ割り人形』を素材に選んだ時点で 違うんじゃないかという気がしないでもないけどね。
『くるみ割り人形』はバレエ劇であり、使われているのはチャイコフスキー作曲のクラシック曲だ。
バレエ劇の原作は童話だけど、でも現代の子供たちに受けるような「明るく楽しいファミリー向けミュージカル映画」に適した素材には 思えないんだけどなあ。

くるみ割り人形の造形も、当たり前っちゃあ当たり前だが、ちっとも可愛くない。だから、なぜメアリーが大喜びするのか、なぜ特別扱い なのか、まるで理解できない。
むしろドールハウスや、その中に入っている人形たちの方が魅力的なんじゃないかと。
っていうか、そのドールハウスを用意したことによって、くるみ割り人形だけに集中できなくなってしまうぞ。
人形はNCだけにするか、もしくは「他の人形たちを以前からメアリーが持っていて、そこにNCを仲間として加える」という設定にでも した方が良かったんじゃないか。
しかも、そのドールハウスや人形たちって、もっと物語に絡んで来るのかと思いきや、そんなに出番は多くないし。

くるみ割り人形は早い段階で少年の姿になるので、「可愛くない」という問題は解消されるが、それはそれで問題がある。
「メアリーは人形と一緒に冒険をする方が、ファンタジーとしては魅力的なんじゃないか」というのが、まず1点。
それと、雪の妖精が「彼はネズミの女王に魔法を掛けられている。貴方の助けがあれば打ち負かせるかも」と言った直後、メアリーが手を 握るとNCは少年の姿になるのだが、それは魔法が解けるのが早すぎなんじゃねえかってのが、もう1点。
「彼が元の姿に戻るためにネズミに戦いを挑もうとして、メアリーと一緒に冒険する」という展開かと思いきや、あっさりと魔法が解けて 、もう問題は解決しちゃうんだよね。

映画開始から30分ぐらいで「王子の呪いは解けました。無事に王国へ帰ることが出来ました、めでたし、めでたし」となり、じゃあ残りの 部分では何を描くのかと思ったら、とりあえずダンスで時間稼ぎ。
もちろん、王子の呪いが解けてハッピーエンドというわけではなく、その後も物語は続いて行くのだが、その構成は芳しくない。
せめてミュージカル・シーンだけでも魅力があれば救いになるのだが、そこも全くダメ。
楽しさに欠けた歌ばかりだし、歌うだけで誰も踊らないし。

王子が「ネズミの王が僕の国に軍隊を送り込んだ」と語るのだが、回想として挿入される映像は、「人間たちの住む街に、人間の軍隊が やって来る」というものだ。
ネズミ役の人間たちは特殊メイクを施しているけど(それ以外は明らかにナチスをイメージしている)、王子の国は、まんま人間だ。
そりゃあ当たり前で、王子は人形に姿を変えられていただけで、元々は人間なのよね。
だから「人形の国にネズミの軍隊が来る」ということではない。

とにかく、NCが人間の姿になり、王子の国が主な舞台になった辺りから、ファンタジーの雰囲気が完全に消えるわけではないけど、 「なんか違う」という印象が強くなっちゃうんだよな。バイクを走らせるとか、ヘリコプターで脱出するとか、そういうのって方向性が 違うんじゃないかと。
そもそも、王子の国が人間の国であるならば、なんでネズミは人間の姿になっているのかってところで疑問が沸くし。
そこは「人形の国」にしておいた方が、面白くなったように思うけどね。その場合、NCも「元々は人間」という設定を変える必要がある けど。
あと、王子の国が主な舞台になってしまうと、そこは普通に人間が暮らしている国なので、せっかくメアリーが小さくなったのに、それも 意味が無くなっちゃうんだよな。

そういう諸々を考えると、「くるみ割り人形が人間の姿に戻らないまま、小さくなったメアリーと共に冒険し、ネズミの王を倒しに行く」 という展開にした方が良かったんじゃないかと思うんだよね。
そうすれば、周囲の舞台装置と小さくなったメアリーとの対比だけでもファンタジーらしさが出る。
相棒が人形のままなら、そこにもファンタジーらしさがある。
何かと都合がいいんじゃないかと。

NCが人間の姿になった後、しばらくすると、また人形に戻る。
だから「ああ、これなら何とかなるかも」と思っていたら、メアリーまで元のサイズに戻ってしまう。
そこで幻想の時間は一時休止となり、翌朝になってしまう。
いやいや、そりゃ構成として明らかに間違っているぞ。その夜の内に全て片付けてしまうべきだよ。
途中で中断期間を設けることには、何のメリットも効果もありゃしないぞ。

(観賞日:2013年7月29日)


第31回ゴールデン・ラズベリー賞(2010年)

ノミネート:最低3-D乱用目潰し映画賞

 

*ポンコツ映画愛護協会