『カントリー・ベアーズ』:2002、アメリカ

かつて4匹の熊によるバンド“ザ・カントリー・ベアーズ”は絶大な人気を博し、人々を熱狂させていた。そのメンバーは、リード・ヴォーカルとギター担当のテッド、フィドルのゼブ、一弦ギターのテネシー、ハーモニカ&ベースのフレッドという顔触れだ。しかし彼らは、まだ人気絶頂の1991年に行ったツアーを最後に解散していた。そんなベアーズに、子熊のベアリーは強い憧れを抱いていた。
ベアリーは人間のバリントン家で次男として暮らしていたが、ある日の朝食で「僕は養子なの?みんなと違う気がするんだけど」と疑問を口にした。意地悪な兄のデックスは「お前は養子だ」と言うが、両親は愛想笑いで誤魔化す。父のノーバートは「他人と違うと感じるのは、良くあることだ。その違いをバネにして、人生に大きな目標を持つことが出来る」と言い、母は「例え養子だとしても、貴方は私たちの大切な息子よ」と告げる。子供部屋に戻ったベアリーに、デックスは森林警備員が付けていた首輪を見せた。それ以外にも彼はベアリーが養子である証拠品を見せ、「お前は捨てられていたのを拾われたんだ」と暴露した。
ベアリーは荷物をまとめて家を出ると、ベアーズのホームグラウンドだったカントリー・ベア・ホールへ向かった。ホールに到着すると、銀行家のリードがオーナーのヘンリーに「取り壊しが4日後に決まった」と告げていた。ホールは経営状況が悪化し、ヘンリーは2万ドルの借金を抱えていたのだ。リードが去った後、ベアリーはヘンリーに、ホールを救うためにベアーズを再結成するよう提案した。ヘンリーは「そんなの出来るわけが無い、無駄だ」と諦めた様子で告げる。一方、警官のハムとチーツはバリントン夫妻の連絡を受けて事情を説明してもらい、ベアリーの捜索に出た。
ベアリーがギターを弾きながら歌っている様子を目にしたヘンリーは、ベアーズ再結成のために行動することを決めた。彼はツアーバスを寝床にしている運転手のローディーを起こし、従業員のビッグ・アルにコンサートの準備を指示した。ヘンリーはベアリーと共に、ローディーの運転するツアーバスで出発する。最初の行き先は、フレッドが警備員をしているテレビ局のスタジオだ。「どうやって客を集めるんだ」とフレッドがヘンリーに問い掛けると、ベアリーは元マネージャーのリップ・ホランドに頼むよう持ち掛けた。ヘンリーは過去に自分たちを裏切ったリップへのわだかまりを抱いていたが、電話を掛けて再結成コンサートの宣伝を依頼した。リップは暇なのに多忙なフリをして、その仕事を請け負った。貧乏生活をしていた彼は、電話を切ってから大喜びした。
ツアーバスでゼブの元へ向かう途中、ベアリーは自分の集めたベアーズの記事をフレッドとヘンリーに見せた。タレント・ショーの記事を見たフレッドは、「これでデビューしたんだ」と言う。その際、ベアーズは脇で音を奏でるベニー・ボッグズワグルという芸人と対戦していた。ベアーズに敗北したベニーは、腹を立てて椅子をゼブに投げ付けた。一行はゼブが入り浸っているハニー・クラブに到着した。店長のチャチャは、彼らに「ゼブには迷惑してる」と告げる。堕落した生活を送っているゼブは、チャチャに飲み代の500ドルを借金していた。ヘンリーはチャチャと交渉し、ゼブがフィドルで店のバンドと対決し、勝てば借金はチャラ、負ければツアーバスを引き渡すという話を勝手にまとめた。ゼブは店のバンド参加とジャム・セッションをしてフィドルを演奏し、観客の喝采を浴びた。
ハムとチーツはカントリー・ベア・ホールを訪れ、アルにベアリーのことを尋ねる。アルの「ベアリーがヘンリーに連れられてツアーバスに乗った」という言葉を聞いて、ハムとチーツはヘンリーがベアリーを誘拐したと思い込んだ。ヘンリーはゼブに、テネシーのことを質問した。するとゼブは、テネシーが別れた恋人トリキシーのことを忘れられないまま、結婚カウンセラーをしていることを話した。
ベアリーたちはテネシーの元を訪れ、ファミリー・レストランへ連れ出してベアーズ再結成への参加を求めた。テネシーは「無理だよ。僕にはトリキシーがいないと」と弱気な態度を示す。彼らが話していると、ベアーズに憧れて歌手を目指しているというウェイトレスが声を掛けて来た。フレッドたちは、「まだまだ自分たちも行ける」と自信を持った。店のテレビで「ヘンリーがベアリーを誘拐した」というニュースが報じられ、ベアリーたちは驚いた。そこへハムとチーツが来たので、ベアリーたちは店を抜け出してツアーバスに乗り込む。彼らはハムとチーツのパトカーに追い掛けられるが、洗車場を利用して撒いた。
一行はモーテルに宿泊し、ベアリーは家に電話を掛けた。電話に出たのはデックスで、ベアリーは「パパとママ、ううん、バリントンさん夫婦はどうしてる?」と尋ねる。心配して捜しに出ていることを聞かされたベアリーは、「僕は大丈夫。誘拐なんかじゃなくて、ベアーズが再結成するんだ。もう帰らないから」と告げた。電話を切ったベアリーは、トリキシーが歌手としてクラブに出演することを知った。ベアリーから話を聞いたテネシーはクラブへ行き、トキクシーと思い出の歌をデュエットしてヨリを戻した。
一行はテッドの住む豪邸へ行くが、彼は不在だった。庭師らしき男が、「テッドはカントリー・クラブで結婚式があって出掛けている」と教えてくれた。一行が式場へ行くと、テッドは不愉快そうな態度を示し、「出て行け。ベアーズは終わった。過去の栄光を求めても、惨めになるだけだ」と荒っぽく告げた。ベアリーたちは式場を去るが、テッドの兄であるフレッドだけは我慢できなかった。腹を立てた彼が式場に戻ると、テッドはウェディング・シンガーとして歌っていた。フレッドはテッドに怒りのパンチをお見舞いした。
ツアーバスに乗ったテッドは、自分が破産して食べるためにウェディング・シンガーとして歌っていること、豪邸は自分の所有ではなく部屋を借りていることを明かした。再結成コンサートに向けての準備がまるで進んでいいなことを知り、テッドは呆れ果てた。彼が他のメンバーを手厳しく批判したことで、ベアーズの面々は言い争いを始めた。ベアリーは仲裁に入り、「1983年のインタビューで、貴方はベアーズが家族だと言ってる」とテッドに告げる。だが、テッドは「あれは売り込むための言葉だ。ベアーズは家族なんかじゃない」と冷たく言い放った。
ベアリーは寂しそうな表情を浮かべ、「そうだよね、互いに思いやる気持ちを持つのが家族だもん」と口にする。それはノーバートが彼に話した言葉だった。家族のことを思い出したベアリーは、一目散にバリントン家へ向かった。心配していた両親は大喜びし、デックスもベアリーを温かく迎えた。テッドたちは、ベアリーがバスに置いていった手紙を見つけた。そこには「僕のヒーローはベアーズだ」と書かれていた。一行はツアーバスをバリントン家へ向かわせ、テッドがベアリーの元へ行く。テッドに「君がいないとコンサートが出来ない」と言われ、ベアリーは喜んだ。だが、ベアリーたちが家を出ると、ツアーバスが消えていた。リードはフレッドたちを拳銃で脅し、ツアーバスごと連れ去っていたのだ。フレッドたちを倉庫に連れ込んだリードは、自分がベニー・ボッグズワグルであること、ずっと恨みを晴らすチャンスを狙っていたことを告白した…。

監督はピーター・ヘイスティングス、脚本はマーク・ペレズ、製作はアンドリュー・ガン&ジェフリー・チャーノフ、製作協力はジョン・G・スコッティー、撮影はC・ミッチェル・アムンゼン、編集はジョージ・ボウアーズ&セス・フラウム、美術はダン・ビショップ、衣装はジュヌヴィエーヴ・タイレル、振付はMarguerite Derrickマルグリート・デリックス&ペギー・ホームズ、音楽シーン編集はディーン・ホランド、オリジナル歌曲はジョン・ハイアット、音楽はクリストファー・ヤング。
出演はクリストファー・ウォーケン、スティーヴン・トボロウスキー、ダリル・“チル”・ミッチェル、M・C・ゲイニー、ディードリック・ベーダー、アレックス・ロッコ、ミーガン・フェイ、イーライ・マリエンタール、クイーン・ラティファ、チップ・チネリー、キャロリン・アルモス、マーカス・ナイト、マイケル・ローレンス・モーガン、アルフェウス・マーチャント、ダニエル・エスコバル、クリストファー・ダーガ、ジェス・ハーネル、アン・ヘイスティングス他。
声の出演はハーレイ・ジョエル・オスメント、ディードリック・ベーダー、キャンディー・フォード、ジェームズ・ギャモン、ブラッド・ギャレット、トビー・ハス、ケヴィン・マイケル・リチャードソン、スティーヴン・ルート他。


アメリカの本家ディズニーランドや東京ディズニーランドにあるアトラクション「カントリーベア・ジャンボリー」(現在は「カントリーベア・シアター」)をモチーフにした作品。
監督のピーター・ヘイスティングスは主にTVアニメの脚本家やプロデューサーとして活動してきた人物で、映画の演出は本作品が初めて。
リードをクリストファー・ウォーケン、ノーバートをスティーヴン・トボロウスキー、ハムをダリル・“チル”・ミッチェル、ローディーをM・C・ゲイニー、チーツをディードリック・ベーダー、リップをアレックス・ロッコ、バリントン夫人をミーガン・フェイ、デックスをイーライ・マリエンタールが演じている。
ベアリーの声をハーレイ・ジョエル・オスメント、テッドをディードリック・ベーダー、トリキシーをキャンディー・フォード、アルをジェームズ・ギャモン、フレッドをブラッド・ギャレット、テネシーをトビー・ハス、ヘンリーをケヴィン・マイケル・リチャードソン、ゼッブをスティーヴン・ルートが担当している。
ベアリーを除く熊たちは、アルも含めて「カントリーベア・ジャンボリー」に登場する楽団のメンバーだ(テッド、フレッド、テネシーは“ザ・ファイブ・ベア・ラグズ”のメンバー)。

音楽映画として作られており、カントリー・ベアーズの面々だけでなく、ゲスト出演者によるパフォーマンスも用意されている。
テレビ局では歌手のクリスタル・ハリスがフレッドに声を掛け、彼のハーモニカとセッションする。
チャチャを演じるクイーン・ラティファが対決の場に登場させたのは、ブライアン・セッツァーが率いる3ピース・バンドだ(もちろんストレイ・キャッツではない)。
パフォーマンスはしないが、豪邸の庭師らしき男はエルトン・ジョンで、実は彼の所有する邸宅という設定だ。
レストランでベアーズに話し掛けて来るウェイトレスは歌手のジェニファー・ペイジで、シェフに「歌ってみなよ」と促され、ベアーズの曲を歌う。

ベアーズたちの歌唱シーンでは、声優とは別の面々が声を吹き替えている。
ベアリーの歌声は声優で歌手でエリザベス・デイリー、テッドの歌声は本作品のオリジナル・ソングも手掛けているシンガー・ソング・ライターのジョン・ハイアット。
テネシーの歌声はイーグルスのドラマーで歌手のドン・ヘンリー、トリキシーの歌声はギタリストで歌手のボニー・レイットだ。
ちなみにテネシーとトリキシーが歌った後、クラブの客としてドン・ヘンリーとボニー・レイットが登場し、ボニーから「素敵な歌ね」と言われたヘンリーが「イーグルスよりも良かった」とコメントする遊びがある。

この映画を見る際には、「擬人化された熊が人間の言葉を喋り、人間と同じ社会で生きている」という世界観を受け入れる必要がある。
ただし、それはカートゥーンでは見掛けることもあるような世界観だし、ファンタジー物における「人間とドワーフ」みたいな関係性だと思えば、受け入れることは難しくないかもしれない。
とは言え、その世界観設定は微妙なところがあって、バリントン家の周囲にベアリー以外の熊はいないし、家出して乗り込んだバスも人間ばかり、結婚式の会場も人間ばかりなのよね。熊と人間は共存している雰囲気は乏しい。
生活している地域が完全に分断されているってことなのか。

「擬人化された熊が人間と同じ社会で生きている」という設定を受け入れられたとしても、「ベアリーが人間の家で息子として生活し、デックスに暴露されるまで自分が養子だと気付かない」ってのは、越えるのが厳しい壁じゃないかと感じる。
なぜ前者の設定だけに留めておかなかったんだろう。
「家出したベアリーが家族の大切さに気付く」というドラマが用意されているんだけど、それを描くにしても、家族が人間である必要性は無いし。この映画が「異なる種族でも仲良くなれる」ってのをテーマに掲げているならともかく、そういう意識は特に感じられないし。
あと、森林警備隊に首輪を付けられていたってことになると、それは「擬人化されていない熊」ってことになるぞ。それは世界観の設定がブレちゃうぞ。

ベアリーが養子だと知った途端に家出するってのは、違和感を覚えるんだよなあ。
バリントン夫妻は、ベアリーに対して辛く当たっているわけではない。むしろ、とても優しい両親だ。
だからホールに到着したベアリーが「僕の本当の家は、ここなんだ」と言い出すのが、バリントン夫妻に対して薄情な奴に見えちゃう。
「両親に愛されていない」と誤解するような出来事があったわけでもなければ、デックスから「両親はお前のことを迷惑に思っている」と嘘を吹き込まれたわけでもないんだし。

っていうか、根本的な問題として、ベアリーのドラマって、ベアーズ再結成のドラマに全く関係が無いんだよね。
この映画の主役はベアーズであり、バンドが再結成してコンサートを開くってのがメインの物語であるはず。
だからベアリーは、バンド再結成の目撃者であったり、語り手であったり、狂言回しであったり、そういう役回りでいいのだ。
そんなポジションのキャラクターに、大きく扱われるようなドラマなど不要だ。

ベアリーのドラマがベアーズ再結成のドラマと上手く絡むのならともかく、そうでもない。
「家族は大切」ってところでベアーズ再結成と重ねようとしているけど、テッドがバンドに戻ることを決めるのはベアリーの手紙を読んだからであって、ベアリーとバリントン家の関係を見て何かを感じたわけではない。
それと、そこを重ねるのに、「ベアリーが人間の養子」という設定は、余計な飾りでしょ。普通に熊の家族でいい。
それと、「血の繋がらない家族の絆」と「バンドの絆」って、なんか微妙に違う気がするし。

どうしても善玉サイドで人間を絡ませたいのなら、それこそバンド再結成のために奔走する狂言回しのポジションをベアリーじゃなくて人間にすればいい。
っていうか、この映画だとヘンリーがバンド再結成のために行動を開始するので、ベアリーって特にいなくても支障が無いんだよね。むしろ、かつてベアーズに関わった面々だけで再設計の物語をやった方がスッキリするんじゃないかと。
実際、再結成に動き出すと、ベアリーって、ほぼ「要らない子」になっている。そんで、急にノーバートの言葉を思い出して、バンドを放り出して帰宅しちゃうし。
なんちゅう勝手な奴だよ。

最初に提示された目的は「借金を返済し、ホールを存続させる」ということであり、そのためにバンドを再結成してコンサートを開こうという流れになっている。つまり、バンド再結成&コンサート開催は、あくまでも目的を達成するための手段だったはずだ。
ところが、いつの間にかバンド再結成&コンサート開催そのものが目的と化してしまう。
バンドを再結成しても演奏が酷かったら意味が無いし、コンサートを開いても観客が集まらなかったら借金は返せない。
だが、そこに関しては、特に大きな問題も無く、サクサクと処理されている。みんな腕は鈍っておらず、久々に集まってもすぐに上手く合奏できる。リップはリードに買収されるけど、ベアーズが集客のために他の手を打つことも無く、大勢の人々がホールに押し寄せる。
この映画、ミュージカル・シーンだけは魅力的だが、それ以外の部分がグダグダで、差し引きすると多額の負債が出ている。

(観賞日:2013年5月26日)


第23回ゴールデン・ラズベリー賞(2002年)

ノミネート:最低助演男優賞[クリストファー・ウォーケン]


第25回スティンカーズ最悪映画賞(2002年)

ノミネート:【最悪の助演男優】部門[クリストファー・ウォーケン]
ノミネート:【最悪のグループ】部門[カントリー・ベアーズ]
ノミネート:【最も気が散るセレブのカメオ出演】部門[エルトン・ジョン]

 

*ポンコツ映画愛護協会