『おまけつき新婚生活』:2003、アメリカ&ドイツ

編集者ナンシー・ケンドリックスと新人小説家のアレックス・ローズは、ニューヨークで暮らす新婚夫婦だ。新居を探していた2人は、 不動産業者のケネスからブルックリンに建つ物件を紹介される。その内装や広さを一目で気に入ったナンシーだが、1つだけ問題があった 。そこは2世帯住宅で、2階には老女のコネリー夫人が住んでいるのだ。賃貸法があるので、追い出すことは出来ない。夫婦がケネスに 連れられて挨拶に行くと、夫人は弱々しい様子を見せた。
周辺環境も申し分なく、ナンシーとアレックスはケネスへの即答を避けた。2人は売れっ子作家である親友のクープと恋人のセリーヌに、 その物件のことを話した。クープは2人に、セリーヌが妊娠4ヶ月であることを打ち明けた。ナンシーはコネリー夫人の死期も近いだろう と考え、あの家を購入しようとアレックスに持ち掛けた。荷物を運び込んだ2人は、引っ越しの挨拶をするために2階を訪れた。すると コネリー夫人は元気一杯の態度で迎えた。この前は風邪をひいていただけだという。
その夜、ナンシーとアレックスがベッドに入ると、2階からテレビの大音量が聞こえてきた。アレックスは2階へ行き、ボリュームを 下げるよう頼んだ。しかしベッドに戻ると、またテレビの大音量が響いて来た。結局、その音は朝まで鳴り止まなかった。翌朝、ナンシー はアレックスに2作目の原稿を執筆するよう告げ、会社に赴いた。しかしアレックスはコネリー夫人から水道管の修理やゴミ捨てを頼まれ 、まるで仕事が進まなかった。翌日も彼は夫人の買い物に付き合わされ、執筆の時間を潰されてしまった。夜になると相変わらず2階から 大音量が響き、ナンシーとアレックスは全く心が休まらなかった。
次の朝、コネリー夫人の楽団仲間だという大勢の老人たちがやって来た。金曜に教会でコンサートがあるというので、部屋で練習をすると いう。その音が騒がしいので、ナンシーとアレックスは買い物に出掛けた。帰宅した2人は情事にふけった後、ステンド・グラスの向こう からコネリー夫人が覗いているのに気付いた。彼女が外出したので、アレックスは買って来た音声センサーを取り付けに行くことにした。 それを使えば、手を叩くことでテレビの音声を消すことが出来るのだ。
アレックスはナンシーに見張りを頼み、2階の部屋に侵入してセンサーを取り付ける。だが、ナンシーが気付かない内に夫人が戻って来た ため、アレックスは慌てて隠れた。夫人が帰宅したことに気付いたナンシーは、慌てて2階へ赴いた。ナンシーが気を逸らせている間に 脱出を試みたアレックスは、窓から落下した。その夜、アレックスはセンサーを使ってテレビの音声を消す。だが、センサーの使い方が 書かれた箱を2階へ置いて来たため、すぐにコネリー夫人が音声を戻してしまった。
次の日、出勤したナンシーは、入稿日で忙しく仕事をする。そこへコネリー夫人が電話を掛けて来たので、ナンシーは困り果てる。上司の ハーマンからお勧めレストランのデータを出すよう求められたナンシーは、内容を確認せずにDVDを渡した。ナンシーとアレックスは ホーム・パーティーを開き、知人や友人たちを招待した。アレックスは担当編集者のジーンから、水曜までに原稿を書き上げるよう要求 された。クープはアレックスに、チックという殺し屋を呼んだことを教える。最新作のヒントをチックから貰ったのだという。
ナンシーは部屋の内装を自慢したくなり、コンサートでコネリー夫人が外出している間を狙って、数名の招待客を2階の部屋に案内する。 しかし夫人は出掛けておらず、ドアを開けたハーマンに催涙スプレーを浴びせた。連絡を受けて駆け付けた警官のダンは、ナンシーと アレックスに「大家でも勝手に入る権利は無い。これから監視ますよ」と鋭い口調で告げた。後日、ナンシーはハーマンからクビを宣告 される。ナンシーが渡したDVDのデータは、全てアレックスの写真だったのだ。
失業したナンシーは、締め切りが近いアレックスを執筆に集中させるため、自分が家に居てコネリー夫人の雑用係を引き受けると申し出た 。アレックスは「君には堪えられないよ」と反対するが、ナンシーは「任せておいて」と自信を見せる。アレックスが執筆のために外出 した後、ナンシーはコネリー夫人から雑用を押し付けられる。アレックスが予想した通り、雑用の数々とコネリー夫人の嫌味な態度は、 ナンシーの精神を参らせた。
ナンシーとアレックスは相談し、コネリー夫人に出て行ってもらおうと考える。2人は夫人の部屋を訪れて穏便に会話を交わし、引っ越し を提案する。話している最中、コネリー夫人はチョコを喉に詰まらせて苦悶する。ナンシーとアレックスはチョコを吐き出させ、人工呼吸 でコネリー夫人を救った。しかし夫人はダンに「アレックスに犯されそうになった。ナンシーに押さえ付けられた」と訴えた。
何とか小説を書き上げたアレックスが帰宅すると、コネリー夫人が「ドブネズミが部屋にいる」と陳情する。アレックスが様子を見に行く と、夫人は「暖炉の中にいる」と騒ぎ、彼のノートパソコンが入った鞄を投げ入れる。アレックスは慌てて鞄を取り出し、家の外に運ぶ。 しかし階段でつまずいて鞄を道路に投げ出してしまい、走って来たトラックにパソコンを潰されてしまった。アレックスはジーンに事情を 説明するが信じてもらえず、出版は中止になった。
ナンシーとアレックスは家を売ろうと考えるが、ケネスから「かなり安くしないと売れない」と言われてしまう。2人は様々な作戦で コネリー夫人を死に至らしめようとするが、ことごとく失敗に終わった。そこで2人は回りくどい方法を諦め、チックにコネリー夫人の 殺害を依頼した。報酬が高額だったため、ナンシーとアレックスは家財道具を全て売り払って金を工面した。作戦実行の夜、ナンシーと アレックスが階下で待機する中、チックはコネリー夫人の部屋に侵入した…。

監督はダニー・デヴィート、脚本はラリー・ドイル、製作はベン・スティラー&スチュアート・コーンフェルド&ジェレミー・クレイマー &ナンシー・ジュヴォネン&ドリュー・バリモア、共同製作はラリー・ドイル、製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ ワインスタイン&メリル・ポスター&ジェニファー・ワクテル&リチャード・N・グラッドスタイン&アラン・C・ブロンクィスト、 撮影はアナスタス・ミコス、編集はリンジー・クリングマン&グレッグ・ヘイデン、美術はロビン・スタンドファー&スティーヴン・ アレシュ、衣装はジョセフ・G・オーリシ、音楽はデヴィッド・ニューマン。
出演はドリュー・バリモア、ベン・スティラー、アイリーン・エッセル、ハーヴェイ・ファイアスタイン、ジャスティン・セロー、 ジェームズ・レマー、ロバート・ウィズダム、スウージー・カーツ、ウォーレス・ショーン、マーヤ・ルドルフ、アンバー・ヴァレッタ、 シェリル・クライン、ティム・マクラン、ジャッキー、ティトーネ、ユージーナ・ラザレフ、クマール・パラナ、フィリップ・パールマン 、ゲイリー・ライオット、ミシェル・クルージ、マージー・ルーミス、リンダ・ポーター他。


『マチルダ』『デス・トゥ・スムーチー』のダニー・デヴィートが監督を務めた作品。これまで自身の監督作品には必ず出演してきた デヴィートだが、今回はナレーションだけ(しかもアンクレジット)。
脚本は『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』のラリー・ドイル。
ナンシーをドリュー・バリモア、アレックスをベン・スティラー、コネリー夫人をアイリーン・エッセル、ケネスを ハーヴェイ・ファイアスタイン、クープをジャスティン・セロー、チックをジェームズ・レマー、ダンをロバート・ウィズダム、ジーンを スウージー・カーツ、ハーマンをウォーレス・ショーン、セリーヌをアンバー・ヴァレッタが演じている。

かつて『ローズ家の戦争』も撮っているダニー・デヴィートだが、ブラックなコメディーが好きなのかもしれない。ただ、まるで笑えない 仕上がりになっている。
ブラック・コメディーだから笑えないのではない。ブラック・コメディーとして、ちゃんと成立していないのだ。
ブラックであっても、何よりもまず「喜劇である」という基本を忘れてはいけない。
もちろんダニー・デヴィートも「喜劇を作っている」という意識が無いわけじゃないだろう。でも結果として笑えないんだから、見ている 側からすると、忘れているのと大差が無い。

本来なら、「新婚夫婦が老女に振り回され、翻弄される」というところを笑うべきなんだろう。
しかし、コネリー夫人が単純に不愉快なクソババアになっているので、これっぽっちも笑えないのだ。
コネリー夫人は「親切心からお節介を焼くけど、夫婦からすると傍迷惑」とか、「無邪気に振る舞っているけど、夫婦からすると傍迷惑」 とか、そういうキャラクターではない。「まあ仕方が無い、大目に見てやろう」と思えるような、愛すべき住人ではない。
したたかな彼女の振る舞いには、まるで気持ちが高揚しない。心底から腹立たしい、タチの悪いクソババアだ。
彼女には明らかに悪意があり、もはや犯罪レベルのことをやらかしている。

ナンシーとアレックスが傲慢だったり無礼だったりすれば、そんな2人がコネリー夫人に翻弄される姿を見て笑うことが出来たかも しれない。
しかし、2人は「幸せな新婚生活を送りたい」と望んでいるだけの、何の落ち度も無いカップルだ。コネリー夫人への接し方も、「後で 仕返しされても仕方が無い」と思わせるような部分は全く無かった。
だから、この映画は「善良な市民が身勝手極まりない老女に迷惑を掛けられる」という話になっている。
そんな話を見せられて、何をどう笑えばいいというのか。

話が進むにつれて、コネリー夫人の嫌がらせはどんどんエスカレートしていく。それに伴い、不快感や嫌悪感も増していく。
後半に入り、ナンシーとアレックスが夫人を殺そうとする展開に入るが、ホントに殺していたとしても、スッキリした気持ちになった だろう。それぐらいコネリー夫人の不快感は強い。
ナンシーたちが早い段階で夫人を追い出そうと企み、「計画はことごとく失敗する」という部分を厚く描写すれば、「どっちも振る舞いに 問題のある人間」ということになり、少しはマシな印象に変わったかもしれない。
でもまあ、あくまでも「少しはマシに」という程度だろうなあ。
その程度では、コネリー夫人の不愉快さは打ち消せないわ。

これはもはや喜劇ではなく、サイコ・サスペンスの世界だ。
たぶんダニー・デヴィートとしては、描き方によってはサイコ・サスペンスになりそうな素材を、ブラック・コメディーとして調理して いるつもりなのだろう。
しかし、そこに笑いが無い以上、出来損ないのサイコ・サスペンスでしかない。
ナンシーとアレックスがコネリー夫人を殺そうとする手順に入り、ようやく少しだけ喜劇の色が見えてくるが、それは夫人が関与しない ところで夫婦が勝手にヘマをやらかすからだ。
作戦失敗に夫人が関わると、また不愉快モードに逆戻り。

「2人が夫人を助ける」という生温い展開の後、不快感を上積みするオチが待ち受けている。
ラストシーンで、「実はコネリー夫人とケネスとダンは結託しており、入居者を次から次へと標的にしていた」ということが明らかに なるのだ。
そこでニヤリと笑えるのが、ブラック・コメディーというものだろう。
しかし実際には、それがサイコ・サスペンスのオチにしかなっていない。
そんなことを最後に明かされても、それをコメディーのオチとして見せられても、ただ不快感が増すだけだよ。

(観賞日:2013年5月13日)


第24回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[ドリュー・バリモア]
<*『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』『おまけつき新婚生活』の2作でのノミネート>


第29回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演女優】部門[ドリュー・バリモア]
<*『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』『おまけつき新婚生活』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会