『お気にめすまま』:1992、アメリカ

マルホランドに住むオペラ歌手のジョーン・スプルーアンスは、夫である指揮者ルーイと離婚訴訟中。一方、ハリー・ブリスは番犬派遣会社を個人で経営しているが、全く注文が無い。彼にはアデルという妻がいるが、本名ではなく“イオウジマ”と呼ぶぐらい彼女に愛情を感じていない。
ある日、ジョーンが自宅に戻ると、室内が何者かに荒らされていた。その様子を見たメルヴェノス刑事は、恨みによる犯行だろうと言う。同じ頃、ジョーンの元を妹アンディーが訪れる。彼女は付き合っていた大実業家レッド・レイルズについて暴露した本を出版する予定らしい。
アンディーがニューヨークへ行くと言うので、ジョーンはしばらく彼女の豪邸に住まわせてもらうことにした。ところがメイドが息子と共に出掛けてしまった上、アンディーの友人と称する男が夜中に泥酔してやって来たりする。不安を感じたジョーンは、チラシで見たハリーの会社に番犬の派遣を依頼した。
番犬デュークを連れてやってきたハリーは、ジョーンに番犬の扱い方を教える。やがて2人は惹かれ合うようになる。そんな中、レッドがハリーに近付き、税務署や債権者が迫っていることを明かさない代わりに、高額の報酬でアンディーがジョーンに渡した暴露本のコピーを盗むことを要求してくる。
足の手術で入院していたはずのアンディーから、ジョーンに電話が掛かってくる。何者かに病院から連れ出され、監禁されてしまったというのだ。ジョーンはハリーと共にアンディーが入っていた病院に行くが、アンディーの居場所を知るための手掛かりはつかめない。
ある夜、ジョーンは斧を持った男に襲われるが、必死の抵抗で撃退する。テレビを見ていたジョーンとハリーは、アンディーを連れ出したモンロー・パーク医師がパーク・センターにいると知る。2人はセンターのあるサンディマスに向かい、アンディーを連れ出そうとするが…。

監督はボブ・ラフェルソン、脚本はキャロル・イーストマン、製作はブルース・ギルバート&キャロル・イーストマン、製作協力はマイケル・シルヴァーブラット、製作総指揮はヴィットーリオ・チェッキ・ゴーリ、共同製作総指揮はジャンニ・ヌナーリ、撮影はスティーヴン・H・ブラム、編集はウィリアム・ステインカンプ、美術はメル・ボーン、衣装はジュディ・ラスキン、音楽はジョルジュ・ドルリュー。
主演はジャック・ニコルソン&エレン・バーキン、共演はハリー・ディーン・スタントン、ビヴァリー・ダンジェロ、マイケル・マッキーン、ソール・ルビネック、ヴィヴィカ・デイヴィス、ヴェロニカ・カートライト、デヴィッド・クレノン、ジョン・カペロス、ローレン・トム、ポール・マザルスキー、ゲイリー・グラハム、ベティ・カーヴァロ、マーク・J・グッドマン、ロビン・グリア、サンディ・イグノン他。


ジャック・ニコルソン&エレン・バーキンという、大物俳優2人の組み合わせ。ボブ・ラフェルソン監督とジャック・ニコルソンは、『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のコンビ。ここに脚本のキャロル・イーストマンを加えたトリオでは、イーストマンがエイドリアン・ジョイス名義で書いた『ファイブ・イージー・ピーセス』という作品がある。

シェークスピアの同名戯曲とは何の関係も無い、ポンコツ映画だ。ジョーンとハリーの恋愛、ジョーンを狙う影、レッドの動き、それらが見事なぐらい絡み合おうとしない。いきなり恋愛を盛り上げようとしたり、いきなりサスペンスを盛り上げようとしたりする。

コメディーなのかと思ったら、ただ軽薄なだけだった。
いつまで経っても、物語がどの方向に進もうとしているのか、さっぱり分からない。
何を描こうとしているのか、さっぱり分からない。恋愛がメインのはずだが、ハリーとジョーンが惹かれ合っていくような流れはこれっぽっちも無い。

まずジョーンが怖がって番犬を頼む流れがダメ。
家を荒らされた事実と彼女の怖がり方のバランスが悪い。
例えば、ジョーンが誰かから命を狙われるような恨みを買っていること、少なくともジョーンは犯人が誰かを確信していることを示しておけば、このバランスは良くなっただろう。

主要な登場キャラクターの置かれている状況などの説明が、まだ不充分な段階で、ハリーとジョーンを会わせてしまうのも避けるべきだったと思う。
まず序盤でハリーとアデルの関係、ジョーンとルーイの関係、アンディとレッドの関係、ジョーンとテノール歌手エディとの関係などをキッチリ描写しておくべきだった。

ハリー(というかジャック・ニコルソン)の表情や仕草が、ちょっと気持ち悪い。
無骨とかぶっきらぼうという設定なら構わないのだが、そういうイメージではない。
このキャラクターは、ネチネチしたエロオヤジのようにさえ見えてしまう。
底も浅く、とてもジョーンが惚れるような魅力は感じられない。

ハリーにコピーを盗むことを要求する場面で、初めてレッドが登場するのもダメだろう。それ以前にレッドを登場させておくべきだ。
そして、アンディーがどれほど赤裸々にレッドのことを綴っているかということ、そしてレッドが暴露本の出版を止めようと動いていることを示しておくべきだ。

アンディから電話を受けたジョーンとハリーが病院に行くが、そこで話が一旦途切れてしまう。そこから何かヒントを得て話が展開していくべき。
間を開けてしまうのはダメだ。そもそも、妹が監禁されているのにジョーンが呑気にハリーとイチャついているのが不自然だと思うのだが。

エピソードの繋ぎ方も並べ方も、メチャクチャだ。
どうやら監督と脚本家は、焼きそばを作ろうとして麺を炒めていたが、箸を使うつもりが、間違ってナイフを使って炒めてしまったらしい。
そのため、長く繋がっているはずの麺は、ブチブチと切れてしまっているわけだ。


第13回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:主演男優賞[ジャック・ニコルソン]
<*『お気にめすまま』『ホッファ』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会