『エバン・オールマイティ』:2007、アメリカ

ニューヨークのバッファローでニュースキャスターをしていたエバン・バクスターは下院議員選に出馬し、当選を果たした。キャスターを辞職した彼は妻のジョーン、息子のジョーダン&ディラン&ライアンと共に、ヴァージニア州の高級住宅街であるプレステージ・クレストへ移り住む。新車を購入した彼は家族に「セレブ生活の始まりだ」と言い、ゴージャスな新居を披露した。ライアンは野良犬を見つけて飼いたがるが、エバンは「不潔だから駄目だ」と却下した。
エバンの選挙公約は「世界を変える」で、ジョーンは「それを実現するには神の力も必要よ」と言う。エバンは「神の力は必要ない」と言うが、妻が寝てから神に助けを求めた。翌朝、7時にセットしたはずの目覚まし時計が6時14分に鳴ったので、目を覚ましたエバンは奇妙に思った。彼が出掛けようとすると、金物店から大工道具が届いた。しかし彼は注文しておらず、木箱を確認すると住所が違っていた。エバンの家は416番地だが、書いてあるのは614番地だった。
執務室へ赴いたエバンは補佐官のマーティーや秘書のリタ、新入りスタッフのユージーンたちと会う。新人にしては豪華な執務室だったが、それは近所に住むロング議員の手配だと判明した。大物議員のロングはエバンに、公有地を民営化する法案を共同提案するよう頼んで来た。その日の内に大量の書類を確認しなければ期限に間に合わないが、エバンは子供たちと遊ぶ約束をしていた。マーティーから「これぞ貴方が望んでいたこと。世界を変えるんです」と説得されたエバンは自宅に書類を持ち帰り、子供たちは落胆した。
翌朝、大量の建材が運ばれてきたので、エバンは「注文してない」と業者に言う。しかし業者は「苦情はここへ」と書類を渡し、トラックで去ってしまう。エバンが書類の電話番号に掛けようとすると、テレビにデモ隊の様子が写し出された。プラカードに「創世記6:14」の文字を見つけた彼は聖書を開き、該当する部分を調べた。すると「ゴフェルの木」と書かれており、建材を届けた会社の名前も「ゴフェル・ウッド」と読めた。
そこへ神が現れ、「私からの新居祝いだ」と告げる。エバンは「箱舟を作るんだ」と指示されるが、相手が神だと信じないので無視する。しかし車を運転していると急に神が出現し、警官や通行人も全て同じ顔になった。執務室に到着した彼は、リタの内線が614番になったことや、車のナンバープレートがGEN614iに決まったことを知らされる。エバンが資源委員会に出席すると隣に神が現れ、「逃げ切れんよ。私は永遠だ」と告げた。彼は委員長に就任したロングから、改めて共同提案を依頼された。
帰宅したエバンは、ネットでノアの箱舟について調べた。翌朝、エバンは全て忘れようとするが、つがいの動物たちが行く先々で近寄って来た。歩いていると追い掛けて来たので、彼は慌てて議事堂に入った。エバンが執務室に入ると、大量の鳥が窓から入って来た。ロングが他の共同提案者であるドッド議員たちを引き連れて執務室に来たので、エバンは慌てて取り繕った。その場凌ぎの適当な嘘を並べたのだが、ロングたちは納得して立ち去った。
その後も多くの動物に付きまとわれる状態が続き、エバンは「やめてくれ」と絶叫した。すると神が出現し、「箱舟を造れば解決さ」と言う。彼はエバンに建物が全く無かった頃のプレステージ・クレストを見せ、「この谷を造った時、日光が注ぐように山並みを東から西へ整えた」と告げた。ようやく相手が神だと信じたエバンは、なぜ自分を選んだのか尋ねる。「世界を変えたいと言った。私もだ」という神の答えに、彼は「箱舟造りなんて予定外だ。どこから手を付ける?」と言う。すると神は「人は世界を変える方法を分かってない。方法を教えよう。愛とリスペクトの行為だよ。君が造れば動物は私が集める。人に訊かれたら、洪水が来ると言え」と述べた。神は箱舟造りの入門書をエバンに渡し、姿を消した。
翌朝、また6時14分に目覚ましが鳴り、起床したエバンは山男のような口髭と顎髭が生えているのに気付いて驚いた。彼は慌てて髭を剃るが、すぐに生えて来た。エバンは髭剃りを諦め、妻に「週末だから、いいかなって」と告げる。そこへ不動産屋のイヴ・アダムスが訪ねて来て、エバンが自分が新居を担保にして近隣の土地を購入したことを知らされる。8区画を購入したことへの説明をジョーンに求められ、エバンは「驚かせようと思って」と言う。彼が「舟を造る必要がある」と口にしたので、妻は激しく動揺した。
エバンは子供たちに、「週末はずっと箱舟を造る」と宣言した。しかし電動工具も使えず、慣れない作業なので、いきなりエバンは木槌で指を打ち付けた。エバンがマーティーから呼び出されて執務室へ到着すると、さらに頭髪や髭が伸びてヒッピーのような外見になっていた。法案の同意書が出来たので署名が必要だとマーティーに言われた彼は、「それは無理だ。ロング議員には会えない」と告げた。しかしロングと遭遇してしまったので、エバンは「夫婦サービスのためです。妻は狼男が好きなので」と咄嗟に話す。ロングは「法案は2週間後に提出し、ケーブルテレビで中継する」と告げ、改めて協力を要請した。
エバンと息子たちは箱舟造りを続けるが、木材を吊り上げる道具が必要だと考えた。すると神は木製のクレーン車を用意し、エバンたちは作業を続行する。エバンは神に与えられた服を着用し、ノアそっくりの姿になった。その服装のままエバンが夕食を取っていると、テレビの天気予報に神が現れて「9月22日の正午までに箱舟を完成させないと大変です」と告げた。ジェーンはエバンに、「その姿は何?正直に言って」と訴える。エバンが「神が現れて、箱舟を造れと言った。洪水が起こるから備えよと。髭や髪は剃っても生える。この服も神が置いていった」と語ると、ジェーンは「この家へ引っ越して来たことが重圧になったのね。でも貴方は息子たちの父親で、私の夫なのよ」と涙ぐんだ。
翌朝、エバンはスーツに着替えて出勤しようとするが、家を出ると全裸になってしまう。仕方なくエバンは神の用意した服に戻り、その上にスーツを着た。ところが法案を提出する委員会で指名されたエバンが立ち上がると、スーツが脱げてノアの格好になってしまう。さらに大量の動物が押し寄せたので、ロングはエバンに追い払うよう要求した。エバンは「それは無理です。彼らは野生の動物だ」と拒否し、「9月22日の正午に洪水が起きると神に言われた」と語った。
エバンはロングの法案から名前を外され、警備員に議場からつまみ出された。テレビの生中継が入っていたため、ジェーンと息子たちは一部始終を見ていた。ジェーンは子供たちを連れて、実家へ行くことにした。エバンは「神のせいだ。クビにして箱舟造りに専念させるためだ」と必死で釈明するが、ジェーンは冷たく突き放して立ち去った。エバンは野次馬やリポーターのエドたちが押し寄せる中、独りで箱舟造りを続けた。
食堂には言ったジェーンは、客たちの夫を馬鹿にする言葉を耳にして辛くなる。そこへ店員を装った神が現れて話し掛けるが、もちろんジェーンは相手の正体に気付かない。神は彼女に、「人はノアの箱舟の物語を誤解している。テーマは神の怒りではなく、愛の物語だ。信じ合う心だ。神が命じたというのは、家族が愛し合うためのチャンスだ」と話す。ジェーンが子供たちを連れてエバンの元へ戻ると、髪も髭も真っ白になっていた。ジェーンは「貴方に何が起きたのか分からないけど、家族で助け合って乗り越えるわ」と言い、ロングが箱舟は違法だと訴えて強制撤去しようと目論んでいることを教えた。エバンと家族は動物たちの協力を得て、箱舟の完成を目指す…。

監督はトム・シャドヤック、キャラクター創作はスティーヴ・コーレン&マーク・オキーフ、原案はスティーヴ・オーデカーク&ジョエル・コーエン&アレック・ソコロウ、脚本はスティーヴ・オーデカーク、製作はゲイリー・バーバー&ロジャー・バーンバウム&ニール・H・モリッツ&トム・シャドヤック&マイケル・ボスティック、製作総指揮はトム・ハンクス&ゲイリー・ゴーツマン&デイヴ・フィリップス&マット・ルーバー&イロナ・ハーツバーグ、共同製作はジョナサン・ワトソン&アマンダ・モーガン・パーマー&オリー・マーマー、製作協力はジャネット・ワトルズ&ジェイソン・ウィルソン、撮影はイアン・ベイカー、美術はリンダ・デシーナ、編集はスコット・ヒル、衣装はジュディー・ラスキン・ハウエル、視覚効果監修はダグラス・ハンス・スミス、音楽はジョン・デブニー。
出演はスティーヴ・カレル、モーガン・フリーマン、ローレン・グレアム、ジョン・グッドマン、ジョン・マイケル・ヒギンズ、ジミー・ベネット、ワンダ・サイクス、ジョナ・ヒル、モリー・シャノン、グレアム・フィリップス、ジョニー・シモンズ、エド・ヘルムズ、レイチェル・ハリス、ブライアン・ハウ、ハーヴ・プレスネル、マディソン・メイソン、ブルース・グレイ、ポール・コリンズ、ジム・ドゥーハン、メーガン・フェイ、ディーン・ノリス、ジョン・スチュワート他。


ジム・キャリーが主演した2003年の映画『ブルース・オールマイティ』でライバルのポジションだったエバンを主役に据えた作品。
監督のトム・シャドヤック、脚本のスティーヴ・オーデカークは、いずれも『ブルース・オールマイティ』に続いての参加となる。
エバン役のスティーヴ・カレルと神様役のモーガン・フリーマンは、『ブルース・オールマイティ』からの続投。アンクレジットだが、スーザン役のキャサリン・ベルも続投組。
ジョーンをローレン・グレアム、ロングをジョン・グッドマン、マーティーをジョン・マイケル・ヒギンズ、ライアンをジミー・ベネット、リタをワンダ・サイクス、ユージーンをジョナ・ヒル、イヴをモリー・シャノン、ジョーダンをグレアム・フィリップス、ディランをジョニー・シモンズ、エドをエド・ヘルムズが演じている。

この映画で何よりも特筆すべきは、その予算だ。前作が約8100万ドルだったのに対し、本作品は約1億7500万ドル(約213億円)。倍以上の予算に跳ね上がっている。前作はアメリカでの興行収入が約2億4000万ドルの大ヒットだったので、ユニバーサル・ピクチャーズも絶対に行けると確信して大胆に増額したのだろう。
単に「前作の倍以上」というだけではピンと来ない人かもしれないが、他の映画と比べてみれば、いかに高額の製作費なのかが分かるはずだ。
この作品と同年にアメリカで公開された映画の製作費を幾つか挙げてみると、『ダイ・ハード4.0』が約1億1000万ドル、『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』と『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』が約1億3000万ドル、『トランスフォーマー』が約1億5000万ドル。それらの大作映画よりも、こっちの方が予算が多いのだ。
しかも列挙した4本は、全てSFやアクション系の映画だ。コメディー映画で約1億7500万ドルってのは、かなりの金額だ。それで黒字を出そうってのは、なかなか厳しいモノがある。
実際、この映画はアメリカでの興行収入が約1億ドルで、それだけ見れば充分な儲けのはずだ。でも支出が多すぎて、その収入では追い付かない状態になったわけである。

冒頭、エバンか家族を連れて引っ越すシーンが描かれ、「セレブ生活の始まりだ」と言う。そんな彼の様子からは、「セレブ生活目当てで下院議員に立候補した」ってことが窺える。
なので「世界を変える」という公約も、ただ調子のいいことを言っただけで本気じゃないのかと思ったら、神に祈って「権力には大きな責任が伴います。僕は世界を変えたい」と話している。
もはや最初の段階で、こいつのキャラがボンヤリしているように感じられる。
そこは「セレブになりたかっただけで、公約なんてテキトーに言っただけ。ホントは何も考えちゃいない」という軽薄な奴にでもしておいた方が良かったんじゃないかと。

この映画だと、エバンは最初から「真面目でやる気のある下院議員」というキャラクターになっているのよね。それだと、「神様の導きによって考え方や行動が大きく変化する」というストーリーが弱くなっちゃうでしょ。
そもそも最初から「真摯な態度で世界を変えようと考えている」という男であるならば、神が導く必要性も無いわけで。
「真面目な奴だから神がリーダーとして起用した」ってことは言えるかもしれないけど、それって話としては面白くならないでしょ。普通に「ノアの方舟」の現代版をやっているだけになってしまうでしょ。
コメディーなんだから、そこは「リーダーとは縁遠いようなキャラ」にしておいた方が絶対にいいでしょ。

っていうかさ、「本気で世界を変えようとしている真面目な男」という設定にしておいて、一方で「神を信じずに軽く追い払い、箱舟を作れという指示は無視しようとする」という行動を取らせているので、なんだかなあと。
いや、もちろん真面目な奴でも急に「私は神様」と主張する奴が現れたら信じないだろうけどさ、そういう展開を用意するんだったら、なおさら「軽薄でテキトーな奴」にしておいた方がキャラとしてスッキリするでしょ。
「真剣に世界を変えようとしている男」という設定は、コメディーとしての力を無駄に減退させるだけで何の得も無いよ。むしろ「公約は口先だけで何も考えちゃいなかったけど、神の指示を受けた成り行きで、ホントに世界を変えるために奔走する羽目になる」という内容にした方が話として弾むでしょ。
そこに限らず、この映画ってコメディーとして突き抜けよう、弾けようという意識が乏しくて、やたらと行儀よくなっているのよね。

エバンは議員になった初日からロングに見込まれ、法案の共同提案を求められる。その段階では、少なくとも浮かれた気分にはなっていたはずだ。
ところが、「エバンは出世のためにもロングの法案にノリノリで、それがもたらす問題など全く考えずに賛同しようとする」という段階は全く描かれていない。「2つか3つは質問があるけど、提案には前向き」という意志が薄く示されるだけ。
そんな状態の中で、「神から箱舟造りを求められる」という展開が訪れる。それを拒絶したエバンが法案を進めようとするという手順も無いまま、あっさりと「箱舟造りを始める」という流れに突入する。
なぜ自ら用意した調味料を使わず、薄味に留めるのか理解不能だ。

前半の内にエバンは謎の男が神だと受け入れ、箱舟造りを始める。
つまり、彼は目的が分からないままではあるが、神の意志に従って箱舟造りに邁進するようになるのだ。
でも、そこは「神なんて信じないし、ホントは嫌だけど、何らかの事情で仕方なく」という形にでもしておいた方がいいんじゃないかと。そして、「最初は渋々だから全くやる気は無かったけど、少しずつ考えが変化し、真摯な気持ちで取り組むようになる」という展開を用意した方かいいんじゃないかと。
そのためには、もちろんエバンのキャラ設定を変える必要があるけどね。
ようするに、この映画にとってエバンのキャラ設定が中途半端になっていることが、諸悪の根源なのよ。

エバンが遊ぶ約束を破って仕事を持ち帰ると、上の息子たちは腹立たしさを見せ、ライアンは寂しそうにする。そんな子供たちはエバンから「週末は箱舟を造る」と言われると、最初から積極的に協力する。
「なんで?」と言いたくなってしまう。
大きな箱舟を造って何がしたいのか、その時点で子供たちは何も分かっちゃいないでしょ。だったら、なぜ「何に使うのか」と疑問を抱かないのか。そして一緒に遊べる週末を箱舟造りに費やすことに対し、なぜ不満を漏らさないのか。
聞き分けの良すぎる子供たちには、違和感を禁じ得ない。親子愛のドラマを用意せず、単に「作業員としての数合わせ」として使うだけに留めるぐらいなら、子供たちなんて要らなくないか。
あと、箱舟造りはノリノリだったのに、生中継で「神が云々」とエバンが言った途端に息子たちが見放してジェーンと共に去ってしまうのは、キャラの動かし方がフワフワしているように感じるぞ。

この映画の製作費が莫大に膨れ上がった原因は、大量の動物を揃えたり、巨大な箱舟を造ったり、大規模な洪水を描いたりと、「スケールの大きなスペクタクル映画」としてのシーンを用意したからだ。ノアの箱舟の話を再現しなきゃいけないので、そういうことになるわけだ。
で、もちろんクライマックスは洪水のシーンで、それまで信じていなかった面々は慌てて箱舟に乗り込んで助かる。
だけど、箱舟に乗船したのは近くにいた人々だけなのよ。あれだけ大規模な洪水が起きたら、かなりの犠牲が出ているんじゃないかと思うのよね。
なので、「エバンの言葉が正しいことを周囲に信じてもらい、人々も救われてハッピー」みたいな着地になっているけど、なんかモヤッとしたモノが残るぞ。

(観賞日:2017年12月25日)


第28回ゴールデン・ラズベリー賞(2007年)

ノミネート:最低序章・続編賞

 

*ポンコツ映画愛護協会