『ケイト・レディが完璧(パーフェクト)な理由(ワケ)』:2011、アメリカ

ケイト・レディについて、親友のアリソンは「ダントツの切れ者で、心は天使。ワーキング・マザーは一度に皿を50枚回す芸をやってる ようなもの。でもケイトはプラス10枚、マンホール・サイズの皿を回せと言われても余裕。ホントに凄いの一言」と感心している。そんな ケイトにとって、お手上げ状態とも言える期間があった。それは去年の冬の3ヶ月間で、きっかけは幼稚園のバザーだった。
昨年の10月、出張からボストンへ戻ったケイトは、幼稚園からのメールでバザーのことを思い出した。彼女は6歳の娘エミリーに、提出 するお菓子は手作りだと約束していた。慌てて材料を買いに行くが売り切れだったため、ケイトは既製品を手作りに見せ掛けようと決める 。娘には他の園児と同様、母親を自慢に思ってほしいのだ。そんなケイトにとって、シングルマザーのアリソンは強い味方だ。彼女は ケイトより酷い物をバザーに持って来た。
園児の母親の中には、ケイトが「ザ・モンスターズ」と呼んでいる2人組がいる。ウェンディーは保護者会の副会長で、支配力のあるボス のような存在だ。ジャニーヌはエクササイズのオタクで、体をバリバリに鍛えている。ケイトは2人を煙たがっているが、向こうも彼女を 嫌っているので、お互い様だ。幼稚園の用事を済ませたケイトは、ファンドマネージャーとして勤務してい大手投資会社のボストン支社へ 急ぐが、予想通りに遅刻してしまう。支社長のクラークと遭遇したケイトは、「乳癌検査を受けていたので」と嘘をついた。
ケイトの部下であるモモは、ハーバード大を主席で卒業し、MBAを取得している優秀なリサーチ・アナリストだ。子供嫌いで仕事にしか 感心の無いモモからすると、会社でも子供のことを気にしているケイトは変わり者だ。ケイトは新しい投資ファンドに関する提案書を ニューヨーク本社に提出しているが、採用に関しては期待していなかった。ケイトをライバル視する同僚のクリスも、提案書を提出して いる。彼は家庭を大事にするケイトと違って、クライアントへの接待を積極的にやっている。
会議に出席したケイトは、提案書がニューヨーク本社の責任者であるジャック・アベルハンマーに選ばれたことをクラークから告げられる 。オーナーのハーコートまで持って行くかどうかを決めるため、ケイトは翌日の朝9時にニューヨーク本社で彼と会うことになった。明朝 、ケイトはモモを同行させ、本社へ赴いた。アリソンからの電話を受けたケイトは、彼女宛てのメールを間違えてジャックに送ったことに 気付いた。そこへジャックが来たので、ケイトはメールについて慌てて取り繕った。
ケイトの携帯に、幼稚園から「エミリーにシラミ発生、家族は頭髪ケアを」という注意喚起のメールが入った。個人投資家の年金ファンド に関する提案についてジャックに説明している間も、ケイトは頭が痒くて仕方が無かった。何とか説明を終えて本社を出たところへ、 リチャードから大きな契約が決まったという電話が掛かって来た。ケイトは喜び、「帰ったらお祝いよ」と告げた。ボストンへ戻った彼女 は、すぐに頭髪のケアへと向かった。
翌日、ケイトはジャックから、ハーコートに提案を持って行くことを告げられる。「年末までに事業化するかどうかを決めたい。出張は 多いし、仕事漬けになる。乗り切れるかい」と問い掛けられたケイトは、「任せて下さい」と返答した。エミリーの誕生パーティーで 園児たちを迎えるというタイミングで、ケイトはリチャードに「大きな仕事が決まって、これから2ヶ月ほどは出張続きで忙しくなる」と 打ち明けた。心配する夫を、ケイトは「必ず乗り切れるわ。ベストを尽くすから」と説得した。
それからのケイトは、1週間の内、2日か3日はニューヨークでジャックと仕事をするようになった。忙しさは日を追うごとに増すが、 それでもケイトは子供の世話を怠らなかったし、深い愛情を注いだ。夫と一緒に過ごす時間も作った。ある朝、ケイトはリチャードに 「今日はベビーシッターのポーラが5時までしかいられないの」と告げる。リチャードが「4時からミーティングだし、夜は食事の予定が 入ってる」と言うと、ケイトは「じゃあ私がエミリーを迎えに行くわ」と約束した。
その夜、会議に出席したケイトは、エミリーを迎えに行く予定をすっかり忘れていた。思い出した彼女は慌ててリチャードに電話を入れて 謝り、「今から戻るから」と告げる。彼女が帰宅すると、老婆が椅子で眠りこけていた。エミリーに訊くと、リチャードは食事に出掛けた という。戻って来た彼は、ウェンディーに電話を掛けて「ベビーシッターに来てもらえないか」と頼んだことを語る。「初めてのシッター と子供たちだけにしたの」とケイトが非難めいた口調で言うと、彼は「君がいないから、シッターに頼んだ」と反論した。
翌朝、ケイトはクライアント候補のブローカーに会うため、ジャックと共にクリーブランドへ出張する。仕事を終えたジャックは、ケイト をボーリング場へ連れて行く。ケイトはチームに加わってボーリングを楽しみ、それからホテルへ戻った。出張から帰宅したケイトは、 リチャードに「感謝祭には貴方の実家に行きましょう。シッターを頼んで、映画に行きましょう。楽しい旅行になるわ」と告げた。出社 した彼女は、モモに「月曜まで5日間は出勤しない。感謝祭だもの。家族と一緒にいたいしね」と言う。
ケイトは家族と共に、リチャードの実家へ赴いた。彼女はリチャード、エミリー、2歳の息子ベン、リチャードの母マーラ、父ルーの6人 で、楽しい時間を過ごした。そんな中、彼女はジャックからの電話で「ハーコートの予定が変更されて、プレゼンが明日になった」と 聞かされる。ケイトはニューヨークへ赴き、プレゼンを行う。妊娠中のモモがミスを犯したものの、プレゼンは大成功に終わる…。

監督はダグラス・マクグラス、原作はアリソン・ピアソン、脚本はアライン・ブロッシュ・マッケンナ、製作はドナ・ジグリオッティー、 共同製作はアリソン・ピアソン、共同製作&追加編集はマシュー・ランドン、製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ ワインスタイン&ケリー・カーマイケル&アライン・ブロッシュ・マッケンナ&スコット・ファーガソン&ベン・シルヴァーマン、撮影は スチュアート・ドライバーグ、編集はカミーラ・トニオロ&ケヴィン・テント、美術はサント・ロカスト、衣装はレネー・アーリック・ カルファス、音楽はアーロン・ジグマン、音楽監修はデイナ・サノ。
出演はサラ・ジェシカ・パーカー、ピアース・ブロスナン、グレッグ・キニア、クリスティーナ・ヘンドリックス、ケルシー・グラマー、 セス・マイヤーズ、オリヴィア・マン、ジェーン・カーティン、マーク・ブラム、ビジー・フィリップス、サラ・シャヒ、ジェシカ・ゾー 、エマ・レイン・ライル、ジュリアス・ゴールドバーグ、セオドア・ゴールドバーグ、ジェームズ・マータフ、ミカ・ブレジンスキー、 ユージニア・ヤン、ジョセフ・アマト、ミシェル・ハースト、ベス・ファウラー、マイケル・ホーガン他。


ウェールズ出身のジャーナリスト、アリソン・ピアソンのデビュー小説『ケイト・レディは負け犬じゃない』を基にした作品。
監督は『Emma エマ』のダグラス・マクグラス、脚本は『プラダを着た悪魔』『幸せになるための27のドレス』のアライン・ブロッシュ・ マッケンナ。
ケイトをサラ・ジェシカ・パーカー、ジャックをピアース・ブロスナン、リチャードをグレッグ・キニア、アリソンを クリスティーナ・ヘンドリックス、クラークをケルシー・グラマー、クリスをセス・マイヤーズ、モモをオリヴィア・マン、マーラを ジェーン・カーティン、ルーをマーク・ブラム、ウェンディーをビジー・フィリップスが演じている。

まず邦題を見た段階で、ツッコミを入れたくなってしまった。 『ケイト・レディが完璧な理由』と書いて「ケイト・レディがパーフェクトなワケ」と読ませるって、めんどくせえよ。
そのまんま「かんぺきなりゆう」じゃダメなのか。そんなに訴求力の上で大きな違いが出るようにも思えないんだけど。
で、原作本と同じ邦題にすりゃ良かったんじゃないかと思ったけど、実際に映画を見たら、その考えは完全に打ち消された。
だってさ、結婚して子供もいて、バリバリのキャリアウーマンで、そんな女について「負け犬じゃない」とか言われても、「そりゃ誰が 見たって負け犬じゃないよ」とツッコミたくなるもんな。
原作本の邦題、おかしくないか。
それで小説の内容と合致しているとすれば、映画版は大幅に改変されているってことだな。

「家事も育児も仕事も全て上手くこなしている女性が、実はこんなに大変なんです、裏ではこんなことをやっているんです」というのを 描こうという映画である。
しかし、「全てを持っているように見えるけど大間違い」とか、「完璧に見えるけど手抜きだらけ」とか、そういう形で喜劇を作ろうと しているわけではない。ヒロインが全てをこなしているのは虚構でも何でもなく、「こうやって家庭と仕事を両立しています」という奮闘 ぶりを見せるのだ。
だから、同じように仕事と家庭を両立しているキャリアウーマンだったり、そんな女性に憧れを抱く人だったり、ともかくF1層とF2層 は、ヒロインに共感を抱きやすいのかもしれない。
でもねえ、「他のママたちが手作りお菓子を用意するだろうし、娘にも母親を自慢に思ってほしい」ってことで既製品のお菓子を手作りに 見せ掛けるよう細工をするとか、ただの見栄っ張りとしか思えないんだよな。
「娘に恥ずかしい思いをさせたくないから」ってのは建て前で、ホントは自分が優れていると思われたいからじゃないのかと。

原作がどうなのかは知らないが、映画としては構成で失敗している。
最初にアリソンがケイトの素晴らしさを語るインタビュー映像が入るが、そこに具体的なエピソードは付随していない。
で、次に昨年10月の出来事が描かれるが、ケイトが出張から戻ったことは分かるものの、どういう仕事をしているのかは分からない。
リチャードの職業や、独立したばかりってことも分からない。
エミリーという幼稚園児の娘がいることは分かるが、そのエミリーは出て来ないし、2歳のベンについては触れられてもいない。
それと、そこで描かれるエピソードは、既製品のパイを手作りに見せ掛けるとか、夫からセックスに誘われるが眠ってしまうとか、 「ケイトが妻や母として完璧にこなしていない」という出来事だ。

そうではなく、まず最初にヒロインのキャラと取り巻く環境を示して、妻&母&キャリアウーマンの3つを全て上手くこなしている様子 から入るべきだろう。
つまり、仕事をしている様子、家で夫のために何かしている様子、子供たちの世話をしている様子、そして周囲の人々から「ちゃんと全て こなしているなんて凄い」と褒められたり、「どうやって全てをこなしているのか」と不思議に思われたりしている様子を示して、その 後に「実は既製品のパイを手作りに見せ掛けることもある」とか、「セックスに誘われたのに寝てしまうこともある」とか、そういう 「完璧じゃない部分」を見せるべきじゃないかと。
で、完璧じゃない部分を、どうやって取り繕ったり誤魔化したりするかという裏ワザを見せるべき。
最初から「まるで完璧じゃない」ってのを見せるのは、やり方として失敗だと思うぞ。

この映画の描写を見る限り、ケイトは全てを完璧にこなしているわけじゃなくて、提案書がジャックに採用される前から、「仕事を優先 して家庭は2番目」としか見えないんだよね。
全く両立できていないわけじゃないけど、「キャリアウーマンとしては100点の仕事をしているかもしれんが、妻や母親としては、赤点 じゃないけど、それほど褒められた点数でもない」という感じに見えるんだよな。
これが例えば「シングルマザーだから自分が稼がないと生活できない」という事情があって、だから両立せざるを得ない、という状況なら 、それでも共感しやすいけど、彼女の場合、そうではない。仕事を辞めろとはいわないが、「この時期は少し仕事をセーブしてほしい」と いう夫の希望を受け入れず、「夫と同じように自分もビッグチャンスを待っていて、それが来たから逃したくない」ということで、仕事を 優先しているんだよね。
それは、エゴに見えるんだけど。
「女だから夫を優先しろ」ってことじゃないよ。そういう女性差別的な考えで言っているわけじゃなくてさ、仮に主人公が男だったと しても、やはり同じような感想を抱いただろう。そんなにビジネスまっしぐらでも、ちゃんと両立できていれば一向に構わんが、出来て ないわけだから。

提案書がジャックに評価されて以降、ケイトの忙しさは増すのだが、まるで同情心は沸かない。
だって、懸念を示す夫を説得して、自分で選んだ道なんだからさ。無理がたたってミスをやらかしても、それは全て本人の招いたこと でしょ。
っていうか、そもそも「仕事が忙しくなって、少しずつ無理が生じて、それでも何とか頑張るけど色んなとこでボロが出て、そのせいで夫 や子どもたちとの関係がギクシャクして」というような描写って、そんなに無いんだよね。
大きな仕事が入ってからの経緯ってのは重要な部分のはずなのに、そこに入ってからの描写が、とても薄っぺらいのだ。
そこまでの描写が厚みがあったわけでもないけど、さらに薄くなっている。たたでさえ薄いのに、ジャックとの関係に重点を置いたせいで 、ますます薄くなっている。

ケイトはリチャードが初めてのベビーシッターと子供たちだけにしたことで彼と言い合いになるが、そこから夫婦関係が悪くなっていく ようなことはない。すぐに元通りだ。
急なプレゼンが入っても、それで不和になることもない。子供たちとの関係は全く変化が無いし。
残り20分ほどになって(エンドロールを除くと残り15分ぐらい)、ベンが怪我をしたのにケイトの携帯が繋がらなかったことで、ようやく 夫婦関係にヒビが入る。
でも、「そこまでの蓄積があって、リチャードの堪忍袋の緒が切れた」という印象は薄い。
で、もう残り時間が少ないので、ヒビが入ったと思ったら、すぐに修復されるし。

スーパーインポーズまで付けて紹介されたウェンディーとジャニーヌは登場シーン以降は全く物語に関与してこないし、クリスもたまに 出て来て皮肉っぽい態度を取る程度。アリソンにしても、インタビュー映像では何度も登場するが、物語にはほとんど絡んで来ない。脇役 の面々が、まるで有効活用されていない。
そもそもリチャードや子供たちの存在感さえ薄いし。
肝心のヒロインも、ちっとも魅力的に感じない。やたらと「頑張ってます」ってなアピールが鼻に付くし。
彼女のモノローグが多く入るけど、それも疎ましいだけだし。
何度も挿入される周囲の人々のインタビュー映像も、気が散って煩わしい。

(観賞日:2013年4月12日)


第32回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[サラ・ジェシカ・パーカー]
<*『ケイト・レディが完璧(パーフェクト)な理由(ワケ)』『ニューイヤーズ・イブ』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会