『アイズ』:2008、アメリカ&カナダ

ロサンゼルス。ヴァイオリン奏者として活躍する27歳のシドニー・ウェルズは、5歳の時に失明した。かつて見た物の記憶は消え、自分の 顔も分からない。現在のシドニーは、別の感覚で物を視ている。雨は匂いで感じ取り、光が顔に当たれば太陽を感じ取れる。そんな彼女は 姉ヘレンの勧めにより、角膜移植手術を受けることになった。楽団の練習を終えてアパートに戻ったシドニーは、ドアマンのミゲルに手術 への不安を漏らした。
手術を終えたシドニーは眼帯を付け、病室で休んでいた。そこへ脳腫瘍で入院している9歳の少女アリシアが遊びに来た。シドニーは彼女 と会話を交わした。シドニーは執刀医ハスキンズによって、眼帯を外された。ゆっくりと目を開けたシドニーは、まだボンヤリとしか周囲 を見ることが出来なかった。姉の方に目をやると、その背後に黒い人影が見えた。病室に戻ると、アリシアが再びやって来て「明日、公園 を案内してあげる」と言う。看護婦が注意に来たので、アリシアは立ち去った。
その夜、シドニーは隣のベッドで眠っていた患者のヒルマンが黒い人影に導かれ、病室を出ていくのを目撃した。声を掛けても返答は無い 。廊下に出るが、誰の姿も無い。戻ろうとした時、「寒い、凍えそう」と漏らすヒルマンを見るが、触ろうとすると消えた。翌朝、目を 覚ましたシドニーは、ヒルマンが亡くなったことを知った。術後の経過をチェックしたハスキンズは、シドニーに「長く失明していたこと が問題だ。ポール・フォークナーという専門医を紹介する」と告げた。
シドニーは鏡で自分の顔を見るが、まだ鮮明に見ることは出来なかった。退院を控えた彼女はアリシアの元へ行き、一緒に写真を撮った。 退院してアパートに戻ると、楽団の仲間や友人たちがお祝いに駆け付けていた。みんなと話している内にシドニーは気分が悪くなり、台所 へ行く。その夜、シドニーはオーブンを開けると炎が噴き出す悪夢で目を覚ます。時計を見ると、深夜1時6分だった。その時、彼女は 部屋の内装が見たことの無い場所に変化する幻覚を見た。驚いていると、すぐに部屋は元の状態へと戻った。
ポールのクリニックを訪れたシドニーは、「音や匂いで物を判別して来たため、君の頭は混乱状態にある。君には新しい能力が求められて いる。まだ君は目を信頼できていない。現実を見るのは試練だが、避けて通れない。だから僕がガイド役になる」と告げられた。帰宅した 彼女は、外を歩く足音が気になって廊下へ出た。すると少年が座り込んでおり、「成績表を見なかった?お父さんに怒られる」と質問して きた。しかしシドニーが目を離した隙に、姿を消してしまった。
シドニーはスタジオで録音に挑むが、実力が発揮できずに落ち込んだ。指揮者のサイモンは彼女をコーヒーショップに連れ出し、自分の 体験談を語って元気付ける。だがシドニーの表情は晴れない。サイモンが席を外した直後、シドニーは「私が許すとでも思ってるの? 待ってなさい」と怖い顔で睨むベレー帽の女を目撃する。だが、目を離した隙に姿を消す。刹那、その女が再び出現して襲い掛かってきた ため、シドニーは慌てて逃げる。すると女は姿を消した。シドニーはサイモンに事情を説明するが、「どの女だ?」と言われてしまう。彼 だけでなく、店にいた他の人々には、その女の姿が見えていなかった。
その夜、またシドニーは炎に焼かれる悪夢を見て、深夜1時6分に目を覚ました。そして、また部屋が別の場所に変化する幻覚を見た。 シドニーはポールに会い、「現実とは違う物が見える」と話す。だが、ポールは「検査では何の異常も無い。君は元の世界に戻りたがって いるだけだ」と軽く言う。夜、シドニーがケーブル会社に設置してもらったテレビを見ていると、ドアの下から煙が入って来る。廊下の外 を除き窓から確認すると、煙が充満していた。黒い人影が見えて、いきなりドアにぶつかってきた。
部屋は別の場所に変化し、火は広がっていく。炎に包まれた人に襲われたところで、シドニーは目を覚ました。左腕には掴まれた跡が あったが、すぐに消えた。街に出たシドニーが歩いていると、ブロンドの少女が自分を通過した。その近くでは、車にひかれて死んだ彼女 の死体に野次馬が集まっていた。少女は黒い影に連れられ、姿を消した。シドニーはフィゲロア通りの中華料理店に駆け込み、ポールの 留守電に泣きながら「何か変なの。早く来て」と助けを求めるメッセージを吹き込んだ。
シドニーは窓ガラスが割れる幻覚を見るが、他の客は全く気付いていない。テーブルの上に火が付くが、すぐに消えた。ガスコンロの炎が 燃え上がり、激しい爆発が起きた。シドニーが頭を抱えていると、周囲は真っ暗になった。彼女が起き上がると、店は焼け落ちている。 そこへポールが来たので、シドニーは狼狽しながら「さっきまで店だったのに」と言う。するとポールは「火事で焼けて5人が死んだ。 新聞にも出てた」と告げた。
シドニーは自分の体験を早口で説明し、「私は見ちゃいけない物を見てるんだわ」と言う。しかしポールは「君の眼には何の問題も無い。 君が見たのは現実じゃない。ただの幻だ」と言い、シドニーの話を信じなかった。アパートに戻ったシドニーはエレベーターに乗ろうと するが、中にいる男が監視カメラに写っていないことに気付く。別のエレベーターを待って15階へ戻る途中、その男が出現した。ドアが 開いたので、シドニーは慌てて飛び出した。
シドニーが部屋に行こうとすると、少年が現れて「僕の成績表は?」と問い掛ける。シドニーが「見なかったわよ」と苛立ったように言う と、少年は窓から飛び降りる。シドニーが慌てて近付くと、その窓は開かないようになっていた。部屋に戻ろうとすると、少年が「僕の 成績表は?」と繰り返しながら近付いてきた。シドニーは慌てて部屋に駆け込み、ドアに鍵を掛ける。そして照明を全て破壊し、カーテン を閉じて室内を暗くした。彼女は外部との接触を断って、部屋に閉じ篭もった。
ポールはドアマンのミゲルに鍵を開けてもらい、部屋に入って来た。彼はシドニーの腕の傷を治療するために病院へ連れて行き、そのまま 入院させた。その夜、アリシアがシドニーの病室に来た。彼女は「腫瘍を取ったの。急がないと」と言い、すぐに去った。シドニーが廊下 に出ると、アリシアは黒い人影に導かれて消えた。翌朝、目を覚ましたシドニーは、ヘレンから「アリシアの遺品よ」と渡された写真を 見て驚いた。鏡で見て自分だと思っていた顔は、別人の顔だったのだ。
シドニーはパソコンで調査し、ドナーの細胞記憶が自分に現れたのではないかと考える。彼女はポールにそのことを話して「ドナーを 知りたい」と言うが、「それは無理だ。医師免許を失う」と断られた。アパートに戻ったシドニーがエレベーターに乗ると、下の階に住む チェン夫人が乗って来た。14階でドアが開くと、あの少年が廊下に立っていた。シドニーの視線に気付いたチェン夫人は、驚いて「今、 いるのね?息子のトミーが」と口にした。
シドニーはバスルームで鏡に向かい、「貴方は誰なの?」と問い掛ける。すると両手が勝手に動いて瞳を開かせ、炎の幻覚を見せた。彼女 はヘレンに、「彼女に起きたことが全て私に起きている。正体を突き止めないと、この苦しみはずっと続くわ」と語る。シドニーはポール の協力で、角膜がメキシコのセント・ハビエル病院から送られて来たことを知る。ドナーはアンナ・マルティネスという女性だった。 シドニーとポールは、陶器工場で働いていたアンナの母親ローサに会うため、ロサヤノスという町を訪れた…。

監督はダヴィド・モロー&ザヴィエ・パリュ、オリジナル脚本 はジョージョー・ホイ&オキサイド・パン&ダニー・パン、脚本はセバスチャン・グティエレス、 製作はポーラ・ワグナー&ドン・グレンジャー&ミシェル・マニング、製作協力はサラ・E・ベイカー、製作総指揮はマイク・エリオット&ピーター・チャン&ロイ・リー &ダグ・デイヴィソン&マイケル・パセオネック&ピーター・ブロック&トム・オーテンバーグ&ダーレン・ミラー、撮影はジェフリー・ ジャー、編集はパトリック・ルシエ、美術はジェームズ・スペンサー、衣装はマイケル・デニソン、音楽はマルコ・ベルトラミ、 音楽監修はジェイ・フェアーズ。
出演はジェシカ・アルバ、アレッサンドロ・ニヴォラ、パーカー・ポージー、ラデ・シェルベッジア、レイチェル・ティコティン、オッバ ・ババタンデ、ダニー・モーラ、クロエ・グレース・モレッツ、 フェルナンダ・ロメロ、ブレット・A・ハワース、ケヴィン・K、タムリン・トミタ、イソディー・ゲイジャー、カレン・オースティン、 ライアン・J・ペズダーク、ジェームズ・サラス、ブレット・オマラ、ランダル・グールズビー、サラ・E・ベイカー、ローラ・ スロウィンスキー、リチャード・レドレフセン、アマンダ・シャーミス、キーシャ・シエラ他。


オキサイド&ダニー・パン兄弟が手掛けた2002年の映画『the EYE 【アイ】』をハリウッドでリメイクした作品。
『THEM ゼム』で注目を集めたフランスのダヴィド・モロー&ザヴィエ・パリュがハリウッドに招かれ、監督を務めている。
シドニーをジェシカ・アルバ、ポールをアレッサンドロ・ニヴォラ、ヘレンをパーカー・ポージー、サイモンをラデ・シェルベッジア、 ローサをレイチェル・ティコティン、アリシアをクロエ・グレース・モレッツが演じている。

そもそも私は、オリジナル版がそんなに優れた作品だとは感じなかった。それほど怖くない凡庸なホラー映画という印象だった。
このリメイク版は、大まかな筋書きはオリジナル版と同じだ。
だから、オリジナル版に感じた不満の幾つかも引き継いでいる。
オリジナル版より怖くなっていたり、映像表現が面白かったりすれば、そこはプラス評価に繋がるだろうが、残念なことに、むしろ逆だ。

シドニーが登場してすぐに、もう不安を煽るような雰囲気を醸し出している。まだ何も怪奇現象、超常現象が発生していないのに、ただ 彼女が部屋の中で生活している様子を描いているだけなのに、BGMやSEも手伝って、「何かが起きるんじゃないか」と思わせるぐらい の雰囲気を作り出す。
「手術に対する不安」というのを表現しようとしているのかもしれないけど、この作品の場合、最初からホラー映画だと分かっていること もあって、それが「怖い現象に対する恐怖」とゴチャ混ぜになってしまうんだよね。
ホラー映画で、本筋以外の部分での不安や恐怖を序盤から演出してしまうのは、よっぼど上手くやらない限り、得策とは思えない。むしろ 、「これで目が見えるようになるはず」という期待の部分(不安もあっていいけど)が前に出るぐらいで良かったんじゃないかと。
この映画だと、シドニーは手術に対して不安しか抱いていない。
でも不安しか無いのなら、手術なんて受けなきゃいいわけで。

いつからシドニーが周囲をハッキリと見ることが出来ているのか、それが良く分からない。
「今までボンヤリだったのが、ハッキリと見えるようになった」ということを示すような描写が無いんだよね。
自分を通過した少女と車にひかれた死体が同一人物だと分かっているってことは、そこでは既にハッキリと見えているってことだ。
でも、どの辺りから鮮明に見えていたのか、それが分からない。

オリジナル版よりも、コケ脅しの度合いは高くなっている。
それは別に構わないんだけど、中華料理店のシーンは、やり過ぎだと感じる(ちなみにオリジナル版だと、食堂で店主の死んだ妻子の幽霊 を目撃するだけだ)。
シドニーは幽霊だけでなく、火事で焼け落ちる前の店舗まで目撃している。その店で、本来は燃えて無くなっているはずの椅子に座って いる。
幽霊が見えるだけじゃなくて、過去に存在した状況を見たり、物体に触れたり出来るということになるけど、それは能力を広げすぎかなと。

あと、これはオリジナル版でもあった問題だけど、「これから死ぬ人間が分かる」「死神(黒い人影)を見ることが出来る」ということに 能力を絞っておけばいいのに、過去に死んだ人間の幽霊まで見えちゃってるんだよね。
そのせいで、話がボンヤリしてしまう。
さらに、このリメイク版では、シドニーがアンナの見た「工場の火事の予知夢」を自分も見るようになるという描写が盛り込まれており、 ボンヤリ風味がアップしている。
様々なポイントに恐怖の対象を置いたことで、逆に全体としての怖さが薄れているように思える。

オリジナル版と同じく、ドナーの魂が成仏した後、ヒロインはタンクローリーの爆発事故を予知する。
終盤に派手な盛り上がりを用意したくなる気持ちは分からんではないが、流れに沿っておらず、取って付けた感が強い。
アンナの魂を救って成仏させてやったのなら、そこが着地点になっているべきだと思うのよ。で、もう幽霊や死神を見る能力も消失させる べきだと思うのよね。
最後に大事故を予知する展開を用意するのなら、「ヒロインがドナーと同じ予知夢を見る」という部分で恐怖を煽る展開にするのではなく、「角膜移植によって、 これから死ぬ人が分かるようになってしまう」という部分だけに絞り込んでホラーを構築すべきじゃなかったかと。

その事故を予知するシーンで、シドニーはガソリンを積んだタンクローリーに「106」と書いてあるのを見て、「アンナが見せたがって いた光景はこれよ。その断片を見ていたんだわ。アンナは私にこの人たちを救わせたいの」と言い出すが、1時6分ってのは火災が起きた 時刻でもなければ、アンナが自殺した時刻でもなかったのね。
でも、その事故を時計で示すってのは、無理があるでしょ。
それに、なぜアンナが、その事故から人々を救わせたかったのか、まるで分からない。他にも様々な場所で多くの事件や事故は発生して いるわけで、その事故の発生だけをシドニーに伝えようとしたってのは、どういう理由なのかと。
それと、その爆発事故を予知したってことは、かなり未来のことを予知できる能力があるってことになる。
でも、人が死ぬ直前にならないと、黒い影は出現しないはず。
だったら、その事故は予知できないはずでしょ。

ただ、ここまで文句ばかり付けたけど、ラジー賞の対象になるほどヒドい作品かと言われると、そこまでの駄作とも思わないんだけどね (まあ作品賞や脚本賞じゃなくて、最低主演女優賞でのノミネートだしね)。
むしろ、ドナーの母親を冷徹にせず「娘を助けて」と言わせていたり、ドナーを救う方法も「憑依されたヒロインが首吊り自殺しそうに なったところ母親が来る」というのではなく、アンナの幽霊が首を吊ろうとしているのをシドニーが止めて魂を救ってやる形にして あったりという辺りは、オリジナル版よりも、こっちの方がいい。
そんなわけだから、そんなに酷評するほどの仕上がりじゃないよ。
そりゃ面白くない映画ではあるけれど、むしろ駄作としてのインパクトは全く与えず、何の記憶にも残らないまま消費されていくような 凡作だと思うよ。

(観賞日:2012年2月29日)


第29回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[ジェシカ・アルバ]
<*『アイズ』『愛の伝道師 ラブ・グル』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会