『アイ・スパイ』:2002、アメリカ

電子制御の新型ステルス戦闘機スイッチブレイドが空軍のパーシー中尉に盗まれ、武器商人ガンダースの手に渡った。ボクシング好きのガンダースは、ブタペストで開催される世界ミドル級タイトルマッチの前夜パーティーを主催することになっている。そのパーティーの裏でガンダースは、スイッチブレイドを競売に掛けるつもりなのだ。
国家保安局BNSは、スペシャル・エージェントをパーティーに潜入させる作戦を立てた。しかしナンバーワンのカルロスは、顔が割れている。そこでBNS長官マッキンタイヤが選んだのは、作戦に失敗してパーシーを死なせたアレックス・スコットだった。しかし潜入させるのは彼一人だけではなく、パートナーが用意されていた。
アレックスのパートナーに選ばれたのは、世界ミドル級タイトルマッチに挑む57戦無敗のボクシング王者ケリー・ロビンソンだった。アレックスの素性は秘密なので、ケリーはマネージャーのジェリーや付き人のT・Jに対し、大統領の甥だと紹介する。今回の任務に関しても、ケリーはアレックスの警護だとジェリー達に説明している。
ブタペストに到着したケリーとアレックスは、スペシャル・エージェントのレイチェル達と合流した。ケリーとアレックスはゲストとしてパーティー会場に出向き、ガンダースを確認する。アレックスは競売が行われている部屋に潜入するが、ケリーの勝手な行動でアラームが作動してしまう。ケリーとアレックスは、慌てて脱出した。
アジトに戻ったアレックスは、お節介なケリーのアドバイスを受けつつ、惚れているレイチェルにアプローチする。やがて敵の動きがあったとの連絡が入ったため、3人は現場へと急行する。しかし敵の攻撃でレイチェルの乗っていた車が爆破され、それが原因でケリーとアレックスは喧嘩別れしてしまう。アレックスは単独でガンダーズの取り引き現場へ向かい、ケリーは試合に挑む…。

監督はベティー・トーマス、キャラクター創作はモートン・ファイン&デヴィッド・フリードキン、原案はマリアンヌ・セレック・ウィバーリー&コーマック・ウィバーリー、脚本はマリアンヌ・セレック・ウィバーリー&コーマック・ウィバーリー&ジェイ・シェリック&デヴィッド・ロン、製作はマリオ・カサール&ベティー・トーマス&ジェンノ・トッピング&アンドリュー・G・ヴァイナ、製作総指揮はウォーレン・カー&デヴィッド・R・ギンズバーグ&マーク・トベロフ、撮影はオリヴァー・ウッド、編集はマット・フリードマン&ピーター・テッシュナー、美術はマーシア・ハインズ、衣装はルース・E・カーター、音楽はリチャード・ギブス&イグジビット。
出演はエディー・マーフィー、オーウェン・ウィルソン、ファムケ・ヤンセン、マルコム・マクダウェル、ゲイリー・コール、フィル・ルイス、ヴィヴ・リーコック、キース・ダラス、テイト・テイラー、リンダ・ボイド、ビル・モンディー、ラリー・マーチャント、シュガー・レイ・レナード、ジミー・レノンJr.、ジョー・コルテス他。


1960年代に放送された人気TVシリーズ(ビル・コスビー&ロバート・カルプ主演)をリメイクした映画。日本では『アイ・スパイ』という同名タイトルの他、『スパイ専科'70』というタイトルで放送されていたようだ。
ケリーをエディー・マーフィー、アレックスをオーウェン・ウィルソン、レイチェルをファムケ・ヤンセン、ガンダースをマルコム・マクダウェル、カルロスをゲイリー・コール、ジェリーをフィル・ルイス、T・Jをヴィヴ・リーコックが演じている。

リメイクと言っても、オリジナル版とは黒人と白人のポジションが逆になっており(コスビーがアレックスでカルプがケリー)、さらに職業も「ボクサーとBNSのエージェント」ではなく「テニス・プレーヤー&トレーナーを装うCIAのスパイ」という設定だったようだ。
そうなると、タイトルだけ借りた全く別の作品と考えた方がいいかもしれない。

で、「なぜボクサーという設定にしたのか」というのが、まず最初に沸き起こる疑問である。エディー・マーフィーが57戦無敗のボクサーというのは、どう考えても合わないだろうに。しかもボクサーであることが重要な意味を持っているストーリーなのかというと、そうではない。「エディーと無敵のボクサー」という食い合わせの悪さをギャグとして使うのかと思ったら、そうでもないし。
どうやらエディーの「無駄口」という忘れ去られていた得意技を生かそうという意識はあるようなので、だったら職業設定も例えばショーの司会者とか、舞台で喋るのを得意にしているようなキャラクターにすればいいだろうに。ボクサーってのがオリジナル設定のままならともかく、わざわざミスキャストになるような変更を加えてどうすんの。

アレックスはキャラクターとして中途半端で、ケリーに全く太刀打ちできていない。演じる2人を対等ではなく「エディー・マーフィーが主演、オーウェン・ウィルソンは助演」と上下関係を明確にする意識があったのかもしれない。しかし、それにしても「アレックスよりカルロスと組ませた方が面白そうだ」と思ってしまうのだから、そりゃダメだろ。
ケリーとアレックスのコンビネーションは、全くスウィングしない。2人のどちらが優位に立っているか、どちらが利口に振舞うか、どちらがリードするのか、どちらが強気な態度になるか、という関係性が場面ごとにコロコロと変わるのだが、行き当たりばったりにしか見えない。むしろ一貫した関係性をキープして、ここぞという時だけ立場の逆転を示した方がいい。

「ブタペストでケリーがレイチェル達に拉致されるが、それはアレックスが彼を試すための作戦でした」という展開がある。でも、笑いも無いし、物語として面白いわけでもない。素直にレイチェルと対面して、さっさと次の展開に行けと言いたくなる。
そもそもファムケ・ヤンセンが出て来た時点で、半ば「彼女はエージェント」というネタが割れちゃってると思うぞ。

パーティー会場からの脱出劇を見せた後、トントン拍子でステルス争奪へ向かっていくのかと思うと、一休みしてアレックスがレイチェルを口説き落とそうとするシーンを挿入し、マッタリした雰囲気を醸し出したりする。ステルスを有効利用したアクションは全く見られず、「こけ猿の壷」のような扱いに留まっている。悪党のボスであるガンダースは、気付かぬ内にフェイドアウトしている。

この映画は、あらゆるポイントで平均して、高い基準をクリアしている。
構成のマズさ、テンポの悪さ、緩急を使い分けるタイミングの悪さ、笑いとアクションの組み合わせ方のマズさ、時間配分のマズさ、どれを取ってもダメダメ度数が平均して高いのである。
そもそも初期設定の段階で負けの匂いが強いのに、なぜゴーサインが出たのかと思ったが、これってマリオ・カサールとアンドリュー・G・ヴァイナによる「第二のカルロコ」ことC-2ピクチャーズの製作なのね。
なるほど、そこのセンスに期待するだけ無駄だわな。


第23回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低リメイク・続編賞
ノミネート:最低主演男優賞[エディー・マーフィー]
<*『プルート・ナッシュ』『アイ・スパイ』『ショウタイム』の3作でのノミネート>
ノミネート:最低スクリーンカップル賞[エディー・マーフィー&ロバート・デ・ニーロかオーウェン・ウィルソンか彼自身のクローンのいずれか]
<*『プルート・ナッシュ』『アイ・スパイ』『ショウタイム』の3作でのノミネート>


第25回スティンカーズ最悪映画賞

受賞:【最悪なTV番組の復活】部門

ノミネート:【最悪の主演男優】部門[エディー・マーフィー]
<*『プルート・ナッシュ』『アイ・スパイ』『ショウタイム』の3作でのノミネート>
ノミネート:【最悪のカップル】部門[エディー・マーフィー&彼との共演を強いられた誰でも]
<*『プルート・ナッシュ』『アイ・スパイ』『ショウタイム』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会