『ガリバー旅行記』:2010、アメリカ

ニューヨーク・トリビューン社の郵便室で働くレミュエル・ガリバーは、新入りのダンを連れて編集室のある30階フロアへ赴いた。編集者 のハロルドがいる部屋に入ったガリバーは、郵便物を置いて静かに立ち去ろうとした。するとダンは平気な顔で、ハロルドに話し掛ける。 部屋を出た後、ガリバーはダンに「話し掛けちゃだめだ。大した仕事なんかしてない俺たちはあの人の眼中に無い。違う次元の人間だ」と 注意する。「怖がってるだけじゃないんですか」とダンに言われ、ガリバーは「違う、敬意を表しているだけだ」と否定した。
ガリバーが密かに好意を寄せている女性編集者のダーシーに見とれていると、向こうから声を掛けて来た。ダンはガリバーが彼女に惚れて いると見抜き、そのことを指摘した。しかしガリバーは「いつでもデートに誘おうと思えば出来るけど、それは無い。友達だから」と否定 する。エレベーターで彼女と一緒になると、ダンは気を利かせて外に出た。しかしガリバーは、ロクに会話も出来なかった。
ダンは郵便室の責任者に昇進し、ガリバーに「今のままだと、アンタが成長することは無い」と厳しいことを言う。ガリバーは一人で 残っていたダーシーに声を掛けようとするが、勇気が無くて立ち去ることにした。しかしダーシーの方が気付いて、声を掛けた。ガリバー は旅行記事を書いているダーシーに調子を合わせ、「こういうのを自分も書いてみたかった」と適当なことを言ってしまう。すると彼女は 、「明日、サンプルを持って来て」と口にした。
帰宅したガリバーだが、何もアイデアが浮かばない。そこでウェブサイトの記事や本の文章を、そのままコピーした。翌朝、ガリバーが 盗作記事を提出すると、ダーシーは絶賛した。彼女はガリバーに、バミューダ・トライアングルの長期取材を依頼した。ガリバーは一人で 船に乗り込み、海に出た。彼はお気楽にスピードを上げ、いつの間にか眠り込んでしまった。目を覚ますと、船は大時化に見舞われていた 。慌てたガリバーだが、どうすることも出来ず、海に飲み込まれてしまった。
意識を取り戻したガリバーは、小人たちが住むリリパット国で地面に縛り付けられていた。簡単にロープを外して立ち上がったガリバーは 、状況が分からずに喚き散らした。エドワード将軍の指示を受けた軍隊はフックを引っ掛け、ガリバーを引き倒した。失神したガリバーが 目を覚ますと、台車で宮殿に連行されていた。宮殿には、セオドア王、イザベル皇后、メアリー王女が待ち受けていた。エドワードは ガリバーをセオドア王の財産として捧げ、「こいつはブレフスキュ国のスパイです」と告げた。
洞窟に監禁されたガリバーは、牢獄に収容されている民間人のホレイショと出会った。彼はメアリーにいやらしい視線を送ったという罪で 、彼女の婚約者であるエドワードによって牢獄に入れられてた。しかしホレイショは、「俺は身分の低い人間だから、王女に対して失礼な 行為を取ってはいけない」と諦めていた。エドワードはガリバーを連れ出し、自分の操縦する車を引っ張る仕事を要求した。
海を挟んた隣国のブレフスキュ国が、リリパット国に潜入部隊を送り込んだ。部隊は街に火を放ち、宮殿に潜入してメアリーを捕まえた。 ガリバーはホレイショから「彼女を助けてくれ」と頼まれ、潜入部隊をプールに投げ落とした。こうしてメアリーは救出されたが、火の手 は広がり、セオドアと大臣のジンクスが危機に陥っていた。ガリバーは小便を放出し、宮殿の火を消した。エドワードは「無礼な行為だ」 と激怒するが、セオドアは「命の恩人だ」と感謝し、人々もガリバーを称賛した。
晩餐会に招待されたガリバーは、ホレイショの解放を条件に出した。晩餐会に参加したガリバーは、イザベルに「どこから来たのか」と 問われる。ガリバーはアメリカのニューヨークから来たことを説明し、自分が高い地位にある人間だと嘘をついた。セオドアはガリバーの ために、巨大な家を建てさせる。劇場も設置され、そこではガリバーの語った半生が演劇として演じられた。ただしガリバーは、『スター ・ウォーズ』や『タイタニック』など、有名な映画やドラマの内容を、自分の体験談として語っていた。
ガリバーはホレイショがメアリーが惹かれ合っていると知り、「彼女をモノにしたいのなら、じっくりと考えるべきだ」と告げた。協力を 求められたガリバーは、ホレイショにメアリーへの告白を指示した。ガリバーが物陰に隠れて指示を出し、その通りにホレイショが台詞を 喋ったり行動したりするのだ。ガリバーはホレイショにプリンスの楽曲『KIss』の歌詞を語らせ、さらに踊るよう指示した。風変わりな 告白を、メアリーは気に入った様子だった。
ガリバーは船が見つかったという知らせを受け、現場に出向いた。壊れてはいるが、ガリバーは「修理が済めばダーシーの元に戻れる」と 喜んだ。無くしていた携帯電話も見つかり、ガリバーは留守電のメッセージをチェックした。ダーシーからのメッセージが入っていたが、 盗作に気付いた彼女はガリバーを激しく責め立てていた。落ち込んだガリバーが佇んでいると、メアリーが現れた。彼女は「ホレイショに 恋したと思う。でもエドワードとの約束がある。裏切ったら彼は死を選ぶでしょう」と語った。
メアリーが「貴方がいなくなると寂しいわ」と言うので、ガリバーは「残るかもしれない」と告げる。メアリーは「国民はみんな、貴方が 残ることを望んでるわ」と口にした。エドワードはセオドアに、ガリバーへの不信感を打ち明けた。するとセオドアは「お前は疲れている 。休養が必要ではないか」と言い、ガリバーを軍の指揮官に抜擢した。ガリバーから副将軍呼ばわりされたエドワードは腹を立て、国の 防衛システムを解除した。それを確認したブレフスキュ国は、艦隊を差し向けた。
ガリバーはセオドアから艦隊を撃退するよう命じられ、海に入った。艦隊に近付いたガリバーは、艦長に「穏便に済ませるために、芝居を しよう。怖がっているフリをしてくれ」と持ち掛けた。艦長は相手にせず、ガリバーに一斉砲撃を行った。ガリバーは何発もの弾丸を 浴びたが、腹の脂肪に当たって跳ね返った。自信を持ったガリバーは、艦隊を引っ張ってリリパット国に戻り、称賛を浴びた。
ガリバーは恵まれた生活環境を与えられ、楽しい日々を過ごす。ホレイショから「君は将軍だ。軍を鍛えなくてもいいのか」と言われた彼 は、「心配は要らない。俺が一人でやっつけてやるよ」と余裕を示す。メアリーはエドワードから執拗に結婚を迫られ、「私たちの関係は 確定していない。貴方は私のどこが好きなの」と問い掛ける。エドワードが答えられずにいると、メアリーは「私は愛されたいの。貴方は 子供じみている。ガリバーの言っていた通りだわ。出て行って」と冷たく告げた。
人々がガリバーに熱狂する状況を目の当たりにしたエドワードは、ブレフスキュ国へ赴いた。彼はレオポルド王に謁見し、ガリバーを倒す ための作戦を提案した。エドワードは巨大ロボットを操縦してリリパット国に現れ、ガリバーに決闘を申し込んだ。巨大とはいえ、自分 より小さいロボットを見たガリバーは、余裕の態度で「受けてやるよ」と告げる。しかしエドワードのロボットは変形し、ガリバーより 大きなサイズになった。
ガリバーはロボットを押すが、まるで動かなかった。途端に怖気付いたガリバーは、慌てて逃げ出そうとする。しかしロボットに捕まり、 あっけなく「降参だ」と口にした。ガリバーはメアリーやセオドアたちの前で、これまで語っていた自分の活躍が全て嘘だったことを告白 した。リリパット国はブレフスキュ国の支配下に置かれ、ガリバーは追放処分となった。エドワードはガリバーをイカダに縛り付け、海に 流した。ガリバーが辿り着いた場所は、巨人の国だった…。

監督はロブ・レターマン、脚本はジョー・スティルマン&ニコラス・ストーラー、製作はジョン・デイヴィス&グレゴリー・グッドマン、 共同製作はブライアン・マニス、製作協力はクリフ・ラニング、製作総指揮はジャック・ブラック&ベンジャミン・クーリー、撮影は デヴィッド・タッターサル、編集はディーン・ジマーマン&アラン・エドワード・ベル、美術はギャヴィン・ボケット、衣装はサミー・ シェルドン、音楽はヘンリー・ジャックマン、音楽監修はデイヴ・ジョーダン。
主演はジャック・ブラック、共演はジェイソン・シーゲル、エミリー・ブラント、アマンダ・ピート、ビリー・コノリー、クリス・ オダウド、T・J・ミラー、ジェームズ・コーデン、キャサリン・テイト、 エマニュエル・カトラ、オリー・アレクサンダー、リチャード・レイング、デヴィッド・スターン、スチュアート・スカダモア、 ジョナサン・エイリス、ジェイク・ナイチンゲール、オケジー・モロ、クリストファー・ミドルトン、ダニー・ベネイター他。


ジョナサン・スウィフトの同名小説を基にした作品。
監督は『シャーク・テイル』『モンスターVSエイリアン』のロブ・レターマン。これまでの2作は長編アニメーション映画で、実写映画 を手掛けるのは今回が初めて。
ガリバーをジャック・ブラック、ホレイショを ジェイソン・シーゲル、メアリーをエミリー・ブラント、ダーシーをアマンダ・ピート、セオドアをビリー・コノリー、エドワードを クリス・オダウド、ダンをT・J・ミラー、イザベルをキャサリン・テイトが演じている。

冒頭、ガリバーは『スター・ウォーズ』のフィギュアを眺めながらそいつらが喋っているという設定で台詞を口にしたり、シャワーを 浴びながらドラムの音を口ずさんだりする。前日に採用された新入りのダンに、拳を突き合わせる原監督スタイルの挨拶を要求する。
その辺りから分かるように、これは「ジョナサン・スウィフトの同名小説の映画化」よりも、「ジャック・ブラックの主演作」としての色 が非常に色濃く出ている作品だ。
まあハッキリ言っちゃうと、ジャック・ブラックのオレ様映画だよね。彼のスター映画の題材として、ガリバー旅行記を使っているという 感じだ。
で、どうせジャック・ブラックのスター映画なら、いっそのこと原作から大きく逸脱した内容にしてくれればいいものを、中途半端に原作 に沿っていたりするもんだから、物足りなさがハンパない。
原作にあった風刺の要素はバッサリと削り落とされているが、それは構わない。ただ、映画のパロディーが散りばめられたり、リリパット 国がアメリカンナイズされていったりというのは、「ガリバー旅行記の映画」で見たいモノとは、かなり違っているんじゃないかと。

序盤、ガリバーがダンに痛いトコを突かれるまでの展開が、かなり慌ただしく感じられる。本編が始まって5分ぐらいで、もうダンが上司 になっているんだよね。
そうじゃなくて、まずは、ガリバーが自尊心は高いけどヘタレなオタク野郎であることを、もっとアピールする。ダーシーに惚れている けど素直になれずにいて、でも彼女のことが気になっているというのも、もっと丁寧に描く。で、ダンとの関係も、もっと充実させる。 それから「ダンに指摘されてヘコみ、今度こそ本気でダーシーにアプローチすべきかどうか悩む」とか、そういう流れにした方がいいん じゃないかと。
ただし、そういう流れにすると、もはや『ガリバー旅行記』は無関係で、オタクな郵便係を主人公とするロマンティック・コメディーに なってしまうんだけどね。
っていうか、導入部の流れを見た限り、そういう話として全体を構成した方が、魅力的になりそうなんだよな。
ロマコメのような導入部を描いておいて、そこから『ガリバー旅行記』に入っていくという構成は失敗だろう。『ガリバー旅行記』にする なら、恋愛劇から始めるべきではない。どうせリリパット国へ行ってからの物語は、ガリバーの恋愛とは無関係なんだし。

「人間的に成長する」という意味で、それ以前のヘタレ姿を描くというのなら、それは分からなくも無い。
だから最初にガリバーのヘタレな部分を描いておいて、そこから旅に出てリリパット国に辿り着くという流れにするのは、別に 構わない。
ただし、ガリバーのキャラが、愛すべきヘタレじゃなくて、典型的な「口だけ番長」で、すげえ嫌な奴ってのは厳しいなあ。
ジャック・ブラックに合っているキャラではあるんだけど、まるで好感は持てない奴なんだよなあ。

ヘタレなのは一向に構わないけど、盗作しておいて何の罪悪感も抱かずノホホンとしているってのは、主人公としてアウトだな。
不道徳だったり、不誠実だったり、不真面目だったり、そういう部分が少しでもあったらダメとか、そういうわけじゃない。コメディーの 主人公なんだから、完全無欠のロール・モデルである必要は無い。
でも、そこには「申し訳ない」という気持ちがあるべきじゃないかと。
何食わぬ顔で不誠実なことをやらかして、嘘で固めた自身を誉められても何の罪悪感も寂しさも感じないってのは、好感を全く 抱けない。
ガリバーが「弱い者には偉そうな態度で、強い者にはペコペコする。自分を良く見せるための嘘を並べ立て、まるで悪びれた様子も無い」 というクソみたいなキャラなので、嘘がバレてリリパット国を追放処分になっても、「そりゃ当然だろ」としか思えない。

もっと畳み掛けるように次々と展開していくジェットコースター・ムービーみたいなテイストだったら、ガリバーの性格の悪さも少しは 誤魔化せたかもしれないけど、あまりテンポも良くないんだよな。
そもそも上映時間は85分と短めだし、テンポも悪いから、その尺で描くことが出来るのは、ほぼリリパット国だけ。
残り20分ぐらいで巨人国が登場するが、1人の少女が出て来るだけ。ガリバーもドールハウスにいるのが描かれるだけ。
で、そこは5分程度で終わってしまう。

ガリバーとホレイショとの関係が薄くて、出会ってすぐに火事のシーンになっちゃうから、その後で彼の解放を晩餐会出席の条件に出して 「相棒じゃないか」と言うのは、すげえ不自然。
っていうか、そもそもガリバーが監禁されてからヒーローになるまでの展開も、かなり慌ただしいし。
そのホレイショとメアリーの恋愛劇が重視されているけど、それはバランスが悪い。ガリバーは、その恋愛の当事者じゃないし。
ホレイショにアドバイスをするシーンはあるけど、メアリーとの関連は薄いし。メアリーと喋るシーンはあるけど、ガリバーは何の アドバイスもしないし。

後半、ダーシーまでリリパット国に流れ着くけど、それは余計な展開にしか思えない。
それが無いとガリバーの体験した出来事が真実だと証明できないけど、別に証明できなくてもいいでしょ。
大事なのは、ガリバーがリリパット国の経験で人間として成長することであって、そこであった出来事が真実だと証明することではない はずだ。
リリパット国に来る巨人は、ガリバーだけにしておくべきだよ。

終盤、エドワードが巨人国に来て、ガリバーにダーシーが捕まったことを明かす。自信喪失状態だったガリバーだが、エドワードが「君は 王女を救ったし、艦隊も撃破した。君なら出来る」と言うと、すぐに立ち上がる。
なぜ急にやる気に目覚めたのか、ちょっと無理を感じる。
っていうか、そこは「自信を取り戻したから戻る」ということじゃなくて、「自信は無いけど、愛するダーシーや、騙してしまった リリパット国の人々を救うために戻る」という形にすべきじゃないのか。
あと、そうなるとダーシーは邪魔だよな。「リリパットの人々を救うため」という使命感や正義感に目覚めてくれた方が、流れとしては スッキリするわけだし。

ダーシーはガリバーの告白を「それはそれで嬉しいわ」と受け入れた上、自分からキスまでしているけど、ガリバーが平気で盗作したり 騙したりしていたことも、そんなに簡単に許しちゃっていいのかと。
それは簡単に許すべき行為ではないんじゃないか。
だから、そもそも「ガリバーが旅行記事を盗作して、それを絶賛したダーシーの依頼で旅行に出る」という序盤の展開自体に問題が あるのよ。

私はミュージカル・シーンが好きで、それが盛り込まれているというだけで、映画の評価点を上げてしまう傾向があるぐらいだ。
だが、この映画のラスト近く、揉めていたリリパット国とブレフスキュ国の王たちにガリバーが話し掛け、Edwin Starrの『War』を みんなで踊るシーンは、唐突だとしか感じないし、要らない。
全編をミュージカル映画にしてくれたのなら、それはそれでアリだったかもしれないけど、そこは着地点を上手く見つけられずに、 ミュージカル・シーンで誤魔化している印象さえ受ける。

(観賞日:2012年5月6日)


第31回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演男優賞[ジャック・ブラック]

 

*ポンコツ映画愛護協会