『カンガルー・ジャック』:2003、アメリカ&オーストラリア

20年前のブルックリン。戦没将兵追悼記念日チャーリー・カーボーン少年の身に、3つの重大事件が降り掛かった。1つ目は、シングルマザーだった母のアンナがギャングのサル・マッジオと出会って恋に落ちたこと。少年院を出たばかりのフランキー・ロンバルドが、サルに同行していた。2つ目は、ルイス・ブッカー少年と出会ったこと。ルイスは金属探知機を使い、ビーチで小銭を探していた。3つ目が最も重大な事件。フランキーの投げたラグビーボールを拾おうとしたチャーリーが海で溺れ、ルイスに助けられたことだ。
現在。チャーリーは美容院を経営しているが、開店資金を出したサルに上納金として利益の8割を持って行かれている。アンナと結婚したサルは、今やブルックリンの顔役となっていた。ルイスはチャーリーの親友になっているが、同時に疫病神でもあり、頻繁に頼み事を持ち掛けて来る。。ある日、チャーリーはルイスから、テレビを運ぶ仕事の相棒が下痢で来られなくなったので手伝ってほしいと頼まれる。怪しい仕事だと感じるチャーリーに、ルイスは「今回はマトモだ。2時間でいいんだ」と必死に訴える。
多忙を理由に断ろうとするチャーリーだが、ルイスに20年前の恩を持ち出され、仕方なく手伝うことにした。しかしルイスの使った車が盗難車だったため、パトカーに追い掛けられる。停止を求められたルイスはスピードを上げ、警察の道路封鎖を強引に突破する。ルイスがトラックを停めたのがサルの組織の盗品倉庫だったため、チャーリーは動揺する。そこへ警察のヘリが飛来したため、待っていたサルの手下のトミーは慌てて逃亡を図る。しかし警官隊に包囲され、倉庫にいた連中は逮捕された。
何とか逃げ出すことに成功したチャーリーとルイスだが、サルの手下たちに捕まった。サルは屋敷に連行されてきた2人に対し、「もう一度だけチャンスをやる」と告げる。フランキーはチャーリーとルイスに対し、明日の正午までにオーストラリアにいるミスター・スミスの元へ封筒を届ける仕事を説明した。スミスはシドニーから車で北上したクーバー・ピーディーという場所にいるという。「絶対に封筒は開けるな」とフランキーは厳しく釘を刺した。
飛行機でオースラリアへ向かう途中、ルイスは勝手に封筒を開ける。5万ドルが入っているのを知ったルイスは、トイレに入っているチャーリーにそのことを知らせた。現金持ち込みは1万ドルまでと決まっているので、シドニーの空港に降り立ったチャーリーは「発見されたら大変だ。目立つ行動を取るな」とルイスに忠告する。しかしルイスは全く聞く耳を貸さず、目立つ行動を平気で取った。しかしルイスがすんなりと通過したのに、チャーリーが奥の部屋へ連行されて身体検査を受ける羽目になった。
チャーリーとルイスは車でクーバー・ピーディーへ向かう途中、カンガルーをはねてしまった。チャーリーは車を停め、カンガルーの亡骸を埋めてやろうとする。しかしルイスは「気にするな」と言い、さっさと目的地へ向かうべきだと主張した。せめて脇に寄せてやろうとしてチャーリーがカンガルーを抱き上げると、ルイスは写真を撮り始める。ルイスが「ギャングのジャッキー・レッグスに似てるぞ」とカンガルーにサングラスを掛けると、チャーリーも同調してノリノリになった。
ルイスは自分が「幸運のジャケット」と呼んで大切にしている上着をカンガルーに着せ、記念写真を撮影する。だが、死んでいなかったカンガルーが目を覚まし、チャーリーに蹴りを食らわせて逃亡する。大笑いしたルイスだが、ジャケットのポケットに5万ドルを入れていたことを思い出す。チャーリーとルイスは慌てて車に飛び乗り、カンガルーを追い掛ける。しかしカンガルーに逃げられた上、岩壁に激突して車が壊れてしまった。
車を捨てて歩き出したチャーリーとルイスは、アリス・スプリングスに辿り着いた。2人は休憩するために酒場へ立ち寄り、ルイスは到着の遅れをスミスに知らせることにした。ルイスが電話を掛けに行っている間に、チャーリーはブルーという老人に話し掛けられた。ルイスからの電話を受けたスミスは2人が予定時刻に来ていないことを激怒しており、早くブツを届けるよう要求した。電話番号が表示されたため、スミスは2人が『オールド・アリス・イン』という店にいることを知った。
ルイスは野生動物財団で働くジェシーと出会い、「死んだはずのカンガルーが金を持ち逃げした。助けてほしい」と持ち掛ける。居場所が分からないことを彼が話すと、ジェシーは「だったら飛行機と麻酔銃が必要よ」と告げる。ジェシーの協力で麻酔銃と操縦士の電話番号をゲットしたルイスは、チャーリーの元へ戻った。ルイスがメモの番号に掛けると、酔っぱらって倒れているブルーの携帯が鳴った。
チャーリーとルイスはブルーに大量のコーヒーと気付け薬を与え、複葉機を飛ばしてもらう。サルはスミスからの電話で、チャーリーとルイスが金を持ち逃げしたと聞かされる。フランキーが「計画に気付いたとか?」と言うと、サルは「奴らにそんな頭は無い」と告げて、オーストラリアへ飛ぶよう指示した。カンガルーのジャックを見つけたルイスは麻酔銃を撃つが、誤ってブルーに的中させてしまった。慌ててチャーリーが操縦桿を握るが、複葉機は不時着した。
複葉機が壊れて無線も故障する中、ルイスはチャーリーに、スミスが激怒していたこと、金を持ち逃げしたと思われていることを明かした。「サルも俺たちが盗んだと思ってる。殺されるぞ」とチャーリーが言うと、ルイスは「スミスより先に金を見つければいい」と口にした。彼は「ジェシーに助けを求めよう」と提案し、チャーリーと共に砂漠を歩き始めた。一方、シドニー空港にフランキーと手下が着くと、案内役のジミーが待っていた。
ブルーは無線を修理し、事務所に連絡を取って仲間のタンジーに救助を要請した。だが、スミスと手下たちが事務所に現れて無線を切り、タンジーを拘束した。チャーリーとルイスはジェシーと遭遇し、助けてもらった。ブルーはスミス一味に脅され、チャーリーとルイスがデビルズ・マーブルズを目指して出発したことを教えた。チャーリーはジェシーに協力を要請するが、「町に戻らないといけないから」と断られる。ビルビーという小動物の繁殖資金を必要としている彼女に、チャーリーは2千ドルの提供を申し入れ、それと引き換えに捜索を手伝ってほしいと持ち掛けた。
チャーリー、ルイス、ジェシーはラクダを使い、砂漠を移動する。ジェシーは2人に、「晴天続きでしょ。大地が乾くとカンガルーは川へ向かう。フィンケ川は遠いから、トッド川に行くはずよ」と語った。フランキーと手下はジミーの案内が頼りにならず、道に迷う。ブルーと遭遇したフランキーは、町まで案内してもらう条件で車に乗せた。ブルーの話で、フランキーたちはチャーリーとルイスが赤い上着を来たカンガルーを探していることを知る。すぐにフランキーは、ブルーを車から放り出した。
トッド川に到着したチャーリー、ルイス、ジェシーは、ジャックを見つけた。ジェシーはチャーリーとルイスに、「慎重に近付かないと逃げられる。変装して、匂いも消さないと」と忠告する。しかしルイスは体を這い上がってくる蟻の群れに我慢できなくなり、大声を上げてしまう。そのせいで、あと少しまで近付いていたジャックに逃げられてしまった。ジェシーは「今日はもう無理よ。ここでキャンプしましょう」と告げた。しかし翌朝、3人はラクダの足跡を追って来たスミス一味に捕まってしまう…。

監督はデヴィッド・マクナリー、原案はスティーヴ・ビング&バリー・オブライエン、脚本はスティーヴ・ビング&スコット・ローゼンバーグ、製作はジェリー・ブラッカイマー、製作総指揮はマイク・ステンソン&チャド・オマン&バリー・ウォルドマン&アンドリュー・メイソン、製作協力はパット・サンドストン&クリスティーアン・リード、撮影はピーター・メンジースJr.、編集はジョン・マーレイ&ウィリアム・ゴールデンバーグ&ジム・メイ、美術はジョージ・リドル、衣装はダニエル・オーランディー&ジョージ・リドル、視覚効果監修はホイト・イェートマン、音楽はトレヴァー・ラビン、音楽監修はキャシー・ネルソン&ボブ・バダミ。
出演はジェリー・オコンネル、アンソニー・アンダーソン、エステラ・ウォーレン、クリストファー・ウォーケン、マイケル・シャノン、ビル・ハンター、マートン・ソーカス、デヴィッド・ングームブジャラ、ダイアン・キャノン、マーク・セリット、ダミアン・フォティウ、クリストファー・ベイカー、ライアン・ギブソン、デニス・ロバーツ、アントニオ・ヴィッテイロ、マリオ・ディ・イノー、トニー・ニコラコプーロス、ロバート・レイド、ショーン・スミス、ブライアン・ケイシー、エマ・ジェーン・ファウラー他。


『コヨーテ・アグリー』のデヴィッド・マクナリーが監督を務めたコメディー映画。
チャーリーをジェリー・オコンネル、ルイスをアンソニー・アンダーソン、ジェシーをエステラ・ウォーレン、サルをクリストファー・ウォーケン、フランキーをマイケル・シャノン、ブルーをビル・ハンター、スミスをマートン・ソーカス、ジミーをデヴィッド・ングームブジャラが演じている。
アンクレジットだが、ジャックの声を担当しているのは『コヨーテ・アグリー』に出演していたアダム・ガルシア。

まず単純な問題として、ルイスというキャラクターがひたすらに不愉快だ。
もちろん「お調子者でテキトーで、金儲けのためなら平気で法を犯す愚か者で、いつもチャーリーに迷惑を掛けてばかりだが反省や後悔はゼロ」というキャラクター造形にしてあることは分かる。それで笑いを作ろうとしていることも分かる。
だけど結果としては、全く笑えないどころか不快感ばかりを喚起することになっているんだから、明らかに失敗と言わざるを得ない。

「真面目な主人公が、お喋りな相棒に振り回されたり翻弄されたりする」というのは、コメディー映画では良く使われるパターンである。
そして、お喋りな相棒がヤバいことを繰り返すとか、テキトーな嘘ばかりつくとか、そういうのも良く使われるパターンだ。
だから、その仕掛け自体がダメというわけではない。使い古されたベタベタなパターンではあるが、コメディー映画の法則を間違えているわけではない。
問題は、キャラクター造形の塩梅を完全に間違えているってことだ。

ルイスのようなポジションのキャラクターを肉付けする時に、どういうバランスでやっていくかっていうのは、どんな作品や役者でも該当するような固定化された数値や割合が具体的に決まっているわけではない。
そこは完全に監督や役者のセンス次第である。
役者が「良く分かっている人」で、自分で気付いて上手く立ち回ることが出来るタイプなら問題は無い(まあ監督が手を加えすぎて台無しにしてしまう危険性はあるが)。
ただしバランスを無視して自分勝手に暴れるタイプであれば、監督がコントロールする必要がある。

残念ながらアンソニー・アンダーソンは「良く分かっていない人」のようだから、デヴィッド・マクナリー監督が操縦する必要があったわけだ。
それに失敗した、もしくは操縦すべきだという事実に気付かなかったということだろう。
「最初は不愉快で傍迷惑で身勝手な奴だったけど、次第に変化していく」というわけでもない。
「傍迷惑な部分もあるけど、根はいい奴」という見せ方でリカバリーする方法もあるが、ルイスの魅力が全く見えて来ないまま映画は終わる。

終盤には「崖から転落しそうになったルイスをチャーリーが助ける」というシーンがあって、それが「幼少時の逆をやる」という仕掛けであることは分かる。
だけど、またチャーリーをルイスか助ける形にしておいた方がいいんじゃないかと。
そうでもしないと、ルイスは一つも長所を見せられていないぞ。
「友達が困っている時、後先考えずに助けの手を差し伸べる優しさは、今でも全く変わっていない」という見せ方でも良かったんじゃないかと。

タイトルが『カンガルー・ジャック』だし、冒頭シーンでは「オーストラリアに住むカンガルーの中でズバ抜けて賢い奴がいた。その名はジャック」というナレーションまで入るぐらいだから、当然のことながら「カンガルーのジャックが大暴れ、もしくは大活躍する話」を予想する人が大多数だろう。
だが、ジャックはジャケットを着て逃げ出し、チャーリー&ルイスとの絡みは少ない。
チャーリーの夢の中で、ジャックが言葉を喋って踊りながらラップまで披露するという描写があるが、実際のジャックは何も喋らない。

チャーリーとルイスがいない場所でジャックが愛嬌を振り撒く描写が少しだけあるが、わざわざ名前まで付けて際立たせるような存在ではない。
冒頭で「ズバ抜けて賢いカンガルー」と紹介されていたが、そんな風に描かれているわけでもない。「たまたまルイスのジャケットを着せられた」というだけに過ぎない。
いっそのこと、夢のシーンみたいに、実際にジャックと仲間のカンガルーたちが言葉を喋ったり踊ったりするようなファンタジー性の強いコメディー映画にしちゃった方が可能性はあったんじゃないかと思うぞ。
もちろん、チャーリー&ルイスとの絡みを大幅に増やしてね。

そもそも、ジャックが2人を翻弄したり困らせたりする役回りなのだから、そのキャラクターを重視するのであれば、ルイスのキャラ造形は邪魔になって来る。
「チャーリーがルイスに振り回され、チャーリーとルイスがジャックに振り回される」という構図は、そりゃあ上手にやれば面白くなるかもしれないが、かなり難しいだろう。だったら、チャーリーとルイスは翻弄される側で徹底させた方がいい。
だからチャーリーとルイスのコンビは、バディー・ムービーにおけるベタなパターンである「対照的な2人」というところだけに留めておけば良かったんじゃないかと。
まあ実際は彼らとジャックの絡みなんてわずかなので、そこを変えても意味が無いけど。

ジャックの出番が少ない分、何を見せていくのかというと、まずは砂漠を歩くチャーリー&ルイスの珍道中。
2人がディンゴの群れに包囲されたり、ルイスが砂嵐に吹き飛ばされたり、チャーリーが蜃気楼を見たり、チャーリーが蜃気楼と間違えてジェシーのパイオツに触れてパンチを食らったりという様子が描かれる。
しかし、幾つかのネタを散りばめて笑いを誘おうとはしているが、どれも小粒でヌルい。
それを膨らませてシーンを盛り上げようとはしていないし、何かが起きた時に別の出来事が連鎖して笑いを増幅させることも無い。

チャーリーとルイスがジェシーに遭遇してからは3人での行動が描かれることになるが、人数が増えても笑いは増えない。
それ以外にも、フランキー&手下たち、スミス&手下たちの動きが挿入されるが、そこに笑いが見つかるわけではないし、物語としての面白さが生じているわけでもない。
それと、「ジャックを捕まえる」という物語を、「チャーリーたちがフランキーやスミスに追われる」という筋が邪魔しているように思える。フランキーやスミスもジャケットを手に入れようとしているなら別だけど。
あと、根本的な問題として、中身が薄っぺらい。複数グループを並行して動かしているのに薄っぺらいと感じるぐらいだから、相当に薄っぺらいってことだろう。

(観賞日:2014年4月16日)


第24回ゴールデン・ラズベリー賞(2003年)

ノミネート:最低助演男優賞[アンソニー・アンダーソン]
ノミネート:最低助演男優賞[クリストファー・ウォーケン]
<*『ジーリ』『カンガルー・ジャック』の2作でのノミネート>


第26回スティンカーズ最悪映画賞(2003年)

ノミネート:【最悪の助演女優】部門[エステラ・ウォーレン]
ノミネート:【最も痛々しくて笑えないコメディー】部門
ノミネート:【チンケな“特別の”特殊効果】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会