『アンチ・ライフ』:2020、アメリカ

地球滅亡が迫る中、最後のシャトルが脱出の時を迎えていた。許可証を持った千人が搭乗を許され、妊娠中のヘイリーはリンカーンの引率で恋人のノアと共にシャトルへ向かった。搭乗手続きの場で、ノアは行列の前に並んでいた男に殴られた。彼は引き離され、ヘイリーはリンカーンに連れられてシャトルに入った。先着者は冷凍冬眠装置で眠りに就いており、新たな搭乗者はホールに集められた。シャトルの責任者であるアダムス提督は、今まで41隻がニュー・アースへ向かったこと、これから半年の旅になることを語った。
ヘイリーはシャトルに乗っていたノアに声を掛けられ、再会を喜んだ。そこへリンカーンが来てヘイリーを呼び、彼女の父であるアダムスの元へ連れて行く。リンカーンがヘイリーを連れて来た報酬を要求すると、アダムスは「お前も乗れただろ。失せろ」と乱暴に追い払った。ノアが挨拶すると、アダムスは「お前が娘に手を出した野郎か。お前のせいで娘は士官学校を退学になった」と激怒する。ヘイリーは慌てて、「彼は違うわ。乗船の時に助けてくれた人よ」と嘘をついた。
ヘイリーは冷凍冬眠装置に入り、クルーとして乗船したヘイリーは元軍人のクレイやリンカーンたちと席に着いた。量子ジャンプが終わると、クレイは「30年は経った。人類は死滅してる」と語った。クルーが食堂で朝食を取っていると、スタンリー大佐はアダムスに逆らって雑務担当に降格したクレイに嫌味を浴びせた。密航者が連行されて来ると、スタンリーは「密航者の末路を見せてやる。ほとんどのクルーは冬眠してる。俺が指揮官だ。お前らの王であり、神だ」とクルーに言い放った。
スタンリーの他に、稼働メンバーは衛生兵6名、技術兵6名、雑務担当6名、衛兵6名だった。ノアはクレイと同じシフトになり、雑務の内容を指示された。クレイはノアに仕事を任せ、酒を飲んでサボってばかりいた。ある日、ノアはクレイが爆発性物質を密かに運ぶ様子を目撃した。スタンリーは何者かがリアクター室への侵入を試みてアクセスを拒否されたと知り、ノアに不審者を見たら報告するよう命じた。ノアが床掃除をしていると、クレイは強力な洗浄剤のモクサセルを使うよう促した。
シェイディーは休息部屋で酒を飲み、喉に違和感を覚えた。ノアはモクサセルを使おうとして容器を倒してしまい、台が溶けて穴が開いた。シェイディーはブルーと仕事をサボってマリファナを吸っている時、体が焼けるように熱くなった。彼は爆発して肉片が散らばり、唖然としていたブルーは何者かに襲われた。床掃除を終えたノアはクレイに連絡するが、応答が無いので捜索に行く。クレイはモクセサルをドラム缶に注いでおり、ノアは爆弾を作っているのだと確信した。
クレイに気付かれたノアは逃げ出し、ティークに遭遇した。ノアが「クレイは爆弾を作っている」と知らせると、ティークは彼を捕まえた。ティークはノアをクレイの元へ連れて行き、チェンバースとオルテガも集まった。4人はモクセサルで作っていたのが酒だとノアに教え、スタンリーには内緒にするよう要求した。クレイたちはオルテガの誕生日パーティーを開き、酒を飲んで盛り上がる。スタンリーは監視カメラでパーティーの様子を見るが、酒を没収せずに黙認した。
パーティーの後、オルテガはブルーを捜しに行く。彼女はブルーを発見するが、いきなり襲われた。ノアは移動先の職業を登記しようとするが、クレイに見つかった。クレイに問い詰められたノアは、ヘイリーのために密航したことを告白した。クレイが呼び出されたため、ノアも付いて行った。クレイとノアが行くと、スタンリーたちが待っていた。ティークが飛び散ったシェイディーを発見し、スタンリーに報告したのだ。クレイやノアたちは、手分けしてブルーとオルテガの捜索に向かった。
クレイはリアクター室の前で殺されているオルテガを発見し、ノアはアダムスの部屋のドアを焼き切ろうとしているブルーを発見した。ノアの報告を受け、スタンリーが衛兵のズウたちを率いて駆け付けた。武器を捨てるよう要求されたブルーは何も反応せず、ズウを襲った。ズウは首を噛み切られて死亡し、スタンリーはブルーを射殺した。チェンバースは医務室でブルーの遺体を調べ、体から何か溶け出していることに気付いた。彼女は遺体を解剖すると決め、他の面々に部屋から出て行くよう指示した。
スタンリーはティークと共に監視カメラの映像を調べ、シェイディーが飛び散った時の様子を確認した。ノアとクレイが休憩部屋にいると、ドアがロックされた。クレイが大声で抗議すると、スタンリーが銃を構えて現れた。スタンリーは2人を医務室へ連行し、チェンバースはブルーの臓器と神経と血液が食べられていたこと、何かに寄生されて体を奪われたことを説明した。彼女はオルテガが殺されてクルーの人数を再確認し、ノアが偽造許可証で密航したことを突き止めていた。
スタンリーは逃げ出そうとするノアを殴り付け、「クルーを殺して船を沈める気か」と凄む。ノアは「違う」と否定し、クレイは「こいつは生き延びたかっただけだ」と擁護した。スタンリーはシェイディーが飛び散った時の映像を見せ、「誰かがエイリアンを持ち込んだ」とティークが語る。クレイが提督を起こして知らせるべきだと主張すると、スタンリーは「エイリアンが部屋に入り込むかもしれない」と却下した。彼は「まずは密航者をエアロックから放り出す」と言い、ノアに銃を向けた。
ブルーとオルテガとズウが襲い掛かって来たため、クレイたちは戦う。スタンリーはズウに殺され、他の面々は医務室から脱出した。一行が武器庫へ向かっていると、全ての扉が解錠された。権限があるのはスタンリーだけであり、クレイたちは彼が死んでいないのではないかと考える。スタンリーは寄生され、監視カメラでクレイたちの動きを観察していた。部屋からクルーが出て来たので、クレイは戻るよう指示して武器庫へ急いだ。
クレイたちが武器庫に着いた直後、クルーの悲鳴が響いた。ブルーたちが襲って来たのでクレイが火炎放射器で攻撃するが、まるで効き目は無かった。天井から消火用の薬剤が噴射されると、ブルーたちは退却した。クレイたちはセキュリティー・ベアへ向かうが、寄生されたクルーに襲われる。ティークがクルーと戦っている間に、無事だったリンカーンが一行の元へやって来た。クレイが怪我を負ったティークを連れ戻った後、リンカーンは脱出ポッドへ向かう。そこへブルーが現れ、リンカーンを殺害した。
クレイたちはセキュリティー・ベアに到着し、ティークの怪我を手当てする。ティークは「勝ち目は無い」と言い、クレイとチェンバースも死を覚悟する。しかしノアは「家族のために戦う」と告げ、通気口を使ってアダムスを起こしに行くことにした。クレイは道を指示し、ブルーたちの要る場所を教えた。ティークはクレイとチェンバースに、自分が寄生生物を持ち込んだことを打ち明けた。クレイが激怒すると、彼は「苦しまずに死ねると思った」と弁明した。
ノアはアダムスの部屋に到着するが、冷凍冬眠装置を開けようとするとアクセスは拒否された。バールを見つけた彼は、強引にハッチを開けた。ノアはアダムスに、現在の状況を説明した。ティークはクレイから寄生生物の入手先を問われ、「連中は宇宙が出来る前から存在していた。自らの意思で人類を殺してる」と話す。その会話を聞いていたアダムスは、「宇宙へ放り出してやる」と口にする。彼は同じ部屋で冬眠していた衛兵たちを起こし、武器を手に取って寄生されたクルーの元へ向かった…。

監督はジョン・スーツ、脚本はエドワード・ドレイク&コーリー・ラージ、製作はコーリー・ラージ&ダニー・ロス、製作総指揮はウィリアム・V・ブロムリー&シャナン・ベッカー&ジョナサン・サバ&ネス・サバン&セス・ニードル&デヴィッド・ファナン&マット・コーエン&エリザベス・ザヴォイスキー&アンドリュー・コトライアー&ダニー・H・チャン&メアリー・アロー&ロジャー・ドーマン&マイク・ドノヴァン&ライアン・チャールズ・グリフィン&スティーヴン・イーズ&ベンジャミン・クラウス&エドワード・ドレイク&カルロス・ヴェラスケス&ジョニー・メスナー&アレクサンダー・ケイン、撮影はウィル・ストーン、美術はメリッサ・ウッズ&デヴィッド・ディーン・イーバート、衣装はキンバリー・メテラ、音楽はスコット・グラスゴー。
出演はコディー・カースリー、ブルース・ウィリス、トーマス・ジェーン、レイチェル・ニコルズ、カサンドラ・クレメンティー、ジョニー・メスナー、コーリー・ラージ、カラン・マルヴェイ、ティモシー・V・マーフィー、ヨハン・アーブ、アンジー・パック、ラルフ・モーラー、アレクサンダー・ケイン、ヴァン・アヤシット、スウェン・テメル、アダム・ポッター、エヴァリー・ラージ、エリック・ブアルキ他。


TVドラマ『リバーデイル』や『デイブレイク 〜世界が終わったその先で〜』の出演者であるコディー・カースリーが、初主演を務めた長編映画。
監督は『400デイズ』や『フィアー・インク』のプロデューサーであるジョン・スーツで、長編のメガホンは5作目。
ノアをコディー・カースリー、クレイをブルース・ウィリス、アダムスをトーマス・ジェーン、チェンバースをレイチェル・ニコルズ、ヘイリーをカサンドラ・クレメンティー、ブルーをジョニー・メスナー、リンカーンをコーリー・ラージ、ティークをカラン・マルヴェイ、スタンリーをティモシー・V・マーフィーが演じている。

ノアは搭乗手続きの行列で引き離されたのに、なぜシャトルに乗れたのか。それは全く教えてくれない。そもそも、彼を殴った男の目的は何だったのか。それも全く分からない。
ノアは引き離されたのに登場しているので密航者かと思ったら、ヘイリーに「シャトルの管理か」と言っている。つまりクルーとして搭乗しているわけだが、最初からそういうことだったのか。
35分ぐらい経って、やっぱりノアは密航者だったと判明する。でも、それなら本来の雑務担当者がいたはずで、そいつはどうなったのか。
密航者は次々に捕まっていたはずなのに、人数が合わないことをノアはどうやって誤魔化せていたのか。

序盤のシーンで、ヘイリーが妊娠していることや、アダムスが彼女の交際相手に激怒していることが示されている。だが、直後にアダムスとヘイリーも冷凍冬眠に入り、そのまま物語が進行する。
なので、ノアに関わる「恋人は妊娠中」「恋人の父は激怒している」という設定は、まるで無意味なモノになってしまう。
あと、リンカーンはクレイと再会した時に「久しぶりだな」と挨拶して殴り倒され、当然の報いだと言うんだけど、どういう事情があるのかと教えてくれないんだよね。後から明かされるのかと思ったら、それも無いままだし。
だったら、そんな無意味な匂わせは要らないだろ。

シェイディーの肉体が飛び散るシーンは、「ブルーが返り血を顔面に浴びる」という映像だけで処理している。肉片が飛び散った後の状態を、見せることも無い。
こんな映画で残酷描写を避けても何の意味も無いので、単純に「表現するスキルが無かった」ってことなんだろう。
その後、クレイたちが現場へ行くと床が飛び散った肉片と血で汚れているのが映るし、スタンリーが監視カメラの映像を確認する時には飛び散る瞬間の様子が映し出される。
でも、そこに残酷風味は全く感じないので、やっぱりスキルの問題なのよ。

クレイは密かに爆発性物質を運んだり、モクサセルをドラム缶に注いだりと、怪しい動きを見せている。でもノアが「爆弾を作っている」と確信した直後、酒を作っていることが明らかにされる。
もちろんクレイが爆弾なんて作っちゃいないことはバレバレなんだけど、そんな肩透かしは誰も得をしない。
「寄生生物が人間を襲う」という本筋とも、上手く絡み合っていないし。
そこが結び付いた上で、観客の目を逸らすためにやっているわけではないのよ。何も計算せず、「何となくやってみた」ってだけなのよ。

スタンリーはクルーに横柄な態度を知り、王や神を気取るような高慢な男だ。ところがクレイたちが酒を作って飲んでいることを知っても、没収せずに黙認する。
そういうトコだけ甘いのは、キャラ設定がブレるぞ。
しかも、なぜ酒の件だけは甘い対応で済ませるのか、そこの事情も全く分からないし。
そんで寄生生物の存在が明らかになって戦うことになると、もうスタンリーのクルーに対する高慢さやクレイとの反目も全く使われなくなるし。

「宇宙船という閉ざされた空間で、寄生生物が人間を次々に襲う」という、どこかで聞いたことがあるような話である。
そういうプロットの映画は、世界中で今までに何本作られてきたことだろうか。
使い古されたプロットに、新しい切り口や新しいアイデアを持ち込んでいるわけではない。
アサイラム作品のように、ヒット作の直後に便乗した亜流映画ってわけでもない。
今さら『エイリアン』に便乗したかのような、色んな意味で間違っている映画なのだ。

寄生された人間は、ほぼゾンビのような存在と言ってもいいだろう。 寄生されたクルーに襲われた人間も寄生されるとか、銃撃しても全く効果が無いとか、死んだはずのクルーが蘇って襲って来るとか、その辺りの設定は、まんまゾンビだ。
都合のいい時だけ寄生される以前の人間の知性を感じさせるものの、基本的には「執拗に追い掛けて来て素手で攻撃する」という単純な行動ばかり取るのもゾンビっぽい。
ようするに、実質的には宇宙船を舞台にしたゾンビ映画だと思えばいい。

ティークは自分が寄生生物を持ち込んだと告白し、その理由として「苦しまずに死ねると思った」と言う。
だけど、苦しまずに死ねる方法なんか、他に幾らでもあるでしょ。わざわざ寄生生物を持ち込むという方法を取る意味が不明。
もっと言っちゃうと、宇宙船に乗ってから死ななくてもいいはずだし。その前に死ねばいいはずだし。
あと、寄生生物に襲われないと死ねないのに、それを「苦しまずに死ぬ方法」と解釈しているセンスも謎だ。

ただ、ティークは自殺したかっただけなのかと思ったら、その後で寄生生物の入手経路を問われた時に、「人類は宇宙の厄介者だ。全てを破壊してしまう」などと、人類を絶滅させる目的みたいなことを口にするんだよね。
でも、完全に後付けでしかないのよ。
あとティークは寄生生物について「宇宙が出来る前から存在していた」と話すけど、そんな物をどうやって入手したんだよ。
そして、それが宇宙が出来る前から存在して人間に寄生する生物ってことを、どうやって知ったんだよ。

ノアは「家族のために戦う」と勇ましいことを言うのだが、どんな行動を取るのかと思ったら、通気口を使ってアダムスを起こしに行く。そしてアダムスが部下たちを起こし、寄生された面々と戦う。
つまりノアは自ら戦うわけじゃなくて、戦う面々を起こしているだけなのだ。完全に他人頼りなのだ。
あと、冷凍冬眠装置へのアクセスが拒否されるので、どうするのかと思ったらバールでこじ開けるんだよね。
そんな方法で簡単に開いちゃうのかよ。冷凍冬眠装置のセキュリティー、ユルユルじゃねえか。

ノアが主人公のはずだが、主人公らしい活躍はほとんど見せない。
アダムスを起こしに行くシーンでは少しだけフィーチャーされるけど、それぐらいだ。
ただの傍観者や同行者に留まっているシーンも少なくない。勇ましいことは言っているが、いざブルーに襲われると怯えて逃げ惑う。
で、たまたま近くに置いてあったモクセサルが効くことに気付くけど、それを他の面々に知らせる前にアダムスが敵を巻き添えに自爆するので、彼が単なる「無駄死に」になっちゃうというボンクラなシナリオ。

その後、敵が復活すると、もうクルーが3人しか残っていないので、さすがにノアも扱いが良くなる。
そして彼らの前にはクリーチャーが登場し、終盤は分かりやすい『エイリアン』の亜流になる。そして完全ネタバレだが、クレイがノアとヘイリーを逃がしてシャトルを爆破する。
ただ、ノアたちがニュー・アースに到着してもハッピーエンドは無いだろうと思っていたら、巨大なクリーチャーが暴れている。そして映画は「俺たちの戦いは、これからだ」という感じでエンドロールに突入する。
そういう終わり方が絶対にダメだとは思わないが、この作品の場合はチープさに繋がっている。

(観賞日:2022年5月22日)


第41回ゴールデン・ラズベリー賞(2020年)

ノミネート:最低助演男優賞[ブルース・ウィリス]
<*『アンチ・ライフ』『ハード・キル』『ナイト・サバイバー』の3作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会