『噂のモーガン夫妻』:2009、アメリカ
ニューヨークに住むポール・モーガンは敏腕弁護士で、妻のメリルは不動産会社の女社長。2人ともニューヨークでは名の知れたセレブで 、雑誌の表紙を飾ることもある。だが、ポールの浮気が発覚したため、3ヶ月前から2人は別居中だ。ポールは何とかヨリを戻そうと プレゼントを贈り、何度も電話を掛けているが、メリルは出てくれない。そこでポールはメリルが参加する慈善パーティーの会場へ赴き、 彼女とコンタクトを取ることにした。
ポールはメリルを夕食に誘い、自分の助手アダムと彼女の助手ジャッキーにスケジュールを調整してもらう。レストランに赴いたポールは 、メリルに夫婦カウンセリングに通うことを提案する。だが、メリルは難色を示した。食事を終えた後、メリルはポールを誘って散歩に 出た。雨が降り出す中、彼女が「貴方への愛が分からなくなった」と言うと、ポールは改めて夫婦カウンセリングを提案した。
メリルは顧客のラブレーがバルコニーにいるのを目撃し、近付いて声を掛けた。するとラブレーはバルコニーから転落する。彼は背中を ナイフで刺されて死んでいた。部屋から出て来た犯人に気付いたポールは、悲鳴を上げそうになるメリルの口を押さえる。しかし犯人は 2人に気付き、拳銃を構えた。ポールとメリルは、慌てて逃げ出した。連邦保安官のラスキーは2人に、アントン・フレンスキーという男 を検挙するため、ラブレーに協力させていたことを説明した。
メリルの警護を連邦保安官のヘンダーソンが、ホテルで暮らすポールの警護を連邦保安官のフェーバーが担当することになった。ラブレー 殺害犯のヴィンセントは、雑誌の表紙に写っているメリルの姿を目にした。彼はメリルの家に乗り込み、ヘンダーソンに発砲した。彼は メリルの命を狙うが、アパートの住人が来たために逃走した。ラスキーはポールとメリルに、証人保護プログラムに入るよう勧める。 「一時的に避難してもらうが、飛行機に乗るまで行き先は教えられない」と彼は説明した。
ポールは承諾するが、メリルは「仕事もあるし、ニューヨーク生まれだから市外での暮らしには向かない」と嫌がる。しかし結局は、承諾 せざるを得なかった。ポールとメリルは携帯電話やカードを没収され、飛行機に乗り込んだ。ラスキーは、2人に、ワイオミングのレイと いう町へ行くことを教えた。それから彼は、メリル・フォスターとポール・フォスターという一時的なIDを渡し、誰かに会っても本当の 身元を明かさないよう注意する。
ラスキーはポールとメリルに、現地の保安官クレイ・ウィーラーの保護下に入ることを語る。メリルが彼の従妹でシカゴ出身という設定に なるのだという。空港に降り立ったポールとメリルは、出迎えに来ていたクレイの車に乗り込んだ。ショッピングモールでクレイの妻エマ に遭遇すると、彼女はハンティングのための猟銃を持っていた。レイはワイオミングの田舎町で、しかもウィーラー夫妻は町外れに住んで いた。今までと全く違う生活環境に、ポールとメリルは戸惑いを隠せなかった。
ヴィンセントは客を装ってメリルのオフィスを訪れ、発信機や盗聴器を仕掛けた。一方、ウィーラー夫妻が出掛けた後、メリルは「食事は 口に合わない、自由にショッピングできない、仕事も出来ない」と不満をぶちまける。ポールは「休暇だと解釈して受け止めよう」と彼女 をなだめた。しかしメリルが我慢できずにジョギングへ出掛けたので、ポールも同行した。家に戻ってメリルが屋内に入った直後、ポール の背後に熊が現れた。メリルが熊用スプレーで追い払うが、誤ってポールの顔にも浴びせてしまった。
ポールはメリルと共に病院へ行き、シモンズ医師の診察を受ける。町に病院は1つだけなので、内科も外科も全て彼が担当している。壁に 飾られている子供たちの写真を見たメリルは、シモンズがポールの診察で席を外している間に電話を拝借し、養子斡旋所のトリッシュ・ ピンガーに連絡を取って留守電にメッセージを残した。その夜、メリルはポールに、養子斡旋所へ電話を掛けたこと、2ヶ月前に養子縁組 を頼んでいたことを明かす。子供を持つことについて、2人は口論になった。
翌朝、ピンガーからメリルの事務所に電話が入った。電話を受けたジャッキーは、メリルの連絡先を聞く。その会話を、ヴィンセントが 盗聴していた。ウィーラー夫婦はポールとメリルを誘い、乗馬や射的をさせる。初めて猟銃を撃ったメリルは、すっかり夢中になった。 続いて猟銃を発砲したポールは、その衝撃で肩を痛めて診察に赴いた。メリルが不動産ブローカーと知っったシモンズは、「母の家の 買い手が付かない」と相談する。メリルはシモンズの母の家を見に行くことにした。
ポールはエマに、「夫婦が喧嘩したら仲直りはどうする?」と尋ねる。エマは、クレイがデートに誘ってくれて食事したことを話した。 そこでポールはメリルをデートに誘い、町で一軒しか無いカフェに出掛けた。しかしオーナーのアールと言い合いになってしまい、2人は すぐに店を出る。ちょうど店に来たシモンズが、「帰るなら僕のトラックを使えばいい」と言ってくれた。2人は彼の車を借りて帰路に 就くが、道に迷ってしまった。メリルが「どうして彼女と浮気したの?どんな人?」と尋ねるので、ポールは必死に言い訳した。ポールが 「僕は愚かだった、罪深さを感じていた」などと話すと、メリルは少しだけ納得した様子で微笑を浮かべた。
翌日、ポールとメリルは一緒にジョギングし、町の人々に挨拶をする。ポールは孫娘ルーシーのことでアールの相談に乗り、メリルは シモンズの母の家を売却する。それから2人はビンゴ大会に参加し、15ドルを当てる。その夜、2人は美しい星空を見上げ、結婚式での 誓いの言葉について語り合う。2人は楽しい気分で会話を交わし、キスをして、ベッドを共にした。一方、ヴィンセントはポールとメリル がレイにいることを突き止めた…。脚本&監督はマーク・ローレンス、製作はマーティン・シェイファー&リズ・グロッツァー、共同製作はメリッサ・ウェルズ、製作協力は サラ・ウッドハッチ、製作総指揮はアンソニー・カタガス&ライアン・カヴァナー、撮影はフロリアン・バルハウス、編集はスーザン・E ・モース、美術はケヴィン・トンプソン、衣装はクリストファー・ピーターソン、音楽はセオドア・シャピロ。
出演はヒュー・グラント、サラ・ジェシカ・パーカー、サム・エリオット、メアリー・スティーンバージェン、エリザベス・モス、 マイケル・ケリー、ウィルフォード・ブリムリー、ジェシー・リーブマン、デヴィッド・コール、キム・ショウ、セス・ギリアム、 ケヴィン・ブラウン、スティーヴン・ボイヤー、シャロン・ウィルキンス、グレイシー・ビー・ローレンス、ナタリア・クリマス、 ダナ・アイヴィー、ヴィンチェンゾ・アマト、ベス・ファウラー、サンドル・テクシー、クリストファー・アトウッド他。
『トゥー・ウィークス・ノーティス』『ラブソングができるまで』のマーク・ローレンスが監督と脚本を務めた作品。
ポールをヒュー・ グラント、メリルをサラ・ジェシカ・パーカー、クレイをサム・エリオット、エマをメアリー・スティーンバージェン、ジャッキーを エリザベス・モス、ヴィンセントをマイケル・ケリー、アールをウィルフォード・ブリムリー、アダムをジェシー・リーブマン、シモンズ をデヴィッド・コール、ケリーをキム・ショウ、ラスキーをセス・ギリアムが演じている。一言で言えば、かなりヌルい仕上がりの映画だ。
この作品は、その1つでも1本の映画が作れそうな要素を3つ組み合わせている(その1つだけで面白い映画が出来るかどうかは、また別 の話だが)。
その要素とは、「別居中の男女が関係を修復する恋愛劇」「都会暮らしに慣れた夫婦が田舎での生活にカルチャーギャップを感じるが次第 に馴染んでくるというドラマ」「殺人を目撃した夫婦が命を狙われるサスペンス」という3つだ。
どれも使い古された要素ではあるが、それはそれで別に構わない。
問題は、その3つ全ての描写が、中途半端でヌルイものになっているということだ。まず1つ目の要素だが、別居しているモーガン夫妻は、心ならずも田舎町の同じ家で生活することになる。
だったら、そこは「最初は険悪だった2人が、慣れない土地で暮らす内に互いの良さを再確認し、あるいは今まで見えなかった長所を発見 し、愛を取り戻す」という流れで物語を構築していくのがセオリーだろう。
ところが、モーガン夫妻は最初から、そんなに険悪な関係に陥っていないのである。
そもそもポールは最初からヨリを戻したがっており、メリルを嫌ってはいない。メリルの方も、距離は置いているが、ポールを徹底的に 拒絶するとか、浮気を許せずに罵倒するとか、そういう態度は取っていない。「今でも愛情は残っているけど、結婚生活を続けていくこと が出来るかどうか分からなくなっている」という、揺らぎの状態にある。そんなわけだから、「ちょっとしたきっかけで、すぐに関係は修復できそうだな」と思えるのだ。
それこそカウンセリングを受ければ、何とかなりそうだなと。
だけど、それじゃダメでしょ。そこは「すぐに喧嘩になってしまうぐらい険悪な関係」にしておくのがセオリーってもんだ。あえて夫婦間 の溝を「いがみ合うほどの関係じゃない」という程度に留めてあるところを、「使い古された要素の中に盛り込まれた新鮮味」として 好意的に解釈することは無理だ。
そこはベタにやるべきで、そんな捻りを加えても、何のプラスにもなっていない。
っていうか、それを製作サイドが「新鮮味」として持ち込んでいるのかどうかは知らんけど。後半に入って、一度は関係を修復したかに見えたポールとメリルが、子供を持つことに対する考えの相違を残していたり、メリルが別居中 に他の男と寝たことを打ち明けたために今度はポールの気持ちが離れてしまったりという展開がある。
「後半にもう一波乱」という構成は、別に悪くない。
ただ、それは「前半から関係が最悪で、それが修復に向かいつつあったのに元の木阿弥」という流れならいいけど、前半はそんなに険悪 じゃなくて、後半に入ってからの方が遥かに関係が悪化するってのは、なんか違うんじゃないかと。2つ目の要素だが、まずポールの方は、それほどカルチャーギャップに戸惑ったり、苛立ったりしている様子は無い。
メリルだけがそれを大きく表現している。
そのメリルにしても、カルチャーギャップを使った喜劇的なネタってのは、それほど多くない。
動物愛護協会の人間だから猟銃や動物の剥製に戸惑うとか、ベジタリアンだから肉を使った食事に戸惑うとか、そういう描写はあるけど、 せいぜい「戸惑いを隠せない」というだけなのだ。田舎のルールに慣れないからヘマをやらかすとか、田舎でも都会と同じ行動を取ろうとして失敗するとか、そういうことは無い。
メリルにしろポールにしろ、基本的に物分かりがいい人なので、戸惑いはあっても、それなりに適応してしまうのだ。
だから、「最初は慣れない生活に失敗ばかりを繰り返し、嫌気が差していたが、次第に慣れていく」というところの面白さが 感じられない。
また、猟銃を撃たせてもらったメリルがノリノリになるシーンがあるが、そこは見せ方が弱いので、「最初に猟銃を見た時には拒否反応を 示していたのに、いざ撃ってみると楽しくなってノリノリに」ということでの面白さが伝わらない。3つ目の要素に関しては、たまにヴィンセントが登場するものの、サスペンスの要素は薄い。
たぶん、ここは最初から脚本の主眼として置かれていないんだろう。「別居中の夫婦を田舎で一緒に生活させる」という目的を遂行する ために、「殺人事件を目撃して命を狙われ、証人保護プログラム下に入る」という設定を用意しただけなんだろう。
だから、サスペンスがヌルいのは、まあ別に構わない。
ただ、前述した2つの要素に関しては、もっと充実した描写にしておくべきだ。
っていうか、ぶっちゃけ、その2つの要素を薄めるか排除して、サスペンスの部分を厚くした方が良かったかもしれないなあ。(観賞日:2013年2月14日)
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