『アウトバーン』:2016、アメリカ&ドイツ&イギリス&中国

ドイツのケルン。クラブへ出掛けたアメリカ人のケイシーは、バーで働くジュリエットに目を留めた。ケイシーはフロアへ移動した彼女に声を掛け、同じアメリカ人ということを口実にしてナンパする。ドイツへ来た理由を問われたケイシーは、「アメリカで少しトラブった。若いからバカをやった」と話す。ジュリエットはドイツへ来ている理由について、クスリと喧嘩ばかりの両親から逃げて来たと語った。「付き合わないか」とケイシーが言うと、彼女は「ここでバカ騒ぎするような生き方は求めてないの。本気で誘う気になったら教えて」と軽く笑って立ち去った。
ケイシーは相棒のマティアスに呼ばれ、VIPルームへ移動した。そこには2人のボスであるゲランが待っていた。ケイシーは自動車泥棒で、半年前からゲランの下で仕事をしていた。ゲランは「稼げるヤマがある」と持ち掛けるが、ケイシーはジュリエットが気になった。彼はジュリエットの元へ戻り、「本気で誘う。仕事は辞めた。君にはリスクを取るだけの価値がある」と告げた。2人は付き合い始め、同棲するようになった。ケイシーはスクラップ工場で働き、ジュリエットとの幸せな日々を楽しんだ。
ゲランは麻薬を提供しているハーゲン・カールと会い、対等の関係を要求した。「ずっと裏切らなかったし、儲けの大半は君だ」とゲランは語るが、カールは「今の立場で満足するんだ。それがお似合いだ」と見下すように告げた。ケイシーはジュリエットが急に倒れたので、慌てて病院へ運んだ。ケイシーは女医から、ジュリエットは腎臓移植が必要な状態だと聞かされる。彼女の病気を初めて知ったケイシーは、驚くしかなかった。
ケイシーは金を稼ぐため、ゲランの元へ戻った。ゲランはケイシーに、カールのことを説明する。カールは物流会社の経営者で軍に警護させており、裏では麻薬を扱っている。半年に1度、ロッテルダムからケルンにトラックが到着する。積み荷はゴルフボールだが、中にはチリ産コカインが入っている。ブツをゲランが捌き、500ユーロ紙幣に換金する。高級車1台につき500万ユーロずつ隠し、船便でチリに送られて取引が完了する。トラック運転手は勤勉でタフな男で、車にはカメラとGPSが搭載されている。
ゲランはケイシーとマティアスに、「トラックを盗んで俺に届けろ。1人25万ユーロを支払う」と告げた。ケイシーはジュリエットに、アメリカへ戻って移植を受けるよう促した。「工場は辞めた。前の仕事でデカく稼ぐ」と彼が言うと、ジュリエットは「そんなこと望んでない。やらないと約束して」と頼む。しかしケイシーはオストハイム郊外で車とバイクを衝突させ、事故に見せ掛けて運転手をトラックから降ろす計画を立てた。
ケイシーは寝ているジュリエットに置手紙を残し、マティアスと共に予定の場所へ赴いた。しかし運転手は罠だと気付き、マティアスが乗っている車に発砲した。ケイシーは飛び出して運転手に襲い掛かり、マティアスが殴り倒した。ケイシーはGPSを外してマティアスに捨てるよう指示し、運転手の帽子を被ってトラックに乗り込んだ。彼は運転手を装ってトラックを運転するが、監視係に偽者だとバレた。すぐにチームが派遣され、ケイシーは捕まって倉庫へ連行された。
カールはケイシーに、黒幕の正体を白状するよう要求した。ケイシーが拒絶すると、カールは「後は名人に任せよう」と告げる。カールはケイシーが左腕に装着しているジュリエットの患者認識用リストバンドを見ており、「彼女に訊くとしようと」告げて立ち去った。残った男に襲われたケイシーは反撃して倒し、倉庫に置いてあった車を奪って逃走した。彼は急いでジュリエットに電話を掛け、「すぐに戻るから待ってて」と言う。しかしジュリエットはケイシーが約束を破ったことに怒っており、電話を切った。
ケイシーは敵に追われ、クラッシュしてしまう。敵は発砲して来るが、パトカーが突っ込んで来て死亡した。ケイシーは盗んだ車に大金が積んであるのを見つけ、袋に入れて逃げ出す。敵に追われた彼は車を盗み、アウトバーンに入る。ケイシーはマティアスに電話を掛け、「ジュリエットが危険だ。帰宅中だから、家から連れ出せ」と頼んだ。カールはケイシーに電話を入れ、ジュリエットの住所を口にする。ケイシーは「金は全て返すから、彼女に手を出さないでくれ」と頼むが、カールは無視した。
ケイシーはジュリエットに危険を知らせようとするが、電話が全く繋がらない。そこで彼はゲランに電話を入れ、「ドジったが、バラしてない。盗んだ車が取引用で、大金が積んであった。20万だけくれ。残りは渡すから、ジュリエットという女性を保護してくれ」と要請して住所を告げた。ケイシーは敵に追われて発砲を受け、車は横転する。ケイシーは車から抜け出し、金をケースに詰める。彼は近くにあった車を盗み、その場から逃走する…。

監督はエラン・クリーヴィー、原案はF・スコット・フレイジャー、脚本はF・スコット・フレイジャー&エラン・クリーヴィー、製作はジョエル・シルヴァー&ベン・ピュー&ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ&ダニエル・ヘッツァー、製作総指揮はスチュアート・フォード&マット・ジャクソン&スティーヴン・スクイランテ&カイ・ニーセン&ヘルマン・ヨハ&スティーヴ・リチャーズ&アリステア・クック&リック・ジャクソン&ベン・ナーン&トム・ライス&ダン・ミンツ&ウー・ビン&ピーター・シャオ&クリス・フェントン&クリス・カウルズ、共同製作はアーロン・オーチ&イーサン・アーウィン&F・スコット・フレイジャー、製作協力はオリーヴ・ユニアッケ&ライアン・ケイヒル&スザンヌ・リッター、撮影はエド・ワイルド、美術はジョエル・コリンズ、編集はクリス・ギル、衣装はシャロン・ギルハム、音楽はイラン・エシュケリ、音楽監修はイアン・ニール&イアン・クック。
出演はニコラス・ホルト、フェリシティー・ジョーンズ、アンソニー・ホプキンス、ベン・キングズレー、マーワン・ケンザリ、アレクサンダー・ヨヴァノヴィッチ、クリスティアン・ルーベク、エアダール・イルディズ、クレーメンス・シック、ジョニー・パルミエロ、ベン・ヘッカー、ヨアヒム・クロール、マルクス・クラーク、ミヒャエル・エップ、クリスティーナ・ヘッケ、ララ・シーベルツ、ナディア・ヒルカー他。


『ビトレイヤー』のエラン・クリーヴィーが監督を務めた作品。
脚本は『殺しのナンバー』のF・スコット・フレイジャーとエラン・クリーヴィー監督による共同。
『マトリックス』シリーズや『シャーロック・ホームズ』シリーズのシルヴァー・ピクチャーズが製作に参加している。
ケイシーをニコラス・ホルト、ジュリエットをフェリシティー・ジョーンズ、カールをアンソニー・ホプキンス、ゲランをベン・キングズレー、マティアスをマーワン・ケンザリが演じている。

この映画で個人的に最も注目したのは、ベン・キングズレーだ。かつてはロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで活躍し、『ガンジー』でオスカーを受賞している名俳優であり、サーの称号を持つ人物だ。
そんなキングズレーだが、あまり仕事を選ばない人という印象がある。何しろ、あのウーヴェ・ボル先生の『ブラッドレイン』にも出演しているぐらいだしね。
自分を安売りしていると言えなくもないが、「演技をすることが楽しい」とか、「オファーを受けたら基本的に断らない」とか、本人なりの哲学があるんだろう。
そんな彼の仕事のやり方、嫌いじゃないぜ。
ちなみにアンソニー・ホプキンスもサーの称号を持っているけど、この人はベン・キングズレーに比べれば仕事を選んでいる印象がある。

キングズレーの演じるゲランは登場シーンで映画『パーフェクト』をテレビ観賞しており、ジョン・トラヴォルタについて「映画の出来はともかくオスカーに値する演技だ」と絶賛している。
彼はケイシーとマティアスの名前を覚えておらず、それぞれ「バート・レイノルズ」「グリース」と呼ぶ。どちらもバート・レイノルズとジョン・トラヴォルタには全く似ていないので、そこは外している。
あと、映画ネタを口にするのはゲランだけじゃなく、カールもケイシーを追及する時に「エイドリアンを口説くロッキーみたいに退屈なやり方は省こう」と言う。でもそんなに映画ネタ満載ってわけでもないので、中途半端になっている。
映画ネタを言うのはゲランに限定し、「そういうのが好きなキャラ」ってことで、もっと増やした方が良かったんじゃないか。

舞台がドイツである意味は、全く感じない。
「ドイツ資本が入っているから」ってことなんだろうけど、内容としては舞台がアメリカでも全く支障は無い。
「アメリカ人がドイツに来ている」という設定が、ストーリー上で活用されることも無い。異邦人であるがゆえの障害も、特に何も用意されていない。
ケイシーがドイツへ来た理由も「アメリカで少しトラブって」と軽く触れるだけであり、彼のキャラ描写やストーリー展開には何の影響も与えていない。

オープニングシーンでは、ケイシーが車を猛スピードで走らせてクラッシュする様子が描かれる。時系列をいじって、後のシーンを冒頭に配置しているのだ。
ここで横転した車内にいるケイシーの心情として、「人がバカなことをするには理由がある。後始末する時に悔む羽目になる。でも愛が理由なら違うかも。今、俺を生かし続けてるのも愛だ」という語りが入る。「これはケイシーが愛のために行動する物語ですよ」ってことを、最初にアピールしているわけだ。
それを考えれば、ケイシーとジュリエットの恋愛劇は、ものすごく重要なモノだと言っていいだろう。
しかし2人の関係は、物語を牽引する力を全く発揮できていない。ものすごく脆弱であり、「愛のために必死で頑張る」というケイシーを応援する気は全く湧かないし、感情移入も難しい。
何しろ、ケイシーが軽いノリでジュリエットをナンパする行動から始まっているし、交際している描写も少ない。早々とジュリエットが倒れて、ケイシーがゲランの仕事を受ける展開に入ってしまう。

全体の尺を考えれば、恋愛劇に多くの時間を割くのは現実的に難しいだろう。
カーアクションが一番の売りであり、大まかに言えば、そこにサスペンスを組み合わせた話だからだ。
だが、そういう作品なんだから、なぜ2人がナンパで知り合うトコから関係を始めたのかと疑問を抱いてしまう。
最初から付き合っている設定にしておけば、「出会って、付き合って」という手順は省ける。交際が始まってから関係が深まっていく描写が少ないという問題も解消される。

ジュリエットが病気についてケイシーに明かしていないってのは、「本気で付き合って同棲までしているんだから、ちゃんと話せよ」と言いたくなる。
「本気だからこそ打ち明けられなかった」みたいな事情でもあればともかく、そこを使ったドラマも無いし、「移植に多額の金が必要なので、ケイシーがゲランの仕事を受ける」という展開に繋げるために、ジュリエットの病気設定を持ち込んだのは分かるし、それは別に悪くないのよ。
でも、段取りのヘタクソさがモロに出ちゃってんのよね。
そこに限らず、この映画は用意している段取りが全てヘタクソなので、ちっともスムーズに話が流れていかない。

ジュリエットが倒れた後、女医が「貴方の立場では必要な診療を受けられません」と言ったり、ケイシーがジュリエットから「移植は無理なのよ」と言われたりするシーンがある。
だけど、もうちょっと具体的に、何が問題なのか説明すればいいでしょ。
そりゃ「金が無い」という理由なのは分かり切っているけど、だからこそ台詞で明確にしない意味が無い。
あと、病名もハッキリさせないんだよね。それが話を進める上で必要不可欠な情報だとは言わないが、無駄な引っ掛かりを生んでいるぞ。

ケイシーはゲランの仕事を簡単に辞めることが出来ているし、その後で嫌がらせを受けることも無い。そして簡単に戻ることも出来ている。
ゲランはマフィアのボスにしては、かなり寛容な性格だ。
ある意味ではヌルいとも言えるのだが、「ワルだけど好感の持てる奴」として使う気なら、それでもいいと思うのよ。
だけど、ケイシーの敵に回ることは無いものの、そこまで徹底しているわけでもないんだよね。
ゲランという人物を、あまり上手く使いこなしていないんだよな。

カールはケイシーがジュリエットのリストバンドを付けていることを指摘した後、「必要な情報を教えてくれなければ、彼女に訊く」と口にする。
それは脅し文句であり、彼の狙いは黒幕の正体を白状させることにあるはずだ。
だったらケイシーが「取引しよう、待ってくれ」と呼び止めた時、それを無視して立ち去るのは変でしょ。
そんで残った男も、拷問して情報を聞き出そうとするわけじゃなくて、ケイシーを殺そうとするのだから、もうワケが分からない。
しかも殺すのが目的のはずなのに、蹴りを入れて取り押さえた後、ゆっくりとナイフを近付けるという無意味な時間の使い方をするし。

ケイシーは無駄に時間を使ったボンクラな男を退治し、近くに置いてあった車を奪う。
「たまたま近くに高級車が置いてある」という都合の良さに、「それが取引用の車で大金が積んである」という都合の良さがプラスされる。
そんなトコへ連行して情報を聞き出そうとしているんだから、その時点でカール一味はボンクラってことだ。
しかも、倉庫に連行しただけで、手足を縛り付けることもしていないのよ。
その状態で、たった1人だけが残って始末しようとするんだから、そりゃあ反撃されても仕方がないだろ。

わざとらしさ満開の御都合主義で車を手に入れたケイシーは、敵に追われてカーチェイスを展開する。
そんな強引な形でカーアクションへ突入するのなら、もっと前半の段階から、そういうシーンを用意しておけばいいでしょうに。なぜ前半にカーアクションの見せ場を1つも用意しなかったのかと。
トラックを奪った後、追っ手が来ることは無いので、普通に運転するだけなのよね。
そんで敵が来ると一瞬にしてクラッシュに追い込まれてケイシーが気絶するから、何のアクションも無いのよ。
まあトラックでのアクションじゃなくて普通車でのアクションをやりたかったのかもしれないけど、どうであれ構成に難があると言わざるを得ない。

ジュリエットが腹を立ててケイシーからの電話を切った時点で、もうカールの手下2人が病院に到着している。
どう考えても、ケイシーの救出は間に合わない。
それでもケイシーは何とか彼女を助けるために行動するのだが、マティアスに電話した時の「帰宅中だから家から連れ出せ」という台詞は違和感が強いぞ。その段階で、まだジュリエットは病院にいるし。病院から連れ出すよう頼んだ方がいいんじゃないかと。
まあ、どっちにしろ間に合いそうにないけど。

ところが手下2人が病院に到着したシーンの後、しばらくケイシーが逃亡する様子が描かれるだけ。その間、病院では何の動きも起きていない。再び病院のシーンになると、手下2人は立ち去るジュリエットに全く気付かずスルーしている。
ジュリエットの顔を知らない連中なので、筋は通っている。でも、まあ都合の良すぎる展開だなあとは感じる。
そんなボンクラどものボスであるカールはケイシーに電話を掛け、ジュリエットの住所を語っている。ケイシーが金は返すから手を出さないでくれと頼んでも、彼は無視する。もはや何が目的なのか、サッパリ分からない。
だからって、イカれた奴とかミステリアスな奴としての面白味があるわけではない。ストーリーの都合に合わせるために、キャラが定まっていないと感じるだけだ。

横転した場所から去ったケイシーがガリンスタンドに立ち寄ると、そこへカールが現れる。
手下たちに任せず、わざわざ出張って来るトコに不自然さは感じるが、それは置いておくとしよう。
ここでカールたちは盗まれた金を見つけるが、銃を向けられたケイシーは「本物のトラックは俺が持ってる」と取り引きを持ち掛ける。その直後には、別行動を取っているカールの手下たちがトラックの積み荷が空っぽであることを確認している様子が写し出される。
その時点では、何故トレーラーが空っぽなのかは説明されない。
ラスト寸前、逮捕されたケイシーが刑事に取り引きを持ち掛け、「事前に別のトラックを用意しておき、トレーラーを摩り替えて走り出した」ってことが明らかにされる。

だけど、それまでのケイシーはミスを繰り返していたのに、そこだけは「周到に用意して敵の上を行っていた」という設定なのは、都合が良すぎるだろう。
これが「敵に追い込まれたと見せ掛けて、実は全て作戦の内」ってことならともかく、そうじゃないからね。
あと、敵はトラックに別の車を突っ込ませて横転させ、ケイシーを捕まえたはずでしょ。
だったら、その時にトレーラーの積み荷を確認しないのは変じゃないか。横転させたトラックを放置して、積み荷だけ回収してもおかしくないような状況なのにさ。

(観賞日:2018年5月1日)


第38回ゴールデン・ラズベリー賞(2017年)

ノミネート:最低助演男優賞[アンソニー・ホプキンス]
<*『アウトバーン』『トランスフォーマー/最後の騎士王』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会