『エンド・オブ・キングダム』:2016、アメリカ&イギリス&ブルガリア

武器商人のアーミル・バルカウィは世界各地でテロを扇動し、多数の死傷者を生んでいた。彼は娘の結婚式に参列するため、パキスタンのパンジャブ地方へ来ていた。息子のカムラン、ラザ、スルタン、アマルも集まった。カムランは父に、パキスタン情報局のラフマン少尉は信用できないので始末したことを報告した。式場に潜入していたMI-6の工作員は、ネバダ州のクリーチ空軍基地に連絡を入れた。その場所にバルカウィがいることを確認した米軍は、空爆を実行した。
2年後、アメリカ。マイク・バニングはベンジャミン・アッシャー大統領の特別警護を担当し、親友のように付き合っている。妻のリアは出産を2週間後に控えており、マイクは退職願を作成した。英国のウィルソン首相が就寝中に死去し、アッシャーの元にも連絡が届いた。英国内閣府は統合安全委員会を開き、ロンドン警視庁のケビン・ハザード総監や内務大臣のローズ・ケンター、後任首相のレイトン・クラークソン、MI-5長官のジョン・ランカスターらが集まって国葬の日時を決定した。
アッシャーは国葬への参列を決めるが、シークレット・サービス長官のリン・ジェイコブスは危険だと考えて考え直すよう求める。マイクが「英国側は手一杯です。大混乱に陥る可能性があります」と意見を言うと、アッシャーは対処を要請した。マイクとリンはアッシャーに同行し、政府専用機でロンドンへ向かう。葬儀の朝、英国では特殊作戦本部が設置された。ハザードが指令室へ赴き、部下たちに全力で警備に臨むよう指示した。
マイクたちはスタンステッド空港へ到着し、ランカスターの出迎えを受けた。彼らはヘリコプターに搭乗し、サマセットハウスへ向かう。そこからマイクたちは車に乗り換え、装甲車の警備を受けながらフリート街を通ってセント・ポール大聖堂を目指す。同じ頃、ドイツのブルックナー首相はバッキンガム宮殿で近衛兵の隊列を見物していた。カナダのボウマン首相は妻と共に車で移動し、日本のナクシマ首相は橋で渋滞に巻き込まれていた。イタリアのアントニオ・グスト首相は妻とウェストミンスター寺院を見物し、フランスのジャック・メイナード大統領は停泊中の船に乗っていた。
警官に化けた男がボウマン夫妻の車に爆弾を仕掛け、2人を殺害した。近衛兵に化けていた連中が銃を構え、ブルックナーを射殺した。橋と寺院と船は爆破され、ナクシマとグストとメイナードが命を落とした。大聖堂では警官や救急隊員に化けていた連中が銃を構え、攻撃を仕掛けた。マイクはアッシャーを守りながら応戦し、SSのヴォイトに連絡を取る。ヴォイトは車で現場に急行し、マイクたちを乗せる。マイクたちは逃走するが、すぐに敵の車やバイクが追って来た。ヴォイトが死亡したため、マイクが運転を交代した。彼は敵を蹴散らし、アッシャーとリンを伴ってヘリコプターに乗り込んだ。
イエメンのサナアに潜んでいるバルカウィは、ウィルソンとアッシャーを除く5人の首脳が死んだことをニュースで確認する。予想以上の成果を知った彼は、スルタンに連絡して「作戦Bへ移れ」と命じた。スルタンと部下たちは、ロンドン中心部を停電に陥れた。大規模テロの発生を受け、ホワイトハウスではトランブル副大統領やクレッグ将軍、メイソン次席補佐官、マクミラン国防長官、モンロー国家安全保障局副長官らが対応に追われた。しかし民間も軍も通信機能がダウンし、衛星からの情報も無かった。
トランブルたちがドローンからの映像を見ていると衛星の情報が復旧し、アッシャーの無事が判明した。トランブルはシチリアに即応部隊がいることを知り、すぐに向かわせるよう命じた。マイクたちはヘリで専用機へ向かうが、ビルの屋上からスティンガーの砲撃を受ける。ヘリは墜落し、リンが命を落とした。バルカウィはネットに映像を流し、西欧諸国に対して「お前たちは遥か彼方の地から貧乏人を兵士にして敵地で爆死させ、上空から遠隔操作で我々の家族を殺す。お前たちの時代は終わった。我々が戦争を起こす」と通告した。
バルカウィはトランブルに電話を掛け、逆探知が不可能なことを告げてからアッシャーの引き渡しを要求した。トランブルが拒否すると、彼は「では今後の死は、全てお前の責任だ」と述べて電話を切った。トランブルはバルカウィがロンドンにあるダミー会社を通じて武器を売っていると確信し、関連を探るよう命じた。マイクは警官に化けたテロリストを始末し、武器を奪った。アッシャーは大使館へ向かうべきだと考えるが、マイクは敵が先回りしていると睨み、MI-6の知人がいる隠れ家へ行くことを決めた。
マイクは衛星がアッシャーを追跡していると知っており、左手を使ってトランブルたちに合図を送った。彼は地下鉄の構内へ入り、待ち受けていた敵を次々に殺害する。マイクはラザを襲撃し、カムランからの無線連絡に出た。彼が「荷物をまとめて国へ帰れ」と言い放つと、カムランは「大統領は時間を掛けて殺す。全世界に映像をライブで流す」と告げる。マイクはラザを殺害し、その断末魔を聴かせてから無線を切った。
トランブルたちはマイクの合図に気付き、MI-6の関連施設を捜索するよう指示する。そこへハザードから連絡が入り、ウィルソンが毒殺だったことをトランブルたちは知らされる。すぐにトランブルは、国葬で西欧諸国の首脳を集めるための罠だっことを悟った。ハザードは「警官を引き上げさせ、残った者がテロリストだ」と言い、誰も外へ出ないよう空襲警報を鳴らす。マイクはMI-6のジャクリーンがいる隠れ家へ赴き、傍受したトランブルの極秘通信を聴かされる。トランブルがデルタを派遣して救出すると説明していたので、アッシャーは安堵の表情を浮かべた。
事件の黒幕がバルカウィだと知ったアッシャーは、2年前にG8の許可を得てドローン攻撃を実行したこと、バルカウィの娘が死んだことをマイクに明かした。マイクは内部に協力者がいると確信しており、ジャクリーンも同調した。そこへ部隊が到着したという知らせが入るが、マイクは到着が早すぎることに疑問を抱く。モニターの映像を確認した彼は、デルタに化けた敵だと見抜いた。彼はジャクリーンに内部協力者を調べるよう指示し、隠れ家へ突入して来た一味を全滅させた。他に手が無いと考えたマイクは、アッシャーに車を運転させてアメリカ大使館へ向かう…。

監督はババク・ナジャフィー、キャラクター創作はクレイトン・ローゼンバーガー&カトリン・ベネディクト、原案はクレイトン・ローゼンバーガー&カトリン・ベネディクト、脚本はクレイトン・ローゼンバーガー&カトリン・ベネディクト&クリスチャン・グーデガスト&チャド・セント・ジョン、製作はジェラルド・バトラー&アラン・シーゲル&マーク・ギル&ジョン・トンプソン&マット・オトゥール&レス・ウェルドン、共同製作はピーター・ヘスロップ&ダニエル・ロビンソン、製作総指揮はアヴィ・ラーナー&トレヴァー・ショート&ボアズ・デヴィッドソン&クリスティーン・オータル・クロウ&ハイジ・ジョー・マーケル&ジギー・カマサ&ガイ・アヴシャロム、製作協力はダニエル・カスロー、共同製作総指揮はロニー・ラマティー、撮影はエド・ワイルド、美術はジョエル・コリンズ、編集はポール・マーティン・スミス&マイケル・ドゥーシー、衣装はステファニー・コーリー、シニア視覚効果監修はショーン・ファロー、音楽はトレヴァー・モリス、音楽監修はセレーナ・アリザノヴィッチ。
出演はジェラルド・バトラー、アーロン・エッカート、モーガン・フリーマン、アロン・モニ・アブトゥブール、アンジェラ・バセット、ロバート・フォスター、ジャッキー・アール・ヘイリー、メリッサ・レオ、ラダ・ミッチェル、ショーン・オブライアン、ワリード・ズエイター、シャーロット・ライリー、コリン・サーモン、ブライアン・ラーキン、パトリック・ケネディー、アデル・ベンチェリフ、マハディー・ザハビ、マイケル・ワイルドマン、ペニー・ダウニー、ガイ・ウィリアムズ、ナンシー・ボールドウィン、ナイジェル・ウィットミー、アレックス・ジャンニーニ、フィリップ・デランシー、ツワユキ・サオトメ、アンドリュー・プレヴィン他。


2013年の映画『エンド・オブ・ホワイトハウス』の続編。
監督のババク・ナジャフィーは長編デビュー作の『セッベ』でベルリン国際映画祭の初監督作品賞やゴールデン・ビートル賞の作品賞を受賞した人物。これが長編3作目で、初のハリウッド映画。
脚本は前作からの続投となるクレイトン・ローゼンバーガー&カトリン・ベネディクト、『ブルドッグ』のクリスチャン・グーデガスト、これが初長編のチャド・セント・ジョンによる共同。
マイク役のジェラルド・バトラー、ベンジャミン役のアーロン・エッカート、アラン役のモーガン・フリーマン、リン役のアンジェラ・バセット、エドワード役のロバート・フォスター、ルース役のメリッサ・レオ、リア役のラダ・ミッチェル、レイ役のショーン・オブライアンは、前作からの続投。他に、バルカウィをアロン・モニ・アブトゥブール、メイソンをジャッキー・アール・ヘイリー、カムランをワリード・ズエイター、ジャクリーンをシャーロット・ライリーが演じている。

オープニングではフィリピンのホテルが爆破テロを受けて大勢の死傷者が出たこと、黒幕がバルカウィだと特定されたことがキャスターの声によって説明される。
だが、その犯人であるバルカウィはテロリストではなく、武器商人という設定だ。
「テロを扇動することで世界規模における武器販売の増加を狙っている」ってことらしいんだけど、だったらテロリストに武器を売ればいいだけだ。
なんで自らテロを扇動しているのかと。そこを武器商人の設定にしている意味が良く分からん。普通にテロリストで良かったんじゃないかと。

バルカウィはカムランから「パキスタン情報局のラフマン少尉は信用できないので始末した」と聞かされると、「彼には家族がいる。復讐は執拗で絶対的な力を持つ」と口にする。その後の空爆でバルカウィは娘を失い、復讐を開始するので、そこに繋げるセリフになっている。
ただ、そもそもバルカウィは私欲のためにテロを扇動し、大勢の人間を殺しているわけで。
なので「娘を殺された復讐」という動機を用意したところで、何の同情心にも繋がらない。別の目的だったとしても、まるで支障が無い。
むしろ、「家族を失った怒り」という理由を用意しておきながら、これがドラマして全く機能しないので、「だったら邪魔だわ」と感じる。

2年後に移ると、リアが出産を控えている様子や、マイクが退職願を作成する様子が描かれる。
だが、これがストーリー展開に何の影響も与えない。
最終的にマイクは特別警護の仕事を続けることを決めるのだが、そんなのは最初から分かり切っている。そこへ向けたドラマが必要なはずだ。
しかし、「退職をアッシャーに言い出せずに悩む」とか、「仕事と家族の狭間で揺れ動く」といった様子は微塵も見られない。
そもそも、ロンドンへ渡った直後にテロが勃発し、そこからはアクションの連続なので、悩んでいる暇など無いのだ。

1作目の『エンド・オブ・ホワイトハウス』では、ホワイトハウスがテロリストの標的になっていた。国籍不明の貨物機がヴァージニア州に入るまで米国政府や軍は全く気付かず、戦闘機を差し向けても簡単に撃墜された。防護柵は自爆テロで簡単に破られ、観光客に化けたテロリスト一味によってホワイトハウスは簡単に陥落した。
色々と無理があって荒唐無稽な内容だったが、ただし「ホワイトハウスが易々と不審者に侵入される」という部分など、ある程度は「有り得るかも」と思わせる状態も残っていた。
しかし今回は、そういう「ある程度」が全く存在しない。何かに何まで、リアリティーを完全に放棄している。
英国政府は首相の国葬に向けて、厳重な警備体制を敷いたはずだ。しかし、易々とテロリストに攻撃され、立て続けに5人の首脳を殺害されている。近衛兵にも警官にも救急隊員にも大勢のテロリストが紛れ込んでいるのに、全く気付かない。橋も寺院も船も簡単に爆破され、ロンドン中心部は停電にされる。民間だけでなく、軍の通信機能までダウンさせられる。
英国の警備体制は、ザル中のザルなのである。

完全ネタバレになるが、内部にいる協力者はMI-5長官のジョン・ランカスターだ。
下っ端の局員ならともかく、情報機関のトップにいる人間が大金を受け取って大規模なテロ計画に協力するって、なんちゅう設定だよ。
そもそも、どうやってバルカウィ側はMI-5の長官と接触したんだよ。そんなに簡単に接触して協力を持ち掛けることが出来るぐらい、MI-5ってのは腐敗しまくった組織なのか。
これまで政府機関や情報機関が腐敗していることを描いた映画は多く作られているけど、ここまでボンクラ度数が高いのは珍しい。

マイク・バニングは乗っているヘリコプターが撃墜されても傷一つ負わずピンピンしているし、どれだけ大勢の敵がいても全く苦戦せず易々と退治する。スティーヴン・セガールもビックリの無敵っぷりである。
セガールは「誰かと戦う時に圧倒的な強さを見せ付ける」というだけだが、マイク・バニングは普通なら死ぬような状況に追い込まれても全くダメージを受けない異常な頑丈さも兼ね備えている。
でも、それは前作で既に分かっていることなので、「相変わらずだね」と感じるだけだ。
シリーズ2作目に入って、急にパワーバランスを調整してマイクが苦戦したり深手を負ったりしたら、それはそれで違和感が生じるからね。

このシリーズはマイク・バニングの無双っぷりを堪能するべき作品であり、登場する敵は言ってみりゃ『13日の金曜日』シリーズでクリスタル・レイクへ遊びに来る若者たちみたいなモンだ。
つまり、「殺されるために出て来る連中」ってことである。
前作の批評で『96時間』の影響を指摘したが、ラザを殺したマイクがアッシャーから「殺す必要があったか?」と問われて「いや」と冷徹に返答する容赦の無さなんかは、もう明らかに『96時間』だよな。

マイクはラザの断末魔をカムランに聴かせるという、まるで必要性の無い行動を取っている。そんなことをしたら相手の怒りに火を付けるだけであり、普通に考えれば愚かしい挑発行為だ。
しかしマイクは何をやったところで絶対に敵を倒せる無敵の男なので、そんなことをやらかしても構わないのだ。
ただし、それだと全くピンチが訪れず、観客にハラハラドキドキを与えることが難しくなる。
そこで後半に入ると、アッシャーが連れ去られる展開を用意する。マイクは無敵でも、アッシャーは違うからだ。

しかしアッシャーが拉致される展開へ持ち込むために、マイクがボンクラすぎる行動を取る羽目に陥っている。
彼は「大使館は敵が先回りしているから危険だ」と確信し、ジャクリーンの元へアッシャーを連れて行ったのだ。ところが、乗り込んで来た敵を倒した後、「他に手は無い」ってことで、マイクに運転させて大使館へ向かう。
でも敵が待ち受けているので、やっぱり襲撃され、そしてアッシャーを連れ去られてしまう。
だけど隠れ家に来た敵は全滅させたんだから、そこで救援部隊を待っていれば良かったでしょ。

アッシャーが連れ去られて公開処刑されそうになるんだから、それは「ハラハラさせられる緊迫の展開」と言えるはずだ。
でも前作を見て、この続編もそこまでの展開を見ていれば、「マイクが駆け付けて敵を倒し、アッシャーを救う」ってことは余裕で分かるだろう。っていうか、そんな条件を付けなくても、そういう展開になることは確定事項と言っていい。
おまけに、実はアッシャーもマイクに負けないぐらいの無敵っぷりなのだ。
何しろ、ヘリが墜落した時も、拉致され建物が大爆発を起こした時も、彼は軽い傷だけで済んでいる。
なので、下手すりゃ首を切られても生き延びていたかもしれんぞ。

バルカウィはネットに流した動画で「お前たちは遥か彼方の地から貧乏人を兵士にして敵地で爆死させ、上空から遠隔操作で我々の家族を殺す」と西欧諸国のやり方を糾弾しているが、この映画に政治的なテーマなど無い。
彼の台詞を使って問題提起しているように思えるかもしれないが、それは「とりあえず、それらしいことを言わせてみただけ」に過ぎない。
だからマイクは敵の思想や主張など完全に無視し、容赦なく殺しまくる。
そして最後にトランブルは、ドローン爆撃でバルカウィを始末する。
ある意味、潔い映画だね。

(観賞日:2017年6月14日)


第37回ゴールデン・ラズベリー賞(2016年)

ノミネート:最低主演男優賞[ジェラルド・バトラー]
<*『キング・オブ・エジプト』『エンド・オブ・キングダム』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会