『コンペティション』:1980、アメリカ
中西部のピアノ・コンクールに参加したポール・ディートリックは、3位という結果だった。何年もコンクールに挑戦しているポールだが、優勝は果たせないままだった。しかし父は「実力なら1位だ」と言い、サンフランシスコで開かれる最高レベルのヒルマン・コンクールに参加するよう促した。ポールは両親が自分のために無理を続けていると分かっており、「もう僕のために働かなくてもいい」と告げる。彼は友人であるゲリーの紹介で、小学校の音楽教師になることを決めていた。
父はポールの決断に納得せず、「諦めるな。お前には才能がある」とピアノを続けるよう説いた。授業を見学したポールは決着を付けるため、ヒルマン・コンクールへの参加を決めた。ヒルマンの1次は、テープ審査になっていた。ハイジ・ジョーン・スクーノーヴァーはピアノ教師のグレタ・ヴァンドマンから、ヒルマン・コンクールに応募したことを知らされた。グレタはハイジのピアノを真似して録音し、テープを送って1次審査を通過していたのだ。
ソビエト出身のタチアナ・バローノヴァは付き添いのゴルシェフ夫人と領事館へ入り、ピアノの練習を始めた。会場入りしたジェリー・ディサルヴォはハイジに声を掛け、「ニューヨーク出身だ。君は?」と軽い調子で尋ねた。ハイジが「先生が男には気を付けろって」と告げて去ると、ジェリーは他の女性に話し掛けた。ハイジはポールに気付き、「貴方も出るなら勝てないわ」と告げた。「私なんか覚えてないでしょ。タングルウッドの音楽祭で2年前に会ったわ」と彼女が言うと、ポールは「覚えてるよ」と握手を交わした。トイレに入った彼は鏡に向かい、「気を逸らす物は何でも良くない。彼女には構うな」と自分に言い聞かせた。
1次通過者のポールやマーク・ランダウたちは、練習部屋でピアノを弾いた。マイケル・ハンフリーズはホテルで全裸になり、ピアノに向かった。翌日、ポールが2次予選のために会場入りすると、ハイジが声を掛けた。彼女はポールに、「私が惚れてたと思ったなら間違いよ。私が惚れた男はホモだったの。貴方のことは若いのに禿げかけていると思って同情しただけ」と語る。「私が好きだった?」と質問されたポールは、「僕もホモ男に惚れてた」と言う。「嘘よ、私に気があった」とハイジが軽く笑いながら告げると、彼は「そう思ってるなら、聞く必要は無いだろ」と穏やかに返した。
2次予選の演奏が終わり、主任指揮者のアンドリュー・アースキンが最終予選に進出した6名を発表した。タチアナ、ポール、ジェリー、マイケル、マーク、そしてハイジの6名だった。くじ引きで演奏順が決定し、アースキンはリハーサルが明朝9時からだと伝えた。演奏順が決まった6名は、披露する曲目を互いに言い合った。2番を引いたジェリーが「サン・サーンスを弾く」と言うと、6番目だったポールは「自分もサン・サーンスをやりたい」と口にした。彼が「気疲れするから、出来れば早く終わりたい。他の曲にするから順番を代わってくれないか」と持ち掛けると、ジェリーは了承した。
ジェリーは新聞記者に「かつて鑑別所に入っていた」と嘘をつき、それを記事にしてもらって注目を集めようと考えた。ハイジがステージでピアノの調弦を確認していると、次の番であるポールがやって来た。ハイジが「本当にサン・サーンスを弾く気があった?それとも順番を代わってもらうため?」と訊くと、ポールは「君は随分と彼の肩を持つね。面白い男だからね」と言う。ハイジが「どうしてそんなことを言うの?どこか変なんじゃない」と告げると、彼は「決勝の前に気を散らしたくないだけさ」と述べた。
ベートーベンの『皇帝』を弾くことにしたポールは、リハーサルでアースキンにロンドに移る時の演奏への注文を出した。「解釈が違う」と彼が言うと、アースキンは馬鹿にした態度で「君はベートーベンと親しいのかね。私は200回以上も指揮してきた」と語った。ポールが怯まずに「私は疑問を持って、ずっと謙虚に勉強してきました」と反論すると、アースキンはオーケストラを指揮するよう促した。ポールは楽団員に細かく指示を出し、思い通りの音を出してもらった。アースキンは「希望通りにするよ」と約束し、ポールが舞台から去ろうとすると楽団員は拍手を送った。
ゴルシェフ夫人はタチアナと車で町に出た時、ある店の前で停めるよう頼んだ。彼女は事前に連絡を取っていた車に飛び乗り、その場から逃走した。驚いたタチアナは追い掛けようとするが、護衛の男たちに制止された。激しく動揺した彼女は領事館に連れ戻され、鎮静剤を注射された。領事館から連絡を受けた国務省職員のブルーダネルはアースキンの元へ行き、「面倒な問題が起きた」と伝えた。アースキンは決勝進出者の5名に、「タチアナが神経症を患ったので決勝は1週間延期する」と告げた。ポールを除く4人は納得し、ハイジは「練習の時間も増えたし」と言う。ポールは「僕は暇人じゃない。練習が足りないなら来るな」と怒鳴り、その場を去った。
ポールの応援に来ていた両親は、バスで地元へ戻ることになった。ポールは母から「もう諦めて目の前の仕事を確保したら?」と提案され、「来年は年齢制限で出られない。今年が最後だ」と告げた。すると母は「パパもよ」と言い、病気が進行して余命わずかであることを明かした。彼女はポールに、「パパは本当なら旅行も仕事も避けた方がいいの」と教えた。ポールはハイジが宿泊するスタジオを訪れて謝罪し、「外で何か飲まないか。話たいことがある」と誘う。出掛けるハイジを見送ったグレタだが、呆れた様子を見せた。
ポールはハイジから「話って何?」と訊かれ、「ただ誰かと一緒に居たかった。悲しいことがあって、思い浮かんだのが君だった」と話す。ポールはクラブへ行き、ハイジに誘われて少しだけ一緒に踊った。ハイジはポールか泊まっているホテルへ行きたがり、部屋に入ると「一緒にいたい。親しくなりたいの。でも心だけと言ったら怒る?」と口にした。ポールは「安心したよ」と言い、彼女にキスをした。ポールが泣き出すと、ハイジは優しく抱き締めた。2人は互いのことを語り合い、肉体関係を持った。
アースキンはブルーダネルから、タチアナが治っていないことを知らされた。「7日後にはザルツブルグの仕事がある。金曜日には決勝を始めないと」とアーキスンが言うと、ブルーダネルは「話を付けました」と告げる。彼はゴルシェフ夫人の居所を突き止め、タチアナの状況を知らせた。タチアナを心配するゴルシェフ夫人は、正式に亡命も発表もしないので彼女に会わせてほしいと申し出た。アーキスンはタチアナに同行し、ゴルシェフ夫人の再会を見届けた。
ポールはスタジオへ行き、ハイジと連弾して楽しい時間を過ごした。そこへグレタが戻り、今夜8時半から決勝に関する記者会見があることを教えた。ハイジはポールに「昨夜のことは、終わるまで忘れて」と言い、キスを交わしてポールを見送った。ハイジがポールを元気付けるために連弾していたことを聞いたグレタは、「競争心が無いの?コンクールは戦いよ」と注意する。彼女は夫であるピアノへの不貞行為だと指摘し、「貴方に生き甲斐を与えてくれるのは男じゃなくてピアノよ。今までの努力が無駄になると思わないの?」と告げる。ハイジが「彼には同情しきれないほどの」と言い掛けると、彼女は「同情してほしいことなら私にもあるわ」と遮った。
ポールはゲリーに電話を入れ、「採用願いを引っ込める。こっちに懸けてみるよ。二股は良くないと思うんだ」と語った。ポールはハイジと共に、記者会見の場へ赴いた。タチアナがアースキンに付き添われて会場入りする様子を見た彼は、不快感を露わにして「出よう」とハイジに告げた。外に出たハイジが怒っている理由を尋ねると、彼は「今日までは公正な審査が行われると思っていた。だけど、僕らはロシア娘の引きたて役さ」と苛立ちを吐露した。
ハイジが「彼女、やつれてたわ」と同情心を示すと、ポールは「競争心が悪いなら、君は何のために来たんだ。結果に関心を持たないなら出て来るな」と声を荒らげた。彼は酔っ払った水兵たちに喧嘩を売り、ハイジが絡まれても助けようとしなかった。ハイジは水兵たちを追い払い、「自分だけ興奮するなんて勝手すぎるわ」と責める。ポールは「他のことなんて考えられるか。文句があるなら帰ればいい」と言い放ち、「私まで気に障る?」とハイジが訊くと「君は自分の心を偽ってる。それも病気だよ」と冷たく告げた。
ハイジが「コンクールがどうなっても、私たちは私たちでしょ?」と問い掛けると、ポールは「私たちって何だ?何の関係がある?」と口にする。ハイジは「私の思い過ごしだったわ」と悲しそうな表情を浮かべ、その場を去った。翌日、決勝でポールが演奏を終えると、裏で待っていたタチアナは椅子から立ち上がって拍手を送った。ジェリーはタチアナに、最初から優勝できるとは思っていないこと、芸能界に進出する足掛かりとしてコンクールに参加したことを語った…。監督はジョエル・オリアンスキー、原案はジョエル・オリアンスキー&ウィリアム・サックハイム、脚本はジョエル・オリアンスキー、製作はウィリアム・サックハイム、製作総指揮はハワード・パイン、撮影はリチャード・H・クライン、美術はデイル・ヘネシー、編集はデヴィッド・ブリューイット、衣装はルース・マイヤーズ、音楽はラロ・シフリン。
出演はリチャード・ドレイファス、エイミー・アーヴィング、リー・レミック、サム・ワナメーカー、ジョセフ・カリ、タイ・ヘンダーソン、ヴィッキー・クリーグラー、アダム・スターン、ビア・シルヴァーン、フィリップ・スターリング、グロリア・ストルーク、デリア・サルヴィ、プリシラ・ポインター、ジェームズ・B・シッキング、エレイン・ウェルトン・ヒル、ベン・ハマー、リオ・H・ブレア、ロス・エヴァンス、スターリング・スワンソン、ジミー・スチューテヴァント、キャシー・タルボット、スティーヴン・コーヴィン、ジャン・アイヴァン・ドリン、レイチェル・バード、ローリー・マイン、コリンヌ・ケイソン、ロナルド・ホイセク、アラン・グルーナー、ジョン・クラヴィン、ビル・コンクリン、リン・アーデン他。
アカデミー賞の編集賞&歌曲賞、ゴールデン・グローブ賞の作曲賞を受賞した作品。
主演は1977年の『グッバイガール』でアカデミー賞の主演男優賞を受賞しているリチャード・ドレイファス。
ポールをドレイファス、ハイジをエイミー・アーヴィング、グレタをリー・レミック、アンドリューをサム・ワナメーカー、ジェリーをジョセフ・カリ、マイケルをタイ・ヘンダーソン、タチアナをヴィッキー・クリーグラー、マークをアダム・スターンが演じている。
エイミー・アーヴィングの母であるプリシラ・ポインターが、ドネラン夫人役で出演している。6名の決勝進出者がいるんだから、群像劇として作ってもいいような素材だ。しかし実際は、ポールとハイジの恋愛劇がメインで描かれている。
そこがメインであっても、他の4名を掘り下げたり上手く使ったりすることが不可能なわけではない。でも他の4名は、いなくてもいいんじゃないかと思うぐらい雑な扱いになっている。
タチアナには「ゴルシェフ夫人の亡命でショックを受ける」という要素、ジェリーには「知名度を上げるためだけに参加している」という要素があるが、いずれも充分に活用しているとは言い難い。
マークに至っては、単なる数合わせに過ぎない。「メガネを掛けた奴」という印象ぐらいしか残らない。ハイジはグレタから、自分の真似をした演奏の録音でヒルマンの1次審査を通過したことを知らされる。それって怒ってもいいような勝手な行動のはずだが、なぜかハイジは喜んでいる。その感覚がサッパリ分からない。
「先生の演奏で1次審査に通過したのは良くないことだった」と、後になってハイジが感じるような展開も無い。そして最後まで、「他人の演奏で1次審査に通過した」という事実が否定的に描かれることは無いのだ。
でも、それって完全に不正行為でしょ。
完全ネタバレだけど、ハイジって最終的にコンクールで優勝するのよ。でも、そんな形で手に入れた優勝って、悪い言い方をすると盗人猛々しい行為になってないか。ポールはハイジと再会した時、「気を逸らす物は何でも良くない。彼女には構うな」と自分に言い聞かせる。
だが、そんなことをわざわざ言わなきゃいけないってことは、裏を返せばハイジに意識が向きまくっているのだ。
コンクールに集中すべきなのに、惚れた腫れたに心を乱されまくっているのだ。
しかも、「彼女には構うな」と自分に言い聞かせるんだから、葛藤はありつつもピアノに集中しようとするのかと思いきや、大して悩むことも無いまま、ハイジをデートに誘って肉体関係まで持ってしまうのだ。ヒルマン・コンクールは大きなチャンスだが、結果を出させなければプロを諦める決断を下さなきゃいけない分岐点になることもある。
特にポールの場合、「小学校教師になるか、ピアノを続けるか」という答えを出そうと自分で決めているのだから、脇目も振らずに集中する必要があるはずだ。
それなのにハイジに声を掛けられた途端、あっさりと心を乱される。
でも、女にうつつを抜かしている場合じゃないでしょ。その時点で、「プロになるのは諦めた方がいいぞ」と言いたくなる。決勝の延期が伝えられると、他の面々が受け入れる中でポールだけが激しい苛立ちを示す。
それぐらいコンクールに対する意識が強いわけで、その直後には「もう父は働ける状態じゃない」ってのを知らされるし、さすがに決勝に向けて集中するかと思いきや、ハイジを誘って出掛けてしまう。ちっとも集中できていない。
あとハイジを連れ出すってことは、自分の身勝手で彼女の練習時間を妨害しているわけで。
そういうトコでの気遣いも、全く無いのだ。ポールはハイジとセックスした後、ゲリーに電話を入れて「こっちに懸けてみるよ。二股は良くないと思うんだ」と言う。
でも、既に彼はピアノとハイジの二股を掛けているようなモンでしょ。ちっともコンクールに懸けていないでしょ。
その前にグレタの「夫であるピアノに対する不貞行為」というハイジへの注意があるので、あえて「ポールは二股を掛けている」という形にしてあるのかもしれないよ。
ただ、そういう狙いがあったとしても、「ポールが苛立たしい男」という印象は何も変わらないよ。別にさ、ポールがハイジに惚れるのは構わないと思うのよ。そこで簡単に心が乱されるのも、その時点で「コンクールに優勝するレベルじゃないな」とは思うけど、まあ人間としては全面的に否定されるようなことではない。
ただ、デートしたり、セックスしたりってのは、コンクールが終わるまで待てないのかと。そんなに我慢できなかったのか。
その程度の辛抱も無理な奴が、最高峰のコンクールで優勝を狙ったりするなよ。
しかも自分の都合でハイジを振り回し、思いやりゼロで八つ当たりしたりするし。そのままポールを最低のクズ野郎として終わらせるわけではなくて、一応は終盤に入って反省や謝罪の手順は用意されている。
でも、それまでに蓄積されたサイテー男としてのゲージからすると、リカバリーには全く足りていないのよ。
さんざんDVを繰り返してきた奴が1日だけ優しくなっても、それで今までの罪がチャラになることは無いでしょ。焼け石に水でしかないでしょ。それと似たようなモンだよ。
「私たちって何だ?何の関係がある?」とハイジに酷いことを言った翌日には謝罪して「今は何よりも君が大事だよ。僕らは運命共同体だと思ってる」と話すけど、口先三寸の適当な言葉にしか聞こえない。ポールはハイジに「君が勝っても良し。僕が勝てばなお良し。負けても運命共同体は存続する」と言うけど、「どうせ簡単に気持ちが変化するんだろ」と冷めた気持ちになる。
「それは自分が絶対に勝つと思っているからこそ出て来た台詞だろ」と思っていたら、その通りだし。
ネタバレを書くと、優勝はハイジでポールは2位に終わる。その時、喜んだハイジが一緒に旅行へ行こうと誘うと、ポールはショックで同意しない。そして「僕より上だなんて考えたことことも無かった」と本音を吐くのだ。そういう奴なのだ。
最終的には「ポールがハイジの元へ戻る」ってことでハッピーエンドの形にしてあるけど、ポールが身勝手なサイテー男という印象は変わらんぞ。(観賞日:2022年7月9日)
第1回ゴールデン・ラズベリー賞(1980年)
ノミネート:最低主演男優賞[リチャード・ドレイファス]
1980年スティンカーズ最悪映画賞
ノミネート:【最悪のカップル】部門[リチャード・ドレイファス&エイミー・アーヴィング]