『アウェイク』:2007、アメリカ

毎年2100万人以上が全身麻酔を受ける。大半は何事も無く眠りに就き、覚醒後は何の記憶も残らない。しかし不幸にも約3万人が眠りに 就くことが出来ず、術中覚醒と言われる状態になるという。肉体は完全に麻痺し、叫ぶことも出来ないが、目覚めているのだ。11月1日、 心臓専門医のジャックは友人であるクレイの手術を行った。しかし新しい心臓が上手く動かず、クレイは死亡した。ジャックは病院の自室 で椅子に座り、前日のクレイはどうだったのだろうかと想像した。
クレイは亡き父から大企業であるベレスフォード・キャピタル社を引き継ぎ、次々に他の会社を吸収合併して事業を拡大している。そんな 彼は恋人のサムと、半年前に婚約したが、だが、リリスに彼女との交際を隠している。クレイはサムから「私、幸せになりたいだけなの」 と結婚を求められ、「ああ、分かってる。母には話すよ」と告げる。クレイはジャックに、サムのことを相談する。「親父さんのことが 引っ掛かってるのか?親父さんだって、おふくろさんに打ち明けろって言うさ」と言うジャックに、クレイは「いや、サムと付き合ってる と知ったら、僕を川に放り込むよ」と告げる。
ジャックが「難しく考えるな。日を決めたら結婚するだけだ。お袋さんに話せば分かってくれるさ」と言うと、クレイは「いや、君はお袋 を知らない」と口にする。ジャックはクレイを自分の勤務する病院へ連れて行き、医療過誤の訴訟を4件も抱えていることを語る。だが、 クレイは彼が命を救うためにやったことであり、何も悪くないと思っている。ジャックは「なぜ彼らが訴えると思う?悲しみをどうして いいか分からなくて、責める相手を欲しがってるんだ。事実を受け入れられないんだよ」と述べる。
クレイは移植手術が必要な心臓疾患を抱えており、ジャックは「いいか、僕は君の胸を開いて心臓を取り出す。その時に君が死ぬ危険性は 、かなり高い。移植が成功しても、10年以内の死亡率は50パーセントだ。時間は大切だ。悔いは残すな」と告げる。クレイは珍しい血液型 で、適合するドナーを1年も待っている。リリスはクレイに、自分の親友である心臓医療の権威ナイヤー医師を会わせる。しかしクレイは 不愉快そうに、「僕の主治医はジャック・ハーパーだと言ってあるはずだ」と告げた。
ナイヤーはクレイに、「ハーパーとは随分と仲良くなったようだな。最初の発作の時、君を救ったのが彼だ。親近感を感じるのは分かる。 だが、私とリリスは15年来の友人で、大統領の手術をしたこともある。話ぐらいは聞いてもいいんじゃないかね」と語る。だが、クレイの 気持ちは動かなかった。夜、彼は主催するホームパーティーに顔を出し、合併交渉の相手である日本人と会った。パーティーの後、彼は リリスと話をした。
クレイがリリスと一緒にいると、サムがやって来た。サムはリリスの秘書で、明日の予定を伝えに来たのだ。クレイはリリスの前なので、 サムが来てもそっけない態度を取った。サムが外へ出た後、クレイは彼女を追って声を掛けた。サムは「婚約して半年も経つのに、それを 誰も知らない。こんなのは、もう嫌よ」と不満を吐露する。クレイは「済まないと思ってる」と言い、彼女を母の元へ連れて行く。交際を 知らされたリリスは、「こそこそ隠れて、こんな真似をしてたとはね」とサムに腹を立てた。
クレイはリリスから、「貴方はまだ若すぎる。人生は長いのよ」と考え直すよう諭される。しかしクレイは、実家を出ることを宣言する。 彼はサムと共に家を出ると、「今すぐに結婚してくれ」と求婚してOKを貰う。クレイはジャックに連絡して牧師を手配してもらい、 ささやかな結婚式を挙げた。クレイがサムの部屋で抱き合っていると、病院からドナーが見つかったという連絡が入った。
クレイトンがサムを伴って病院へ行くと、ジャックと同僚のパットナム、看護師のペニーが迎えた。ペニーはクレイに、「心臓は2時間後 に来ます」と告げる。クレイはパットナムから、母が来ていることを教えられた。クレイがリリスの元へ行くと、彼女はナイヤーと一緒 だった。ナイヤーはジャックのことを知っていた。リリスはジャックが医療過誤で訴えられていることを調べており、「貴方の命を二流の 医者には任せられない」と息子に告げる。だが、クレイは「彼は親友だ。母さんの許可は求めてない」と言う。
クレイはサムに「ここで待ってるから」と見送られ、手術室へ運ばれていく。ジャックたちが準備をしていると、予定に無かった麻酔医の ラリー・ルーピンがやって来る。ジャックたちが困惑していると、彼は本来の麻酔医であるフィッツパトリックの代わりだと説明した。 クレイには全身麻酔が施され、彼はラリーに言われるままに数を数える。クレイの感覚は鈍っていくが、「始めるぞ」というジャックの声 が聞こえてきた。さらに、毛を剃られる触覚も、薬の匂いを嗅ぐ嗅覚も残ったままだった。
本来ならクレイは麻酔で眠りに入るはずだったが、術中覚醒の状態に陥っていた。しかし、まだ意識があることを伝えようとしても、体は 全く動かない。手術が始まり、クレイは胸を開かれて激痛を感じる。彼はサムのことを考えて意識を集中し、痛みを忘れようとする。だが 、他のことを次々に思い出し、意識が散漫になってしまう。また彼はサムに意識を集中し、出会った頃からの出来事を回想した。
手術室に心臓が届けられ、しばらく仕事の無いラリーは「ちょっと電話を掛けて来る」と行って外へ出た。その直後、ジャックは焦燥感に 満ちた表情で「フィッツパトリックのせいで台無しだ。ラリーがこっちのやることを全て見張ってる」と漏らした。「きっと奴はスパイと して送り込まれたんだ。ドナーリストに細工したのがバレたんだろう」と不安を口にする彼に、パットナムは「奴はただの酔っ払いだ」と 告げる。彼はペニーに、外へ出てラリーを見張るよう指示する。パットナムは「誰も怪しまない。クレイを殺して、酒でも飲みに行こう」 と、ジャックに声を掛ける。そんな会話は、全てクレイの耳に届いていた。
サムは通り掛かった看護師に、クレイのことを尋ねようとする。電話を掛けていたラリーがサムに気付いて声を掛け、「ご心配なく。順調 に行ってますから」と告げる。サムは、彼のポケットに入っている酒瓶に気付いた。「ここの勤務医じゃないでしょ?」と彼女が訊くと、 ラリーは「彼の麻酔を担当してます」と告げた。サムは動揺を示し、パットナムの元へ行って「何があったの?フィッツパトリックはどこ なの?」と質問した。するとフィッツパトリックに電話を掛けていたペニーが戻り、「彼は家に居るわ」と教えた。
パットナムが「逃げ出したってことだな」と軽く言うと、サムは「あんな奴、いいわ。後で何とかする。ラリーは感付いてない?」と口に した。彼女もジャックたちとグルだったのだ。ジャックが弱気な様子で「これは僕が思い付いた計画だ。やめる権利も僕にある」と話すと 、サムは「全て上手く進んでるのよ。彼と結婚したし、難題は乗り越えた。準備に1年も掛けたのに、無駄にするの?名前も変えたし、 私たち、絶対に疑われないわ。訴訟で幾ら掛かると思うの?保険だけじゃ済まないのよ」と語る。かつて同じ病院の看護師だったサムは、 「私たちはお金持ちになれるのよ。1億ドルを4人で分けるんだから」と言い、計画を遂行するようジャックを焚き付ける…。

脚本&監督はジョビー・ハロルド、製作はジョアナ・ヴィセンテ&ジェイソン・クリオット&ジョン・ ペノッティー&フィッシャー・スティーヴンス、共同製作はエイミー・J・カウフマン&トニー・タンネル&ドニー・ドイッチ、 製作総指揮はティム・ウィリアムズ&ボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&ケリー・カーマイケル、撮影はラッセル・ カーペンター、編集はクレイグ・マッケイ、美術はディナ・ゴールドマン、衣装はシンティア・フリント、音楽はサミュエル・シム、 音楽監修はダン・リーバースタイン、テーマ曲はグレーム・レヴェル。
出演はヘイデン・クリステンセン、ジェシカ・アルバ、テレンス・ハワード、レナ・オリン、クリストファー・マクドナルド、アーリス・ ハワード、フィッシャー・スティーヴンス、ジョージナ・チャップマン、サム・ロバーズ、デヴィッド・ハーバー、 スティーヴン・ヒンクル、デニス・オヘア、チャーリー・ヒューソン、コート・ヤング、ジョセフ・コスタ、プーナ・ジャガンネイサン、 リー・ウォン、ケイ・シミズ、スティーヴン・ロウ、ジェフリー・フィアソン他。


新人のジョビー・ハロルドが監督と脚本を務めた作品。
彼はTVドラマやMTV、コマーシャルのディレクター出身というわけでもなく、全くの新人。
クレイをヘイデン・クリステンセン、サムをジェシカ・アルバ、ジャックをテレンス・ハワード、リリスをレナ・オリン、ラリーを クリストファー・マクドナルド、ナイヤーをアーリス・ハワード、パットナムをフィッシャー・スティーヴンス、ペニーを ジョージナ・チャップマンが演じている。

まず冒頭で、クレイがジャックの施術を受けて死んだことが明かされている。主人公であるクレイが死んだ後も話は続くので、たぶん監督 としては、そこでのドンデン返しを効果的に見せようということで、わざと彼の死を最初に明かしているんだろう。
ただ、それはプラスに作用していると思えないなあ。
これから手術が始まるという段階に至った時に、観客からすると「その手術でクレイが死ぬ」ってのは既に分かっているわけで。つまり、 彼が術中に覚醒しても、それを誰にも伝えられずに死んじゃうことも分かるわけで。
そうなると、最初に彼が手術で死ぬことを明かしちゃってるのは、得策とは思えないんだが。

術中覚醒という1つのアイデアだけで勝負しているような作品で、だからってわけでもないのだろうが、上映時間は85分と短めだ。
ただし、その尺でも、内容が薄いと感じてしまう。
その理由は簡単で、手術が始まるまでに触れているような要素が、その後の展開に上手く絡んでいないからだ。
クレイが企業経営についてプレッシャーを感じているとか、父のことで心に引っ掛かりを抱いているとか、そういう要素は、サスペンスを 盛り上げるために何一つ機能していないのだ。

リリスが荒れる夫を背後から殴って怪我を負わせ、それでクレイの父が転落死していたことが終盤に入って明らかになるが、だから何 なのかと。それと今回の一件と、何の関係も無いでしょ。
クレイとリリスの結び付きを示すために用意されたネタなんだろうけど、他に厚みを持たせるべき箇所があったんじゃないかと。
終盤には「ネイヤーが移植手術をするけどクレイの呼吸がなかなか戻らない」という展開があるが、そんなトコでスリルは要らないでしょ 。もう「リリスが自殺してネイヤーに移植手術を委ね、サムたちの計画は全て露見する」というドンデン返しは処理したんだから、そこの 移植手術はさっさと成功させちゃうべきなのよ。
どうして、そこに時間を掛けてサスペンスを作ろうとするのか理解に苦しむ。

開始33分ぐらいで、もうクレイの手術が開始される。ちゃんと全体の計算が出来ているのか、この後の展開はどうするんだと思っていたら 、クレイがサムのことを回想する、という部分で、時間を使っていく。
でも、「だから何?」と思ってしまうんだよね。
ただダラダラと時間を費やして、尺を引き延ばしているようにしか思えないんだよな。
ロビーでサムがリリスと話している様子も挿入されており、クレイの回想も含めて「サムはいい人、本当にクレイを愛してる」ということ をアピールするための時間帯になっているんだけど、手術が開始されてから、それですかと。
それは順番が違ってませんかと。

その後の展開を考えると、「あの時のあれは、そういうことだったのか」と、後から思い返してポンと手を打ちたくなるような伏線を、 手術に入るまでに張っておいた方が得策じゃないかと思うのよ。
でも、そういうことは、全くと言っていいほど用意されていない。
この映画、「全てサムやジャックたちの計画だったことをクレイが知る」という段階に到達した時に、そこへの伏線が全く張られて いなかったことに気付かされるのよね。

ネイヤーは「来年、私は衛生局の長官になる。心臓手術の教本も書いてるんだ」と口にするなど、とにかく「俺は偉いんだぞ、何も言わず に任せろ」という権威主義的な態度ばかり取っている。
そういうアピールが強すぎて、むしろ「こいつを嫌な医師に見せたいんだな。ってことは、その逆なんじゃないか」と思えてしまう。やり すぎじゃないかと。
そもそも、そこを嫌な奴に見せ掛けておく必要性自体にも疑問があるし。
どうせクレイはナイヤーの移植手術を拒否するし、ジャックの計画した手術にナイヤーが関わることも無いんだし。

自分が殺されると知ったクレイが起き上がり、幽体離脱のように動き出すという描写があるが、それも「だから何なのか」と言いたくなる 。
彼は「助かる道があるはずだ」と言ってるけど、実際は麻酔で動けないんだから、どうしようもないのよ。
実際に幽体のクレイが何かを動かしたり誰かにメッセージを伝えたりすることは出来ないんだし。
そういう展開にしちゃったら、それはそれでアウトだしね。

「クレイが術中覚醒(Anesthesia Awareness)に陥る」というのが、この映画にとって肝の部分だ。
しかし、それを全く有効活用できていない。
それが本作品の最大の欠点っていうか、欠陥である。
クレイは術中覚醒の中で、サムやジャックたちの計画を全て知ってしまう。
だが、それを知ったところで、「だから何なのか」ってことになってしまっているのだ。彼が術中覚醒の中でサムたちの計画を知ろうと 知るまいと、物語の展開には何の影響も与えないのである。
なぜクレイがサムたちの計画を知っても知らなくても物語に影響が無いのかというと、それを彼が誰にも伝えられないからだ。クレイは 計画を知るが、そのまま殺されてしまうのだ。

ただし完全ネタバレだが、サムたちの計画は露呈し、警察に捕まることになる。それは、その計画をリリスが察知したからだ。
リリスはクレイを救うために服毒自殺し、ナイヤーに移植手術を頼んで自分の心臓をクレイに移植してもらう。
ただし、移植手術を受けたクレイが、術中覚醒中に見た出来事を警察に話し、サムたちを逮捕させるわけではない。ナイヤーがリリスから 全てを知らされており、クレイが目覚める前に警察は病院へ駆け付けている。
ってことは、仮にクレイが術中に覚醒せず、計画を知らないままだったとしても、「リリスが計画を察知し、自殺してクレイに自分の心臓 を与え、(たぶんナイヤーの通報によって)警察が駆け付けてサムたちを拘束する」という筋書きには何の変化も無いのである。
例えば、クレイは何も知らずに手術を受けて麻酔で眠り、観客だけに手術中のサムやジャックの行動を見せたとしよう。
その場合、「ああ、クレイは何も知らずに哀れだな」と観客は感じ、その上で「計画を察知したリリスが息子のために行動して」という 展開が来るので、むしろ、そっちの方がドンデン返しの効果は大きくなるんじゃないかとさえ思うのだ。

(観賞日:2012年12月21日)


第28回ゴールデン・ラズベリー賞

ノミネート:最低主演女優賞[ジェシカ・アルバ]
<*『アウェイク』『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』『噂のアゲメンに恋をした!』の3作でのノミネート>
ノミネート:最低スクリーンカップル賞[ジェシカ・アルバ&ヘイデン・クリステンセンかデイン・クックかヨアン・グリフィズの誰か]
<*『アウェイク』『噂のアゲメンに恋をした!』『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』の3作でのノミネート>
ノミネート:最低監督賞[ウォルト・ベッカー]

 

*ポンコツ映画愛護協会