『キャノンボール』:1981、アメリカ&香港
キャノンボールとは、アメリカ東海岸のコネティカットから西海岸のカリフォルニアまでの5000キロを、どれだけ速く横断できるか競う 非合法のレースである。陸海空を問わない運送業を営むJ.J.マクルーアは、キャノンボールでの優勝を目指している。彼は相棒の ヴィクター・プリンズムと共にチューンアップした車に試乗するが、交通違反を取り締まっていたパトカーにぶつかってしまう。すると ヴィクターがキャプテン・ケイオスに変身して車から飛び出し、「お役目、ご苦労」と警官に堂々たる態度を取った。
モーリス・フェンダーバームは賭け屋のグリークに相棒ジェイミー・ブレイクを紹介し、「秘密兵器がある」と得意げに告げた。財閥の 御曹司シーモア・ゴールドファーブ・ジュニアは、豪邸で母親と会った。シーモアはロジャー・ムーア気取りでスパイの真似事をしており 、そのことを母は嘆いた。日本人レーサーのジャッキーはテレビ番組にゲスト出演するが、相棒が女を口説いて勝手に車を暴走させる。 道楽で車にハマっている中東の王家の息子シークはレース参加を決め、姉を呆れさせる。
J.J.は優勝するため、検問がフリーパスになるような方法を考えた。彼はモーターボートで仕事をするが、客船の女性に気を取られて 激突し、怪我をしてしまう。救急車に乗せられたJ.J.は、救急隊員が「救急車ならどこでもスイスイと走れる」と言うのを聞いて、 それを利用しようと考えた。つまり自分たちが救急隊員になり、救急車でレースに参加しようというのだ。
ウォール街の大物ブラッドフォード・コンプトンは、昔馴染みのシェーキー・フィンチを捜索するよう秘書に命じた。彼は飛行機から オートバイごと飛び出し、パラシュートを開いて着地する。NASCARレプリカの車に乗っていたメルとテリーはパトカーに追跡され、プール に突っ込んだ。「これで車は見つからない」と余裕だったが、エンジンが壊れたため修理するハメになった。
自然を愛する写真家パメラ・グローヴァーは、「自然友の会」の会合に参加していた。隣に座った安全推進委員会のアーサー・フォイトは 、パメラに好意を抱いた。フォイトが壇上に立って演説を始めると、メルとテリーの車が誤って会場に突っ込んだ。レース参加者が宿泊 するホテルのロビーに、マッドドッグとバットマンが乗るGMCピックアップトラックが突っ込んだ。ホテルに到着したシークは、お供の 2人に「全フロアを貸し切れ」と命じた。
フォイトはパメラを伴い、ホテルのレストランバーへ赴いた。走り屋らしき面々ばかり集まっているので、フォイトは「何かあるのでは」 と考えた。同じバーでは、救急隊員の格好をしたJ.J.がヴィクターに「キャノンボールで勝つためには救急車で飛ばす必要がある。 早く医者を手配しろ」と語っていた。その会話を盗み聞きしたフォイトは、キャノンボールのことを知った。
J.J.とヴィクターはマーシー・サッチャーとジル・リバーズという美女コンビに目を留め、患者役をやってもらおうと考えて声を 掛けた。だが、2人はキャノンボールの参加者だった。振り向いたJ.J.はパメラに気付き、目を奪われた。彼はパメラを口説きに行き 、「俺と相棒は人助けのために、救急車で走っているんだ」と口から出まかせを語った。
ブラッドフォードがバイクをチューンアップしていると、シェイキーがやって来た。昔と違って太ってしまったシェイキーだが、「腕は 鈍っていない」と自信満々だった。フォイトは安全推進委員会の会長に電話を掛け、「安全推進委員会としてキャノンボールの実態を暴露 し、議会に働き掛けて活動費を獲得しましょう」と持ち掛けた。フェンダーバームとブレイクは、神父姿でバーに現れた。女好きの ブレイクは美女たちの姿を見て、「神父になんか扮装するんじゃなかった」と悔やんだ。
ブラッドフォードはバイクを暴走させ、ホテルの廊下を突っ切ってバーに突っ込んだ。シーモアはアストン・マーチンに美女を乗せて レースの受付場所に現れ、参加者名簿に「ロジャー・ムーア」とサインした。夜になり、参加者がスタート地点に集合した。レース主催者 は「交通ルール無視のレースなので、コースには交通機動隊が張り込んでいる。スタート地点とゴールでタイム・レコーダーにカードを 差し込み、所要時間の最も短い車が優勝になる」などと説明した。
一台目の車がタイム・カードを押してスタートしたが、まだヴィクターは医者を見つけ出していない。J.J.は激怒し、「医者なら誰 でもいいから見つけて来い」と怒鳴った。出発を待っていたフェンダーバームとブレイクはJ.J.に気付き、マークすることにした。 フォイトはパメラと共に隠れて監視し、レースに参加する車をチェックした。フォイトはマッドドッグたちの車が木を薙ぎ倒して出発した ことに腹を立て、追い掛けることにした。
ようやくヴィクターはニコラス・ヴァン・ヘルシングという医者を見つけてくるが、いかにも怪しげな酔いどれ男だった。ニコラスは報酬 として7000ドルを要求するが、J.J.が700ドルを提示すると、あっさりと手を打った。J.J.は車を発進させるが、まだ患者役が 見つかっていない。その時、彼らは車が事故を起こして困っているパメラとフォイトを発見した。パメラに助けを求められたJ.J.は、 彼女だけを救急車に乗せ、フォイトを放置して走り去った。
日本人コンビは赤外線ゴーグルを装着し、ライトを点灯させずにハイテクマシンを走らせた。美女コンビはスピード違反でパトカーに 停められるが、お色気作戦で警官を誘惑して見逃してもらった。パメラはフォイトを助けなかったことで、J.J.に腹を立てた。その時 、救急車はスピード違反でパトカーに停められた。ニコラスはパメラに笑い薬を打って、患者に仕立て上げた。J.J.が適当な理由を 付けて喋っていると、警官たちは気味の悪さを感じて立ち去った。
J.J.たちが走っていると、神父コンビのフェラーリが隣に来て「停めなさい、祝福を与えたい」と叫んできた。J.J.は胡散臭い 連中だと感じるが、ヴィクターは本物の神父だと信じ込んだ。J.J.は呆れながらも、ヴィクターに車を停めさせた。フェンダーバーム が彼らと話している間に、ブレイクがダイヤの空気を抜いた。フェンダーバームは「その車はポンコツだぜ」とコケにした笑いを浮かべ、 走り去った。ようやくヴィクターは、彼らがニセモノだと悟った。
ガソリンスタンドで給油したJ.J.は警官を見つけ、「後から来る赤のフェラーリに乗っている連中は、神父の格好をしている露出狂で 、たぶん銃を持っている」と吹き込んだ。そのせいで神父コンビは、警官に停止させられるハメになった。レース参加者の無線に、検問を やっているという情報が入った。J.J.はトレーラーに頼んで幌を被せた荷台に隠してもらい、検問をやり過ごした。
ゴールが近付く中、工事のせいで道路が封鎖され、全ての参加者が足止めを食らった。そこへ暴走族が現れ、ブラッドフォードたちに 絡み始めた。J.J.は「助けに行こうぜ」と神父コンビに持ち掛けるが、笑って拒絶された。するとヴィクターがキャプテン・ケイオス に変身して暴走族に飛び掛かるので、JJやジャッキーたちも加勢した。道路が開通したため、慌てて全員が車に乗り込み、ゴールを 目指してレースを再開した…。監督はハル・ニーダム、脚本はブロック・イェーツ、製作はアルバート・S・ラディー、製作協力はデヴィッド・シャムロイ・ハンバーガー、 製作総指揮はレイモンド・チョウ、製作監修はアンドレ・モーガン、撮影はマイケル・バトラー、編集はドン・キャンバーン& ウィリアム・D・ゴーディーン、アート・ディレクターはキャロル・ワグナー、音楽監修はスナッフ・ギャレット。
出演はバート・レイノルズ、ロジャー・ムーア、ファラ・フォーセット、ドム・デルイーズ、ディーン・マーティン、サミー・ デイヴィスJr.、ジャック・イーラム、 ピーター・フォンダ、エイドリアン・バーボー、ジョージ・ファース、ジャッキー・チェン、マイケル・ホイ、メル・ティリス、テリー・ ブラッドショー、リック・アヴィルス、アルフィー・ワイズ、バート・コンヴィー、ウォーレン・ベルリナー、ジェイミー・ファー、 ビアンカ・ジャガー、モリー・ピコン他。
自動車ジャーナリストのブロック・イェーツが主催した実際の非合法レースをモチーフにした作品。
実際のレースは、1978年に開催された第5回大会で終了している。
本作品の脚本も手掛けたブロック・イェーツと監督のハル・ニーダムは、実際にレースに参加した。そして、その時に使った作戦が、こ の映画でJ.J.がやった救急車で走るというもので、患者役を担当したのはイェーツの妻パメラだった。
映画に登場する救急車は、実際にイェーツたちがレースで使った物だ。J.J.をバート・レイノルズ、シーモアをロジャー・ムーア、パメラをファラ・フォーセット、ヴィクターをドム・デルイーズ、 ブレイクをディーン・マーティン、フェンダーバームをサミー・デイヴィスJr.、ニコラスをジャック・イーラム、暴走族のリーダーを ピーター・フォンダ、マーシーをエイドリアン・バーボー、フォイトをジョージ・ファース、日本人コンビをジャッキー・チェンと マイケル・ホイ、メルをメル・ティリス、テリーをテリー・ブラッドショーが演じている。
モーターボートで怪我を負ったJ.J.とヴィクターと話す救急隊員は、監督のハル・ニーダム。キャノンボール主催者として参加者に ルール説明をするのはブロック・イェーツ。
また、アンクレジットだが、美女コンビの切符を切る婦人警官は、『レニー・ブルース』『スーパーマン』のヴァレリー・ペリンだ。
当初、本作品はスティーブ・マックィーンが主演するシリアスなカーアクション映画として企画されていたが、彼が死亡してバート・ レイノルズが主演に決まったことで、コメディーに変更されたらしい。公開された時には「豪華オールスター・キャスト」と宣伝されていたように記憶しているが、それは果たして正しい惹句だったのだろうか 。
オープニングでは、タイトルが出る前にバート・レイノルズ、ロジャー・ムーア、ファラ・フォーセット、ドム・デルイーズ、ディーン ・マーティン、サミー・デイヴィスJr.、ジャック・イーラムの8名が表記される。
つまり、その面々が、出演者の中でも特にスターとしての扱いをされているという風に解釈すべきなのだろう。
その後にアルファベット順で共演者が表記されるが、その中にピーター・フォンダやジャッキー・チェン、マイケル・ホイなどの名前がある 。ピーター・フォンダがそっち側にされているのは、少し違和感もある。
ジャッキー・チェンやマイケル・ホイに関しては、日本では人気があったが、アメリカでは無名の存在だったので、その扱いは仕方が無い ところだ。何しろ、日本人の役をやらされているぐらいだ。
それ以外の面々は、エイドリアン・バーボーが『ザ・フォッグ』で注目を集めていたぐらいで、あまり知名度が高いと言えるようなメンツ は揃っていない。
やはり、前述した8名を除く面々は、「オールスター」には入らない。そもそも前述した8名に関しても、果たしてオールスターにふさわしいのかという疑問はある。
ジャック・イーラムは西部劇映画で悪役を演じてきた俳優だが、スターではない。ドム・デルイーズにしても、完全なる脇役俳優で、 スターとは言えない。
ラット・パックのディーン・マーティンとサミー・デイヴィスJr.も、大物ではあるが、「今をときめくトップスター」とは言い難い。
そんな風にして考えると、「当時の一線で活躍していた人気スター」と呼べるのは、『ロンゲスト・ヤード』『ゲイター』などで肉体派の アクション俳優として活躍していたバート・レイノルズ、3代目ジェームズ・ボンドのロジャー・ムーア、若者のアイコンであったファラ ・フォーセットの3人ぐらいではないか。
それでオールスター・キャストと呼ぶのは、無理があるように思う。ちなみに本作品はアメリカが舞台だが、香港のゴールデン・ハーヴェスト社が製作している。
アメリカ進出第一弾となるジャッキー・チェン主演作『バトルクリーク・ブロー』で大失敗したゴールデン・ハーヴェスト社だが、この 映画はヒットを記録し、続編も作られることになった。
で、そんなゴールデン・ハーヴェスト社の映画なので、ジャッキーも出演しているわけだ。
前述したように日本人の役をやらされているし、ジャッキー・チェンにとっては何のプラスにもならないような出演だったが、この映画で 1つだけ得たものがあった。
それは、エンディング・クレジットでNG集が流れるというアイデアだ。
このアイデアを、ジャッキーは自分の監督作でも取り入れることにしたのだ。
『ドラゴンロード』以降、ジャッキーの主演作ではNG集が定番となった。ロジャー・ムーアは本作品でジェームズ・ボンドのパロディー・キャラクターを演じており、アストン・マーチンに乗っている。
もちろんアストン・マーチンと言えば、ボンドカーとして有名だ。
しかし、実は007シリーズにおいて、ロジャー・ムーアがアストン・マーチンに乗ったことは一度も無い。
彼がボンドを演じていた作品では、ボンドカーはアストン・マーチンではなかったのだ。ここまでは出演者のことにしか触れていないが、それぐらいしか書くことが無いのだ。
なんせ中身はスッカラカンなので。
レースが始まるまでのキャラクター紹介の部分はチンタラしているだけだし、いざレースが始まっても、相変わらずダラダラした雰囲気 から抜け出せない。
せいぜいロジャー・ムーアのセルフ・パロディーが面白いぐらいで、それ以外はギャグがことごとく上滑りしているし。時間差スタートで所要時間を計測して1位を決めるはずなのに、なぜかクライマックスは最初にゴールした奴が優勝するかのような描写に なっている。
まあレースとして盛り上げるためには分からんではないけどね。時間差でゴールさせても、伝わらないからね。その時点では順位が 分からないので。
ただ、一斉にゴールを目指す展開にしたところで、やっぱり盛り上がりには欠けているんだけどね。
で、結局は美女コンビが優勝しているようだが、見事なぐらい、どうでもいいよな。終盤の殴り合いも、その辺りで話に盛り上がりを作らなきゃいけないだろうってことで、ムリヤリに用意した展開にしか感じない。
何の流れも無くて、いきなり暴走族が絡んでくるからね。
そこが無かったら、ジャッキー・チェンは全く活躍の場が無いけどね。
ともかく、最初から最後までグダグダで、安い学芸会みたいな映画なんだが、あえて誉めるとすれば、これだけ大勢の出演者を用意しても 、誰が誰なのか分からないという状況には陥っていないってことぐらいだろうか。(観賞日:2010年6月11日)
第2回ゴールデン・ラズベリー賞
ノミネート:最低助演女優賞[ファラ・フォーセット]