『エディ・マーフィの 劇的1週間』:2009、アメリカ&ドイツ

エヴァンはスミス・スティーヴンソン社のファイナンシャル・マネージャーとして、8年半に渡ってトップの成績を収めていた。社長の トムが会社を手放すという噂を耳にした彼は、後継者が自分か同僚のジョニーのいずれかだと確信する。ジョニーは会社に来て1年4ヶ月 だが、トムから実力はトップクラスだと認められている。顧客であるウィップとの会議に参加したエヴァンがプレゼンを終え、ジョニーの プレゼンが始まる。その最中、秘書のローズからエヴァンの携帯に「オリヴィアの学校で緊急事態」というメールが入る。オリヴィアと いうのは、エヴァンと別れた妻トリッシュの娘だ。
エヴァンが会議を抜けてローズに事情を尋ねると、「すみません、何度も掛かって来て」と彼女は釈明した。「まさか、毛布ちゃんか」と いう質問に、ローズは「ええ」と答える。エヴァンが困り果てて学校へ行くと、先生は「授業の時間になっても、オリヴィアが校庭で毛布 を頭から被っている」と説明した。学校は私物の持ち込みが禁じられていたが、オリヴィアは両親が離婚したばかりという状況を考えて、 特別に毛布の持ち込みを許されていた。
先生はエヴァンに、オリヴィアが「クピダとモピダに言われたから座っている」と話したことを伝える。エヴァンは「空想の友達です」と 説明した。エヴァンが「毛布は預かろう。家に帰ったら、また返してあげる」と言って毛布を取り上げると、オリヴィアは金切り声を 上げた。エヴァンは娘に毛布を返し、トリッシュの所へ連れて行く。その週はエヴァンが娘を預かることになっていたが、彼は「今週は 忙しいんだ」と日程を変更してもらおうとする。だが、トリッシュは拒否した。
空想の友達とばかり話す娘の扱いに困っているエヴァンは、友人で顧客のジョンから「誰にでも子供の声は残ってる。その声を聴かないと オリヴィアとは分かり合えないぞ」と言われるが、まるで耳を貸さなかった。その夜、自宅で仕事をしていたエヴァンは、オリヴィアから 「この前に来た時、今度は王様になってくれるって言ったでしょ」と言われる。エヴァンは「そんなこと言ったかな?言ったとしても、 ここには王様の衣装が無い。早く寝なさい」と追い払おうとする。「ここで寝たい」と娘が言うので、彼はソファーで寝るよう促した。 オリヴィアが空想の友達と話すので、彼は「言うことを聞かない子は、自分の部屋に行きなさい」と叱って寝室へ行かせた。
翌朝、エヴァンが仕事へ行く前にオリヴィアを学校へ送って行こうとすると、「昨夜のパパの電話、クピダが聞いてたの。それで、どっち も嫌だって伝えてほしいって。ソロコムとデジタル・ファイバー。モピダもクオリも同じ意見。壊れてるんだって。みんな最初にパパが 捨てたトライテックが好きだって。宝物が埋まってるから」と言われる。だが、エヴァンは相手にせず、軽く聞き流した。
エヴァンは毛布を車に残し、オリヴィアを学校へ預けようとする。しかし悲鳴を上げたため、仕方なく会社へ連れて行く。彼は社員の マイクに娘を預け、顧客との会合に出席した。彼は顧客のプレスマン夫妻に対し、デジタルファイバーに投資すべきだと告げる。すると ジョニーは、ウズベキスタンでの核兵器爆発により、デジタルファイバーとソロコムが頼みの綱にしている地下ケーブルが破壊されたと いう情報を説明する。トライテックに投資すべきだと彼が言うと、プレスマン夫妻は納得した。
エヴァンがオフィスに戻るとオリヴィアがいたので、秘書のローズに連れ出してもらう。エヴァンは次の会議に向けた準備を急ごうとする が、大事な資料には絵が落書きされていたり、切り抜かれたりしていた。オリヴィアは「クオリやクピダがしていいって」と言うが、 エヴァンは激怒する。時間が来たので、彼は仕方なく会議室へ赴いた。顧客のフレッドからジョニーと異なる提案を求められた彼は、 落書きだらけの資料をめくりながら困り果てた。
ジョニーの余裕な態度を受けて、エヴァンは苛立ちをぶちまける。フレッドが納得している様子なので、彼は開き直って落書きだらけの 資料を見せる。そして、キラキラの落書きを見せて「この会社は光ってるから買うべきだ」と言い、魚がキスしたイラストの資料には 「この会社は結婚する」と説明する。ズボンを下ろしている絵の書かれた資料を掲げると、「パンツを脱いだらウンチまみれだ。この会社 からは手を引いた方がいい」と喚き立てた。
エヴァンがオフィスに戻ってから自分の行動を後悔していると、トムの呼び出しを受けた。エヴァンはクビを覚悟するが、トムは「なぜ 分かったんだ?」と驚きの表情を見せる。光ってるから買うべきだと言った会社の株価は急激に上昇し、結婚すると説明した2つの会社は 提携することが内定しており、手を引いた方がいいと言った会社の財務不正が露呈したのだという。エヴァンが喚き立てた提言は、全て ズバズバと的中したのだ。
エヴァンはオリヴィアに、「みんなが会社の話をしたのか。まだ意見を聞きたい会社があるんだが」と持ち掛ける。オリヴィアから「自分 で聞いてみたら?」と言われ、エヴァンは「一緒に来てくれるか」と誘う。彼はオリヴィアからクピダたちとと話す方法を教えてもらい、 それを実践する。言われるままに毛布を被って心の中で呼び掛けても、空想の友達は登場しない。だが、オリヴィアは笑顔で「到着よ、 綺麗な所でしょ」と言う。彼女の中では、もう別世界に到着していたのだ。
エヴァンはオリヴィアに言われるままに行動し、気になっている3つの会社について、クピダとモピダに問い掛けた。オリヴィアが2人の 言葉をエヴァンに教えた。顧客との会合で、エヴァンはクピダたちから得た情報を語った。ショニーは正反対の提案を行うが、エヴァンの 情報は全て的中していた。ジョニーは部下のクーリックに、エヴァンがどこから情報を得ているのか調べるよう指示した。
その夜もエヴァンはオリヴィアの遊びに付き合い、別の会社に関する情報を求める。オリヴィアは、「クピダとモピダの意見が割れたから 、そんな時はクオリに聞くの」と言う。どこにいるのかエヴァンが尋ねると、オリヴィアは彼を外に連れ出し、「あれ」とタワーを指差す 。「気に入ってもらうために踊らないと」と言われ、エヴァンは人々の視線を気にしながらダンスする。そのおかげで得た情報は、またも 的中した。その後もエヴァンは会社の業績動向についてクオリたちに尋ね、次々に的中させた。
大口の顧客であるシモンズとの会合で、エヴァンは株を売るべきだと促した。それに対してジョニーは「積極的に買うべきです。保有比率 を上げるべきです。大物投資家のダンテ・ディエンゾも同じ考えで動いています」と語る。エヴァンは崇拝しているディエンゾの名を 出されて動揺し、急いで学校へ行く。彼はオリヴィアを連れ出し、クオリの意見を求める。改めて彼はシモンズに会い、手を引くべきだと 主張した。シモンズはジョニーの意見を採用するが、ディエンゾが株から手を引き、クオリの予言通りの結果になった。
ジョニーはクーリックから、「エヴァンは娘と一緒に毛布で遊んでいるだけです」と報告を受け、盗撮した映像を見せられる。ジョニーは 「織物を通じて啓示を受けているのだ」と確信し、エヴァンに「俺も毛布を手に入れてやる」と宣戦布告した。エヴァンとジョニーはトム に呼ばれ、「買い取りの申し出があったし引退を考えているが、引き継ぐ人材について買い手が気にしている」と告げられる。その買い手 とは、ディエンゾだった。
仕事で北京に滞在しているディエンゾは、エヴァンとジョニーに対し、「北京から戻る明日までの17時間で、部下のプラットが渡す資料を 分析して提案してくれ。その結果で、どちらを選ぶか決める」と述べた。帰宅したエヴァンはオリヴィアを捜すが、家政婦のグラシエラ から「奥様が1時間前に連れて行きましたよ」と聞かされる。トリッシュに電話を掛けると、ジョンの娘エラの誕生パーティーに参加して おり、そのままお泊まりに連れて行くという。その予定は以前から聞かされていたが、エヴァンはすっかり忘れていたのだ。
エヴァンは「オリヴィアの毛布が必要なんだ」と言うが、トリッシュは呆れて電話を切った。エヴァンは慌てて誕生パーティーの開かれて いるアミューズメント施設へ赴き、オリヴィアを捜して毛布を貸してもらおうとする。だが、ジョンから「毛布を取り上げたらどうなるか 分かるだろう」と言われ、帰るよう諭される。その日の深夜、エヴァンはジョンの家に侵入し、眠っているオリヴィアの毛布を盗み出そう とする。しかしジョンと妻のローリーに見つかり、追い出されてしまう…。

監督はキャリー・カークパトリック、脚本はエド・ソロモン&クリス・マシスン、製作はロレンツォ・ディボナヴェンチュラ&エド・ ソロモン、製作協力はラース・P・ウィンザー、製作総指揮はリック・キドニー、撮影はジョン・リンドレー、編集はデヴィッド・ モリッツ、美術はウィリアム・アーノルド、衣装はルース・E・カーター、音楽はマーク・マンシーナ。
主演はエディー・マーフィー、共演はトーマス・ヘイデン・チャーチ、ヤラ・シャヒディー、ニコール・アリ・パーカー、ロニー・ コックス、マーティン・シーン、デレイ・デイヴィス、ヴァネッサ・ウィリアムズ、スティーヴン・ラナジージ、スティーヴン・ルート、 ティム・シャープ、ローレン・ウィードマン、ダニエル・ポロ、リチャード・シフ、マリン・ヒンクル、ボビー・J・トンプソン、ブレイク・ハイタワー、 マイケル・マクミリアン、キャサリン・マッグーハン、ジェームズ・パトリック・スチュアート、トニータ・カストロ、チャーリー・ コズニック、トーレン・ライリー他。


『森のリトル・ギャング』の共同監督だったキャリー・カークパトリックが、初めて単独で監督を務めた作品。
エヴァンをエディー・マーフィー、ジョニーをトーマス・ヘイデン・チャーチ、オリヴィアをヤラ・シャヒディー、トリッシュをニコール・アリ・パーカー、 トムをロニー・コックス、ディエンゾをマーティン・シーン、ジョンをデレイ・デイヴィス、ローリーをヴァネッサ・ウィリアムズ、 クーリックをスティーヴン・ラナジージが演じている。

ニコロデオン・ムーヴィーズ(子供向けケーブルチャンネルであるニコロデオンの映画製作部門)が製作した映画で、しかも毒っ気が完全 に抜けたエディー・マーフィーの主演作なので、ものすごく分かりやすいファミリー映画である。
もう最初の10分程度で、どういう着地をするかという大まかな予想は思い付くだろう。
「仕事第一で娘との時間を二の次にしていた男が、本当に大切なことに気付き、娘への接し方を変える」というところへ着地するって ことだ。

しかも、こっちの予想の中で、最低限の部分しか的中してくれない。
「本当に毛布の中の友達がいて、それをエヴァンが目撃する」とか、「実在するかどうかはともかく、エヴァンも毛布の友達を実際に 見られるようになる」とか、そういうファンタジックな方向での味付けは全く無い。
毛布の中の友達が実在しないとすれば、「なぜ空想の友達の提言はズバズバと的中するのか」という部分の疑問は解消されないはず。
だが、そこは右から左へ受け流している。

「株式に関する情報を得たいという目的ではあるが、エヴァンがオリヴィアの空想遊びに付き合う」というところで、親子の触れ合いを 描き、それによってハートウォーミングな雰囲気をを作ろうという意識があるようだが、「エヴァンが振り回される姿を見せることで喜劇 にする」とかいう感じは薄い。
ホントに「ただ親が子供の遊びに形だけ付き合っている」というのを見せられるだけで、そこに何の面白味も無い。
エヴァンが人々の視線を浴びながら踊るシーンは、まるで「親子の心温まるシーン」みたいに演出しているけど、エヴァンは周囲の視線を 気にしており、心から楽しんでいるわけではない。
仕事のために仕方なくやっており、オリヴィアのためにやっているわけでもないのだから、その演出は納得しかねる。

そもそも、なぜ「娘の空想の友達が株価のことを詳しく知っており、それを父親に教える」という内容にしちゃったのかと。
空想の友達の利用方法として、そこに違和感を覚えるんだよな。
イマジナリー・フレンドという存在を使って親子の交流を描こうというのは、ファミリー映画として悪くない方針だと思う。
ただし、そこにビジネス、しかも株取引というビジネスを絡めたことが失敗だったような気がするんだよな。
連続して株の情報が的中した後、エヴァンがオリヴィアと一緒にパンケーキを作ったり、歌を練習したり、本を読んでやったりという シーンがあるが、それも「予言のために遊んでいる内に、娘と一緒に遊ぶことの楽しさを感じた」とか、「娘の嬉しそうな様子を見て、 それで接し方が変化する」とか、そういう流れがあったわけでもないしね。
だから「仕事のためには、娘の機嫌を取っておく必要があるから優しくしている」という風に受け取れなくもないんだよな。

後半、エヴァンがオリヴィアではなく毛布だけに固執するのは、ものすごく無理がある。
そこは「エヴァンがオリヴィアを愛しているのではなく、毛布の友達によって得られる情報だけに興味がある」ということを示したいん だろうってのは、良く分かるよ。
だけど、娘がいなかったら、エヴァンは空想の友達から何の情報も得られないんだからさ。
そこで娘を連れ出そうとしたり、話そうとしたりするのではなく、「とにかく毛布を手に入れたい」ということに執着するのは不自然だ。

実際、エヴァンは毛布を手に入れた後、それを全く使っていない。
「毛布を被ってクピダたちに情報を聞こうとするが、何も見えないし何も聞こえない」というシーンは無いのだ。最初は毛布を羽織って パソコンに向かっており、それが落ちても気にせずに仕事を続ける、という描写があるだけ。
そもそも、毛布を羽織って仕事をしている時点でおかしいでしょ。
その毛布は、そういう使い方をするためのモノじゃなかったはずだろうに。

っていうか、内容が云々という以前の問題として、そもそも「ワーカホリックで家庭を顧みなかった男が、娘への愛情に目覚めて良きパパ になる」という話の主役にエディー・マーフィーを起用している時点で、かなり厳しいものがあると言わざるを得ない。
この映画の公開は2009年だが、2007年にスパイス・ガールズのメラニー・ブラウンがエディーの娘を出産した時、彼は自分の子供である ことを否定し、それどころかメラニーの悪口をマスコミの前で並べ立てた。
しかし血液検査でエディーの娘であることが判明し、彼は激しい批判を浴びた。
そんな奴が、「娘への愛情は何よりも大切」と気付く役を演じても、「お前が言うな」ってことになっちゃうよなあ。

(観賞日:2013年2月5日)


第30回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演男優賞[エディー・マーフィー]

 

*ポンコツ映画愛護協会