『キャプティビティ』:2007、アメリカ&ロシア

トップモデルとして活躍しているジェニファー・トリーは、何者かに拉致された。意識を取り戻した時、彼女はコンクリートで覆われた 部屋に閉じ込められていた。彼女は窓の無い部屋で扉を探すが、どこにも出口は無かった。壁には彼女のポスターが貼られている。「ここ はどこ?」と叫んだ途端、壁から引き出しが開いた。そこにはジェニファーはいつも飲んでいる野菜ジュースか入っていたが、彼女は コップを壁に投げ付けた。
犯人はジェニファーのアパートに侵入したらしく、クローゼットの服が置いてあった。「すぐに警察が駆け付けるわよ」とジェニファーが 喚いていると、天井からガスが噴射され、彼女は意識を失った。意識を取り戻すと別の部屋に運ばれており、診察台に拘束されていた。 近くにはモニターが置いてあり、見知らぬ女性が助けを求める映像が写し出された。女性は熱した油をシャワーで浴びせられ、顔面の皮膚 が焼け爛れた。その女性と同じようにジェニファーは命乞いをするが、油のシャワーが降って来た。
ジェニファーが目を覚ますと先程の部屋に戻されており、顔には包帯が巻かれていた。彼女が包帯を外すと顔の皮膚は焼け爛れておらず、 傷一つ無かった。胸を撫で下ろしたジェニファーだが、部屋のシャワーが勝手に動いたので慌てて逃げた。すると引き出しが開き、「1」 の鍵が入っていた。1のロッカーを開けると服が入っていたが、ジェニファーは袖を通さなかった。すると強烈な光で照らされ、不快な音 で耳を攻撃されたので、彼女は服を手に取った。
光と音の攻撃が止んだ後、ジェニファーは服を引き裂いた。すると再び光と音の攻撃が開始され、ジェニファーはベッドの下に潜り込んだ 。爪ヤスリを見つけた彼女は光と音の攻撃が止んだ後、それを使って通気孔のネジを外した。通気孔に侵入したジェニファーは、剥がれた 爪を発見した。先へ進もうとした彼女だが、何者かが電動ノコギで通気孔を切断しようとする。行く手に監視カメラが出現し、覗いている 目が写った。通気孔の上部から腕が伸びて、ジェニファーを捕まえた。彼女は腕に注射を打たれて気を失った。
またジェニファーは診察台に拘束され、犯人は冷蔵庫からタッパーを取り出した。犯人は目玉や耳、臓物や血液をミキサーに掛け、それを 強引に飲ませた。犯人はジェニファーをポスターの部屋に戻してベッドに寝かせ、別の部屋からモニターで監視した。ジェニファーは壁の わずかな隙間から向こうを覗き、若い男がいると気付いた。男もジェニファーに気付き、壁を削って筆談を試みる。照明が落とされると、 男はマッチで火を灯した。彼はジェニファーにもマッチを渡した。
男はゲリーと名乗り、「ここから逃げなきゃ」と言うジェニファーに「ここはワインセラーみたいな穴倉で出口は無い」と告げる。犯人に ついて尋ねると、彼もジェニファーと同様に顔は見ていないという。「一人じゃないと分かって救われたよ」とゲリーが口にすると、「私 もよ」とジェニファーは告げた。しばらく眠ったジェニファーが目を覚ますと、ゲリーが彼女を見ていた。彼は壁を削り、透明の部分を 広げていたのだ。
照明が落とされてジェニファーが怯えると、ゲリーがマッチで火を灯した。「どうやってここに?」という彼の質問に、ジェニファーは 拉致された時の状況を語った。また眠った彼女が目を覚ますと、向こうの部屋に懐中電灯を持った犯人が入っていた。犯人はベッドで寝て いるゲリーに歩み寄り、腕に注射を打った。ジェニファーは薬を嗅がされて意識を失い、目を覚ますとガラスケースに閉じ込められている 。大量の砂が流れ込む中、ゲリーは通気孔を伝って救助に駆け付けた。
ゲリーはジェニファーを天井裏へ引っ張り上げ、「ここは地下だ。だから、この上が1階だと思う」と告げる。通気孔から1階の部屋に 出ると、焼け爛れた死体がバスタブに放置されていた。犯人が迫る中、2人は扉を壊してガレージに到達した。2人は車でガレージの シャッターを突き破るが、ゲリーが昏倒してしまう。直後に車からガスが噴射され、ジェニファーは意識を失った。目を覚ますと、彼女は 診察台に拘束されていた。右手はショットガンの引き金に縛られ、駕籠に閉じ込められた愛犬のスージーに銃口が向いていた。
ジェニファーの近くにはカードが並べてあり、「30秒。お前か犬か」というメッセージが示されていた。デジタル機器の秒数表示が減って いく中、犯人はジェニファーに銃を向けた。ジェニファーは残り時間が0になる直前でショットガンを発砲した。ポスターの部屋に連れ 戻されたジェニファーは、ガラスケースの中に入れられたスージーを見つけた。彼女が急いで助けようとすると犯人がスージーを持ち上げ 、「騙してやったぜ、ハハハ」と書かれたカードを見せた。
いつの間にか眠っていたジェニファーが目を覚ますと、服が変わっていた。ジェニファーは隣の部屋にいるゲリーに気付き、「ここを出る のは無理だわ。楽しんでるのよ」と漏らした。部屋を遮る壁が開き、2人は互いの部屋へ行こうとするが、すぐに閉じられた。引き出しが 開くと、4の鍵が入っていた。ジェニファーが4のロッカーに入っていたドレスに着替えると、また壁が開いた。ゲリーがジェニファーの 部屋に来て、2人は抱き合った。
ジェニファーの部屋のモニターに、過去の犠牲者が残虐行為を受ける映像が写し出される。ゲリーは「変態野郎め」と怒鳴り、監視カメラ を破壊した。すると照明が落ちた中で犯人が現れ、ゲリーと格闘になる。犯人はゲリーに発砲し、彼を部屋から連れ出した。モニターには 拘束されて銃を向けられた彼の姿が写し出され、ジェニファーは犯人に助命を嘆願する。部屋に来た犯人はジェニファーを眠らせ、診察台 に運んで拘束した。その傍らにはゲリーも拘束されて、2人の手はテープで繋がれていた。
犯人がジェニファーに触れると、ゲリーが「彼女に手を出すな」と叫んだ。すると犯人はゲリーの奥歯をペンチで引っこ抜き、それを袋に 入れてジェニファーの胸元に置く。ポスターの部屋に戻されたジェニファーは、ゲリーと情事に及んだ。その最中、犯人が密かに部屋へ 入って来るが、何もせずに立ち去った。ジェニファーが失踪してから、4日が経過していた。ゲリーはジェニファーに声を掛け、睡眠薬で 眠り込むのを確認した。彼は壁の隠し扉を開けると、地上の部屋へ向かった…。

監督はローランド・ジョフィー、原案はラリー・コーエン、脚本はラリー・コーエン&ジョセフ・トゥーラ、製作はマーク・ダモン& セルジュ・コノフ&レオニード・ミンコウスキー&ゲイリー・メールマン、共同製作はタマラ・スチュパリヒ・デ・ラ・バーラ& アレクサンドラ・メールマン&ジル・キャツビー&ステファニー・カレブ、製作協力はマリウス・ヴィルナス&オーラ・カレボワ、 製作総指揮はヴァレリー・チュマック&コートニー・ソロモン、撮影はダニエル・C・パール、編集はリチャード・ノード、美術は アディス・ガジエフ、衣装はジェニファー・マーリン、音楽はマルコ・ベルトラミ。
出演はエリシャ・カスバート、ダニエル・ギリス、プルイット・テイラー・ヴィンス、マイケル・ハーネイ、ラズ・アロンソ、クリスタ・ オルセン、カール・パオリ、トレント・ブロイン他。


『フォーン・ブース』のラリー・コーエンが原案と共同脚本を担当し、『グッバイ・ラバー』『宮廷料理人ヴァテール』のローランド・ ジョフィーが監督を務めた作品。
TVドラマ『24 TWENTY FOUR』で注目を浴びたエリシャ・カスバートが、ジェニファーを演じている。
他に、ゲリーをダニエル・ギリス、容疑者のベンをプルイット・テイラー・ヴィンス、刑事のベティガーをマイケル・ハーネイ、刑事の サントスをラズ・アロンソが演じている。
ラリー・コーエンと共に脚本を担当したジョセフ・トゥーラは、これがデビュー作。

この映画、「主な登場人物は5人だけ」「物語の大半は閉鎖された空間で進行する」「監禁されているヒロインが見知らぬ犯人への恐怖を 感じながら脱出を試みる」ということで、「少人数、閉鎖空間、シンプルで直線的なストーリー進行」という3拍子が揃っている。
そんな作りの映画なので、「終盤に待ち受けているドンデン返し」「意外性のある犯人や犯行の真相」というのが肝になると思うのだが、 残念なことに、こっちの期待値を大きく下回っている。
これを書くだけでネタバレになってしまうかもしれないが、前半の内に、っていうか序盤の段階で「これって、ひょっとすると『ソウ』を 意識してないか?」と感じさせられる。そして、そのように感じた段階で、犯人の予想も付いてしまう。
もちろん、これが外れてくれたら、そして予期していなかった犯人が登場してくれたら嬉しい誤算になるのだが、予想通りの答えが用意 されている。『ソウ』と全く同じオチではないが、ほぼ同じだし、ちょっとした捻りはあるが、それも途中で読めてしまう。

この映画、ドンデン返しの部分以外は、ものすごくシンプルだ。途中で意外な方向へ物語が転がって行くとか、意外な真相が明らかになる とか、そういうことは無い。
人間関係が複雑に入り乱れることも無いし、時系列をシャッフルして行き来することも無い。
ヒロインの過去が明らかになるとか、全く別の事件が絡んで来るとか、そんな展開も無い。
また、「伏線を細かく張り巡らせる」という作業も無いので、オチが到来した時に、「あの時のアレは、そういうことだったのか」と感心 したり驚いたりすることも無い。
伏線を張り巡らせる作業をやっているつもりかもしれないが、伝わらないので意味が無い。

例えば、ロッカーは1から4まで揃っており、その内の1の鍵が引き出しに入っている。
ロッカーの中身は服で、単に「それを着ろ」ということだけ。
知らない内に3のロッカーに入っていた服に着替えさせらているとか、4のロッカーのドレスを着るとか、そういう展開にしても、ただ服 が入っていたというだけ。
引き出しに灰を詰めたコップとタロットカードとマッチ箱が入っている時もあるが、マッチ箱を取ろうとすると引き出しに手を挟まれそう になり、薬を嗅がされて意識を失う。
灰やタロットカードに何の意味があったのか、それは全く分からないままだ。

ジェニファーが拉致監禁された後は、「正体不明の犯人がジェニファーに様々なアイテムを用意したり、様々な攻撃を仕掛けたりする」と いう作業が続く。
熱した油のシャワーを浴びせたと思わせて、わざわざ包帯を巻いたり、特殊メイクで頬に傷を付けたりしてから、「実は違いました」と いうことで安堵させる。
そんな面倒な作業をして大火傷を偽装することに何の意味があるのかというと、ただジェニファーを怖がらせて遊んでいるのである。
安堵した途端にシャワーの水を出すのも、スージーを殺したと思わせるのも同様。

アイテムに関しては、「ジェニファーが知恵を回してアイテムをゲットし、脱出を図る」ということではなく、わざわざ犯人が提供して いる。
提供する気が無ければ、そんな物は最初から監禁場所に置かなければいいだけのことだ。わざわざアイテムを提供した上で、それを使って 脱出を図る彼女を攻撃するわけだ。
そんなことをする理由は、ゲームを楽しみたいからである。
「何故そんなことをするのか」という疑問に対する答えは、ほぼ「そういうゲームだから」ということになる。

ゲリーが登場した後も、基本的には同じ進行が続く。相変わらず、ジェニファーが攻撃を受ける作業が続く。
ただし、ジェニファーは光と音で攻撃されたり、何度も捕まって連れ戻されたりするが、精神的に追い込まれるだけで、肉体的な虐待では ない。
臓物と血液のジュースを飲まされるのは肉体的な虐待と言えなくもないが、怪我を負わされるわけではない。
ガラスケースに閉じ込められて砂を流し込まれるのも、体に傷は負わない(そもそも「どうせ助かるんでしょ」ってのがバレバレってのは 置いておくとして)。

サスペンス映画のはずなんだけど、やってることはバラエティー番組『ガキの使いやあらへんで!!』の年末スペシャルの1コーナーを連想 させる。
『笑ってはいけない』シリーズで「深夜の特別ルール」としてやっている、驚いてはいけないコーナーの強化版みたいなモンだ。
あの番組とは違って、当然のことながら笑える部分は無いけど、だからってサスペンスやホラーとして優れているわけではない。
つまり、この映画は1970年代という時代設定も、男性中心の現場という設定も、それが無くても成立しちゃうんだよな。

おっと、そうじゃないな。1つだけ、もしかしたら笑えるかもしれないシーンが後半に待ち受けていた。
それは、ジェニファーがゲリーとセックスを始めるシーンだ。
無事に脱出してからセックスするわけではなく、監禁されている部屋で、しかも犯人が監視カメラで見ていることを知りながら、それでも セックスに及ぶのだ。
どんだけ愚かなのか、どんだけ緊張感が欠如しているのかと。
仮に「吊り橋効果でゲリーに恋をした」としても、監視下で平然とセックスするのはアホすぎるだろ。

面倒なのでネタバレ上等で批評を書いていくが、ようするに本作品は、「変態ストーカー男がヒロインを監禁して願望を叶える」という話 なのである。
そのアイデアだけなら日活ロマンポルノかエロ系のVシネマ辺りで映像化されていそうだし、むしろそういうアプローチの方が可能性が あるんじゃないかと思ったりもするんだが、残念なことにエロいサービスは皆無。
ジェニファーがドレスに着替えるシーンでは鏡に写る裸が見えるが、間違いなくスタント・ダブルだし、そもそも僅かにボヤッと写る だけ。
マヌケにしか見えない形にしてまで濡れ場を用意しているが、やはりエロいサービスは無くて、ジェニファーは全く肌を露出しない。

これを「残念なこと」と書くのはお門違いだと思うかもしれんけど、やっぱりエロは必要でしょ、この映画。
「意外なドンデン返しが待ち受けているサイコ・サスペンス」ということなら、サスペンスや意外なオチがセールス・ポイントになるから 、お色気サービスなんて無くても全く問題は無いかもしれないよ。
ただ、現実問題として、途中でネタが割れちゃうし、ヒロインのマヌケすぎる行動があったりして緊張感も削がれるし。
そうなると、エロの部分でアピールしていく必要があったんじゃないかと思うわけで。

それと、この映画は反則行為をやらかしていて、オチが分かった時に「それはダメでしょ」と指摘したくなる。
どこが反則かというと、ゲリー視点のシーン。
ジェニファーがガラスケースで砂詰めにされそうになった時、それを見ているゲリーが「彼女を解放してくれ」と叫んだり、置かれている カードに気付いたりするシーンがある。
だけど、それは「ジェニファーが見ている光景」ではないので、ゲリーがそんな言動を取るのは不自然でしょ。
特に「カードに気付く」ってのは有り得ないでしょ。最初から知ってるはずなんだから。

(観賞日:2014年1月17日)


第28回ゴールデン・ラズベリー賞(2007年)

ノミネート:最低主演女優賞[エリシャ・カスバート]
ノミネート:最低監督賞[ローランド・ジョフィー]
ノミネート:ホラー映画というには申し訳程度の最低のシロモノ賞

 

*ポンコツ映画愛護協会